●リプレイ本文
「いなくなったバグアも多くいると言うのに‥‥彼らは破滅を目指しているとしか思えませんね」
お嬢様騎士の二つ名を持つ娘が言った。櫻小路・なでしこ(
ga3607)だ。櫻小路家のお嬢様であり、良くも悪くも場の雰囲気を和ませてしまうムードメーカーである。
「最終目的はバグダットに立て籠るバグアの残党殲滅ですね。作戦は空と地上からの二面からの進行。空から出発する方々は陸から出発する方々より先行ですね。アグリッパへは匍匐飛行で接近し、集中攻撃にて破壊。アグリッパ破壊後、地上戦へ移行する方は降下。アグリッパの破壊前、破壊後に場所の変更がある場合がありますので、その辺りは管制官の夢守様にお任せしましょう」
「オッケーだよ」
夢守 ルキア(
gb9436)は頷いた。
「わたくしたちの編成ですが、空からの班に孫様、夢守様、わたくしに堺様、ソーニャ(
gb5824)ですね。また地上からはヤフーリヴァ様にゲシュペンスト(
ga5579)様、BEATRICE(
gc6758)様が向かわれますね。よろしくお願い致しますね」
なでしこは各自の役回り等の確認を取り、意識合わせをしておく。
「あと、もう一息です。気を抜かず参りましょう」と。
ゲシュペンストは思案顔で頷く。
「残党狩りとは‥‥気の重い任務だが、やるしかないか。タロス、アグリッパ、砲台、キメラ全て破壊する。まだまだ戦いは終わらない、終わらせないってか‥‥もしも立場が逆だったらと思えば分からなくもないがな」
ゲシュペンストは冷静に言った。
「しかしこいつらは戦後の亡霊だな。もう、戦争は終わったんだ。おとなしく地球から帰ってもらいないかねえ」
「全くだな」
堺・清四郎(
gb3564)が応じた。
「さて、後のために、後の後のために‥‥連中には退場願おうか」
清四郎は言って心情を口に出した。
「戦争の末期ともなるとこんなものだろうか‥‥。勝ち目もなく、その後の展開もなく玉砕とは‥‥。そしてキングスレーの親族か‥‥やれやれ、どこか負い目を感じてしまうな‥‥。さて、教導隊として軍に復帰しての第一戦目だ。普段しごいている連中に笑われないようやらせてもらおう!」
「あんたはアレンのことを知っているのかい?」
ミネルバは、清四郎に問うた。
「知っているも何も、奴とは因縁深い敵同士だったんだ。何度こてんぱんにやられたか‥‥ああ、いや、俺が知っているのはバグア人のキングスレーだがね」
「軍にキングスレー姓の者が居ると聞いたが、キミの事か!! 奴とは随分長い事戦った‥‥。良かったらこの戦いの後に、昔の奴が如何な人物だったかを聞かせてくれ!! ワシは君が望むなら、奴と戦ってきた今迄を全て話そう!」
孫六 兼元(
gb5331)が言うと、ミネルバは笑った。
「昔のアレン、か‥‥。そうだね。良ければ、アレンとの戦いの記憶を聞かせてくれ」
「ウム! では、戻ってきたら話そう!」
それから、孫六はなでしこに向き直った。
「櫻小路氏、ワシは飛行形態で、匍匐飛行による超低空での侵入を試みるぞ! 地形と一体化し、アグリッパのレーダー網の下を潜り抜ける! 先ずはアグリッパを叩く! 奴のレーダー機能は厄介だからな! ウム!」
「葡萄飛行は孫六様が最初に教えて下さった飛び方ですね」
「ガッハッハ! アグリッパの対策だったな! 久しぶりだなここへ来るのも!」
「フローラさん――」
ソーニャはフローラの方を向いた。
「そんなにボクがバグアにのめりこんでる様に見える? 大丈夫だよ。現実はわきまえてるよ。相手にボクの言葉なんて通じちゃいない。文字通り必死に戦っているんだ。殺しにくる相手の戯言なんて聞いてる余裕なんてない。ちゃんと知ってるよ」
ソーニャは言った。
「でも信じたいんだ。死んだ後でもいい。どこかで認め合えると、お互いに生きた意味を確かめ合えると」
ソーニャはフローラを見上げる。
「そうじゃないと、ボクはボクの中の世界でさえ一人ぼっちだ。夢の中くらいボクの名を呼んで、抱きしめてくれる人がいたっていいじゃない。ボクの中にあの人たちが刻まれている。そんな夢を見ていたい。フローラさんにもボクが刻まれてる。そんな夢だよ」
「ソーニャさんのこれからのこと‥‥私には分かりませんが、夢の終わりに何をしますか? 飛び続けたい、その意味では残念だと言われていましたが、戦いは終わったんですから。これからのこと、決めないといけませんね」
フローラは言って、ソーニャに笑みを向けた。
「ソーニャ君は思惑多き一瞬を感じてるって‥‥あは、私も何を言ってるか分かんないや」
ルキアは言って、口許を緩めた。
「でも、私たちも、どうするか、いつかは決めないとね。尤も、能力者がいなくなるのは、まだ当分先のことだろうけどね」
ルキアは、フローラに言った。
「フローラ君はそのままULTの仕事続けるの?」
「そうですね。ULTには、引き続きやるべきことがありますから。私もちょっと考え中なんですけど‥‥」
「ふーん。私も考え中だけどね! まだ見ない世界がどこかにあるって、そう思える間は引退はないかなあ‥‥」
「しかし‥‥インド近郊に来てみたら旧兵の成れの果て‥‥か? 贐は‥‥」
呟いたのはドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)。彼も、様々な戦いを通して落ち着いた様相だった。
「作戦は了解ですよ。俺は地上班ですね。地上班、空中襲撃犯に分かれ襲撃。第一目標をアグリッパに地空片方を囮にもう一方が敵防御網突破し撃破、ですね。降下する皆と同行し残存敵戦力を排除に向かいます」
言って、ヤフーリヴァは同じ班の二人に挨拶する。
「亡霊の人と眼帯の人は宜しくお願いします」
「亡霊の人って言ったら俺のことしかないってのが何だか悲しくなってくるがね」
ゲシュペンストは言って笑った。
「ドゥさん‥‥眼帯の人って言ったら私のことですね‥‥」
BEATRICEは言って微かに笑った。
「‥‥ワイズマン女史。あとどれくらいこの戦いは続くのでしょうか?」
「いわゆるバグア狩りですが、地上には多くのバグア基地やキメラプラントが残されていますし、それらを動かして反撃に転じるバグアは、ある程度はいるのではないでしょうか」
「そうですか‥‥。あの、眼帯の人、ところで、ロングボウで地上戦て珍しくないですか」
「大丈夫ですよ‥‥装備は近接に切り替えてきましたから」
BEATRICEは言って口許を緩めた。
「いずれにしても、バグアの恐怖は‥‥次世代には必要ありません‥‥それはきっと‥‥能力者もですね‥‥」
BEATRICEは悲しそうな笑みを浮かべた。わずか一年半余りの戦いであったが、それらは彼女の心に鮮明に焼き付いている。
「私たち地上班はアグリッパの速やかな撃破を行う必要がありますね。ワイズマンさん‥‥地図はありますでしょうか? 地形、市街地図など、可能なら3D地図が欲しいんですけども‥‥」
「3Dはありませんが、空撮画像なら」
言って、フローラは画像を出した。
「アグリッパは‥‥ここですね‥‥」
BEATRICEは地図を確認して、USBメモリを取りだした。
「画像、貰っていって宜しいでしょうか‥‥? KVの方で確認したいので‥‥」
BEATRICEは自分のフラッシュメモリに画像をコピーしておく。
「あー、それじゃあ私も貰っておこうかな」
ルキアが言った。
「アルゴシステムで敵味方の把握と管制は出来るけど、画像もあると助かるよね。CDRに焼いてもらっていいかな」
「分かりました」
フローラは画像をコピーすると、ルキアにCDRを手渡した。
「ではみなさん、宜しいですかね? 各自、準備して出立しましょう」
なでしこが言うと、傭兵たちは司令室を後にして、機体のもとへ向かって歩き出した。
「さて、この機体も名実共にワシの機体になった訳だが‥‥。リミッター解除、ヨシ! 全武装、アクティブ! 出力、機体制御、共に安定! ウム、今迄と変わらず動けるな!」
孫六は、払い下げによってオウガを得ていた。自分の機体となると、やはり今まで以上に何とも言えない感覚がある。
葡萄飛行で進入していく。
「ウム! 天之尾羽張の新たな歴史に感無量!」
「そう。孫六さん払い下げをしたのね」
なでしこが言うと、孫六は「ガッハッハ!」と笑った。
清四郎も匍匐飛行で強行突破、レーダーに目を落とし、僚機にバンクサインを送る。
「さて、連中はあの穴だらけの防衛網でどこまでやるつもりなのやら‥‥いくぞ‥‥連中の意地を打ち砕く!」
ソーニャも超低空飛行にて進入。ベクタード・スラストを使い、機体を傾けず方向変更や平行移動を行い地面を滑る様に飛行する。みなもを滑るみずすましのように‥‥そう君の嫌いなあの虫の様に。
「見てるかいパトリック。シーラーズの時よりも腕、上がったでしょう。素早く優美に。そして危険に。ボクは君が生きた証。君の命を受け継ぎここに生きる人の未来を拓く。君の命は未来につながっているよ。そして世界は変わる。行くよエルシアン!」
パトリックはソーニャをからかうのが好きだった男だ。シーラーズで死んだ。
「アルゴシステム起動、強化特殊電子波長装置γ起動。データリンク開始するよ」
ルキアは管制システムを立ち上げた。匍匐飛行で、アグリッパへの到達予想時刻を確認。
「アグリッパへの到達予想時刻は――14時22分」
ルキアは滑らかにコンソールを叩いて行く。
「各機、敵の攻撃には散開、包囲網に絡め取られないようによろしくね。陸戦班、先行してアグリッパを叩く」
「了解しました夢守さん。こちらも続きます」
ヤフーリヴァが応える。
「素早く手堅く確実に‥‥勝つべくして勝つ‥‥と行きたい所だが‥‥」
ゲシュペンストは呟く。
「速度的に先行する形になるであろう空から進攻するメンバーに敵の注意が向いている隙を衝き主導権を獲る」
「さて‥‥」
BEATRICEは、赤く変わった左の瞳を傾けた。
「敵は出てこないね。引き付けるつもりかな。今から、空爆を開始する」
ルキアは言って、全機に合図を出した。
「各機攻撃開始」
なでしこは超低空から接近すると、ファルコン・スナイプ改でGP7ミサイルを全弾叩き込む。
清四郎もK02を全弾発射。
地上から接近したBEATRICEはロケットランチャーでアグリッパを狙撃出来そうな場所をマーキングしておき、マーキングした地点に移動。
「行きますよ‥‥」
アグリッパに向けて突入するようなルートを使用し、バグアへの陽動とする。
ゲシュペンスト、ヤフーリヴァも突入する。
孫六も地上を掃射して、着陸する。
なでしこ、清四郎が続いた。
「上空に敵機展開。タロス二機、HW来るよ」
ルキアは言って、操縦桿を傾けた。
ソーニャはアリス+通常ブースト常時起動で加速する。機体を滑らせつつプロトン砲を回避、ミサイルポッド、ライフルでHWを連続で撃墜していく。
「さぁ鮮やかに空に刻め。我らは時の先触れ。例え未来に生く事はなくとも生と死を分かち、その境界から新しき世界を導く者。さぁ誇りと共に逝きなさい」
バグア人達は咆哮して機械融合。
ソーニャはタロスを瞬く間に突き抜けるように破壊した。
ルキアは煙幕弾を発射して目暗ましを行い、変形していくタロスにピアッシングキャノンを撃ち込む。
「投降しない? 宇宙へ離脱するバグアは、追撃するなって言われてる」
「我々は敗北など認めぬ!」
「変化に変容しなければ、生き抜いていけない――何時だって、世界に対応できないものは消える」
ルキアはソーニャと連携してタロスを粉砕した。上空、HWの対応に当たる。
なでしこは鈍重なケルベロスを叩き潰した。
「戦う事でしか自らを示せないのであれば、わたくし達が受けて立ちましょう。そして、戦いに終止符を打たせていただきます」とバグア人達に呼び掛ける。
なでしこは次々と機械融合していくタロスにDRM高出力荷電粒子砲を叩き込む。さらに掃射モードでタロスを貫く。
ゲシュペンストは慎重だった。
「刺し違える‥‥なんてのは絶対にごめんだからな。これが其方の選択であるなら此方も躊躇はしない」
ライフルを叩き込みつつ鋭く加速。
「ああいう手合いは何をしてくるか分からん、油断せずに行こう」
ぼろぼろになって行くタロスにレッグドリルを叩き込む。
「究極ゥゥゥゥゥッ! ゲェェシュペンストォォォォォッッ! キィィィィィィィッック!!!!」
バグア人は咆哮して絶えた。
清四郎は機刀とベズワルで白兵戦を挑む。
「この程度の練度で宇宙の最精鋭と戦ってきた我らに勝てると思うな!」
マニューバAとベズワルで一気に攻め立てる。
「貴様らの意地‥‥この剣で斬り捨てる!!」
タロスは両断された。
「キメラとは元々から異形のモノだが、何だコイツらは?! 未完成のまま駆り出されたのか? 不気味、と言うより哀れだな。ワシがその呪縛を解いて、楽にしてやる!」
孫六はD502ラスターマシンガンでキメラを破壊していく。
「バグアの敗残兵よ、こんな異形を用いてまで戦う価値が有るのか? お前達は負けた! 最早、この事実を覆す事は出来ん! それでもやると言うなら、手加減はしない! 全力で、死力を尽くし掛かってこい!!」
突進してくる異形のタロスをOGRE/Bで叩き斬った。
ヤフーリヴァは09式自動歩槍の弾幕を軸に友軍と連携しつつ、敵群死角へ回り込んでいく。フォビドゥンガンナー+エミオンスラスター「プロミネンス」+09式で一人十字砲火を浴びせると、加速。機体の関節部から左右対照に青と緑のライジングフレームの光を放ちブースト接近、コロナを前方に射出後円環の中に機槍を通しつつタロスの脇腹を突き刺し、機槍をコロナという刃をつけたワイヤーの容量で凪ぎ払い、差し込んだ脇腹から胴体切断する。
BEATRICEはウルを構えつつ、スラスターライフルを叩き込んでいたが、終盤と見て接近戦仕様で新月を抜き放った。キメラを叩き伏せると、ブーストで加速する。
「それは‥‥」
ぼろぼろになったタロスへ加速する。グロテスクな外見は機械融合の後だろう。弱点は無いものか探ってみる。やはり胴体部だろうか。BEATRICEは切り掛かった。タロスには反撃の力は残っていなかった。BEATRICEの一撃を受けて沈む。
「うおおおおおお‥‥!」
最後に残ったカスタムタロスは、機械融合して突撃して来た。ずたずたに撃ち抜かれ、最後には清四郎と孫六、ゲシュペンストの打撃の前に敗れた。
かくして、バグダットのバグアは壊滅した。
‥‥清四郎は日本の方向を向いて、
「はぁ‥‥ヒヨっこの奴らが配置される頃には暇な偵察任務とかだけになっていればいいが‥‥」
孫六は、
「早くこんな戦いは終わらせ、民間SARを設立したいのだがな‥‥。ウム!!」
ヤフーリヴァは、
「残党はあとこの星にどれ程いる? やれやれ」
と吐息するのだった。