●リプレイ本文
●空の貴鋼子たち
何十機というナイトフォーゲルが行橋市を進発し、大きく東へ進路を取って迂回しつつ苅田町の東、周防灘上空に進入する。
これには南のみやこ町から進発する対ゴーレム部隊と空爆隊を支援する目的があった。
ピッピッピッピッ‥‥とレーダーに無数の光点が浮かび上がってくる。
「来ましたね。敵機を確認‥‥とんでもない数ですよ‥‥」
篠崎公司(
ga2413)は端末を操作しながら味方へのナビゲートを行う。
「了解篠崎。確かにとんでもない数だな。‥‥思う存分暴れさせてもらうとしよう!」
榊兵衛(
ga0388)はロッテを組むカルマ・シュタット(
ga6302)にバンクサインを送ると、カルマもそれに応える。
「ダム・ダルも確認されているようだし、俺も足を引っ張らないようにしないとな」
同じくファームライド対応の狭間久志(
ga9021)とホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)。
「ラストホープ屈指のエース揃いじゃないか。僕も足を引っ張れないな‥‥」
「この戦い、俺たちはダム・ダルを抑えることで勝利に繋げたいところだが」
第三から第五空戦隊とともに飛ぶユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)、麻宮光(
ga9696)、狐月銀子(
gb2552)らは篠崎や岩龍の官制を受けながら操縦桿を傾ける。
「みんなよろしくね〜、軍属のみんなはともに頑張りましょう。所属は違えど心は一つよ」
銀子は第三飛行隊の最左翼にきらめくフェニックスを置くと、仲間たちに言葉を投げかける。
「ダム・ダルの奴は逆侵攻なんてほざいてるが、元々俺たちの町だったものを返してもらうだけだ」
「今回も厳しい戦いになりそうだけれど、俺は俺に出来ることを為すだけだ、頼むよ阿修羅」
ユーリが強い口調で唱えれば、光はあしゅらのぬいぐるみの頭をぽんと叩いた。
「全機エンゲージ、攻撃開始」
ワームが急速接近してくる。篠崎の言葉が回線に流れれば、岩龍乗りたちも「攻撃開始」を告げる。
「ミサイル発射」
「発射」
「くたばれワーム野郎!」
前面のナイトフォーゲルからミサイルが発射されると、全機編隊を組んで散開する。
初撃のミサイルを受けて、ヘルメットワームの大群も散開。あちこちで爆発が起こる。
ワームから閃光がほとばしり、無数のプロトン砲が空を貫く。
中でも鮮やかな色で塗装されたエース機は積極果敢に突撃してくれば、プロトン砲を味方に叩きつけていく。
「各機ロッテを組んで敵に当たれ! エース機は、俺がやる‥‥!」
ユーリは黒いエース機に迫ると、重機関砲を叩き込む。弾丸が流れる軌跡を描いてエース機を追いかける。
エース機は高速でローリングしながら旋回すると、あっという間にユーリの背後を取った。
エース機からプロトン砲が放たれるが、ユーリもローリングしながら回避する。
「そう簡単にやられると思うなよ」
ユーリは機体をピッチアップさせると、マニューバで敵エースの背後に食らいつく。
「食らえ! バグア人だか強化人間だか知らないが‥‥!」
ユーリはスロットルを全開にすると、ワームの背後からソードウイングの一撃を叩き込んだ。
光もエース機との追いかけっこに奔走していた。ガトリング砲を叩き込むが、黄色のエースは高速で機体をロールさせながら回避する。
「引き離される‥‥!」
加速するHWを追尾する阿修羅。光はスロットルを吹かせると、バーナーが火を吹いて阿修羅は加速した。
「行くぞ阿修羅‥‥奴を叩き落すんだ!」
光はコクピットから照準に映る敵エースを捕らえると、ホーミングミサイルを連射した。
流れる軌跡を描いてミサイルが追尾して、敵エースに命中するが――。
「やってくれるな傭兵――だが」
敵エースは慣性飛行で直角飛行で阿修羅の側面に回りこむと、そのまま体当たりを仕掛けてきた。
轟音が阿修羅のコクピットを揺らす。阿修羅の機体がスパークして火花が飛び散った。
「くっ‥‥やってくれるな」
光は離脱するが、エース機のプロトン砲の追撃を何とか振り切るのが精一杯だった。
「我々に対抗するなど、無駄なことだ!」
「ここは譲れないんだ!」
光はローリングしながら旋回すると、再びエース機の側面に食らいつき、ミサイルを叩き込んだ。
「高橋麗奈――!」
銀子は赤いHWを捕らえて、ロケットを撃ち放った。轟音が連発して鳴り響き、八連射のロケットが高橋機に襲い掛かる――。
「ふふ‥‥私と一騎打ちでもするつもりか」
高橋は機体を加速させると、あっという間にロケットを振り切った。
銀子の僚機のハヤブサ乗りは他のHWの迎撃に追われて、ほとんどこちらへは来れない。が、何とか二機のハヤブサが援護に駆けつける。
「フェニックス狐月! 援護するぞ!」
「高橋麗奈を‥‥奴は何かと厄介な存在だ‥‥こちらの手の内を知り尽くしているからな。ここで決めてしまおうか」
「援護に感謝するわ――あの小憎らしい強化人間を倒しましょう」
銀子はスロットルを吹かせると、二機のハヤブサが銀子の両脇を固める。
「‥‥来い傭兵、たかだか三機で私を落せると思うな」
高橋の赤いHWは旋回すると、高速宙返りであっという間に銀子達の背後に付く。
銀子は頭上を通り過ぎて行った高橋機の影を一瞬追いかけて、舌打ちする。
「落ちろ」
高橋はカプロイアミサイルを発射した。
「やるわね‥‥高橋‥‥でも!」
銀子は迫り来るミサイル群をスロットル全開で振り切りながら、ローリングして回避する。それでも無数のミサイルの直撃を受けてフェニックスは爆発、炎に包まれる。
「これで止めだ!」
高橋は残りのカプロイアミサイルを全弾発射した。
「そう簡単にやられるもんですか‥‥!」
銀子達は急上昇してミサイル群を振り切る。多数のミサイルがロストして迷走するが、それでも膨大な数のミサイルを受ける銀子達。
揺れるコクピットで銀子は操縦桿を傾けながら高橋の真正面から突撃する――。
「ハヤブサ君! 援護をお願い!」
「任せろ、行けフェニックス!」
二機のハヤブサがブースターで突進、ありったけのミサイルを高橋機に叩きつける。
「‥‥!?」
爆炎の中から飛び出してきたフェニックスとハヤブサに高橋は虚を突かれる。
「しぶとい奴らだ」
高橋は舌打ちすると、機体を旋回させてミサイルを回避行動を取る。
そこへ銀子のフェニックスがブースターで突撃する。
「今度は逃がさないわよ‥‥不死鳥の速度+グングニルのブースト、KV最上の加速力をその身に焼き付けなさい!」
機槍グングニルの加速力を得て、空中変形スタビライザーで人型形態に変形した銀子のフェニックスが高橋機に突進――グングニルを構えたフェニックスが赤いHWを貫いた!
「食らえ高橋!」
ずん! とグングニルが高橋機を直撃。スパークが走って高橋機は爆発炎上する。
「ちい!」
がくがくと揺れる高橋機。
銀子は一撃を加えて飛行形態に戻らねば失速するので再び変形。
高橋機は離脱すると、銀子達と距離を取って逃げた。
●VSダム・ダル、ファームライド
「‥‥ファームライドを確認、対応する傭兵各機は迎撃に向かって下さい」
篠崎は激戦が続く空の戦場に姿を見せた赤い機体を確認して、レーダー機器を操作しながら仲間たちに告げる。
「来たか‥‥行くぞカルマ」
「OK榊さん、何としてもあいつを止めてやる」
雷電「忠勝」とシュテルン「ウシンディ」が加速する。
「では‥‥俺たちも仕事に掛かるとするか――久志」
「ああ、ここで奴を落して、戦況を変えてやる」
ホアキンと久志のハヤブサも突入。
「行くぞ。ヨリシロ騎乗のFR相手では、さすがに分がかなり悪いが、俺と【忠勝】ならば少なくとも時間稼ぎくらいは出来るだろう。ここは仲間の為、任務成功の為にも少しは耐えて見せないと格好が付かないからな」
榊は眼前に出現したファームライドにカルマとともに猛進すると、ミサイルを叩き込んだ。
カルマは照準を合わせると、D2ライフルを打ち込んだ。
ホアキンと久志のロッテも挟撃体制を取ってファームライドの側面から急襲する。
ホアキンの雷電「インティ」が機関砲を連射して突撃、久志はG放電ミサイルを撃ち込む。
四機のラストホープ屈指のエース級ナイトフォーゲルから集中攻撃を受けたファームライドは、さすがに一方的に追い込まれるかと思われたが――。
ファームライドは一転加速すると、慣性飛行による高速ジグザグ飛行、高速宙返り、高速反転横転を繰り返しながら傭兵たちの攻撃を全て回避――!
「‥‥!」
四機のKVにプロトン砲を確実に叩き込むと、そのままダム・ダルは高速ですり抜けた。
「‥‥に!?」
「このっ‥‥ダム・ダル‥‥逃げないのか‥‥! て、まさか!」
驚愕する傭兵たちだが束の間のこと、瞬時に立ち直ると操縦桿を傾ける。
「やってくれるなダム・ダル」
榊は牙を剥くと、スラスターライフルを叩き込みつつ突進。
ファームライドはぎゅん! と左右にスライドしてライフルをかわすと、プロトン砲を叩き込んでくる。
榊は旋回してミサイルを連射、がファームライドは全弾振り切った。
「‥‥何を!」
カルマはPRMをフルに使うと、ファームライドにアグニを打ち込んだが――高速機動で回避するダム・ダル。
「速い‥‥こいつ‥‥今さらだけど強かったのか‥‥」
久志はブースターを起動させると、レーザーガンを打ち込みながら突進。ソードウイングで切りかかった。
と、久志の視界からファームライドが消失する。
「――後ろへ!?」
ダム・ダルは高速宙返りで跳ね上がると、前を向いたまま後方に下がってハヤブサの背後を取った。
プロトン砲が飛んでくるが、久志は何とかかわす――が二発が命中。
「当てた!?」
「久志!」
ホアキンの粒子砲が閃光を放ってファームライドを直撃。
だがファームライドは小揺るぎもしない。
「ダム・ダル‥‥奴の機体を甘く見ていたか?」
ホアキンは目を細めてファームライドの赤い影を見つめる。
と、そこでバグア側の通信が流れ込んできた。
「――海上の各機へ、苅田町の軍基地がUPCの空爆を受けている。至急来援を請う」
ダム・ダルはファームライドの中で口もとを歪めた。
「ふん‥‥こちらは囮か。まだ予備戦力があったとはやってくれるな」
「ダム・ダル様! 苅田の基地が空爆を受けております! それと待機中のゴーレム部隊が戦闘に入ったと連絡が!」
「まあ基地は仕方あるまい。差し当たりこちらのUPC航空戦力に全力を以って当たるとしよう。全機ナイトフォーゲルの撃破に全力を上げろ、以上だ」
●苅田空爆
苅田町のバグア軍基地が炎に包まれていた。HWは東の海上へ抜けたこともあって、苅田の地上基地はほぼ無防備であった。
みやこ町を進発した爆撃隊は、途中で北上を続ける増援阻止隊と分かれ、山肌に沿って北東へ低空飛行で向かった。東の海上で友軍の乱戦開始とともに空爆を開始した。
トス爆撃で次々と基地を爆破していく友軍のバイパー。フレア弾を満載していた。
町の各所にあったバグア軍基地は紛れもなく壊滅的な打撃を受けることになる。
藤田あやこ(
ga0204)のアンジェリカはバイパーの上空を友軍機とともに護衛していた。
「加藤隼戦闘機隊直伝の戦術でいくわ」
爆撃隊の上空で高度を取り視界を確保。編隊後尾から先頭へ蛇行してまた元に戻るを繰り返す事で編隊各機頭上を満遍なく守る。
ピッピッピッピッ‥‥レーダーに幾つか光点が浮かび上がってくる。
「敵機が接近。全機迎撃準備」
岩龍乗りから官制の声が響くと、あやこは操縦桿を傾ける。
「ダム・ダルの横暴は許さないんだから!」
やがて出現したHW数機を友軍機とともに撃破する‥‥。
爆発四散したHWの残骸を見つめながら、あやこは厳しい顔を上げる。
「友軍機へ、迎撃完了。バイパーは引き続き対地攻撃に当たって下さい」
あやこは言ってコクピットから空を見つめる。東の海上では激戦が続いている。だがそのおかげで町の空爆は完全に成功しそうな気配である。
●ゴーレム足止め
増援阻止部隊として苅田の西方に向かった皇流叶(
gb6275)たちは、地上のリッジウェイと合流、敵ゴーレム部隊の影を捉えると、着陸して陸戦に備える。
シュテルンのコクピットから、皇は友軍に言葉を投げかける。
「来る‥‥各機、用意は良いかい?」
「敵ゴーレム、高速で接近します‥‥全機戦闘準備」
岩龍乗りが官制を行い、味方をナビゲートする。
やがて、地平線にホバリング状態で突進してくるゴーレムの姿が目に入る。
「迎撃用意!」
皇はツインブレイドとアイギスを構える。
ゴーレムはナイトフォーゲルの前で着地すると、剣と盾を構えて攻撃態勢に入る。
「撃て!」
皇は走りながらスラスターライフルを叩き込む。
友軍機も射撃武器を撃ちながらゴーレムに接近。
ゴーレムからは反撃のプロトン砲が飛んでくる。光条がシュテルンを打ち抜き、皇は顔をしかめる。
「この程度で、やられる訳にはいかない!」
皇たちは銃器を撃ちながら突進すると接近戦に入る。
ツインブレイドを振り下ろせば、ゴーレムは盾で受け止めるが、ずしん! と膝を着いて傾いた。
「此処から先、通しはしないよ? ‥‥邪魔は、させない!」
東の海上での戦いが膠着していることを皇は知らない、が、今はただゴーレムを町に近付けないために剣を振るう。
二十機のゴーレムとの乱戦。巨大ロボットが大地を揺るがして剣を振るう。
そして皇はゴーレムの中で一機だけ赤くペイントされたゴーレムを発見する。
「アレか‥‥! 地上部隊へ報告、指揮官を発見――狙い打て! 赤いゴーレムだ!」
だが敵の陣も分厚い。ゴーレムエース機は後方にあって様子見だ。
そうして、しばらく戦っていたゴーレムたちだが、そこへ通信が流れ込んでくる。
「地上のゴーレム部隊へ。一旦後退せよ。ダム・ダル司令や各エースがUPCの航空戦力を足止めしている。苅田の基地はUPCの奇襲で壊滅したが、ダム司令は健在である。決戦に備えて戦力を温存せよ」
「了解、ゴーレム隊は一時撤退する」
そうして、ゴーレム隊は短時間の戦闘を終えて撤退する。慣性飛行で浮き上がると、ホバリングして飛び去った。
‥‥こうして苅田攻略戦の緒戦は幕を閉じる。傭兵たちは空爆には完全成功、苅田のバグア基地を奇襲攻撃で壊滅させた。
だが海上における航空戦はほぼ互角に終わり、両軍に若干の損害を出したのみで引き分ける。ダム・ダルも健在。
これを受けて西のゴーレム部隊は撤収。
「空中戦は引き分けたか‥‥これは、次回の戦いに影響を出しそうだが」
傭兵たちは撤退したバグア軍を見つめて呟く。苅田のバグア基地の破壊には成功した、予定通りである。あくまで予定通りではある。
だが第二次攻撃については全く進まず、次回へ作戦は持ち越しとなった。
バグアの激烈な抵抗が予想される戦いは、どこへ向かうのか。苅田の完全解放に向けて、茨の道が待ち受けている‥‥。