●リプレイ本文
苅田町上空――。
傭兵たちの五つのロッテとケッテが一つ。上空に侵入すればファームライドとヘルメットワームが迎撃に出現する。
「小賢しい奴らよ人間どもが。たった一つ、みやこ町を落とした程度で我々の占領地域に攻撃を仕掛けてくるとは‥‥身の程を知るがいい」
言ったのは赤いHWに乗っている強化人間のボス高橋麗奈。
傭兵たちは冷静だった。
「言わせておこう。こっちは陽動だ。せいぜい派手に暴れさせてもらおう」
カルマ・シュタット(
ga6302)は言って僚機にバンクサインを送ると、ワームに立ち向かう。
「私は小隊長だけど傭兵が軍人を仕切るのも何だし、編隊長はプロにお任せした方が無難ね。宜しくお願いネ☆」
「任せてもらおう、サポートを宜しく」
藤田あやこ(
ga0204)は軍属傭兵とともにロッテを組むと、スロットルを全開で突進する。
「FRを含むHW編隊と正面きって戦うにはこちらの戦力は明らかに役者不足ですわ。せめて、これがあからさまな陽動とは思われないように振る舞わなくてはなりませんわね」
クラリッサ・メディスン(
ga0853)は冷ややかな口調で言うと、任務の困難さを推し量る。地上班の状況を考えると、恐らく長時間にわたってワームを引きつける必要があるだろう。現実的にはどこまで持ち堪えることが出来るか‥‥。
「ここは気力勝負ですね。せめて地上班の侵入だけでも支えることが出来れば‥‥」
レールズ(
ga5293)の言葉に一同頷く。
「正規軍の実力、頼りにさせてもらいますよ」
「(ついにFR‥‥敵の指揮官が前に出て来る様になったか‥‥そして新しい開放作戦の第一歩、ここまで来てら後はやるだけ。負ける訳にはいかない)」
麻宮光(
ga9696)は心中に期する思いを投げかけると、相方の傭兵にバンクサインを送る。
「行きますよ。宜しくお願いします」
「了解トレボー、出来うることなら敵さんを叩き落せばそれに越したことはないんだが」
傭兵たちはスロットル全開で突撃する。
苅田町地上班――。
「じゃー、一丁スニーキングミッションといきますかー、途中から漏れなく威力偵察になりそうな気がするけど‥‥」
ミア・エルミナール(
ga0741)は言ってタバールを構える。目の前にはかつての町の面影もないバグアの占領地域の光景が。
壁があちらこちらに走っており、民家などの建物は改築されて壁の一部になっていたりする。
軍属傭兵の一団とともに町中を進んでいく。地図に目を落としながら、改築された町をマッピングしていく。
「あれは‥‥?」
壁の向こうに見える奇妙な建物。ミアは家屋の屋根によじ登ると、目を凝らした。ロシア戦線で見かけたゲートのような奇天烈な形をしている。
ミアはその様子をカメラに収めると、味方に報告する。
「ふうむ‥‥この一帯は件の基地か‥‥」
地図を塗りつぶしていく。
再び上空――。
「食らえSESエンハンサー!」
あやこのアンジェリナからレーザーが放たれると、直撃を受けたHWが急旋回する。僚機がワームを追い込むと、あやこはその背後からミサイルを叩き込む。
するとワームは一気に加速してミサイルを振り切ると、慣性飛行であっという間にあやこの背後に付く。プロトン砲の連射がアンジェリナを襲う。
「くっ‥‥!」
機体をロールさせながらプロトン砲をかいくぐるあやこ。
「あやこ機、援護する」
僚機がHWに攻撃を加える間にあやこは何とかワームを振り切った。
クラリッサも僚機ととにワームを追う。
「逃がしはしませんわ」
クラリッサはスロットルを吹かせると、ローリングしながら一気にワームとの距離を詰める。ミサイルを立て続けに発射すると、流れるような軌道でワームに向かって飛んでいく。
ワームも加速してミサイルを振り切る。そこへ僚機がさらにミサイルを撃ち込み、回避行動を取ったところへクラリッサがスラスターライフルを叩き込む。
ライフルを立て続けに食らいながらもHWは反撃、プロトン砲を打ち込んでくる。クラリッサは冷たい瞳でワームを見据えながら、敵機と音速突破ですれちがう。
「敵も中々にしぶといですね‥‥」
レールズはミサイルを叩き込んで回避行動を取る敵機にソードウイングで切りつける。
爆発する赤いHW。
「噂の強化人間の機体ですか、ですが‥‥」
レールズは僚機と挟撃態勢をとってライフルを連射し、高橋麗奈を追い詰める。
「いかにお前達があがいたところで無駄なこと。我等の占領地域へ逆侵攻をかけるとは‥‥お前達に待っているのは破滅でしかないぞ」
レールズは回線をつなぐと、高橋に怒声を叩きつける。
「そっちもいい加減分かっているだろう。私たちは諦めが悪い人種でね。お前達が1人でも減ればそれだけ2つの祖国にとって危険が減る‥‥負けられないんだよ!」
「ふん、ならばその淡い希望、打ち砕いてくれるわ」
赤いHWは急旋回すると、レールズのライフルをもの凄い機動でかわしながら接近すると、プロトン砲を打ち込んでくるが――。
直撃を受けつつ、レールズはすれ違いざまにソードウイングで切りつけた。
カルマはHWと凄まじい空中戦を展開していたが、巧みなロッテを組んでHWを追い詰めていく。
「ここで、落ちてもらうぞバグア人か、強化人間知らないけど」
「舐めおって! 人間ごときに俺様がやられるものか! 俺はバグアのテクノロジーで人間の限界を越えたのだ!」
「お前を哀れとは思わない。俺たちも似たようなもんだからな。だが、負けてやるわけにはいかないんでね」
カルマは照準を合わせると、目の前のワームにレーザーを叩き込んだ。
光線が次々とワームを打ち抜き、敵機はついに爆発轟沈する。
「ぐ‥‥あああああ! しくじったか!」
「やりますね、カルマさん。さすが‥‥!」
光の阿修羅は目の前のワームに猛進していく。
「俺が前に出る! 支援を頼む!」
阿修羅のバーナーが火を吹き、音速の壁を越えてワームに迫るが――。
HWはさらなる超音速で加速、阿修羅とワームは凄まじい速さで飛び交う。
「さすがに‥‥でたらめな機動力」
光はワームを猛追しながらガトリングを打ち放つ。弾丸が雨あられとワームに襲い掛かるが、ワームも超音速で逃げる。
そしてワームは逃げながら向きを変えると、高速後退しながらプロトン砲を連射する。慣性飛行でなければ出来ない攻撃だが。
そこへロッテを組んでいる傭兵が強襲してライフルを叩き込んでいく。
「行け阿修羅、やっこさんを仕留めろ」
「行けるかな」
光はワームに食らいつくが、敵機もでたらめな機動力で逃げる‥‥。
再び苅田町地上――。
アンジェリナ(
ga6940)たちは基地の位置を確認しながら進行していた。腕を動かしながらサインを送り、不気味な沈黙を保っている町を進んでいく。
主要な道路は残されていたが、壁が立ちはだかって市街地は迷路のように改築されていた。
先行するスナイパーとエキスパートが戻ってくる。
「この先にも基地があるようだ。強化人間がキメラを連れて歩いている」
アンジェリナは思案顔で顎をつまむ。
「戦闘は避けよう。今回は基地の位置さえ確認できればいいだろう」
「そうだな。なるべく戦闘は避けた方がいいだろうな」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)らは工業地域に進入していた。元々工場が並んでいたその一帯は、全くバグア基地に変貌していた。分厚い壁が立ち並んで、基地の周辺を覆い隠している。分厚いパイプが不気味にうねうねとかつてのコンビナートを取り囲み、大きなシルエットが立ちはだかっている。
「ここはかつての工業地域か‥‥完全にバグア基地に変わり果てているな」
味方から双眼鏡を借り受けたユーリは、基地の様子を見つめて呟いた。基地の周りに人影はなく、車両の陰形もない。
ユーリらは地図を塗りつぶしながら工業地域を進んでいく。
――ドウ! ドウ! ドウ! ドウ!
――ズバアアアアア!
静かな市街地に銃声と肉を切り裂く軋むような音が響く。
傭兵たちの集中攻撃を受けて倒れる猛獣キメラ。
アンジェラ・ディック(
gb3967)はライフルを下ろすと、無線機で味方に呼びかける。
「こちらデイム・エンジェル。遭遇したキメラを撃破した。みなも気をつけて。この辺りはキメラが徘徊している様子」
「‥‥了解デイム・エンジェル。こちらは今のところ異状はない。偵察を続行する」
後方の軍属傭兵から応答が帰ってくる。
「多数のキメラの匂い‥‥敵の重要な施設か、単にバグアの影響が濃い地域なのか‥‥」
その後もアンジェラたちはキメラと遭遇しながら一帯を偵察することになる。
フィルト=リンク(
gb5706)は沿岸沿いに存在する倉庫と港湾施設を偵察に向かっていた。
そこもまたバグアの基地に版図が塗り替えられており、分厚い壁が立ち並んで、地上には分厚いパイプが走っていた。
「完全にバグア基地に塗り替えられていますね‥‥かなり大きな施設のようです」
フィルトは双眼鏡から基地のシルエットを覗き込む。相変わらず奇天烈なシルエットの建物が僅かに見える。
偵察を続けるフィルトたち。これと言った危険もなく、偵察は順調に続いたが――。
不意に、壁の角を曲がってきた強化人間とフィルトらは遭遇する。
「何だ貴様らは。民間人は外出禁止だぞ」
「見つかったか‥‥」
フォルトらは身構える。
強化人間は驚きから立ち直って、よくよく傭兵たちを観察し、フィルトらが民間人ではないことを看破する。
「何だ、まさかUPCの兵隊‥‥か?」
フィルトは問答無用で飛び掛り、竜の咆哮で強化人間を吹っ飛ばした。
傭兵たちは立て続けに攻撃を加え、強化人間を滅多打ちにする。
「ちい! 能力者か! 何でこんなところに!」
強化人間は飛び上がって壁の向こうに逃げた。
「偵察はこれくらいで十分だろう。撤収するか」
「そうですね‥‥」
フィルトはカラースプレーを取り出すと、アスレード×ダム・ダルの相合傘を、期待と悪戯心を込めて壁に描いた。
「よし‥‥! 早く撤退しましょう」
「‥‥こちらミア。こっちはほとんど偵察完了。各班の状況は?」
仲間達から偵察完了の声が帰ってくると、それではミアも撤退すると応える。
「みんな帰りがけに基地以外の家屋を覗いていこう。民間人は見つかった? 外出禁止になっているって話しだけど」
「‥‥いや、そう言えば民間人は見つからなかったな」
「そうだな、帰りがけに覗いていくか。今助けるのは無理だとしてもな」
アンジェリナやユーリが応えると、地上班はそれぞれのコースを辿って民間人の様子を探っていく。
ミアたちも基地の側を離れ、市街地の家屋を覗いていく。
ゴーストタウンと化している民家の一つに、ミアは歩み寄ると、ノックする。
「もしもーし、誰かいますかー? UPCでーす」
正直何と声を掛けてよいのか分からなかった。応答はない。
ミアは警戒しながらもドアに手をかける。鍵は掛かっていなかった。
「お邪魔しまーす‥‥こんにちは」
家の中は電気が通っていないのか、薄暗い。
と、壁の脇から、ひょこっと子供が顔を出した。
「やあ君‥‥」
ミアの顔を見て慌てて逃げ出す子供。
しばらくすると、子供の両親が姿を見せる。UPCだと説明すると、民間人の二人は驚いた様子だった。
「ここでの暮らしは厳しいものです。外出は制限されていますし、もちろん逃げようとすれば即座に殺されます」
「今、ここのバグアを一掃しようとUPCが動き出しているんだ。今は助けるのは無理だけど‥‥諦めないで下さい」
民間人の男女は頷くと、傭兵たちに出発を促した。
「さあ行って下さい。見つかればただでは済みません。私たちの居住区はそれほど厳重な警備ではありませんが」
ミアは頷くと、後ろ髪を引かれる思いで民家を後にした。
そうして、地上班の傭兵たちは苅田町を脱出する。
――再度上空の戦い。
HWを全機撃墜した傭兵たちは、ファームライドに搭乗するダム・ダルと相対する。
赤い機体が動き出し、ファームライドは攻撃に転じる。
傭兵たちは地上班からの連絡を受けて、残りの力を奮い起こしてファームライドに攻撃を叩きつけるが、赤い機体は小揺るぎもしない。
あやこはダム・ダルに挑戦的な台詞を叩きつける。
「ダム・ダルよ私の故郷から失セろ。例え私がヨリシロと成ろうが第二第三の後継者がお前を襲う。器を拾うしか能が無いお前と違い私には九州がある。これは聖戦だ。庇護物の存在は無尽の刃だ。例え重傷を負っても人は何度でも舞い上がる」
「聖戦か‥‥実に興味深い。守るべきもののために人は団結し、強大な力を発揮する。北米ではエミタ・スチムソンを本気にさせたようだが‥‥どこまでも戦い続ける気かお前達は」
レールズは自分がかつてダム・ダルの最後を見送ったと伝える。
「あなたの去り際は敵ながら惚れ惚れしたんですがね‥‥厄介ですね。バグアって生命体は‥‥」
レールズはそれから「敵防衛硬く攻撃は困難。撤退する」と偽装通信をダム・ダルに流してから操縦桿を傾ける。
「‥‥さすが強いですね‥‥ですが、あなた達は中国も日本も征服できない。古よりこの地で暮らしてきた人類の想いまで挫けない!」
そう言ってレールズは戦場を後にする。
「ダム・ダルよ、ラゴンの戦士の誇りは忘れたのか。その体を、持ち主に返せ!」
激昂するカルマの言葉にダム・ダルは思案気に呟く。
「戦士の誇りか‥‥それはこの体の強さでもあったが、弱点でもあったようだな。興味深い」
興味深いを繰り返すダム・ダルに、体を弄ぶバグア人にカルマは怒りを覚えたが、ここは作戦通り感情を押し殺して撤退する。
クラリッサと光も機体を旋回させる。ダム・ダルは傭兵たちを追いかけることはなかった。
地上班からの連絡を受ける上空班――。
「ご苦労さん。偵察は順調に終わったよ。何とかここからUPCの作戦がうまく進むといいけどね」
ミアは言った。
それから行橋市のベースキャンプにて合流した傭兵たちは、今後の戦いに思いを馳せるのだった。