●リプレイ本文
依頼の趣旨は明快である。カプロイア伯爵が差し押さえた無人島からキメラを退治することである。
輸送艇から無人島に上陸した傭兵たちは意外に真面目にキメラ退治を行うつもりであった。‥‥意外に真面目と言うのも語弊があるが、まあそれほど肩肘を張る必要のない依頼であることは確かである。
ワームとの大規模戦に出向けとか強力な大型キメラと戦えとか言うわけではない。敵は確認されただけで30センチほどの昆虫キメラであるという。大した攻撃力も生命力もあるわけでもない。
出来合いのマップ片手に傭兵たちは浜辺から無人島を見上げた。
「あっさり無人島買っちゃうなんて、伯爵も相変わらずやるなー」
遠見のように手をひさしのように額に当てるラウル・カミーユ(
ga7242)。
「せっかく準備してくれた場所だし、幸せカップルの為にも使える場所にしたいヨネ。キメラは要らないお客サン。ちゃちゃっと退場してもらっちゃお♪」
しかし‥‥とラウルは顎を摘まんでふと考える。
「ジューンブライドかぁ‥‥うん、まだ当分僕の結婚は先だナ。独り身じゃないだけヨイけどっ」
水無月蒼依(
gb4278)は小さく肩をすくめる。
「キメラは蝶々型と言いますけど‥‥一体どうしてこんなところに住み着いているのでしょうね? バグアの秘密基地だったのでしょうか?」
初夏の日差しを眩しそうに見上げる水無月。
不可解なことだが、北太平洋に浮かぶこの島にキメラがいるということは、バグアが上陸していたのかも知れない。
「‥‥バグアがいた可能性があるとすると、他に何か危険があるとも限りないわね。油断は禁物よね。まあバグア侵攻初期の頃に打ち捨てられた場所なのかも」
フローラ・シュトリエ(
gb6204)は言って双眼鏡を覗き込んでいた。森には南国風の木々が立ち並んでいる。
実際バグアにとっては何の価値もない場所だけに、弱小とは言えキメラがいたのは予想外でもある。
「‥‥‥‥」
フィー(
gb6429)は静かな瞳で島を見つめていた。綺麗な花嫁さんは綺麗な場所で‥‥と心密かに願ってこの依頼に参加した。
白銀色の髪が潮風に吹かれて揺れる。フィーは髪を掻き揚げて周囲を見渡した。
白い砂浜がどこまでも続いている。聞く所によれば岸壁もあるようだが、ここから見える海岸線は波が打ち寄せるビーチである。
「蝶は、花に恋せども、報われる事はない―――孤高の薔薇と謳われたわたくし、メシア・ローザリアがそのこと、キッチリ教えて差し上げますわ」
メシア・ローザリア(
gb6467)は言って森の方角を見やる。
「ふん、蝶キメラか――薔薇のように、優雅に、甘美な棘でしとめて差し上げよう。敵に、容赦はいたしませんわ。わたくしの前に立ちふさがる敵はすべて、跪くのよ!」
なぜか薔薇の花を手に持っているメシア。貴族階級の生まれで立ち振る舞いは高慢な娘である。
「行くぞお前達。蝶キメラなどに好き勝手はさせん。まあ、伯からの依頼でもあるしな‥‥やることはいつもと変わらん」
メシアはずかずかと先頭に立って歩き出す。
「気合い入ってるねー♪ メシアちゃんに見習って僕も真面目にやるとしますかね」
ラウルは頭の後ろに手を回してのほほんと言うと、歩き出した。
フィーと、フローラ、水無月も後に続く。
傭兵たちは辺りを見渡しながらキメラの出現に備えていた。森の中、降り注ぐ日差しが蜃気楼のように白く光っていた。静寂は水を打つ音さえも聞こえず‥‥いや、どこからか水のせせらぎが聞こえてくる。近くに水場でもあるのだろうか。
「蝶キメラはどこかなー♪」
ラウルは呼笛を吹き鳴らしてキメラを誘い出そうとしているが、目立った効果があるようには見えなかった。森にはただ笛の音が鳴り響き、キメラは沈黙を保っていた。
と、その時である。傭兵たちの真正面に蝶キメラがふわりと姿を見せた。
ふわり‥‥ふわり‥‥ふわり‥‥と次々と蝶キメラが姿をみせると、傭兵たちを確認したのか、急速旋回して襲い掛かってきた。
「ようやくお出ましか」
ラウルはサブマシンガンのトリガーを引くと、銃撃を開始した。
銃撃に次々と砕け散っていくキメラの群れ。
水無月は抜刀すると上空から飛び掛ってくる蝶キメラのブレスをよけて、キメラを叩き潰した。
「囲まれていますね‥‥露払いはお任せください。特に、囮のみなさまは後から出番がありますしね」
水無月はきっとキメラを睨みつけると、刀の柄を握り直した。
キメラは傭兵たちの周囲を旋回しながら素早く飛びまわっている。
「さすがに数が多いわね‥‥少しずつ倒していくしかないわね」
フローラはレーザーブレードでキメラを叩き落していく。頭上、背後から襲ってくるキメラの攻撃を回避しながら次々とレーザーブレードを叩き込んでいく。
「‥‥お掃除‥‥お掃除‥‥♪」
フィーはガトリングガンを打ちまくっている。もの凄い銃撃音が森の静寂を突き破り、キメラをことごとく破壊していく。
「小賢しい虫どもめ‥‥私の前に姿を見せたのが最後だ!」
メシアは十字架の超機械を握りしめてキメラを攻撃。超機械の電磁派を受けて砕け散るキメラ。
やがてキメラの攻勢は終息に転じていく。
「あらかた片付いたみたいだね」
ラウルは辺りを見渡す。
周りには無数のキメラの残骸が転がっている。キメラは全滅。
「これで終わりでしょうか? いえ、まだどこにいるか分かりませんね」
水無月は刀を収めると眉をひそめて森の奥を見つめた。
森を探索しながら進んでいた傭兵たちは、それからもキメラの集団と出くわすことになるが‥‥。
森の中を流れるせせらぎにフローラは水をすくい上げると、ぴしゃりと顔を洗った。
「かなりのキメラを倒したけど、花畑や丘にはこれ以上のキメラが?」
「全く、キメラという奴はどこにでも沸いて出る害虫だな。このような無人島にまではびこっているとは。気に食わん」
メシアは鼻を鳴らして厳しい顔つきだ。最強系お嬢様に相応しい殺気のこもった口ぶりで、仲間達怯ませる。メシアは方位磁石を確認して、メモメモと地図を書き込んでいく。
「あれ? 何か向こうの方に大きな影が見えるけど?」
ラウルが指差した先に、何かが見える。
フローラは双眼鏡で探ってみたが、木が邪魔になっていてよく見えない。
「一体何かしら?」
傭兵たちは木々の間に見える影に近付いていった。
それは、飛行機であった。ジェット機の先端、コクピットがある部分が岩棚にもたれるように横たわっている。
「‥‥ここに墜落したのか」
ラウルは機体の中に入ると、斜めになっているコクピットによじ登っていった。
コクピットには、すでに朽ち果てたパイロットの亡骸があった。
「う‥‥見なきゃ良かった」
「何か見つかったか!」
メシアの問いかけに、ラウルは窓から身を乗り出して首を振った。
「随分前に墜落したんだろうね。パイロットの亡骸はミイラになってるよ」
ラウルは機体から飛び降りた。
「さてと‥‥森には他に変わったところは無さそうだし、花畑や丘にいるって言うキメラのお掃除に向かいますか」
「‥‥賛成です‥‥キメラを倒して、幸せのお手伝い‥‥しましょう‥‥」
フィーの呟きにラウルはにこっと笑った。
「んじゃ、行くとしますか。探検はこのくらいにして、本職に戻ろうか」
かくして、一同花畑と丘のキメラの掃討に向かう。
まずはおびき出し。ラウルとフローラでキメラを誘い出し、花畑が荒らされないように確保する。
「いたいた‥‥いるねー」
ラウルは木陰から花畑を飛び交うキメラの大軍を見つめた。
「凄い大軍‥‥全部倒すのはしんどいわね」
フローラは肩をすくめる。
「さて、ここから引き離すのが難だね。この大軍をどうやって釣り出すか」
「ラウルさんのマシンガンで少し撃ち落としたらどう? 花畑の中で暴れるわけにはいかないし。ここは解放して式場予定地として確保されるそうだから」
「‥‥うーん、じゃ、そうしてみようか。うまく食いついてくれるといいけど」
ラウルは花畑に踏み込むと、漂っているキメラを数匹撃ち落とした。
「おーい、こっちこっち、こっちだよー」
ラウルはさらにキメラを撃ち落とす。
すると、花畑に群れていたキメラたちが上昇して集まっていく。そして――。
まっしぐらにラウル目がけて突進してくる。
「うわ! 来た! フローラちゃん、逃げよう!」
「こちら囮班よ、花畑のキメラ誘い出しに成功。もの凄い大軍だけど、これからそちらへ向かうわね」
「‥‥了解しました。頑張って下さい」
水無月が応答する。
フローラが見ると、空から黒い固まりが降ってくる。
ラウルとフローラはキメラを引き連れて待ち伏せしている三人のもとへ走る。
「来ましたね‥‥」
水無月はラウルとフローラの姿を確認して刀を抜いた。
二人の後ろには無数の影が付いてきている。
「よし‥‥虫どもを叩き潰すぞ」
「‥‥‥‥」
メシアの瞳が鋭い光を放つ。フィーは黙々とガトリングガンを構える。
「お待たせ」
到着したラウルは態勢を整えると、迫り来るキメラの大軍に向き合う。
「さてと、反撃開始だヨ」
飛び掛ってくる蝶々キメラにマシンガンを叩きつける。キメラの大軍は真正面から銃撃を受けて粉々に砕け散っていく。
「‥‥お掃除‥‥します‥‥♪」
フィーも相変わらず鼻歌まじりに言いながらガトリングガンの弾幕を張ってキメラを寄せ付けない。
と、群れが複数に分かれて傭兵たちを取り囲む。一斉に突撃してくるキメラ。
キメラの突進を受ける傭兵たちは、直撃に耐えて反撃。
水無月は問答無用で容赦なくキメラを切り伏せていく。飛び交うキメラに裂ぱくの気合いを込めて刀を叩きつけていく。
レーザーブレードで次々とキメラを叩き落していくフローラ。縦横無尽にレーザーの剣を振るう。
「結婚式をしようって人達の邪魔になる前に排除させてもらうわよ」
メシアも超機械で応戦、電磁波がキメラを打ち砕いていく。
「う〜ん、凄い数」
ラウルはマシンガンを打ちまくっていたが、激烈な傭兵たちの攻勢の前に数を減らしたキメラを確認して銃を小銃に持ち替える。
キメラは凄まじい勢いで数を減らしていた。やはり個体の力はかなり弱いらしい。
「‥‥上手くいきましたね。生き残ったキメラは片付けておきますので暫く休憩しててください」
水無月はキメラがまばらになってきたことを確認してラウルとフローラに呼びかけたが、二人とも「大丈夫いける」とサインを送ってきた。肩をすくめる水無月。
「さすがに、これだけ多いと気持ち悪いですね。早く終わらせてしまいたいところです‥‥」
メシアは武器を超機械から鉄扇に持ち替えると、扇で蝶々キメラを叩き落す。
「蝶は花に恋せども報われないのだ。わたくがそのことを教えてやろう。滅せよキメラども」
フィーは少なくなってきたキメラたちに容赦なく銃弾を浴びせかける。
そして――。
傭兵たちはどうにかこうにか全てのキメラを駆逐することに成功する。
フィーは小さな煙を上げるガトリングの先端を下ろして吐息する。
「‥‥これで‥‥誰かの‥‥幸せ‥‥手助け‥‥なったかな‥‥」
その後、傭兵たちは丘のキメラも掃討して、無事に任務を終えたのであった。
かくして、無人島の蝶々キメラは全て駆除されたのである。
「綺麗な場所、無事でよかったネ♪」
ラウルは確保された花畑を見やり、みなに笑顔を向ける。
「たまにはこういう場所でのんびりしたいところなのですが‥‥私には似合いそうにもありませんからね」
水無月はそう言って踵を返す。
「伯爵にいい報告が出来そうね?」
「‥‥‥‥」
フローラの問いにフィーは小さく頷く。メシアは思案顔。
「島を掃除できたのは何より。伯爵も喜ばれるだろう」
そうして、傭兵たちはラストホープに帰還する。