タイトル:【ODNK】八女市の巨人マスター:安原太一

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/23 00:48

●オープニング本文


 北九州、八女市――。
 バグアとの慢性的な戦闘が続く競合地域である。昨今の佐賀解放戦、久留米〜大川方面の奪還作戦、築城方面の苅田町攻略戦など、北九州の版図を塗り替える大きな流れとは無縁で、散発的なキメラの攻撃に悩まされていた。
 町の北側にある久留米市では、現在大規模な戦いが進行中であり、八女市のUPC軍はキメラの抵抗を廃しながら後方支援に当たっていた。
 その日、八人の軍属傭兵は市街の北をパトロールしていた。廃墟と化した町並みを歩きながら刀や銃を手に、家屋の中を捜索したり、北の方角から大規模なバグアの地上部隊でもやってこないかと警戒していた。
「ふう‥‥」
 傭兵の青年が吐息して、壁にもたれかかる。名をアルフと言った。アルフは水筒に口をつけると、真夏の日差しを振り仰いだ。
「どうやら敵さんも、今は他の地域に集中しているかな」
「そいつは分からないぞ」
 少女の傭兵は厳しい目つきで周囲を見渡していた。名を香と言った。
「最近の北九州情勢は目まぐるしく動いているし、いつどこからバグアの攻勢があってもおかしくはない」
「まあここも競合地域だ。最前線には変わりはないがなあ‥‥」
「最近春日基地司令の動きが慌しいと聞く、ここでも何かが起きようとしているのではないか」
「相変わらず香は心配性だな。いつも神経を張り詰めていたら気が持たないぜ」
「アルフ、そう言うお前は緊張感がなさ過ぎる。敵はいつ攻めてきてもおかしくはないんだ」
「まあそん時はそん時さ、出来ることをやるだけだね」
「アルフ! 私たちはUPCの軍属だぞ。もう少し軍人らしくしたらどうだ!」
 アルフと香のやり取りを聞きながら、他の傭兵たちは肩をすくめる。相変わらず仲のいいことだ‥‥。
 と、その時である、北の方角から地響きが轟いてきて、人間とは思えない咆哮が聞こえてくる。
「何だ、キメラか‥‥?」
 傭兵たちは武器を構え直すと、互いにサインを送って北に進んだ。
「ヘルメットワーム?」
 傭兵たちの視線の先に小さなヘルメットワームが映る。五機程度だ。ヘルメットワームは檻を抱えており、それぞれ十体近いグロテスクな一つ目巨人を搭載していた。ワームはそのキメラたちを投下していたのだ。
 巨人キメラは総勢五十体近い軍勢である。唸り声を上げると、腕をぶんぶん振り回し、ずしんずしんと飛び跳ねた。
「こいつは‥‥ここにもキメラの大軍が‥‥少佐に知らせないと」
 そこで、傭兵たちの至近距離、背後にこつ然とダム・ダル(gz0119)が出現した。
「宮仕えの哀しさか。春日基地司令というのも、存外退屈な任務でな」
「な、何!?」
 傭兵たちは言葉を失った。ダム・ダルの姿を確認して仰天する。
「お前は! 苅田町で戦っているはずじゃ!」
 ダム・ダルは戦闘スーツにマントをまとって、何とお辞儀した。
「俺も一応春日基地司令だ。このエリアはいわば俺の庭のようなものだからな。どこへ出向こうと自由だろう。話をするのも一興だし、俺の評判に傷が付くのは構わんが、UPCを適当に痛めつけておかんとな」
 何かと回りくどいバグア人である。
「てめえ‥‥ここは元々俺たちの国なんだよ!」
 アルフは激昂して、香の静止も聞かずにダム・ダルに刀で切り掛かった。
 ダム・ダルはすうっと流れるようにアルフの一撃をかわすと、軽くボディブローを叩き込んだ。軽く、だが、アルフを吹っ飛ばすには十分だったようである。
 木っ端のように吹っ飛ぶアルフ。
「ぐ‥‥は‥‥な、何て力だ‥‥」
「傭兵とは意外に脆いのだな。もっともロシアでアスレードに殺された奴もいるようだが」
 ダム・ダルは自身の拳をしげしげと眺めていた。
 傭兵たちはアルフを抱き上げると後退する。
 ダム・ダルは追っては来なかった。ただ傭兵たちを見送るのみで、ふっと消えた。追って傭兵たちを壊滅させることも出来たはずだが‥‥。
 それから間もなく、ラストホープに北九州八女市から、キメラ撃退の依頼が舞い込むことになる。

●参加者一覧

霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
優(ga8480
23歳・♀・DF
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG

●リプレイ本文

 ‥‥八女市。
 民家の外は静寂に包まれている。バグアとの競合地域である市街地は、ゴーストタウンと化している場所も少なく無い。
 一軒の家屋の中で、男はソファーに横たわってテレビを見ていた。この無人の市街地であっても、テレビにはメガコーポレーションのCMが流れている。
 派手派手しい音楽とともに空を飛び交う斉天大聖と骸龍が――ヘルメットワームを撃墜していく。CM上の演出だが。
 男はチャンネルを変えた。‥‥アイドルグループが歌を歌っている。UPCの勝利を称える賛歌だろう。
 男はそれからもチャンネルを変えては、じっとテレビに見入っていた。
 男――ダム・ダル(gz0119)は真摯な眼差しでテレビを見つめる。画面には何かの番組が映っていて、バグアとの戦いについて解説者が語っている。
「‥‥‥‥」
 ダム・ダルは静かにテレビを見ていた‥‥。
 と、そこで腕にはめている通信機から連絡が入る。
「ダム司令、私です。どちらにおいでですか」
「今八女市だ、人類のテレビを見ているところでな」
「そちらに傭兵たちが向かったようです。巨人キメラを撃破するつもりでしょうが」
「そうか‥‥ご苦労」
 ダムはハンディターミナルを取り出すと、電源を入れる。
 端末を操作していたダム・ダルは、南からやってくる光点に目を落とす。傭兵たちだ――。
 ダムはそれを確認して、またテレビに視線を戻した。
「さて‥‥」
 ダム・ダルは思案顔でテレビを見つめていた‥‥。

「‥‥ダム・ダルってさあ‥‥誰だっけ?」
 僚友の藤村瑠亥(ga3862)に翠の肥満(ga2348)は問いかけた。
 藤村は肩をすくめる。
「ゾディアックメンバーの一人だ。ゾディアックのことくらい知ってるよな?」
「いんやあんまし」
 翠の肥満は肩をすくめる。
「現在の春日基地司令で、かつてはアジア方面で猛威を振るった強化人間‥‥だった」
「だった?」
「ああ、今はヨリシロで、体をバグア人に乗っ取られたらしい。誇り高き猛将だったが、性格は一変しているようだな」
「ふーん。ま、おっかない奴ってことには変わりないわけだ」
 翠の肥満はガトリングを担ぎながら歩を進める。
 藤村は吐息して無線機を持ち上げると、先行しているアンジェラ・ディック(gb3967)と風羽・シン(ga8190)らに連絡を取った。
「藤村だ。デイムエンジェル、シン、そっちはどうだ」
 デイムエンジェルとはアンジェラのコールサインである。

 アンジェラはアサルトライフルを構えながら家屋の影に身を潜めていた。
「こちらデイムエンジェル、敵キメラの一つ目巨人を発見。一体だけど‥‥もう少し進んでみるわ」
「そろそろ敵の行動範囲に入っているみたいだな。こっちも敵を各個に撃破するってんなら、戦闘態勢を整えた方がいいんじゃね?」
 シンは軍属傭兵たちに合図を送りながら、ゴーストタウンを素早く移動していた。

「こちら霞澄です。ダム・ダルの動きも気がかりですが、差し当たり私たちも前進しましょうか」
 霞澄セラフィエル(ga0495)の問いにアンジェラは無線機の向こうで頷く。
「その方がいいかも知れないわ。‥‥ダム・ダルのこともあるけれど、シン殿の言う通り、ワタシたちも準備を整えるべきかも」
「そうですね‥‥」
「こちら銀子。了解したわ。私たちもそっちへ合流するわね」
 霞澄と同じ班のドラグーンのAU−KVをまとった狐月銀子(gb2552)は言って仲間達に手を上げてサインを送る。

「ふーむそうですか‥‥敵が近いと言うなら私たちも合流した方が良さそうですね」
 普段はおどおどしているロゼア・ヴァラナウト(gb1055)だが、覚醒して冷静になっている。双眼鏡を落して同じ班の優(ga8480)を顧みると。
 優は無機的な瞳で頷く。
「行きましょうロゼアさん、ダム・ダルの思惑通りにはさせませんよ」
「ダム・ダルですか‥‥聞いた感じではどうも人をからかい気味のバグア人のようですが。腹立たしいですね。敵が余裕しゃくしゃくと言うのも」
 ロゼアは思案顔でうなった。ロシアの時、ジョージ・バークレーはKV相手に生身で戦った。バグア人の能力はいまだ傭兵たちにとって未知数である‥‥。

 ――巨人キメラたちは散開して建物を殴り倒していた。怪力でわめきながら町を破壊していく。
 ビルに体当たりをぶちかます巨人、壁が次々と砕け散って、ビルが轟音を上げて倒壊する。
 瓦礫の中から立ち上がった巨人は咆哮すると、さらに周辺に破壊を撒き散らしていく。
 民間人がいないのが幸いである。

 ‥‥双眼鏡を手にした傭兵たちは、高所から巨人達の様子を見つめて攻撃準備を整えていた。
 武器を構えて突入していく。
「んじゃ行きますか‥‥ショーの始まりですな」
 翠の肥満はガトリングを構えて仲間達のサポートに回る。
 疾走していく傭兵たちは物影から飛び出し、疾風のように巨人達に襲い掛かる。
 ――グオオオッ!?
 巨人は奇襲攻撃を受けて驚いた様子でわめいた。
「さあ、この弾丸の雨をかいくぐって来れるもんなら、来てみやがれってのッ!」
 翠の肥満はガトリングを連射しなが仲間達の背後から援護射撃、弾幕を形成する。
 藤村は巨人たちに立ち向かうと、軽々と巨人の拳をかわしながら、小太刀を叩きこんでいく。忍者のように巨人達の肉体に飛び移っては刀を突き刺し、エネルギーガンで巨人の一つ目を打ち抜いていく。
「怪力も当たらなければ‥‥意味は無いさ‥‥!」
 巨人の唸りを上げる鉄腕を飛び上がって回避する藤村。エネルギーガンを一つ目に打ち込んだ。
「恨むなら‥‥目を一つしか作らなかった創造主を恨むんだな!」
「しかしダム・ダルだかダラダラだかツルピカだか知らんけど‥‥一番、手強いやつの姿が見えないってのは気分悪いな、まったく。どっかからホイホイ出て来られたら、堪ったもんじゃないよっ!」
 翠の肥満は言いつつ巨人の頭をガトリングで粉砕した。

 霞澄は高所に位置取ると、弓を引き絞って次々と矢を放っていく。洋弓アルファルから飛び出した矢が唸りを上げる。
 風を切って飛ぶ霞澄の強弓は巨人の頭を一撃で貫通する。
「さて‥‥ダム・ダルがどう出るかが気になりますが‥‥今はただ目の前の敵に集中するのみですが‥‥」
 霞澄は淡々と矢を放っていく。
 すうっと弓を動かして狙いを定めると、弦を解き放つ。
「ここは地獄の一丁目よ。無事に通れると思って?」
 銀子の大型エネルギーキャノンが閃光をほとばしる。
 ズキュウウウウウン! と光弾が発射されると、巨人の分厚い胸板を貫通した。一撃でよろめく巨人は、胸を押さえて崩れ落ちる。
 銀子は飛び出す仲間達を横目に装輪走行で突進した。
「行くわよ! この距離なら外さないわよ‥‥威力は食らってのお楽しみ♪」
 竜の翼で一気に間合いを詰めると、竜の角でキャノンを叩き込む。
 ズキュウウウウウン! とキャノン四連発。砲塔を素早く動かしながら、超絶的な破壊力のキャノンを打ち込んでいく。
「銀子さん‥‥さすがですね‥‥」
 前線で猛威を振るう銀子のきらめくアーマーを見つめながら、霞澄は弓の照準を合わせると、銀子の背後から襲い掛かる巨人に矢を連射した。キメラのフォースフィールドをいとも容易く貫通するばかりか、巨人の肉体をえぐって貫く驚異的な威力だ。

 巨人の拳を片腕で跳ね返す優。冷ややかに巨人を見上げる。165センチの優。巨人は二メートルをはるかに越える豪腕だが、細身の優の片腕は信じ難い怪力だ。
 ――グ、グオオオ!?
 巨人はぴくぴくと腕が痙攣している。優を押し潰そうと豪腕に力を込めるが、優は全く小揺るぎもしない。
 次の瞬間、優の月詠が一閃、巨人の足ががくりと一刀両断される。
 月詠を持ち上げ、すうっと冷たい瞳で巨人を見据える。
 巨人は激痛にわめいた。
 ロゼアはライフルを構えながら転がるように乱戦の中をかいくぐる。
 振り下ろされる巨人の拳を反転しながら回避すると、ライフルを至近距離から連発する。
 弾丸がフォースフィールドを貫通して、巨人の肉体を打ち砕く。
 巨人は苦痛にうめき声を上げながら反撃。ロゼアは反転して拳をかわす。ズシン! と拳が大地を木っ端微塵に打ち砕く。
 軍属傭兵がロゼアの支援に回って、強烈な一撃で巨人を吹っ飛ばした。
「ありがとう」
「気をつけろ。‥‥しかし優さんは凄いな。あんなとんでもないダークファイター見たこと無いぞ」
「あの人はラストホープの実力者ですから」
 ロゼアは顔の土埃を拭って立ち上がり、再び乱戦に飛び込んでいく。

「なに、数は多いが1人につき1匹のノルマさえ果たせば、そんなに大した問題じゃねぇさ」
 小太刀を巨人の足に叩きつけるシン。ぐしゃっと肉と骨が砕けて、巨人が揺らめく。
 グオオオ! 激痛にわめきながら拳を振り下ろす巨人キメラ。ズン! とシンの肉体に拳が打ち込まれたが――シンはぐぐっと巨人の拳を持ち上げると、キメラを上回る怪力で巨人の腕を押し返す。
「残念。この程度で俺を倒そうなんざ全くおかしいぜ?」
 シンの瞳がきらりと光ると、ぎゅん! と加速して巨人の側面に回りこむ。流し切り。小太刀に渾身の力を込めて叩き込む。
 ズバッ! と巨人の足が切り裂かれれて、崩れ落ちる。
 腕を振り回す巨人の反撃を身軽にかわしながら、連続攻撃を叩き込んでいく。
 アンジェラは仲間たちが引き付けて孤立した巨人にスキル併用で狙い打つ。愛用のアサルトライフルが連続で火を吹く。
「逃がさないわよ。ここで全て倒れてもらうわ」
 ドウッ! ドウッ! ドウッ! ドウッ! ドウッ! とライフルを叩き込む。
 ライフルを持ち上げると、リロード、さらに弾丸を撃ち込んでいく。
 アンジェラは双眼鏡で戦場を確認。傭兵たちの思惑通り、味方は巨人達を各個に撃破していく。
 巨人キメラは全くの不意打ちを受けて、一体、また一体と撃破されていく。

 ‥‥そうして、傭兵たちは巨人キメラを各個に撃破、敵が集中する前に一気阿世に勝負を決めた。
 残る巨人キメラは市街地をうろついていたが、最後には傭兵たちに追い詰められ、包囲されていた。
 この戦い勝負はあった。残るはキメラを殲滅するのみ。
 と、その時である。空中にこつ然とダム・ダルが出現し、地面に着地した。
「ダム・ダル‥‥!?」
 軍属傭兵たちは驚愕して後退する。
「ダム・ダルですか‥‥」
 霞澄は弓を下ろして眉をひそめる。このバグア人、一体何が目的なのか‥‥。
「どうやら戦闘は終結したようだな」
 ダム・ダルは悠然と五十人近い傭兵たちを見渡した。
「へえ‥‥あれが噂の怪物野郎か」
 翠の肥満はガトリングを持ち上げると、マスク越しに見えるバグア人をしげしげと眺めた。
 藤村とシンは油断なくこのバグア人を見つめて小太刀を構える。
 優とロゼアも武器を構えつつ後退する。悔しいが生身でヨリシロと戦うのは今の傭兵たちにとって困難なようであるが‥‥。
「勇気と無謀は別‥‥本舞台で会いましょ?」
 銀子はキャノンを下ろしてダム・ダルに小さく呼びかけた。
 アンジェラは油断なくライフルを構えたまま、照準をダムに合わせている。
「勇気と無謀は別か‥‥ならば俺も逃げるとしようか。俺は高潔な戦士でもないからな。宮仕えの哀しさゆえにそればかりも言ってられんか」
 ダム・ダルはそれだけ言い残すと、またしてもふっと消えた。瞬間移動である。
 ふうっと吐息する傭兵たち。まさか実際に出てくるとは思わなかった。
 それから、傭兵たちは巨人キメラに止めを差す。
 かくして戦いは終わった。ダム・ダルは逃げると言って姿を消す。
 差し当たり八女市におけるキメラの脅威は取り除かれたが、北九州の戦いは終わりそうに無い‥‥。
 傭兵たちはUPCに報告を行ってから、ラストホープへの帰路に着いたのだった。