タイトル:【火星】月の灯【聖夜】マスター:安原太一

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/01/03 22:59

●オープニング本文


 2012年、デートとプロポーズに浮かれた孫陽星(gz0382)中尉をスタッフたちが冷ややかに送り出した後、月面基地崑崙――。
 ULT宇宙軍担当スタッフ、ネフライト計画担当に着任した綾河美里(gz0458)は、崑崙でクリスマスの飾りつけをしていた。
 月面基地崑崙は軍事基地としての色を強く残す場所である。元々バグアに対抗するためにUPC軍が宇宙に建設した基地であり、KVドックの拡張や艦艇の発着場が優先して整備されてきた背景がある。スタッフの生活環境に関する整備はどちらかと言えば後回しにされてきた。そしてまた、ここへ来て、宇宙軍から起案された火星移住計画に関して、月面に大型レーザー砲を設置するための作業が進められることになり、生活インフラの整備は後回しにされつつあったのだが‥‥。
「クリスマス〜☆ クリスマス〜☆ 美里から愛を届けます〜。クリスマス〜☆ クリスマス〜☆ 美里から真心を届けます〜。クリスマス〜☆ クリスマス〜☆ 美里からハートのギフトを届けます〜」
 美里は、食堂の一角で、地球から持ち込まれた巨大なツリーの飾りつけを行っていた。
「美里ちゃ〜ん、そこもう少し右の方が良いんじゃないかなあ」
「あ、そうですか〜?」
 かくして2012年。月面基地では、クリスマスパーティが行われることになっていた。軍事基地の色を濃く残す崑崙のあちこちに、色とりどりの電飾が取り付けられていた。基地の外では、装飾用の七色のレーザー光線が空に向かって発射されており、地上にはライトアップされたクリスマスピュアホワイトが設置されていた。
「よーし完成ですね! ツリーも出来たし、後はクリスマスリースも飾りつけしなきゃ〜☆」
 美里はスタッフが支える梯子から降りて来た。
「綾河さん」
「よお美里」
 ULT情報分析官のフローラ・ワイズマン(gz0213)と、KV隊の隊長アキラがやってきた。
「フローラさん、アキラさん」
「ツリーは出来上がったみたいですね」
「ええ。外の様子はどうですか?」
「大型レーザー砲の設置作業は、順調ですよ。現場から定時連絡です」
 フローラはファイルを開くと、報告書を美里に手渡した。美里は目を通しながら、手近な椅子に腰を下ろした。
「予定通りですね。アキラさん、周辺宙域に異変はありませんか?」
「んにゃ、今んとこ、キメラも出てこないね担当官殿」
 アキラは、コーヒーカップを美里の前に置いた。
「バグアの邪魔立てだけが気がかりですからね‥‥クリスマスを前に、大人しくしてくれると良いんですけど」
「まあ心配しなさんな。今、ここを攻略できるような戦力は、バグアにはもう無いよ」
「それはそうですけどねえ‥‥」
 それから三人は宇宙服に着替えて、大型レーザー砲の建設現場へ出た。

 そこは巨人の国だ。重機作業を行うKVが、所狭しと行き交い、管制塔からのエンジニアの指示に従い、建材や物資を運んでいる。
 三人は監督官に案内されて、現場へ入っていった。
「バグアの邪魔がなければ、仕事もスムーズに進みますよ。こっちの区画はもう最終工程に入ってますから、年明けには完成するでしょう。レーザー砲本体の組み立てには、まだ時間が掛かりますが。このまま何事も無ければですが、一月中の完成を目指して進行中です」
「そうですか」
 美里は、そこでマイクを借り受けると、KVを操る傭兵含む作業員たちに呼び掛けた。
「みなさ〜ん。綾河です〜。お仕事お疲れ様です〜。さて、もうすぐクリスマスですね! みなさんお待ちかね、パーティの準備もきっちり進んでいますからね〜! 崑崙でもささやかですけど、みんなでクリスマスを祝いましょう、ね〜☆」
 スタッフたちから笑みがこぼれる。
「はいは〜い。美里ちゃん。現場は俺たちに任せてくれ。後の調整は任せるからね〜」
「クリスマスはみんな期待してるよ〜」
「はい! みなさんよろしく〜☆」
 美里は言って、現場を後にする。

 崑崙に戻って、ターミナルから月面を臨む。リギルケンタウルス級宇宙大型輸送艦の艦隊が停泊している。物資は今も運び込まれている。
 月面基地崑崙はささやかながらクリスマスを迎えようとしていた。

●参加者一覧

/ 地堂球基(ga1094) / 須佐 武流(ga1461) / 櫻小路・なでしこ(ga3607) / 孫六 兼元(gb5331) / ソーニャ(gb5824) / 夢守 ルキア(gb9436) / 神棟星嵐(gc1022

●リプレイ本文

 夢守は、崑崙基地の一室でテーブルと向き合っていた。卓上には表計算ソフトで作った表の用紙が散乱していた。現在ここには数百機のKVが常駐しているが、夢守はそれらのシフトを組もうとしていた。
 実際通常の重機作業で覚醒する必要は無いが、シフトは24時間体制で現在休日は返上で能力者たちは働いている。レーザー砲設置に向けて、現場での作業は過密とは言わないが、それでも目一杯のスケジュールを組んでいる。
「ふーん‥‥練力が控えめになったら、重機作業を手伝うとか、パトロールと練力と生命力を省みてお手伝いだね」
 やがて、出来あがったシフトを確認していると、フローラがやって来た。
「どうですか夢守さん」
 フローラはオレンジジュースを手渡した。
「フローラ君、こんなカンジの編成でどうかな?」
「できましたか?」
 フローラはシフトを確認する。
「特に問題はなさそうですが、改めて現場の監督官に確認してもらいましょうか」
「あ、音楽はジャズを忘れないでね。多種多様に武器――楽器――を変える、盲目のミュージシャン。養父が好きだったんだ」
 ちょっと遠い目で笑いながら、それからマキシCDの「笑顔」を手渡す。
「昔ね、アイドルやってたの。色々あって、無くなっちゃったケド、でも大切な仲間だったんだ」
「夢守さんアイドルだったんですか」
「明るくなれる、割とオリエンタルな曲だけど、ちなみに私はテノール」
「それじゃ、監督官に伝えてみましょうか」
 フローラと夢守は部屋から出て歩きだした。
「よ、お二人さん。どうしたの」
 パトロールから戻って来た球基がソフトドリンク片手に向こうから歩いてくる。
「お疲れ様です。夢守さんが、作業のシフトを作ってくれましたので。今から監督官のところへ確認に向かうところなんです」
「球基君、その様子だと、外は静かな感じ?」
「ああ。クリスマスにキメラも大人しくしてるのか。それともこちらが油断するタイミングを図っているのか知らんけどね。ま、少し休ませてもらうわ」
「お疲れー」
 夢守とフローラは宇宙服に着替えると、現場に出た。KVが行き交い、巨人の国の様相を呈している。
「やっぱり壮観な光景だね。これだけのKVが重機作業に当たっているのを見ると」
「そうですよね」
 二人は警備員にIDカードを見せると、管制塔に入っていく。ここでは上空からの空撮映像を確認しながら、各担当が現場へ指示を出している。
「失礼します」
「こんにちは!」
 スタッフたちはフローラと夢守に振り返って挨拶する。二人は監督官のもとへ歩み寄った。
「すいません。夢守さんが言ってましたシフトの方ですが、確認して頂けますでしょうか?」
「ああ。出来たのかね」
「こちらです」
「ふむ‥‥」
 監督官はシフト表に目を通していく。
「OKだ。後でシステムに打ち込んでおこう。夢守だったかな。ありがとう。効率よく作業が出来そうだよ。システムは活用せんとね」
「私も頑張った甲斐があったよ」

 櫻小路は、現場に出てKVでの重機作業に当たる。レーザー砲のパーツを運んでいると、回線にジャズが流れて来た。
「あら。ジャズですか」
「夢守ルキアからのプレゼントだ。仕事のBGMを宜しくと言うことだ」
 管制塔からの声が響くと、能力者たちの笑声が聞こえる。
「夢守様が。そうですか。あの方らしいですね」
 櫻小路は機材を運んでいき、足場に乗ると、KVの指でエレベーターのボタンを押した。レーザー砲の周囲には大きな足場が組まれており、上層へはエレベーター式のプレートに乗って移動する。上層へ到達すると、櫻小路は足場を伝って機材を目的地へ持って行った。
「お疲れさん! こっちへ回してくれ!」
 足元から宇宙服を着た作業員が櫻小路を誘導する。誘導に従い、櫻小路は機材をはめ込んだ。
「よろしくお願いしますね」
「了解! 次を頼む!」
 球基は現場に戻ると、重機作業に取り掛かっていた。KVのアームを動かして、機材を持ち上げる。
「それにしても、KVを工事現場で働かせることになるとは思わなかったな。しかしまあ‥‥KVの汎用性は今更だけど大したもんだね」
「地球でも、こうした仕事は増えていくかもしれませんね」
 櫻小路が球基の隣で機材を持ち上げていた。
「そうだな。戦争で生まれた人型可変戦闘兵器とは言え、平和利用には十分対応できるしね。一般人が扱う分には、ロボットは別にメトロニウムやSESは必要ないだろうしねえ」
「戦後の世界で、KVの可能性ですか‥‥」
 櫻小路と球基は話して、また作業に戻った。

 それから櫻小路と球基は他のKVと現場周辺の警備にも当たる。こちらは傭兵の本分だった。
「月面に敵影無し。今のところ平和ではありますね」
 櫻小路は覚醒はしていなかった。
「月面でクリスマスを迎えるとは考えていなかったけど、まあ崑崙も落ち着いて良かったよ」
 球基が言った。
「人類が宇宙で得た新しい足跡だからね。これから、火星にも出て行くことになるんだしね」
 傭兵たちは覚醒しておらず、そのため通常運転だった。
「火星移住計画はこれまでにも邪魔されてきましたけど、今日はバグアもお休みでしょうか」
「そう願うよ。クリスマスに余計な仕事を増やさないで欲しいね」
「ですが、こういう時を狙って、敵はやって来るものですからね。これまでにも残党たちは自棄になっているようですから」
「バグア人にしてみたら、復興途上とは言え、あちらこちらでお祭り騒ぎなのは、理解できないんじゃないかな」
 球基の言葉に櫻小路は苦笑する。
「バグアもそれでお休みしてくれると良いんですけどね」
 傭兵たちは警戒に当たって、月面を移動していく――。

「こちら夢守、崑崙基地、周辺宙域に敵影無しだよ」
「了解夢守、引き続き警戒に当たれ。クリスマスの準備は順調だ、オーバー」
「アハハ、みんなクリスマスが待ちきれないのかな」
 夢守は月面軌道を飛び、蓮華の結界輪を起動させていた。
 と、その下をソーニャが飛んでいく。
「やっほソーニャ君。そっちは異常無し?」
「そうだね。こっちも異常無しだよ」
 すると、ソーニャは低空で月の砂「レゴリス」を巻き上げながら飛び、そのまま人型変形してブースターでホバリングしながら滑走する。そしてレゴリスを大量に撒き散らせながらブーストジャンプ。飛行型に変形して垂直上昇する。巻き上げられたレゴリスが乱反射して虹色にきらめく。
 ソーニャはループで低空に戻り、月の虹を楽しむ。
「子供の砂遊びって笑わないでね。お仕事だってちゃんとやってるよ」
「わお、ソーニャ君綺麗だね」
 夢守は虹の様子をカメラで撮影して、崑崙基地へ送った。
「やっほ、崑崙基地、月の虹を送るよ」
 ややあって、
「こちら基地。みんな虹に感嘆の吐息を漏らしているよ。ハハ、まあ真面目によろしく」
「こちらAzurblaue Drache、虹を確認しました。ソーニャさんのいきな計らいですね」
 神棟は言って、虹を撮影しておいた。
「それにしても、バグアの攻撃も散漫なものになりましたね。この後にはクリスマスパーティーもありますし、張り切ってパトロールをしましょうか」
「それじゃあパトロール再開」
 三人は月面軌道を飛行していく。
「クリスマスに戦いが終わって、地球は安堵しているでしょうか。こんな平穏なクリスマスを迎えるのは、自分たちはいつ以来でしょうかね」
「私は初めてだよ。戦いの無い世界でクリスマスなんてね。嬉しいトカ、まだ実感が湧かないけど」
「こんなクリスマスは初めてだね。傭兵になってから、初めて普通のクリスマスを迎えたと思うよ。地球のほとんどの人たちにとっては、普通のクリスマスは当たり前だったかもしれないけど‥‥ボクは飛び続けていたからね」
 そうして傭兵たちはパトロールを終えて帰還する。

 クリスマスパーティが始まった――。

 孫六は最初にフローラに伝えておいた。
「終戦最初のクリスマスか! 皆が安心して迎えられる、最初のイベントだな! だが、バグアの残存兵力の脅威が存在する以上、誰かは警戒に当たらねばなるまい! と、言う事で、ワシがその任に就こう! 火星への足掛かりとなる崑崙に、万が一が有ってはイカンし、かと言って普段ガンバっている軍の者達にも休息は必要だ! ワシは傭兵だからな、適任だろう!」
「孫六さん‥‥いいんですよ。他にも人ではいますから」
「ガッハッハ! 構わんよ! 仲間には宜しく伝えてくれ! ああそれから、手すきの者に上空を飛ばしておいてくれ! サプライズを演出する!」
「分かりました。時間があったら、帰って来て下さいね」
「ガッハッハ! では行って来る!」
 孫六は出立すると、基地周辺の陸上を走っていく。
「クレーターの丘陵を越えてくるキメラが居るかもしれんからな! こういう時は、空気を読んで遠慮するモノだ! 無粋な奴がいたら撃滅!」

 ‥‥会場では、早速スタッフたちが盛り上がりを見せていた。
 櫻小路は厨房に入っていた。
「お嬢さん、ここは良いんですよ。料理は任せて下されば」
「いえいえ、気にしないで下さい。これも性分ですから」
 櫻小路は慣れた手つきで魚を捌いて行き、お造りを切り分けていく。また、チキンの南蛮漬けや牛肉のたたきをお寿司にしたり、和食を作っていく。
 そうして、作った料理を会場に持って行く。
「みなさんお料理をどうぞ」
「あれ? 櫻小路さん、お料理ですか?」
 ソーニャは言って、お寿司を貰った。
「ええ。わたくしはお手伝いの方が楽しいですから」
「やっほなでしこ君! 何してんの?」
「ルキアさんもお料理をどうぞ」
「あれ? お料理担当なの」
「ええ。お手伝いで楽しませてもらってます」
「やあみんな、お疲れ様」
 球基がカクテル片手にやってきた。
「クリスマスだね。今年はバグアもいなくなって、最高のエンドを迎えられて良かったよ。クリスマスも安心だね」
「みなさんメリークリスマスですね」
 神棟がワイングラスを持ってやってきた。
「地堂様も神棟様も料理をどうぞ」
「ありがとう櫻小路さん」
「櫻小路殿は料理ですか」
「はい。私が作ったお寿司ですよ。召し上がれ」
「頂きます」
「なでしこ君料理うまいじゃん! びっくりしたよ」
 ルキアは肉の御寿司を頬張りながら笑った。
「大したことは出来ませんけどね」
「みなさん盛り上がっているようですね」
 フローラが顔を出した。
「ワイズマン様も料理をいかがですか」
「あら、なでしこさんが作ったんですか?」
 フローラはチキンの南蛮漬けを取り分けると、口に運んだ。
「まあ、おいしいですね」
「あれ? ところで兼元君の姿が見えないね」
「ああ。孫六さんなら、外で警戒に当たっています」
「え? そうなんだ」
「ええ。でも、サプライズを用意するとか言われてましたら、何か届くかもしれません」
「ふーん‥‥何だろうね!」
 そこで、美里が姿を見せた。
「はーいみなさん☆ 楽しんでます〜? 私はもううっきうっきですね〜」
「はい。綾河様も料理をいかがですか」
「あれ〜? なでしこさん料理担当ですか? あ、頂きますね!」
 美里はお寿司とチキンを口に運んだ。
「う、おいしい! なでしこさん。こんなにおいしいもの作れるんですね☆」
「ありがとうございます」
 それからなでしこは会場を回って、みんなに料理を配り、お酒を入れたり配膳をしたり、かいがいしく動き回る。
 再び厨房に戻ったなでしこ。今度はだし巻き玉子を作り始めた。だしを作って味見する。自然と鼻歌が出てしまう。
 厨房スタッフたちは感心したようになでしこの手つきを見ていた。
「やるねえ櫻小路さん」
「食材が沢山揃っていますね。これならいろいろ作れそうで、楽しめそうです」

 球基は仲間たちと談笑していた。
「爺さんとの約束を護る為に、地上から月世界へと舞台を移し、地道に先々への道標を作るのを勤しむ、てな。まずは火星に手を伸ばすという事でそれなりの苦労は有るだろうが、勿論先への手を伸ばす為にも必要な事なんだぜ。だからこそ俺の手伝いし甲斐があるものだし、とりあえずは着実に状況を進めて、未来へと繋ぐ様にすれば良いよな」
「球基さんには御爺さまとの約束があるのですね」
 フローラの言葉に、球基は頷き、言った。
「戦いは終わったけど、俺たちの旅路はまたそれぞれ始まる、てね。ま、格好つけるわけじゃないけど、能力者であることは、エミタを体に埋め込んだことは、戦いが終わったからって普通の生き方が出来るとは思わない。これからも、戦後の世界でもがき迷うこともあるんじゃないかな」
「そうですね。受け入れ態勢は各方面にありますから、色々考えてみて下さいね」
 フローラは言った。
 会場の一角に、須佐武流と綾河美里がいた。二人はカクテルを片手に、盛り上がるみんなを見ていた。
「クリスマスパーティーといっても‥‥ここ、月面だからなぁ‥‥ここまで長かったような短かったような‥‥宇宙に来られるなんて思っちゃなかったからな。赤い天球もなくなって、ずいぶんと宇宙からの景色も見やすくはなったもんだ」
「そうですよね〜ほんと」
「まぁ一人でいるのも暇だし味気ないし‥‥こうしてお前と絡んでみるのも楽しいかなって‥‥。どうせお前も一人で暇だろ。からかってやる分には格好の獲物だからな」
「あー! 何ですかそれ! ひどいですね。私にだって、大事な人がいるんですからね!」
「見栄を張るな、どーせ一人なんだろ? 悲しい悲しいお前を哀れんで俺もこう絡んでいるんだ、感謝してもらいたいぜ」
「やかましいぞこら! 武流! ちょっとリア充だからって!」
 美里は武流にパンチを繰り出した。武流は笑った。
「つか、お前、可愛いのにどうしてなんだろうな? あぁ、そうか‥‥そこはかとなく漂うなんとなく残念な感じが駄目なんだろうかね? 残念系ってやつ?」
「勝手に決め付けないで下さい!」
「まぁいいか‥‥今日は気が済むまで付き合ってやるからやけ酒でも何でもしたまえ。安心しろ。つぶれようがどうなろうが、何かをするということはない」
「ふん!」
 美里はカクテルを飲み干すと、武流のもとを離れた。
「私も暇じゃないんです!」
「ま、赤い天球もなくなったことだし、美里にも‥‥いいことがあるといいな?」
 武流は笑って、歩いて行く美里の背中にカクテルを掲げた。
 なでしこが追加の料理を持って会場に入って来る。
「なでしこさん‥‥頑張ってるな〜」
 ソーニャはフローラと話していた。
「聖夜だね。ねぇ、サンタさんへはプレゼントのお願いをするものなの? プレゼントは無形のものでもいいの? それとも願いをかけるものなの」
「サンタさんは大人には来ませんよ」
「人の願いと願い。相容れないものなら良い子の願いを優先するの。それならボクに勝ち目はないね」
「あら、ソーニャさんに願いがあったんですか?」
「バグアのいない平和な世界、バグアとも、共にいられる平和な世界。ボクは理想主義者じゃないよ。ちゃんと現実を理解してるよ。飛ぶためなら人を殺し、戦争を望むボク。大丈夫だよ。人は現実と夢と夢想を使い分けて生きている。ホーリー・ナイト。夢を見よう。悲しくなるくらい楽しい夢。からまわりしてて、滑稽で、無様をさらしても手に入らないとわかっていても、手を伸ばさずにはいれれない、そんな夢。誰もがボクに優しくしてくれるそんな夢。ほんと、自分勝手でひとりよがりの夢だね」
「ああ、でも、みんなそんなものかもしれませんね。夢は夢として仕舞い込み、みんな、現実と妥協して生きている。それが大人になることだとは思いませんけど、現実はままならないことが多いですからね。それでも、出来る限りのことをした、と言いたいですよね」
「歌をうたおうフローラさん。聖なる夜に。救いの御子が生まれ、みんなを幸せにしてくれる。そんな歌」
「ソーニャさん、それは、サンタクロースにお願いして下さい」
 フローラは言って笑った。
「やっほフローラ君」
「こんにちは!」
 ルキアと美里がやってくると、雑談に興じる。
「へえ、それはソーニャ君、お願いしないとね!」 
 ルキアは言って、ハンカチを取り出した。
「それじゃあ‥‥私からプレゼント‥‥はっ!」
 ルキアはハンカチからスイートピーを出してフローラにプレゼント。それからコサージュを取り出して美里へプレゼント。
「ありがとうございますルキアさん」
「ありがとうルキアさん☆」
「それじゃあ私もお酒飲むーっ!」
「どうぞ、ルキアさん」
 フローラはウエイターのトレイからグラスを取った。
「あ、アリガト、って、甘酒じゃん。ガッカリだよ〜。まあ仕方ないか‥‥それじゃあ‥‥ジャズ演奏にハーモニカで混ざってくるよ!」
 ルキアは演奏に混ざると、バンドと合せながらハーモニカを吹く。
 神棟はまたやってくると、「ところで」と美里に話を振った。
「綾河殿、そろそろ恋人でも作ってはどうですか? 綾河殿ならすぐに良い人とめぐり会えますよ。何かあれば相談してください」
「え〜? そうですね〜 えへ☆ じゃあ私、神棟さんの彼女になります! それで問題解決ですよね!」
「いや‥‥そう簡単には‥‥」
 神棟は苦笑する。
「心配してくれるってことは〜、神棟さん私のことが好きなんですよね!」
「えー、神棟さん美里さんのことが好きなんだ〜」
 ソーニャは面白そうに笑った。するとフローラが口を開いた。
「あ、駄目ですよ。神棟さんは私の彼氏になるんですから。そうですよね神棟さん」
「そうですねえ‥‥じゃあちょっと、自分もハーモニカ演奏で夢守殿と参加してきます」
 女子組から脱出した神棟。
 神棟とルキアは、ジャズ演奏に参加して、すっかり楽しんだ。

 ――それからルキアは神棟と一緒にクリスマスツリーの下にいた。
 ルキアは、ツリーを見上げながら、ちょっと笑う。
「生誕祭。それでも、私達の戦いは続き、私はこのセカイを抱いて、一秒一秒を生きる」
「セカイ、ですか」
「クリスマスには、イギリスとドイツが休戦してサッカーに興じたらしい。それでも、ヒトは止めないのさ。戦いを。遺伝子が、本能が、刻まれた闘争――戦場の中で、私は見るんだ。セカイを、望みを」
「つわものたちの夢の跡‥‥ですね」
 その時だった。フローラがマイクを持って全員に知らせた。
「ええ、みなさん、お楽しみのところすいません。ただ今、月面とライブ中継が繋がっています。モニターにご注目ください」
 すると、会場の照明が落とされ、モニターに孫六の顔が浮かび上がった。
「ガッハッハ! みな! 楽しんどるようだな! 月面から、孫六だ! このめでたい席に、司令官の粋な計らいで、許しを得た! 月面からライブ映像を届ける!」
 孫六は、上空の機体に手を振って合図を送った。
 すると、モニターに、孫六が機剣を使って月面に書いた「merry Xmas!」というデカデカとした文字が浮かび上がった。
「わあっ」と、崑崙基地に歓声が上がる。
 フローラはそのまま孫六と中継を繋ぐ。
「ええ、孫六さん、こちら崑崙基地のパーティ会場です。みなさん、サプライズの演出に盛り上がっております。お仕事お疲れ様です。そちらは大丈夫でしょうか」
「ガッハッハ! こちらは静かなものだ! 無粋なバグアがおらんで一安心だ! 崑崙基地! 盛り上がっとるなら、みんなの声を返してくれ! ワイズマン氏、宜しくお願いする!」
 孫六は言った。
「了解しました。では会場のみなさん、三つ数えて、『メリークリスマス!』で行きましょう」
 フローラが言うと、会場はさざめいた。
「ではお願いします。1‥‥2‥‥3‥‥! メリークリスマス!」
 ――メリークリスマース!
 崑崙基地に、歓声が響き渡った。
 会場の盛り上がりは最高潮に達し、傭兵たち、崑崙スタッフ、ここにいる全ての人々の笑顔が弾けた。
 崑崙の日。クリスマス。月に、灯りがともる。