●リプレイ本文
「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェスト(
ga0241)だ〜」
白衣白髪の男が笑った。私設研究グループのウェスト(異種生物対策)研究所所長のドクター。知っている人は知っている有名人である。そんなドクターも、バグアとの大きな戦いが終わって、喪失感を抱いていた。憎むべき敵がいなくなった喪失感。なぜか、ドクターは喜べないでいた。この喪失感を抱えて生きて行くことになるのだろうか‥‥と。
「と言っても、吾輩には私設研究グループがある〜。バグアは憎むべき敵だが〜」
「どうしたのデューク君!」
どん! と背中を叩かれた。ドクターが振り返ると、娘がいた。世界のショタっこストライクフェアリー夢守 ルキア(
gb9436)である。
「何か、悩み多き人生、て顔してるね!」
「ルキア君はいつも吾輩の前では元気だね〜」
「もしかして、心の声が話し掛けて来るって悩み多き人生?」
「吾輩は、敵を失ってしまった〜。憎しみだけが残っているのだよ〜。ときどき自分が恐ろしくなるね〜」
「いい大人が何言ってるのさ! デューク君は私の尊敬する先輩だよ!」
ルキアは笑った。
「私はどうなるのさ? 義父の死後、まともな教育も受けずに世界を放浪して、能力者になって、青春時代を戦いに身を投じて。私達はいっぱい、十代でこんな生き方しか知らないんだ。私たちも可哀そうでしょ」
「けひゃ、意外だね〜、君からそんな台詞を聞くなんてね〜」
「私なんかまだ子供だよ。これから一人でどう生きていけばいいのか。見当もつかないよ。世界が私を受け入れてくれるのか、不だ安が無いって言えば嘘になるしね」
「大丈夫だろう〜。軍も何か考えているのではないかね〜。カンパネラ学園と言うものもあるしね〜」
「え? ドクター悩み多き人生なんですか?」
言ったのは傭兵たちの妹、アーちゃんことアーク・ウイング(
gb4432)だった。
「アーちゃんのところに来たらいいですよ。ドクターの心の慰めにはなりますよ」
「けひゃひゃ、アーちゃん君は優しいね〜」
ドクターはアーちゃんの頭を撫でた。
「吾輩は、バグアがいなくなって、この気持ちを整理するには時間が必要だね〜。今は、時間が欲しいね〜」
「時間ならありますよ! 平和になったんですし、またいつ遊びに行ってもいいですか?」
「もちろんだね〜」
「うむむ、アーちゃんだって、戦争が終わって、これからどうしようって思うこともありますけど、夢を追いかけたいと思います」
「アーちゃん君の夢かね〜。君はまだこれから大人になる〜。吾輩も友人として応援しているよ〜」
「実はまだ夢とか見つかってないんですよ。それに、戦後の戦いもまだありそうでしょう? とりあえず、メンテナンス受けながら考えますよ」
「いい仲間を持っているなドクター」
堺・清四郎(
gb3564)が言うと、ドクターは「けひゃ」と笑った。
「教え子たちだよ〜」
「ふむ‥‥尤も、俺は少々気疲れが耐えんかなあ。バグアがいなくなって、平和を喜ぶべきなんだろうがね。ドクターの言うように、この戦争を反省する時間は欲しいかね。俺も多くの敵と戦ってきたが、さりとて、軍に戻れるわけでも無し。はあ〜どうするかねえ‥‥」
清四郎は吐息した。
「まあ、俺には家族がいるだけまだ救いがあるかね。おふくろには、長いこと顔を見せていないな‥‥」
「それは、羨ましい話だね〜。吾輩の家族はバグアに殺されたのだよ〜。待っていてくれる人もいないしね〜」
「ガッハッハ!」
と孫六 兼元(
gb5331)が笑った。
「まあ、すでに人生半ばに差し掛かった人間は、若い連中のサポートにでも徹するかね! ワシもこれからどうするかは考えとらんが、能力者が本当に必要でなくなったら、SARに戻るかもしれんが! まあ、日本に帰って、戦いをともにした若い連中の今後について、何かが出来るか考えてみてもいいかも知れん!」
「兼元君はまっとうな生き方が出来そうだね〜。吾輩はどうもこの悪夢から逃れられないようでね〜」
「ガッハッハ! ワシだって悪夢を見るぞ! もしあの時、あの瞬間、やられていたら‥‥とかな。戦場の記憶は、一生消えんだろう! ワシらは、最前線に放り込まれていたからな! ガッハッハ!」
「みんなそれぞれだね」
ソーニャ(
gb5824)が言った。
「ボクは飛ぶことしか考えてなかったけど、そんな時代も終わっちゃうのかなあ‥‥。それについては、ちょっと残念かな。飛ぶことは、ボクの生きた証。ボクが時を刻み、ボク自身に記憶を刻んできた場所だからね」
「君は帰りたいとは思わないのかね〜」
「ボクがいたのは、能力者の研究施設なんですよ。昔の記憶も無いし、造物主が何のためにボクをこの世界に生みだしたのか‥‥ボクは飛び続けて、答えを求めてきたけれど、見つかったのは、ボクは空に魅入られていたってこと」
「ふむ‥‥そうかね〜」
ドクターは思案顔でソーニャを見やる。
「わたくしも、戦いが終わったら、家を再興しませんとね」
櫻小路・なでしこ(
ga3607)の言葉にソーニャが応じた。
「再興って? 今まで聞か無かったけど、なでしこさんどこかただ者じゃない雰囲気ですよね」
「わたくし、実家は古い家ですからね」
なでしこは言って穏やかに笑った。ふんわりとした空気が広がる。
「妹を見つけて、実家を再建したいものですわ」
「妹さん? 戦いで?」
「ええ。この戦争で行き別れてしまって‥‥無事だと良いんですけどね」
なでしこは名家のお嬢様である。
と、なでしこは、話題を作戦に戻した。
「さて、今回はタロス12機の撃破およびキメラプラントの破壊ですわね」
「うむ!」
「方針としましては、空戦対応班が空からの侵攻、タロス対応。空爆対応班が空戦とプラントの空爆。地上戦対応班が地上からの侵攻、キメラやタロスの対応ですね。空爆は時機も含めて上空からの確認に応じて実施。基本は各個撃破になるかと思いますが、また各自単独にならない様に要注意ですね。敵の数が多いですから」
それから――となでしこは続ける。
「空戦対応にアーちゃん様、夢守様が地上補助、わたくしとソーニャ様、ドクター様。陸戦対応には孫六様で。堺様は‥‥どちらに回られるのでしたかしら」
「ああ、俺は空戦から陸戦に回る」
「承知いたしました。ではその流れで。さて、続く連隊の皆様の花道を開いて参りましょう」
「それにしても‥‥末期となるとどこも同じだな‥‥」
清四郎はうなるように言った。
「最後の意地か‥‥末期の軍となるとどこも同じだな。少し前まで我々も同じだったと考えると一笑することもできん。だが見過ごすわけにはいかん。俺たちの地球で好き勝手はさせん!」
「最後の意地か、それとも自棄になっているのか。何が理由かは分からないけど、最後まで戦うというならやっつけるだけだね」
とアーちゃんは呟いた。
「しかしこうも残党の抵抗が激しいと、まだ戦後としての実感は感じんな‥‥! もっとも、地球の大部分は奴らの支配地域になっとった訳だから、そう簡単には戦闘は終わらんか! 無数の施設、潜伏する戦闘員、しばらく能力者が失業する事は無さそうだな! ガッハッハ!!」
孫六は笑った。
「今回は随分とカスタムタロスが多いな! キメラ掃討も有るしな、ワシは陸戦で出よう! 味方の空爆を邪魔されんように、カスタムタロスを一機でも多く陸に引き付けるぞ!」
「ではみなさん、よろしくお願いします」
フローラが言うと、傭兵たちはテヘランへ向かった。
上空――。
ドクターはスレイヤーのコクピットにいた。
「最狂の空中戦を見せてあげよう〜、といっても化け物のなりそこないが言っても仕方ないか〜」
最終戦で一矢も報えなかったことを引きずっている。
「まだコンナにもバグアが残っているのか〜」
バグアへの憎悪の中に冷静な自分がいた。
(バグアの動きがよく見える気がするね〜)
「みんなよろしくね。わたくしも状況的に空が落ち着けば、地上に降り後方からの援護をするわね」
なでしこは覚醒変化で凛々しいお姉様となっていた。
「全機、ミサイル攻撃用意、か?」
清四郎は操縦桿を傾けてバンクサインを送った。
「こっちも了解です」
アーちゃんもバンクで応える。
「うふふふ。こんなバカげた戦い、ボクが付き合わないで誰が付き合うっていうのさ」
ソーニャは回線を開いた。
「そうでしょうフローラさん。幸福な未来、夢や希望を信じ、安らぎに満ちた日常。フローラさんにはそんな世界が似合うよ。もうじきそんな世界がくる。でもボクはそこに落ちる影から目が離せない。誰も拾わないならボクが拾おう。ボクが愛し心に刻もう。きっとボクはそのための存在なんだ。不幸よりは幸せであってほしい。例え死に場所を求めるものであってもね。行くよエルシアン」
「ソーニャさん、幸運を」
「タロスが来るね。八機」
ルキアはアルゴシステムと強化特殊電子波長装置γを起動させた。偵察用カメラも起動させておく。
高空状態から地形を把握。キメラが出現する方角をプラントと想定する。
「兼元君、地上の地形と敵のデータを送るね」
「了解した!」
「まずはタロスからなんだケド‥‥12機か。空戦の方が、高度っていう空間がある分、有利だよね。ナンバリングしておこう」
ルキアはナンバリングしておくと、管制に切り替えた。
「全機誘導するよ。ミサイル攻撃開始」
「FOX2ミサイル発射!」
「出迎えご苦労! こいつはチップだ!」
加速するカスタムタロスは突進してくる。
直撃が捕えるが、バグア人達は構わず突進する。
ドクターはブーストで加速すると、エアロサーカスABでの練剣「星光」で加速する。
「切り裂け、シンジェ〜ン〜!」
練剣がタロスを切り裂く。
バグア人は咆哮した。
なでしこはドクターのやや後方からショルダー・レーザーキャノンとレーザーガン「フィロソフィー」を叩き込む。
ドクターが続いて攻撃、なでしこは連撃を浴びせ、レーザーでタロスを焼き尽くした。
「まず一機!」
さらに、タロス二機が固まっているところへブースト空戦スタビライザーで一気に踏み込み、SESエンハンサーでM12強化型帯電粒子加速砲を叩き込んだ。光線がタロスを貫くと、耳障りな雄たけびが回線に響く。
アーちゃんはガトリング砲「嵐」で銃撃、旋回して後方に付くと、続いて8式螺旋弾頭ミサイルを撃ち込んだ。カスタムタロスは激しく抵抗し、プロトン砲と撃ち合う。アーちゃんはミサイルを立て続けに撃ち込んだ。直撃がタロスを粉々にする。
ソーニャの蒼い機体が空を駆け抜ける。祈り、死を告げる者。
アリス、M・通常ブースト常時起動でバレルロールで突進、スリップで回避、ターンを少なく高速を維持する。
「行くよ!」
Mブースター、通常ブースト併用起動――フルブーストでロール回避しながらミサイルポッド発射する。螺旋に飛ぶミサイルを追い、レーザーライフルWR01Cを連射する。鮮やかに、艶やかに飛ぶ。
「ほんと、死にたがりが多すぎる。ひとりくらいはボクと共に生きたいって言ってくれる人がいてくれてもいいのにね。でもボクは死に場所を求める者を否定しないよ。生き物はみんな死に向かって生きているのだから。『如何に死ぬか』それはすべての生きるものがいかに生きるかを突き詰めた結果なのだから。この言葉に絶望はない。一瞬先に死があろうとその瞬間まで自分を生きる。既にあきらめた夢や希望さえも鮮やかな色彩を放つ。さぁ、夢と希望、理想を抱いて逝け。君の最後をみとった事を誇ろう。君を刻もう。君はボクを覚えていてくれるかい? 君の最後がボクだった事を喜んでくれるだろうか」
これらのバグアに思いは通じなかったが。
「ねぇ、きみ達、名前は?」
ルキアは指揮官を探るタメに、質問を投げかける。
「今更人間に名乗る名前など‥‥ないわ!」
「ん、士気が高いなぁ、って。覚悟完了済みだろうし、降伏勧告はしないケド。お互いの名前くらい、覚えててもいーじゃない? 私はルキア、この機体はイクシオン」
「黙れ!」
ルキアは基本はD013ロングレンジライフルでの狙撃に徹し、敵機からはやや離れて行動し、回避出来る空間を考え飛んだ。
ドクターは最後の敵に頭上からガトリング、ミサイルポッドで足止めし、オーバーブースト、スタビライザー、エアロサーカスABを駆使して、重力加速度を追加したバニシングナックルで攻撃する。
「グラヴィティ・バーストォ〜!」
重力圏での重力加速バニシングナックル攻撃の正式名称だ。
タロスは貫かれて爆散した。
「よーし、孫六さん。支援攻撃します」
アーちゃんはテヘランへ抜けると、キメラプラントに攻撃を行う。高空から低空まで高度を下げ、PRMシステム・改で攻撃を最大強化し、ロケット弾をありったけ撃ち込む。ロケット弾が弾切れになるまで撃ち込み続けた。
地上では孫六と清四郎が行く。
「最後の一兵となっても、戦う覚悟なのだろう?! ならばワシが、お前達の介錯を務めてやろう! 投降する意思は感じられん、武人としてワシがお前達の想いも受けてやる! さぁ全力勝負だ!!」
「行くぞ人間ども!」
「来い!」
機剣を主体に攻撃する。
「自軍の敗北が信じられんか? それとも納得がイカンか? この戦の勝敗が決した後のバグアは、見ていて哀れにすら感じるぞ! 事態を認識出来ず、自ら滅びへの道を選び散ってゆく! バグアが負ける筈が無いと考えるなら、それは傲慢と言うものだ! 実際、地球人は急激に成長して、強くなったろう?」
バグア人達は咆哮して機械融合してくる。
清四郎はベズワルと機刀で近接戦闘を挑む。
「負けたことを認めろ! 矜持に散るというのは分からんでもないが、次に繋げてこそということもあるだろうが!」
清四郎は怒鳴りつけた。
「バグアも人間の精神もそこまで大差はないだろうが! ここで貴様らが死んでも一拠点の兵が無謀なことをして死んだ、と思う奴が大多数だろうが!」
機刀を防御に使い、ベズワルを攻撃に使い、タマモの運動性を生かしてヒット&ウェイ戦法を取る。マニューバを使用して、敵の攻撃が激しくなる前にけりをつける。
「気合は認めるが、最低でも上級バグアになってティターンをもってこい! キングスレーやダム・ダルと言った上級バグア、遥かに多い数と高性能機を相手にしてきた俺らに勝てると思うなよ!」
バグア人達は一機、また一機と散っていき、全滅した。
「さて‥‥」
孫六はプラントの搜索に向かう。
「夢守氏! 上空からの支援を頼む!」
「了解兼元君」
「いったい地球上には、あと幾つのプラントが残っているのやら‥‥。考えただけでも、気が遠くなりそうだ!」
「これからは残党狩りが主になるか‥‥気が重い話だ‥‥」
清四郎は言って吐息した。
その後、空からもルキア、アーちゃん、ドクターが下りて来ると、キメラを殲滅して傭兵たちはテヘランを制圧した。