タイトル:次なる宇宙へマスター:安原太一

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/11/27 00:08

●オープニング本文


 カンパネラ、UPC宇宙軍本部、D4会議室――。
「以上が、火星移住計画の概要だ。計画はまだ準備段階な上、移住可能か時間をかけて事前調査する必要もある。だが、近日中にも正式に発足するだろう。では本日は以上だ。解散」
 UPC軍の上級士官が言うと、室内のどこか張り詰めていた空気は穏やかになった。
 ULTから出向していた二人がいる。分析官のフローラ・ワイズマン(gz0213)と、宇宙軍担当として派遣された綾河美里(gz0458)だった。
「火星移住計画ですか〜。実現すると良いですね〜☆」
 美里は言って、フローラを見やる。
 二人が宇宙で会話している間にも、地上では各地で復興が進んでいる。
 デリーを抱える北インドはMSI社を中心に復興が進んでおり、北京も重慶や上海からの救援物資を受けて復興作業が急ピッチで行われている。
 人類は、平和に向かって歩み始めているのだ。
「そうですね。戦後の宇宙軍主導の初めての計画ですから。月面基地崑崙を足が掛りに、宇宙へ飛び出していける日が、そう遠くない日に来るのかもしれませんね」
「崑崙と言えば‥‥崑崙のみんな、元気にしてますかねえ」
「最近祝勝会も行われたようですから、インフラの復旧も徐々にですが進んでいるでしょう」
「バリサルダのみんなと会うのも楽しみですね☆」
 美里が言うと、フローラは口許を緩めた。

 宇宙、リギルケンタウルス級宇宙大型輸送艦として生まれ変わった旧エクスカリバー級巡洋艦バリサルダは、月面へ向かっていた。崑崙への物資補給が目的であった。艦長はジャック・モントロン中佐。副官に桜舞子大尉。KV隊隊長にエースアサルトのアキラ曹長が就いていた。
 美里とフローラはここへ帰って来た。ULTからの出向組として。
「火星移住計画って話だよな? メールで通達が流れていたぜ」
 モニター越しのアキラは、護衛のKV隊の高速艦からコーヒーカップを片手に浮かびながら、美里とフローラと話していた。ちなみに、アキラとフローラは進展が無く終ったらしい。お互い忙し過ぎた。
「私、宇宙軍担当で、会議に呼ばれたんです!」
「へーそうなの?」
 アキラは美里を見て笑った。
「美里パープリンもオペレータ卒業か。寂しい気もするね」
「どうせ私はパープリンですよ!」
 美里は舌を出して「いーっ」とアキラに食ってかかった。
「で、フローラはどうしてまたここに?」
「私は雑用スタッフですので、ULT本部の何でも屋さんってことになってるみたいです」
「何でも屋さんか‥‥どこにでも行かされるのかね」
「まあそうですね」
「それもまた気の毒だな」
 アキラは言って苦笑した。
 と、その時だった。サイレンが鳴って、モニターの別窓に舞子の顔が映った。
「アキラ――」
「大尉殿、どうされましたか? また宇宙キメラが湧いて出ましたか?」
「キメラだけじゃないわ。デブリに潜んでいたタロスがくっついてる。バグア人ね。戦闘態勢を取っているわ」
「バグア人ですか」
 アキラは驚いたような声を出した。
「宇宙にもまだしぶとい奴がいるもんだ――」

 バリサルダを狙うバグア人たちがいた。生き残ったはぐれバグア達である。彼らはエアマーニェに従うことを良しとせず、この機会を窺っていた。
「あれは‥‥バリサルダだぞ」
「バリサルダと言えば、本星の戦いでも我々の邪魔をした‥‥あの」
「よし! 佐渡様の弔い合戦だ! この宇宙、人間どもを好き勝手させてたまるか!」

 月面基地崑崙では、スタッフたちがバリサルダの到着を待ちわびていた。インフラの復旧は今の崑崙基地にとって最優先課題であった。
「バリサルダから連絡です。バグア人の攻撃を受けたので、到着が遅れるそうです」
「何? 仕方ないな‥‥今日の食事は備蓄の食糧で賄うとしよう」
「また不満が出ますよ」
「仕方ない。まだ決戦からこっち、インフラの復旧は十分とは言えん」
 今日の崑崙の食事は、缶詰になりそうだった。

●参加者一覧

櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
ゲシュペンスト(ga5579
27歳・♂・PN
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
雁久良 霧依(gc7839
21歳・♀・ST

●リプレイ本文

「今回は輸送艦隊の護衛および襲撃してきたはぐれバグア達の殲滅となりますね」
 櫻小路・なでしこ(ga3607)はレーダーを確認しながら言った。
「こちらの編成ですが、まずは、タロスにソーニャ(gb5824)様、ゲシュペンスト(ga5579)様、堺様が当たり、砲撃宇宙キメラにはわたくしと孫六様、怪獣型宇宙キメラには軍KVおよび手の空いた方で適宜フォローに入って頂き、艦隊護衛には夢守様が管制も兼任で、軍KV隊と入って頂き、赤崎様は遊撃的に回って頂くという辺りで宜しいでしょうか」
「了解したぜなでしこ。みんなもOKだよな」
 アキラが言うと、傭兵たちは頷いた。
「では、全体の方針並びに作戦ですが、初手に先制の一斉射撃を行い、先制後、各自は目標撃破。軍KV隊は艦隊護衛と討ち漏らした敵の撃破――この際3班に分かれ対応願います。相手の最大射程にあわせて防衛ラインを設け展開願います。交戦開始後は夢守様にて適宜管制をよろしくお願いしますね」
「了解したよ」
「では俺はタロスだな。ま、仕事はいつもどおりやるだけだな」
 ゲシュペンストは言って、吐息した。
「それにしても火星か、遠いな‥‥だが、これからの身の振り方を決めかねているのも事実。残党狩りが一段落したら火星行きを志願してみるのも一興か‥‥」
 すると、赤崎羽矢子(gb2140)が言った。
「火星移住ねぇ。まだ地球の問題も山積みだってのに気が早い気もするけど。まあ、『宇宙の問題』がお出ましになったみたいだし、まずは片づけないことにはねえ」
「まただな、まったくさっさと逃げ帰ればいいものを‥‥」
 堺・清四郎(gb3564)は言って、うなった。
「やれやれ、航路の安全が確保できていないというがまさか大規模襲撃があるとはな。だが俺達が乗っている船に手を出したことを後悔させてやる」
「バリサルダを見るのも久しぶりな感じがするな! かつての巡洋艦も、今は大型輸送艦に改修されたか。随分と様変わりした様だが、戦争が終われば新たな役割が有る。コレも時代の変化、と言うヤツだな! ガッハッハッハ!!」
 孫六 兼元(gb5331)は豪快に笑った。
「だが、この時代の変化について行けん奴らは依然居るのだよな‥‥。まぁソレは、今のワシ等も一緒か。先ずは目前の敵を打ち払い、物資を安全に届けねば! 初期の布陣は、夢守氏の管制に従い配置に付くぞ! 飛行形態で出撃、先ずは厄介そうな砲撃キメラを叩きに掛かる!」
「兼元君ヨロシクね」
 夢守 ルキア(gb9436)は言って可愛らしい笑みを浮かべる。
「崑崙の復旧物資かぁ。それに火星移住計画? 面白そうだね。う〜ん。でも火星いく前に崑崙に大浴場を作ってもらいたいなぁ」
 ソーニャは言った。崑崙の大浴場はソーニャの念願だったのだが‥‥。
「よーし、んじゃあ行くか! 今日もきりきり仕事に掛かるぜ!」
 アキラが言って、傭兵たちはそれぞれの機体に向かった。

「アルゴスシステム起動、蓮華の結界輪起動、デュスノミア、管制に入るよ。各機、データリンクをお願い」
「こちらなでしこ、ルキアさん、電波状態は良好よ」
「了解なでしこ君。そのままコースを維持して。敵機は群れて来るよ」
 コンソールを叩いていたルキアは一息ついて、軍KVと連絡を取った。
「改造レベルの高い機体はタロスに回って。30以上の射程の武器を所持してたら、砲撃宇宙キメラをお願い。私は、艦を守り、コロナやクルーエルと言った高級機はタロスの抑えに向かって貰おうかな。此方は、私が入って抑える。だから、皆のサポートをしてくれると嬉しい」
「了解した夢守。諦めの悪い敵さんの始末に向かってくる」
「ソーニャ君、清四郎君、ゲシュペンスト君、タロスはアクロバットに来るよ。動きに振られないようにしてね」
「了解しました夢守さん、今日も無事に終わるといいけどね」
 ソーニャが言うと、堺は「全く」と応じた。
「連中はハッピーエンドに相応しくないね。ぶっ潰す!」
「もちろん、俺達には目指す場所があるんだ、こんな所で足止め喰らうわけにはいかん!!」
 ゲシュペンストも苛烈に言った。
「羽矢子君もいったんタロスへ回ってもらえるかな。一番厳しいところだしね」
「了解したよルキア。まーったく、大きな獲物に釣られるわけじゃないけど、負けたと言ってもバグア人はタフだね」
 そこで赤崎は回線を開いた。
「バグアに告げる。もう人とバグアの戦いは終わったんだ。無意味な戦闘で命を落とすほど、あんた達の命は安いのかい?」
「黙れ人間! 佐渡様の弔い合戦だ! 我々は命果てても使命を果たす!」
「ああそうかい。でもね、佐渡に準ずるつもりか知らないけど、こっちも黙ってやられる訳にはいかないんだよ!」
 ルキアはやり取りを聞きながら、敵陣を確認する。
「なでしこ君、兼元君、砲撃キメラに対して上空が空いてる。一斉射撃の後に、上から行くことを勧めるよ。ま、状況は流動的だけどね」
「了解ルキアさん。こっちは砲撃キメラへ向かうわ」
「ガッハッハ! 砲撃キメラか! ワシらの後ろへ行けると思うな! バリサルダへは通さん! 矛盾(ほこたて)!」
「軍KVのみんな、直衛組は三班に分かれて艦を護衛。敵を近づけないで」
「了解した夢守」
「オッケー、それじゃあもうすぐ始まる。一斉攻撃を誘導するよ。トリガーは任せる。全機距離400で合わせて」
「管制機了解」
 ルキアは、コンソールを叩きながら友軍にデータを送る。敵機が接近してくる。それにしてもこの瞬間はいつになっても慣れ難い。ルキアは迎撃ポイントで照準を合わせると、合図を下した。
「全機ミサイル攻撃開始。これから幸運を祈ってるよ」
 各機、攻撃開始。
「GP7ミサイルポッド発射!」
「FOX1、FOX2ミサイル発射!」
「K02ミサイル発射! ――やれ、地球でも宇宙でもゲリラ刈りばかりだな、最近は‥‥」
 各機、マルチロックミサイルを全弾発射する。着弾とともに爆発の閃光が宇宙空間に弾ける。
 ゲシュペンストは加速すると、タロスへ向かって突進した。
「ソーニャ、堺――」
「こっちも行きます」
「ゲシュペンスト、こっちも出る!」
 ゲシュペンストはレーザー砲「凍風」を連射しつつ、機剣「バルムンク」と機剣「ライチャス」を抜いた。
 タロスは撃ち抜かれて爆発する。人型に変形して機剣を叩きつける。タロスの腕を斬り飛ばした。
 バグア人は咆哮して、プロトン砲を連射する。
「これがあんたらの選択だって言うなら‥‥!」
 ゲシュペンストはブーストで姿勢を保ちつつ、レッグドリルを繰り出した。
「究極ゥゥゥゥゥッ! ゲェェシュペンストォォォォォッッ! キィィィィィィィッック!!!!」
 ドリルが貫通して、タロスを真っ二つに引き裂いた。
 軋むような悲鳴を上げて、タロスは爆発四散する。
「地上にも宇宙(ソラ)にもこういう手合いはまだいるんだな‥‥」
 ゲシュペンストは周囲を見渡す。続いてもう一機。
「さて――!」
「んじゃまセオリー通り行くかね」
 赤崎は加速すると、8.8cm高分子レーザーライフルを叩き込む。光線がタロスを貫く。
反撃のプロトン砲を回避しつつ、ライフルを撃ち込む。
「集中攻撃!」
 赤崎は照準先のタロスにレーザーを連射する。
 バグア人は「グオオオオオオ‥‥!」と咆哮して機械融合。タロスが変形していく。
「そこまでするのかい‥‥あんたら」
 赤崎はETPで加速すると、機槍の攻撃をあえて受けさせることで武器を押さえ込み、光輪「コロナ」を射出して四肢を斬り飛ばした。ハイロウの周囲に高濃度プラズマが放射され、形成された円環の刃が射出され敵を切り裂く。赤崎は敵を無力化して、止めは差さなかった。
「あとでエアマーニェ勢に連絡して回収してもらうよ。無駄に命を取るつもりはないし」
「クククク‥‥エアマーニェに下るつもりはない!」
 バグア人は自爆した。
「やれやれ‥‥後味の悪い‥‥」
 赤崎は次のタロスに向かう。
 清四郎は機刀とベズワルを抜刀、さらにガンナーを展開して相手に近接戦闘を仕掛ける。
「さっさとかかって来い、この害虫ども! 死にたい奴から地獄に叩き込んでやる!!」
「ぬおおおおお‥‥!」
 バグア人は機械融合してくる。
「ひよっこどもが卒業する前に貴様らのような連中は根絶やしにしてやる!」
 清四郎はフォビドゥンガンナーを突っ込ませると、銃撃を叩き込んだ。加速する清四郎――タマモ狐ヶ崎。強引に隙を作り、ベズワルで一刀両断にする。
「最終決戦で尻込みした貴様らが、戦い、生き延びてきた我らに勝てると思うな!」
 真っ二つになったタロスは爆散した。
 ソーニャは加速すると、アリス、通常ブースト常時起動で突進。タロスと撃ち合い、高速起動。ロール起動で最小限の動きで回避していく。
「行くよバグア人! 刻め!」
 フルブーストで肉迫し、タロスの陣形を切り崩すと、DRAKE BREATHに高分子レーザーガンを叩き込んだ。そのまま離脱すると、次へ向かう。
「オオオオオオオ‥‥!」
 タロスは突進してくるが、ソーニャは再フルブーストでゲシュペンストの射角に逃げ込む。
「ゲシュペンストさん!」
「捕えた――」
 ゲシュペンストはレーザー砲でタロスを粉砕した。
 続いて、ソーニャはフォビドゥンガンナーを叩き込んだ。銃撃がタロスを撃ち貫く。
「ボクが君たちを刻み込む」
 なでしこと孫六は砲撃キメラへ加速した。
「行くわよこっち!」
 なでしこは孫六と前進、フォビドゥンガンナーでキメラを叩く。ガンナーの銃撃が砲撃キメラを貫く。
 孫六はFアセンションを使い、【OR】空間手裏剣「八葉」を放つ。同時にブーストを使い砲撃キメラへ接近すると、ウィングエッジで斬り裂いた。
「バリサルダへは近づけん!」
 人型に変形すると、機剣と機刀の二刀を使い真っ二つに。
「遠くから、ちまちまと撃たれるのは好かんのでな、早々にツブさせて貰う!」
 孫六は続いて並列するもう一体の砲撃キメラに向かい、これも叩く。接近してくる怪獣型キメラを切り捨てて行く。
 なでしこは孫六をフォビドゥンガンナーで支援しつつ接近。人型に変形すると、練剣「ビームクレイモア」で砲撃キメラを切り捨てる。
「行くわよ! 落ちなさい!」
 SESエンハンサーを立ち上げると、【SP】荷電粒子砲「レミエル」を叩き込んだ。閃光がキメラを貫く。
「なでしこ氏、こんなところかね!」
「そうね。こっちは大丈夫そうね。いったん補給に戻って、キメラの方へ回りましょうか」
「ウム!」

 タロスを撃破した赤崎たちはキメラの掃討に移っている。
「さーて、後片付けだね」
 アサルトライフルで牽制しつつ、艦に近付けないよう誘導。接近での格闘戦には、機槍のリーチを活かしカウンター。
「あんたらにはこれ以上進ませるわけにはいかないんでね」

 ‥‥ルキアは戦況を確認しつつ、バグアの数が見る間に減少していくのに吐息した。
「こちら管制夢守。みんな、敵はほぼ崩壊。残敵を掃討しつつ、周辺の警戒に当たって」
 そこで、ルキアはバリサルダと回線を開いた。
「バリサルダへ、こちら夢守。敵戦力は壊滅。引き続き警戒に当たるよ」
「了解した夢守。戦闘終結を確認したら、帰還してくれ」
「了解したよ」
 その後、傭兵たちはバグアを殲滅した。

「ふう‥‥やれやれだな。何をして来るか分からない相手と言うのは怖いねえ‥‥」
 ヘルメットを脱いだゲシュペンストは吐息した。
「全く。いつまでもバグアは厳しい戦いだね。これもいつまで続くのかね」
 赤崎はドリンクを片手に、無重力を床に舞い降りた。
 それから艦隊は崑崙へ向かう。

「おー来た来た!」
 崑崙基地は歓声に包まれた。
「待ちくたびれたよ! ともあれ、任務お疲れ様!」
 崑崙からの通信は喜びの声で溢れていた。
 なでしこは降り立つと、フローラと美里に声を掛けた。
「火星移住計画ですか、先は長そうですがまだまだお手伝いする事はありそうです。まずは、そのためにも崑崙の再整備ですね」
「そうですねなでしこさん☆」
「ところで、綾河様のお祝いを兼ねてフローラ様も女子会を御一緒にどうでしょうか?」
「あら、いいですね」
 なでしこたちは歓声の中へ消えて行った。

 崑崙基地が湧き返っている。
「まあ、火星か‥‥少々驚いたがね」
 ゲシュペンストは地球を見つめながら言った。
「ウム! 火星移住の話はワシも驚いたよ! また随分と壮大な計画だとは思うが‥‥。宇宙軍には宇宙軍の仕事があるのだろうな!」
 孫六が応じると、赤崎がやってきた。
「や、お疲れさん。崑崙は賑やかになってるね。ま、平和なのはいいことだよ」
 そこへやって来たフローラ。
「孫六さん」
 フローラはコーヒーカップを差し出した。
「ワイズマン氏、か」
「とびきり苦いコーヒーが好きだったかと」
「ガッハッハ! それは有り難い!」
 孫六はコーヒーを受け取ると口を付けた。地球を眺めながら、飛び切り苦い珈琲で一服する。
「ウム! 戦時中は、こうはイカンかったからな」

 清四郎は搬入や料理を手伝っていた。
「宇宙は大変だからな‥‥これで少しでも士気が上がればいいんだが」
「少尉、ありがとうございます」
「何、無重力だと虫歯に物凄くなりやすいし、正直きついよな‥‥」

 ソーニャは、慰安の席でふと思う。
「圧倒的な敵。一つの戦局の破綻が全滅を招く。唯一の望みを賭けた戦い。そんな日々に比べると戦いの雰囲気もだいぶ変わったのかもね。それでも一発のプロトン砲が命を奪う危険性は変わらないよ。ボクにとってはなにも変わらない。そう。くだらない油断で死んだんじゃボクの手にかかった者が浮かばれない。それに。殺す事に慣れたくはないよ。泣き、悔やみ、畏れながら。心をかきむしり、罪と愛おしさを刻み付けながら。殺す。たとえ平和な世の中が来たとしても、それを忘れた時、ボクは心の中で何かが崩れる音を聞かないとならないだろうね」
 同席していたフローラは黙ってソーニャの話を聞いていた。
「ねぇ、ボクをここにつなぎとめてくれる? ごめん。最近、甘える癖がついてしまったよう。ちょっとだけあまえてもいい? フローラさん、賑やかな場所って逆にちょっとさみしくなるときってあるよね」
「そうですね。そんな寂しさに慣れてしまう自分が、もっと寂しいかも知れませんね」
 ふと視線を泳がせると、ルキアが崑崙スタッフとトランプをしていた。
「トランプを引いたら、覚えててね。当てちゃうから」
 手品をしたり、持ってきたチョコレートケーキを皆に振る舞う。
「市販のケーキなんだ、け、ど‥‥うわ、潰れてる」
 ルキアは気を取り直してハーモニカを吹いて、自分も楽しく振る舞う。それが誰かを楽しませる秘訣だと思う。
「ね、トランプしない? ポーカートカ」
「よし、手加減しないぜ?」
 スタッフたちとポーカーやりながら、ルキアはさり気なくイカサマやって勝ちまくる。覚醒変化なしの覚醒でGooDLuck使用なのは、ナイショであった。

(了)