タイトル:【ODNK】獅子の牙・5マスター:安原太一

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/22 17:12

●オープニング本文


 北九州、みやこ町――。
 バグアと人類が激しい戦いを繰り広げる九州の激戦区である。
 みやこ町北部市街地ではキメラの大軍と地上部隊が交戦中。町中央部同じく市街地では今のところ敵勢力が薄いことからUPCも静観している。南部の山岳地帯においてはUPCは積極的に兵力を投入していないが、キメラが散見されると報告があった。
 さて、この地域にしばしば姿を見せているバグア軍の司令官が、旧芦屋基地司令官としてバグアと戦ったUPCの軍人西園寺明である。経緯は不明だが、再び姿を現した時、西園寺は春日基地のダム・ダル(gz0119)配下となって、北九州のUPC軍の前に立ち塞がることとなったのである。
 先日も赤いHWを操って傭兵達と交戦、詳細な報告は上がっていないが、激戦の末に西園寺は生き延びたようである‥‥。

 みやこ町東部、UPCベースキャンプ兼兵舎――。
 旋龍での偵察を終えた兵士が基地に帰還してきた。兵士は飛び降りると、その足で幕舎に入った。
 兵士は敬礼する。テントの中には通信機や各種端末が並んでおり、時折オペレータが無線でやり取りしていた。その真ん中では指揮官の早川満中佐が下士官から報告を受けながらみやこ町の地図を見下ろしている。
「ご苦労」
 中佐の鋭い声が飛ぶ。屈強な体格が軍服を押し上げている。190センチ、100キロという日本人離れした巨漢である。強面の軍人だが部下達の間では愛妻家で知られていた‥‥。
「南部の山岳地帯の様子ですが、やはりバグアはキメラを放っているようです。キメラと思われる小集団が時折散見されました。数は徐々に増えている模様です」
「バグアめ‥‥シベリアの件もある、あるいは山岳地帯に拠点を構築しようと言うのかも知れん」
 早川は唸るように言って、部下に命じた。
「地上部隊を送り込む。一個小隊を送り込んで山中の様子を探らせよう。KVで一掃するという手もないではないがな‥‥」
「では、そのように手配を」
「頼む」

 ‥‥山中に送り込まれた小隊は、双眼鏡片手に前進を続ける。山の中は不気味なほどに静かだが、時折、鳥や獣の声らしきものが遠方から聞こえてくる。小隊は身を潜め、注意を払いながら山中を進んでいく。
「今のところ敵の姿はなしか‥‥」
 前進する小隊、と、その時である。
「小隊長、あれを」
 兵士が指差した先、一機のヘルメットワームが浮かんでいる。
「ワームだと? ‥‥一体こんなところで何を」
 隊長は緊迫した面持ちで前進するよう伝える。身を潜めながら進む兵士たち。危険が伴うのは承知の上だが、バグアの動きを探るには近付くしかない。
 現場に到着した兵士たちは、物影からHWの様子を伺った。
 HWは巨大な金属製のかごを地面に下ろしていた。かごの中には多数の猛獣型キメラが眠るようにじっとしている。
 ウイイイイイン‥‥ガシャッ‥‥とかごの扉が開くと、キメラたちがのろのろと進み出てくる。
「ワームはあれを運んでいたのか‥‥バグアたちは一体何を始めようと言うんだ? やはりここに拠点を築くつもりなのか」
「何か見つかったかね」
「ああ、ワームが多数のキメラを地上に下ろして‥‥!」
 兵士たちは驚いて振り向いた。
 そこに立っていたのは、若い精悍な顔つきの男、戦闘スーツに身を包んだ西園寺であった。
「お前は‥‥西園寺明!」
「ふふ、私の名前を知っているとは、西園寺とは相当に有名な人物なのだな」
 その口ぶりから洗脳されているのかヨリシロなのか分からなかったが、とにかくも兵士たちは散開して逃げた。この装備でまともに戦って勝てる相手ではない。
 が、西園寺はジャンプして兵士の一人に飛び掛かる。西園寺は兵士を踏み潰すように地面に叩きつけると、兵士の体がぐしゃっと砕ける。西園寺の足の下で、兵士は一撃で絶息していた。
「逃げたか‥‥では狩りを始めるとしようか」
 西園寺はそう言うと、口もとに残酷な笑みを浮かべた。

 ラストホープ――。
「‥‥どうやら、西園寺は前回の激戦を生き延びたようですね」
 オペレータのフローラ・ワイズマン(gz0213)はみやこ町からもたらされた報告に眉をひそめる。
「みやこ町南部で西園寺の姿が確認されましたが‥‥西園寺の件はともかく、どうやら南部の山岳地帯でバグアの動きがあるようです。恐らくヘルメットワームが多数のキメラを搬送していると思われます。キメラの出現は前兆かも知れないと前線の指揮官は判断している様子です」
 フローラは言ってから思案顔で続ける。
「山岳地帯へ偵察に出た八人の小隊のうち、逃げ延びたのは二人です。あとは今も山中に閉じ込められ、救援を待っています。キメラの抵抗が予想されます。それらを排除しつつ、逃げ遅れた兵士たちの救出に向かって欲しいとのことです」
 かくして、激闘続くみやこ町の山中、絶望的な状況に置かれた兵士たちの救出作戦がUPCからラストホープに依頼されたのであった。

●参加者一覧

ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
斑鳩・八雲(ga8672
19歳・♂・AA
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
イスル・イェーガー(gb0925
21歳・♂・JG
カララク(gb1394
26歳・♂・JG
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
萩野  樹(gb4907
20歳・♂・DG
アリステア・ラムゼイ(gb6304
19歳・♂・ER

●リプレイ本文

「‥‥山での戦いは普通とは違うから‥‥気をつけないとね。‥‥こんなことなら山岳猟兵(アルペンイェーガー)だった父さんに少しでも習っておけばよかった‥‥」
 イスル・イェーガー(gb0925)は言って山中を見渡す。
 能力者たちはすでに山に入り込み、三つの班に分かれて兵士の捜索に向かった。ただ分かれたわけではない。傭兵たちには策があった。敵の目を欺くための作戦だ。西園寺の姿が確認されたということから、無線は傍受される恐れがある、が、それを逆手にとろうと言うのだ。
 囮のA班――ワイバーンと称す――がわざと西園寺にこちらの位置を伝え、残るB班とC班――デルタワンとイーグルネストと称す――が西園寺の注意を引き付けている間に空っぽになった山を素早く探そうと言うものだった。
 西園寺がこの手に乗らなければ、三つの班で捜索を行うことになるが、キメラたちを引きつけることが出来れば、兵士たちを全員回収できる可能性があると見たのだ。
「全くバグアの奴、この当たりにサファリパークでも作る気かな? まあいずれにしても人間がいていい場所じゃなさそうだがな‥‥」
 須佐武流(ga1461)は茂みと木々の間を分け入りながら慎重に目を凝らす。黄金色のオーラをまとった武流は前傾姿勢で前を見据えて、獣のような足取りで進んでいく。
「この辺りで、いいんじゃないでしょうか?」
 ドラグーンの萩野樹(gb4907)はアイカメラの中から周辺を見渡しながら武流に告げる。
「そうだなあ、んじゃそろそろ始めるとしますかね?」
 武流はみなに確認する。イスルとこれまたドラグーンのアリステア・ラムゼイ(gb6304)は頷いてみせる。
 ラムゼイは無線機を持ち上げると離れている味方に告げる。
「こちらワイバーン、救出を開始する」
 無言の了解があって、今度は武流が無線機を持ち上げる。
「こちらワイバーン、予定通り山の南から侵入する。山の南で兵士を確保予定だ。予定通りであれば、味方は山の南方面に向かっているはずだ。繰り返す。山の南付近で味方を回収する」
 武流は無線機を下ろすと吐息した。
「さて‥‥」
「敵は‥‥乗ってくるかな‥‥」
 イスルはライフルを構えながら前進する。
「西園寺がここにいるなら、まさかこっちが囮作戦に出ているとは思わないだろうがな‥‥乗ってくれることを祈るばかりだが。尤も、キメラがばらけてくれるならそれはそれで構わないがね」
 四人はゆっくりと前進を開始する。山林の間から初夏の陽光が差し込んでくる。戦闘でなければハイキングにでも丁度いい天気だが‥‥。

 ‥‥傭兵達の無線を傍受した西園寺は無線機を下ろすと、周りにいる数体のキメラに命令する。
「お前達、山の南へ向かえ。UPCの援軍が来ている様子だ。群れを率いて奴らのもとへ走るのだ。餌がむざむざ食い殺されに来たぞ。ふっふっふっ‥‥行け」
 キメラたちは西園寺が指差した方向に向かって走り出すと、群れを呼んで咆哮する。
 山のそこかしこから咆哮が上がって、キメラの群れが走り出す。
 西園寺は無線機を持ち上げると、回線を開いた。
「こちらバグア軍の西園寺だ。ワイバーン応答せよ」

 ――ワイバーン応答せよ。
「何だ? 西園寺だって?」
 武流は仲間達を見渡した。敵バグアからの通信だが‥‥ラムゼイが通信機を持ち上げて答えた。
「こちらワイバーン、西園寺か?」
「ふっふっふっ、UPCの援軍か。ご苦労なことだな。この窮地に援軍をよこすとは‥‥人命の浪費だぞ」
「お前の挑発に付き合っている余裕は無いんでね。俺たちは味方を回収したらすぐにおさらばするよ」
「山の南で味方と合流するって? 本当かね。そっちはくまなく探したはずだが」
「お前の知ったことか。わざわざ逃げる味方の場所を教えるとでも?」
「他にも援軍が来ているのか。まさかお前達だけで乗り込んできたのか? 決死の救出劇だな。山のキメラが大挙して押し寄せるぞ」
「西園寺、手遅れだな。残念ながらこっちはすぐに合流できる。キメラが来る前に味方を回収するまでだ」
 ラムゼイはそこまで言って無線機を置いた。

 ‥‥B班、デルタワン部隊。
 無線機から流れてくる西園寺の声に傭兵達は眉をひそめる。
「食いついたみたいね?」
「だが策は破れるもの。西園寺が油断している間に捜索を完了して脱出したいところだ」
「一刻も早く助けなければな‥‥皆、急ごう。ワイバーンの連中の方へキメラが向かったとなると、囮の負担も馬鹿にならん」
 ナレイン・フェルド(ga0506)、アンジェラ・ディック(gb3967)、カララク(gb1394)たちは道なき道を進みながら、一か八かUPCの兵士たちに呼びかける。
「UPC小隊の生き残りの方、応答して下さい。私たちはラストホープからやって来た傭兵です。軍からの依頼を受けて救出に来ました。早川中佐から皆さんを救い出すように申し付かっています。応答して下さい」
「‥‥こちらUPC小隊。傭兵だって? 本当か?」
「ええ、味方が西園寺の注意を逸らしています。今が皆さんを救い出す好機なんです。今どこにいますか?」
「ああ‥‥ありがたい‥‥」
 三人は兵士の言葉を聞くと、疾風のように駆けていく。

 ――C班。イーグルネスト部隊。
「やったな。キメラの群れが南方向に向かっていくぞ。まあこれは賭けではあるが」
「あとは‥‥囮部隊の奮迅に掛かっていますね。西園寺が完璧に騙された様子だと、向こうに全てのキメラが向かったのかも知れない」
「どこまでばれずに西園寺を騙し通せるか‥‥とにかく今のどさくさのうちに兵士たちの居所を確認しましょう」
 サルファ(ga9419)、麻宮 光(ga9696)、斑鳩・八雲(ga8672)たちは山中に踏み込みUPC軍に呼びかける。
「UPC小隊、UPC小隊、応答してくれ。こちらはラストホープから来た傭兵だ。君らを助けに来た。信じて答えてくれ」
 すると――。
「こちらUPC小隊だ、傭兵だって?」
 傭兵達と兵士はお互いの場所のやりとりを確認しながら、無線でやり取りする。
「さっきの様子だと、これは西園寺も聞いているはずだ。周波数を変えよう‥‥」
 兵士からの提案で帯域を変更してさらに確認作業を続ける傭兵たち。
「俺は今、山の西方にいるんだが‥‥」
「こちらは東から侵入している。東へ向かって進んでくれ。キメラは南に向かっている」
 すると別の兵士から交信があった。
「私は丁度その南にいるんだ。多数のキメラが走り抜けていく。囮作戦のようだが‥‥」
「必ず後で回収する。大丈夫。待っていてくれ」
「何とか脱出できないかやってみる。北ヘ向かえば安全なのだな?」
「ああ。だが無理はするな兵隊さん!」
 急いで木々の間を走り抜けていく傭兵たち。

 ――A班。囮であるからにはある程度積極的に戦う必要もあるだろうが、あくまで囮である。西園寺出現とかイレギュラーな事態が発生しない限りはキメラを迎撃しながら後退していく。
「言い出したのは俺だしね‥‥仕事はさせてもらうとしますかね!」
 武流は襲いくる猛獣キメラを飄々とかわすと、野獣のような獰猛さで拳に蹴りを叩き込んでいく。
 武流の拳がキメラの肉体を貫通し、蹴りが敵を吹っ飛ばす。
「これくらいは給料分だぜ‥‥おらおらおらおらあ!」
 武流の猛攻に次々とキメラが沈んでいく。
「武流は強いけど‥‥無理は厳禁、だよ。僕たちに向かってくる敵のほうが多いんだから‥‥」
「おう! 任せとけ! 無理はしねえがある程度までは戦闘ばっち来い!」
 武流は拳を打ち鳴らすと、キメラの群れに突進する。
 ライフルで援護するイスル。飛び掛ってくるキメラを銃撃で叩き落しながら武流やラムゼイ、萩野の援護に回る。
「叩き割るだけが騎士の剣じゃない‥‥速度と‥‥質量‥‥己の技で‥‥斬るっ!」
 ラムゼイは萩野とともにキメラの群れに突進し、体重を乗せた遠心力の一撃を見舞う。
「食らえええ!」
 コンユンクシオが滑る様に空を切り裂き、キメラのフォースフィールドを突き破る。ズバアアアッ! と言う凄絶な骨が砕ける音がして、猛獣キメラを吹っ飛ばす。
 だがキメラも反撃、ジャンプして巨体で体当たりをぶちかましてくるが、それをアーマーの装甲で受け止めて、剣を叩きつける。ぐしゃっとキメラの肉体が砕け、キメラは悲鳴を上げて後退する。
 同じくドラグーンの萩野も装甲でキメラの攻撃を跳ね返しながら、二刀小太刀を振るう。
 次々と迫り来るキメラたち、だが萩野もこれまでの戦いを通して敵は必ずしも無敵の存在ではないことを知っている。
「今は、自分の仕事を、するだけだ」
 アーマーを軽快に操りながらキメラの猛攻を凌ぎつつ、救出部隊の成功を祈る‥‥。

「間に合わなくてごめんない‥‥」
 ナレインは兵士の亡骸の前で涙をこぼしていた。
「こいつは、逃げ遅れて、西園寺にやられたんだ‥‥」
 UPCの兵士が言う。B班は概ね回収に成功していた。二人を救い出している。
 無残な遺体。ナレインはぽろぽろとこぼれる涙をすくって仲間達の顔を見上げる。
「何とか連れて帰れないかしら‥‥」
「無理を言うなナレイン殿と言いたい所だが‥‥」
 アンジェラはもう一人のカララクを見やる。
「ナレイン、お前の気持ちは分かる。俺たちはともに戦場で戦う身。明日は我が身‥‥こいつの命を持って帰ってやるのも、俺たちの任務のうちかも知れんな」
「カララクさん、アンジェラさん‥‥」
 アンジェラが頷くと、カララクも頷いた。
「いいだろう、こいつを連れて帰ってやろう。こんな場所に打ち捨てていくことは出来ないからな」
「お前ら‥‥」
 現実的な兵士たちは傭兵たちを止めた。亡骸を背負って走れるほど余裕があるのかと。
「余裕はある」
 アンジェラはそう言うと、亡骸を軽々と持ち上げる。
「この程度戦闘さえなければどうということは無いさ。傭兵にとってはな」
「さて‥‥こっちは概ね回収は済んでいるが。イーグルネストはどうかな?」
 カララクは無線機を取り出した。
「こちらデルタワン、イーグルネスト、状況を知らせよ」
「‥‥こちらイーグルネスト、二名の回収に成功した。そちらはどうだ」
「二名を回収。それと一人の亡骸も回収した。残りは一名だ」
「最後の一人は南からこちらへ向かっているはずだ。囮班が持ち堪えている間に合流しよう」
「了解した」
 ナレイン、アンジェラ、カララクたちは亡骸の兵士も回収してC班との合流に向かう。

「やれやれ‥‥。称号だけじゃなくて、本物の千里眼が欲しいな。こういう捜索時は特にさ」
 サルファはぼやきながら走っていた。確かに千里眼なんてものがあれば便利だが。
「おい、大丈夫か」
 麻宮はよろめく兵士を受け止める。
「すまん、少し寝不足で足に来ているようだ。まさか助けが来るとは思わなかったからな‥‥正直もう生きて帰ることは出来ないかと思っていた」
 麻宮は苦笑すると、兵士を軽がるとおんぶした。
「おいおい‥‥!」
「いいってこと、無理するな。俺たち傭兵の体力はお前一人おぶったくらいで負担にはならないからな」
 麻宮はそう言って走り出す。
「西園寺が完璧に引っ掛かったおかげで、こちらへの負担はほとんど無かったようです。無論キメラの脅威は無視できませんが。こうまでうまくいくとは」
 ここまで戦闘らしい戦闘もなかったが、八雲はまだ油断していなかった。
 最後の一人を無事に回収するまで、作戦の完全な成功は無い。西園寺がいつ反転しても不思議ではない。不測の事態は常に頭の片隅に止めていた。
 と、そこでB班が彼らの前に現れる。
「よお、お疲れさん。囮作戦は大成功だったな。西園寺の奴、完璧に騙されたみたいだ」
「まだ終わりじゃないが‥‥急ごう」
 カララクが言うと、亡骸を抱えるアンジェラが提案する。
「ここまで無事に来れた訳だから、彼らだけでも先に逃がしては? 私が護衛につく。最後の一人はみなで救い出してくれ」
「ふむ‥‥」
 サルファは思案顔でアンジェラを見やり、それから仲間達に問うた。
「俺も賛成だな。ひとまずここで残りはアンジェラに任せて、最後の一人はあとのメンバーで迎えに行くってことで」
「南にキメラが集まっているようだし、西園寺がいるかも知れません。その方がいいでしょう」
 八雲は顎をつまんで頷いた。仲間達も同意する。
 かくしてアンジェラは四人の兵士を率いて先に下山する。

 ‥‥生き残り最後の一人の兵士は、運悪く一体のキメラに追いつかれていた。
「ち、畜生‥‥この怪物め‥‥」
 兵士はもつれるように茂みに倒れこんだ。
 グロテスクなライオンキメラがじわじわと近付いてくる。兵士を品定めするように、その黒い瞳は残酷な光を放っていた。
 兵士はライフルを構えて撃ちまくった。無駄だと分かっていても、最後まで抵抗する気力が兵士にはあった。だが兵士のライフル程度キメラのフォースフィールドを貫通するはずもなく、キメラは小揺るぎもしない。
 そして――キメラは兵士に飛び掛った! その瞬間だった。
 カララクと麻宮の銃撃が空中でキメラを次々と撃ち抜いていった。
 間一髪、傭兵たちは最後の兵士を回収する。
 サルファと八雲が突進して素早くキメラを片付ける。
「大丈夫ですか? 怪我は?」
 ナレインの問いに兵士は呆然としていた。
「OK、大丈夫なようだな」
 麻宮は兵士を立ち上がらせると、囮のA班に連絡を入れる――。

「こちらC・B班。全員の回収が完了したぞ。引き上げ時だ」
「了解!」
 武流は無線機に答えると、仲間達を振り返った。
「聞いたか? 上出来だ。ここまで敵を引き付けた甲斐があったってもんだ。とっとと逃げるとしようぜ」
「お爺様が言ってました‥‥『誰かの命の盾となるのが騎士の務め。守る命を背にした騎士には後退も敗北も無い』って」
「逃げるのは、負けじゃない。俺たち、西園寺に勝ったんだ」
 萩野は言って、ラムゼイを促すのだった。

 かくして、傭兵たちは作戦を大成功に導き、みやこ町の基地に帰還する。犠牲を一人も出すことなく帰還した。
 早川中佐は部下達を救ってくれた傭兵たちに礼を述べる。
「あの死地の中からよくみなを救い出してくれた。感謝する」
「いえ、早川中佐殿、今回は幸運にも策が功を奏して、西園寺は完全に騙されたようですが、同じ手が二度通じるとも思えません。運が良かったのです」
 八雲は言って、道中記した山中の地図を中佐に手渡す。
「うむ‥‥」
 中佐はアンジェラが担いできた亡骸に目をやって一瞬顔を曇らせる。
 ‥‥サルファは遺体の側によってきた亡くなった兵士の友人にドッグタグを手渡した。
「――すまない。間に合わなかった」
 無言で頷く兵士。表情が語っていた。
「‥‥これを」
 兵士はタグを受け取り、傭兵たちに敬礼するのだった。