●リプレイ本文
出撃直前――。
「久志君」
狐月銀子(
gb2552)は狭間久志(
ga9021)を呼び止めた。
「銀子、何だ?」
「A(エース)はそう何度も使うもんじゃないわよねえ? 今日はクイーンに任せておきなさいよ」
「え、ええ?」
銀子は久志の肩を叩くと、「今日は君より目立つよ?」とウインクして、フェニックスに飛び乗った。
「やれやれ‥‥あいつ」
久志は肩をすくめると、愛機のハヤブサに搭乗する。エンジンに火を入れ、滑走路に期待を進める。
「管制官、こちらハヤブサ、狭間久志機。これより出撃する」
「了解久志さん、お気をつけて。幸運をお祈りします」
「ありがとうオペレータ。じゃ、行って来ます」
久志はスロットルを全開にすると、ハヤブサは瞬く間に飛び立ち、北九州へ向かって飛んだ。
‥‥傭兵たちは四つのロッテでシュバルムを組んでみやこ町を飛び越え、郊外西方の戦闘区域へ侵入する。
イビルアイズ搭乗の乾幸香(
ga8460)とユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)はレーダーに目を落としながら僚機をナビゲートする。
「敵機を確認、間もなくエンゲージに入ります」
「全機攻撃準備。気をつけろ、ダム・ダル(gz0119)のファームライドがいるそうだからな」
「ダム・ダルか‥‥ようやくあいつを戦場に引きずり出すことが出来たというわけだが‥‥」
ダムとは少々縁のあるカルマ・シュタット(
ga6302)は呟いて、K−02ミサイルのボタンに手を置いた。
「北九州バグア司令官が子供をHWに吊るした狼藉は報告で見た。ダムダルだかビヤ樽か知らんが許さない!」
怒りに燃える三島玲奈(
ga3848)はライフルの照準から視線の先にいるHWを見据える。
「ダム・ダルの奴‥‥何を考えている」
久志は戦場で姿を消していると言うファームライドに警戒心を高めていた。ユーリのイビルアイズにバンクサインを送る。
「乾さん、援護を頼みますよ」
麻宮光(
ga9696)は阿修羅の操縦桿を傾けて僚機の乾にサインを送る。
「ここで少しでも敵を叩いておきましょうね。今後のためにも、私も頑張っちゃいます」
乾は言ってバンクで応える。
三島の雷電の後衛に付くチェスター・ハインツ(
gb1950)はロビンを傾けながらミサイルの発射ボタンに手を置く。
「全機エンゲージ、敵機の動きに注意せよ」
傭兵たちのナイトフォーゲルは機体を傾けると、戦場に突入していく。
「レンジ内‥‥行くわよ。全員、気合入れなさい!」
銀子は言って、ミサイルを発射する。
「ミサイル発射」
「仕掛けて下さい。援護します」
「発射」
カルマとチェスターもミサイルを発射する。麻宮はロケットランチャーを発射。
ミサイル群がHWを追尾し、命中、最初の爆炎を巻き上げる。
「UPC傭兵へ、早川中佐から要請を受けてラストホープからやって来た。これより敵機に攻撃を開始する」
カルマはレーダーに目を落としながら友軍に告げる。
「了解、援軍に感謝するぞ」
「ラストホープからの傭兵だと?」
通信機から高橋麗奈の声が響いてくる。
「馬鹿め、増援など無駄なあがきよ。貴様らが束になったところで、ダム様に勝てる可能性はないぞ」
「言ってくれるなバグア兵。それとも高橋か? だが、やってみなくちゃ分からないだろう」
久志は言ってハヤブサを加速させる。ユーリもイビルアイズのスロットルを吹かせる。
「もっとも、ダム様の前に私を倒せるかどうかだ、傭兵たちよ」
高橋の紅いHWが急旋回して久志機にプロトン砲を叩きこんでくる。
久志のハヤブサは素早くロールしながら全弾回避する。
「行け、久志。援護する」
ユーリはパンテオンミサイルを全弾発射すると、百発のミサイルが紅いHWに向かって一斉に飛んでいく。
高橋機は急上昇して回避を試みるが、ミサイル群は次々と命中して紅蓮の炎を巻き上げる。
傾く紅いHWに久志はブースターで突進、ソードウイングで切りつける。
「おのれ! こしゃくな傭兵どもが!」
直撃を受けて焦る高橋は、一気に加速してハヤブサを引き離すと、反転して後退しながらプロトン砲を連射。
久志は機体をローリングさせてワームの砲撃を回避しながら迫る。
「貴様らとは遊んでおられんわ!」
高橋は最高速でハヤブサを引き離して逃走するが――。
「こっちはお遊びでやってんじゃないわよ!」
別方向から突進する銀子のフェニックスがすれ違いざまにライフルを叩き込んでいく。
「何を!」
「下っ端に構っているほど気が長くないんだ‥‥墜ちろ!」
猛進するカルマは長距離砲アグニを連射する。
直撃を受けて爆発する高橋機は後退すると――。
「さすがに西園寺を倒しだけのことはある‥‥確かに強いな貴様らは。まともにやり合っていては命が足りぬようだ」
笑声を残して逃げの一手に転じる高橋。ブースター並みの速度を維持してナイトフォーゲルを見る間に引き離す。
三島はハインツとのロッテを組んでHWに果敢に攻めかかる。
「リニア砲、殴り打ちだ」
轟音を伴って放たれるリニア砲を三島はワームに叩き付ける。
強力な実弾兵器がワームのフォースフィールドを貫通する。
「さあ、当てていきます!」
三島機の背後からローリングして姿を見せたハインツのロビンは、レーザーカノンを連射。
ワームも直撃を受けつつ最高速で脱出、ローリングで回避する。
「逃がしはしない、子供の仇‥‥!」
三島はブースターで食らい付く。
「餅は餅屋、ライフルはスナイパーの専売だ!」
三島は照準先のワームを睨みつける。
「行きます」
ハインツもマイクロブーストを起動して突進。
「ハインツさん、併せ技で行くよ」
「了解、このタイミングで外すわけには行きませんね‥‥一気に行きます」
レーザーガン「オメガレイ」のボタンに手を置くハインツ。
雷電とロビンは唸りを上げてワームの背後から襲い掛かる。
三島とハインツは射程にワームを捕らえて、ライフルとレーザーガンを雨あられと叩き付ける。
逃げるHWは高機動で三島とハインツの猛攻をかわすが――。
「ちいっ! しぶとい奴らだ!」
パイロットの強化人間は苛立たしげにワームを加速させる。ずしん! と衝撃がコクピットを揺るがす。
強化人間はぐんとワームの速度を上げると、KVを引き離す。
「逃がさんぞ!」
三島は怒りに燃えて突撃する。
「そう容易く落ちると思うなよ! 傭兵どもが!」
強化人間は三島とハインツに怒号を叩き付けると、機体を旋回させて反撃。ロールしながらプロトン砲を連射して雷電とロビンを撃つ。
操縦桿を傾ける三島。プロトン砲の直撃を受けて揺れるコクピットの中で牙を剥く。
「ここは絶対に渡さない! バグアから取り戻したこの町を‥‥渡してなるものか!」
三島の雷電はロールして旋回、すれ違いざまにワームを追撃する。
「三島さん‥‥」
ハインツは雷電を追いかけながら自身のロビンを旋回させる。
ロッテを組むハインツは、三島の後衛にぴたりと機体をつける。
「‥‥こちら乾、イビルアイズよりデルタワンへ、デルタツーが敵機に追われています。援護に向かって下さい‥‥デルタスリー、そのまま攻撃を続行せよ‥‥」
乾はイビルアイズを操りながら官制を行いつつ、麻宮を援護する。ワームを射程に捕らえてロケットランチャーを放つ。
「光さん、今です」
「任せて下さい。一気に追い落とします」
麻宮は眼前の敵を照準に捕らえると、ガトリングを連射する。
凄まじい銃撃がHWに襲い掛かる。轟音が炸裂して、HWは爆発炎上する。
「やってくれるな傭兵ども」
パイロットの強化人間はワームを高速で旋回させると、麻宮の阿修羅に体当たりを仕掛けてくる。
直撃を受けて阿修羅が激しく揺れる。
「光さん、援護します」
バルカンを叩き込むイビルアイズに、ワームは阿修羅からさっと離れてプロトン砲を連射する。
後退しながらプロトン砲を連射して逃げるワーム。
「さすがにでたらめな機動力ですね‥‥」
麻宮は機体を立て直すと、逃げるワームに乾がミサイルを放って追い散らす。
「まだまだ‥‥行くぞ」
麻宮は後退するHWにロールしながら接近して戦車砲を叩き付ける。
ワームは速度を上げて、前を向いたまま、プロトン砲を連射して逃げる。
乾は忙しくレーダーを操作し、官制を続けながらも阿修羅の後衛に付いて、ミサイルで光を援護する。
「それにしても西園寺様が敗れるとはな‥‥北九州の抵抗も予想外と言うべきか」
強化人間はナイトフォーゲルを見据えながら、ワームを巧みに操り、機体をくるっと回転させて麻宮の阿修羅を引き離す。
‥‥久志、銀子、カルマ、ユーリらも、ワームの高機動力を使って逃げの一手を打たれては、捕らえようがなかった。
高橋は手近な護衛を数機呼び寄せ、盾にして逃げまくった。常時ブースター並みの速度を維持して、高橋はナイトフォーゲルを引き離して逃げ続ける。
その分他の三島やUPC軍属傭兵の負担は減り、HWは確実に撃墜されていく。
「手ごわい相手から、犠牲者が安眠できる墓地を取り戻す」
三島は最後まで手を緩めることなく、掃討戦を進めていく。
カルマは通信回線を開くと、ダム・ダルに呼びかける。
「聞こえるかダム・ダル。俺はカルマ・シュタット。かつて、ダム・ダルからこのシュテルンにウシンディの名前を貰った傭兵だ」
すると、意外にもダム・ダルから応答があった。
「ウシンディ‥‥? やはり来たかカルマ・シュタット。何かと俺には曰くつきの人間よな」
「ダム・ダル、手下に任せていないで、お前が出て来い。招待状は見ていただろう?」
「招待状か‥‥確かに、高橋には荷が勝ちすぎるようだな。尤も、このままお前達を叩き潰すのも興がないと言うものだ。俺はかつてこの体がそうだったような、高潔な精神とは無縁でな。生憎と正面からお前達と戦うような酔狂な真似はせん。無論、ウォン司令や上から春日基地を任されている手前、負けてやるつもりはないがな」
「‥‥ちっ、饒舌だなバグアのくせに。遊んでるのか」
「遊んでいるつもりは毛頭ないぞ。人類の習性を観察するのも俺の大事な仕事の一つでな」
「何だと‥‥ふざけるな」
久志が割って入る。
「カルマさん、こいつのペースにはまるとやられるかも知れない。何か罠を仕掛けているのかも」
久志は回線に声を叩き付ける、
「見てるんだろうダム・ダル。近いうちに決着を付けてやるから待っていろ」
「ほう。俺と決着をな。だがこの戦、簡単には終わらんぞ」
麻宮も回線を開いて、ダム・ダルに疑問を投げかける。敵ではあるが‥‥。
「ダム・ダル、バグアにとっての重要拠点は他にもいくらでもあるはずだ。ここを狙う目的は何だ。お前達バグアがただ戦いたいだけなのか‥‥それともこの場所にこだわり続ける理由があるのか‥‥」
「俺は春日基地司令だ。当面北九州を制圧するのは俺に与えられた任務ではあるが‥‥」
ダム・ダルは言葉を切ってから言った。
「本来なら、ここ築城方面の戦いは、西園寺明のプロモーションのために用意された戦場だった。みやこ町を制圧し、築城基地に大攻勢を掛け、その後西園寺が春日基地司令に昇進、俺は北京攻略に向かう予定だった。ところが、お前たちの想定外の抵抗で、逆に北九州の東の要、みやこ町を落とされてしまったのだ。だから、役に立たぬ西園寺は俺が始末した。何れにしろ、北九州は東アジアの激戦区の一つ、築城方面の征圧も、春日基地司令である俺の仕事の一つということになる」
そこまで言ってから、ダム・ダルは高橋に撤退を告げる。
「さて、今回の遭遇戦でお前達も頑としてみやこ町を譲らないことが分かった。ここを取り戻すには、やはりそれなりの攻撃を仕掛ける必要がありそうだな。では傭兵たちよ、今回はここまでだ。――高橋、部下を撤退させろ」
ダム・ダルの撤退命令を受けて、ヘルメットワームは戦線を離脱していく。
「待てダム・ダル! あの子供の仇‥‥何としてもお前を倒す!」
激昂する三島の声にダム・ダルは首を傾げていた。
「あの子供? 俺の記憶にはないが、一人や二人死んだくらいでその調子では後が持たんぞ傭兵よ。ではさらばだ」
傭兵たちが見つめる中、ファームライドがふっと姿を現し、西へ飛び去っていく。
「西園寺に同情する気はないけど‥‥さて、あのバグア人、どんな手を使ってくるのかしらね」
銀子は遠ざかるファームライドの姿を見送った。
こうして、みやこ町郊外の遭遇戦は幕を下ろす。ひとまず勝つには勝った。が、これはダム・ダルの予測のうちであったかも知れない。
北九州の戦いは、予断を許さない状況が続くことになる‥‥。