タイトル:月面基地拡張計画2マスター:安原太一

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/07/02 21:36

●オープニング本文


 地球と月を往復している部隊がある。リギルケンタウルス級宇宙大型輸送艦8隻からなる月面基地崑崙の建設資材を運ぶ輸送艦隊である。
 カンパネラを経由して、輸送艦隊は崑崙へ向かって出発した。
 艦隊の指揮官高木少佐は、月との中間地点に到達したところで定時報告を受けていた。
 オペレーターの真由がモニター越しに言った。
「少佐、月面まで中間地点を通過しました。ここまで周辺にキメラが点在していましたが、KV隊のおかげで敵は撃退しています。引き続き現在の航路を維持します」
「分かった。後で私もそっちへ行く」
 と、その時である。真由のモニターに警告が出る。ワームの集団が接近して来たのだ。
「少佐‥‥! 敵ワーム、急速に接近します!」
「何?」
「速いです‥‥あっという間に来ます! KV隊! 迎撃して下さい!」
 高木は部屋を飛び出すと、艦橋へ走った。
 ズウウウウウウン‥‥と艦が揺れる。高木は壁に手をついて、罵り声を上げて走った。
「少佐!」
 と、部下の士官が飛び出してきた。
「どうなってるんだ」
「急いで脱出しましょう! ワームに取りつかれました!」
 次の瞬間、爆発と閃光が高木らを包み込んだ。
 艦は引き裂かれ、真っ二つに折れる。
 艦橋にいた真由は、スクリーンに立ち塞がる、漆黒のティターンを見ていた。ティターンからプロトン砲が放たれると、閃光が艦を貫いた――。

 ――カンパネラ。
 ULTオペレーターの綾河美里(gz0472)は、自宅で真由が地球から持ってきてくれたアイドルの写真集を手にしていた。艦隊がバグアに攻撃され、高木や真由が死んだと聞いて、美里は茫然となっていた。写真集は真由との記憶を繋ぎとめる品となった。
 携帯が鳴った。美里は、ゆっくり携帯を持ち上げた。
「もしもし、綾河さん? ワイズマンです」
 フローラ・ワイズマン(gz0213)だった。
「ワイズマンさん‥‥」
「艦隊のこと、聞きました。残念です」
「ワイズマンさん‥‥私、こういう日が来るって、自分でも覚悟していたのかも知れません。涙は出てこないんです。真由ちゃんのために、私は戦い続けなくちゃって、そう思う気持ちが強くて。私、変ですかね」
「‥‥綾河さん、ちょっと心配だったから電話したんですけど。また会いましょう」
「はい‥‥」
 美里は電話を置くと、写真集を抱きしめた。
「真由ちゃん‥‥高木少佐‥‥」
 不意に溢れ出てきた涙を、美里は堪えることが出来なかった。

「おはようございます!」
 翌日、美里は元気な姿で司令部に出勤した。
「美里、あなたに頼みたいことがあるんだけど」
 上司の言葉に、美里は「はい」とまっすぐに答える。
「高木少佐が指揮していた艦隊の残存部隊と、地球から合流した部隊が加わって、新しい輸送艦隊が編成されることになったの。引き続き、崑崙への物資輸送を任務としてね。艦隊がカンパネラへ到着したら、あなたに担当を頼みたいんだけど。大丈夫かしら」
 上司の問いに、美里は吐息して言った。
「はい、私に担当させて下さい――」

 無人の宇宙空間に浮かぶバグア小型衛星――。
 真由は目を覚ました。部屋は見たことも無い作りをしていた。映画の中にでも出てきそうな、異星人の宇宙船の中だ。不思議な光が宙に浮かんでいて、そこに映像が映し出されていた。
「ここは‥‥」
 立ち上がって、真由は最後の記憶を思い出した。みんなで急いで脱出して‥‥そこへワームがやってきて‥‥。
「少佐は、みんなは助かったのかしら」
 と、部屋の扉が開いて、アレン・キングスレー(gz0472)が姿を見せた。
「目を覚ましたか地球人」
「あなたは‥‥キングスレー! 艦隊を攻撃したのはあなたなの!」
「輸送艦隊の護衛は強力になるだろう。効率よく攻撃できる方法は無いかと考えた。この衛星はKVでは落とせん。お前がこの衛星に捕らわれていることを艦隊へ伝えれば、陽動に使えるのではないか、とな」
「そ、そんなこと‥‥」
「さて、輸送艦隊は‥‥」
 キングスレーは歩きだした。この手はブレナー博士でエアマーニェが使った。だが、この娘はブレナーではない。尤も、キングスレーは、今さらながらに地球人がどんな選択をするのか確かめてみようと思った。

●参加者一覧

鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
神棟星嵐(gc1022
22歳・♂・HD

●リプレイ本文

 傭兵たちは、それぞれ自分の出番が無いことを願って時間を過ごしていた。
「何度目かの護衛任務。『いつもどおりの展開』なら、キングスレーあたりの襲撃があるかな」
 と達観したような表情で呟いているのはアーク・ウイング(gb4432)。
 だが、その穏やかな時間は突然のサイレンに破られた。
「バグア小型衛星が急速接近! KV隊! 出撃準備願います! 敵衛星、識別コードはアレン・キングスレー(gz0472)です!」
「やれやれ‥‥ちゃっちゃと片付けようか。手間取ってると、また輸送艦がやられかねないからね」
 鷹代 由稀(ga1601)は言って、煙草の火を押しつぶした。
 集まった仲間たちを前に、櫻小路・なでしこ(ga3607)が言った。
「ことは緊急ですね」
 なでしこは友軍とともに打ち合わせる。
「各機の役割と編成ですが、対キングスレー様に孫六様、夢守様が部分管制に当たり、堺・様、神棟様が担当。対強化タロスにわたくしとアーちゃん様、鷹代様にソーニャ(gb5824)様、リヴァティー×4が牽制役に。対小型衛星にジョワユーズ。対タロスと宇宙キメラ、艦隊護衛に残りリヴァティー×14、ラスヴィエート×17、ハヤテ×17で当たって頂き、指揮はアキラ様にお任せ致します」
 なでしこは、言って吐息した。
「先の輸送艦隊の件については聞き及んでいます」
「私も先日の件は報告で見たけどね。今更ながらに、宇宙はまだ安全じゃないって思わせてくれたね」
 鷹代は言って、肩をすくめた。
「高木少佐、真由‥‥くそう‥‥仇はとる‥‥」
 堺・清四郎(gb3564)は言って、吐息した。
「高木少佐、真由‥‥何度目だろう‥‥。だが涙は出ない、それだけ摩耗しているとうことなのだろう‥‥。俺達は一体あと何人の未亡人や孤児、そして子の遺影に涙を流す親を見ればいいのだろう? 本当に戦争というのはくだらないな‥‥」
「やっぱり出てきたかキングスレー」
 アーちゃんは言って拳を握りしめた。小さき胸に感情が揺れる。
「またしても奴か! 先日は随分とやってくれたものだな!」
 孫六 兼元(gb5331)は言うと、牙を剥いた。
「奴も宇宙海賊になり果てたか!?」
 ソーニャは、思案顔で肩をすくめた。
「ゲバウが死んじゃってやけ起こしたのかな。報復攻撃?」
「報復だとは思えないけど。私たちも勝って油断したかな」
 夢守 ルキア(gb9436)は言って吐息した。
「今回はキングスレー単独で衛星を動かしているというのですが‥‥。何か、今までとは違う嫌な予感がしますね」
 神棟星嵐(gc1022)は言うと言った。
「綾河殿、高木少佐以下輸送艦隊の皆さんの事は聞きました。これは一つの弔い合戦です。散った命の重さを、バグアに教えて来ます」
 傭兵たちは出撃した。

 アーちゃんはロータスクイーンを起動する。周囲に浮かぶ電子データを頼りに、コンソールを滑らかに弾いて行く。
「敵宇宙キメラ展開。バグア衛星から出ます。数は約50。例によって距離400で攻撃開始願います。攻撃の誘導は行います」
 アーちゃんは言って、ロータスクイーンを操作していく。
「了解アーちゃん! よろしく頼むぜ!」
「オーケー、それじゃこっちもディメントレーザーで行く。多少なりとも減らしておけないと数で押し切られるし‥‥ね!」
 鷹代は、出会い頭、まだ陣形を組んでいるであろうところにPDレーザーで先制。普通のタロスやキメラも出来るだけ巻き込むよう射角を調整する。
「撃て!」
「行くわよ! GP7ミサイル発射!」
 清四郎は孫六、ルキア、神棟と組んで当たる。
「行くぞ‥‥高木少佐や真由の弔い合戦だ!!」
 初手でK−02を全弾発射キメラや量産のタロスを狙う。
「FOX1!」
「こちらOGRE! こっちは試し切りで行かせてもらうぞ! 回り込む!」
「孫六さん、支援します」
「アーちゃん氏、よろしく頼む!」
「それじゃあボクも始めようか。GP02S、撃って行くよ」
「蓮華の結界輪、アルゴシステム起動。FOX2ミサイル発射、てね」
 神棟もまた味方の一斉射撃にあわせブレス・ノウを起動しGP−9ミサイルを全弾発射する。
「貴公らバグアが来なければ、死ななくて良かった命がたくさんあった‥‥。その散った命の無念、ここで、今まで以上に晴らさせて貰います!」
 続いて、神棟は加速すると、残存するキメラ、無人ワームに応戦しながら小型衛星に向かい砲塔を出来る限り潰しに掛かる。
「キングスレー、この衛星、貴公の墓標にぴったりではありませんか? それともまだ、貴公はこの世界で成さねばならない事でもあると?」
「いずれにしても、この映像を見てお前たちがどうするか、だが」
「何ですか?」
 と、KV各機のサブモニターに人間の姿が映った。
「誰だ?」
「この女は輸送艦隊の生き残りでオペレーター。名を何と言ったかな?」
「彼女は真由ちゃんだね」
「衛星にはこの女を捕えている。ジョワユーズ、攻撃を行うのは賢明な判断とは言えんぞ」
 キングスレーからの通信が入って、最初に反応したのは孫六だった。
「人質に関しては、奴は策略家なのを知っとるから驚かん! あぁ成る程な‥‥。今回は戦いの意味合いが違う、と言う事か。高木少佐の艦隊は生存者は絶望と思ったが、一人でも生存した事を幸運と思った方が良いのだろうな。OGREよりジョワユーズ! 見た通り生存者だ、救助に向かいたい! 許可を申請する!」
「こちらジョワユーズ、救助を許可する。こっちからは牽制を行う」
「綾河氏、簡単に『絶対』等とは言わんが、最善は尽くし救助する! だから信じて待っていてくれ!」
「ふん‥‥何とも小さい‥‥人質取らなきゃ戦えません、ってか」
 鷹代は言ったが、孫六には注意した。
「孫六さん、無茶はしないでね。一応心配しとく」
「ワシは目の前の人質を放置は出来ん! 最善を尽くしてくる!」
「救出展開了解しました」
 なでしこは言った。ニッコリ一言。
「こちらは大丈夫です。囚われのお姫様をお迎えに行って下さい。無事なお帰りをお待ちしています」と。
「随分と高尚な手段に出たな? 補充もままならなくなってこんな手段を使わなきゃ対抗できなくなったようだな! ここで見捨てたらUPCの全軍の士気に関わる!」
 清四郎は言うと、突進した。
「アーちゃん、入り込めるところは無いか! データを送ってくれ!」
「了解しました」
 アーちゃんはカメラで衛星を捕えると、開口部を確認する。
「確認しました。データを送ります」
「よし!」
 清四郎は場所を特定してもらうと、M−12を叩き込んで穴を開け、そこに向かって突入していく。
 孫六が続いた。
「みんな無事でね。行ってきなさい。時間はボク達が稼ぐよ」
 ソーニャは言って外の敵の迎撃に回った。
「それじゃ、私も回るよ。ごめん、急いで真由君を乗せる補助シートを付けて来る」
 ルキアは離脱して、補助シートを取りつけて来ると、10ターン程度遅れて衛星に加速した。
「では自分が殿を務めます。何としても救出しましょう。キングスレー‥‥この代償は大きいですよ」
 神棟も衛星に突入した。

 衛星内を行く四人。ルキアはマッピングしていたが、やがてKVでは進入不可能な場所まで辿りつく。
「ここから先は機体を降りないと駄目みたいだね。ここまでは一本道だったけど、他に道は無かったし」
「仕方なかろう。では降りて行くか」
「了解した。では、各自注意して行けよ」
「では参りましょうか。キングスレーの罠に警戒ですね」
 四人は機体を降りると、武器を構えて衛星内部に侵入していく。
「キングスレー! こっちは見え取るんだろう。道案内でもしてくれんか?」
 孫六の言葉に返答はない。
 バグアの無機的な外観の通路が続く。
 ルキアはバイブレーションセンサーで探っていた。やがて、反応がある。
「こっち、人がいるみたいだよ」
 四人は通路を曲がり、目的の部屋に到達した。
「この扉はどうやったら開くのだ?」
「ぶち破るまでだ」
 清四郎は言って、銃撃を叩き込んだ。扉が粉々に吹っ飛ぶ。
 そこは、バグアの司令室だった。モニター類があり、中央に巨大な三次元ディスプレイがある。
「むう‥‥」
 孫六は先頭に立って踏み込んだ。
「お前は‥‥」
 四人とも、部屋の一角に佇む人影に目を移した。
 それは、これまで幾度となく相対し、だが画像でだけしか顔を見たことのないバグア人である。アレン・キングスレー。
「来たか傭兵ども」
 キングスレーは淡々と言った。
「み、みなさん‥‥」
 キングスレーの前にいた真由は、震えながら立っていた。
「気分は趙子龍ってか!! 迎えに来たぞ! お姫様!! 侍、堺・清四郎‥‥押し通らせてもらう!!」
「貴様が堺か。思っていた通りの男のようだな」
「随分と回りクドいラブコールだな! その娘は、もういいだろう? 引き渡して貰おうか! 今回の件、お前の本心は地球人への興味ではないのか? ならば、生身でも地球人は戦える事を、見せてやろう! 見届けるのが、ワシとの決着では不満か? ワシ等が如何しようと、戦の局面は成る様にしか成らん! ならば互いが生きた証を、誇りと血を、全力で刻む! それで良いではないか!」
「孫六か‥‥。確かに、お前の言う通りだな。俺たちがあがいたところで戦局は変わるまい。それにしても、お前のその武士道魂は嫌いではない」
「貴公を許すことは出来ませんね。艦隊を破壊したその仇は、とらせて頂きます」
「神棟か‥‥来るかね?」
「アレン君、そ、私のもつセカイは自分を通して見て、自分と言うセカイを作る。不自由はね、縛りつけてるのは案外、ジブンなんだよ。何かを持つ必要なんて、無いのさ。生身で会うのは、不思議なカンジ。真由君は返して貰うよ、人質が彼女じゃなくても、私は此処にきた。そうしたいから。ダイジトカ、そう言うのを抜きにして、私のタメ。私のセカイは、まだ発展中だもん。沢山色をつけなきゃね」
「夢守ルキアか‥‥人は誰しもセカイを持っているものだろう。お前のセカイは発展中か。羨ましいことだ。尤も、俺も随分と捨ててきたものがある」
 言って、キングスレーは真由の腕を離した。
「え?」
「行け、仲間のもとへ。連中は命の危険を顧みずお前一人のためにここへ来たのだ。俺にはその選択で十分だ。戦場以外でお前を殺すつもりはない」
 真由はキングスレーに押されて歩きだした。ゆっくりと、不安げに歩いて、清四郎が彼女を引き寄せた。真由は清四郎に抱きついた。
「無事で何よりだ‥‥さて」
「それで? キングスレー? 切り札を手放して、お前はどうするつもりなのだ」
「行け傭兵ども。生身ではハンデが多すぎるだろう。一時休戦にしておこう。俺もティターンで追いかける」
「信用していいのですね?」
「お前たちに選択は無いだろうな」
 キングスレーは言うと、部屋から出て行った。
「ふむ‥‥ではワシらも脱出するとしよう!」
 傭兵たちは走りだした。
 神棟が真由を抱き上げて走る。
 ルキアの幻龍に真由を乗せると、傭兵たちは出発した。
「こちらルキア。アーちゃん君、私たちの位置を送るね」
「了解しました。そのまま脱出して下さい」
「待った! 脱出口が閉ざされて行くぞ!」
「キングスレー、邪魔はして来るようですね」
 神棟はラヴィーナを叩きこみ、壁を破壊した。
 加速に耐えられない真由のために通常飛行で傭兵たちは進む。

「鷹代さん、脱出口の破壊をお願いします」
 アーちゃんは言って、閉ざされた開口部に鷹代を案内する。
「了解したよアーちゃん。中のみんな、聞こえてる? 鷹代よ。外側から壁を吹っ飛ばすからね」
「了解した。よろしく頼む」
 鷹代は脱出口の位置をアーク機からデータを貰って確認。タイミングを合わせてPDレーザーによる砲撃で進路状の敵機及び衛星表面の対空砲を破壊する。
「ターゲットロック‥‥狙い撃つ‥‥!」
「よし! 離脱です!」
 神棟を先頭に脱出する。
 傭兵たちは援護射撃を衛星に向かって行い、真由を乗せたルキアはいったんジョワユーズに帰還する。

 時を少し遡る――。
 孫六たちが衛星に入ってから、アーちゃんはジョワユーズ近郊にあり、管制に当たっていた。
「みなさんの無事を祈りましょう」
「アーちゃん、支援をよろしくね。それじゃあみんな、他の敵機を落としておくわよ!」
 なでしこは言って、鷹代やソーニャら、軍傭兵らとも連携する。
 鷹代は強化タロス相手に、一体を集中攻撃による速攻で仕掛ける。
「コクピットを狙わせてもらうよ‥‥!」
 GP−9を接近までにありったけ叩き込むと、レーザーライフルで狙い撃つ。
 加速するタロスに、変形して対応する。収納形態のクローで受けてライフルの零距離射撃を叩き込む。
「っ‥‥遅い! そんなのでやれると思うの」
 鷹代は有人機を破壊すると、また戦闘機形態に戻って無人機を落としていく。
「敵衛星から友軍が離脱します――」
「来た? 待ちくたびれたわよ――」

 それから、キングスレーは衛星を自動操縦に切り替えると、ティターンで離脱してジョワユーズに突進させた。
 ソーニャは先行すると、衛星の砲塔群の無力化を図る。アリス、通常ブースト常時起動、Mブースターで加速し、GP−02で撹乱、レーザーで攻撃。
 なでしこはブースト+ツインブースト空戦スタビライザーで加速すると、射程ギリギリからSESエンハンサーで粒子砲を衛星主砲に叩き込み離脱する。
 アーちゃんが最適路をナビゲートし、ジョワユーズがG兵器を叩き込む。衛星はブラスター砲に貫かれ、爆発四散した。

 カンパネラにて――。
 帰還した真由は、美里と抱き合った。
「綾河様、もしよろしければ、お祝いなどどうでしょうか?」
 なでしこが言うと、美里は「そうですね!」と喜んだ。
「真由さん無事でよかったね。アレンはどうだった? 本当はただ、真由さんの事、助けてみたくなったんじゃないかな」
 ソーニャは言った。
「窮鳥懐に入れば猟師もこれを殺さず。人みたいだね。人を鳥程度にしか見てないけど。本当に興味があったら、助けに行った者の前で銃を突きつけたり、殺して見たりするんじゃないかなぁ。多少は興味もあったとは思うけど。あれ引いちゃった? でも、ボクたちってそういう関係でしょ。真由さんも軍人だし、しかも、人とバグアに捕虜交換なんてないよ。殺し合うだけ。今回はアレンの気まぐれに素直に感謝しよう。死んだ人達に気が引ける? 人の生き死になんてそんなものだよ。生き残って出来る事をすればいい。それが嫌なら死ねばいい。真由さんは誰かの涙を止める事が出来るんだね。それは、とても素敵な事。涙の出ない涙は痛々しいよ」
 最後にぽつりと。
「ねぇアレン、死体と涙を量産してただ一人の涙を止める。それに意味があるんだよ。ボクたちはとても簡単だよ。多くの命を危険にさらして一つの命を助ける。それは簡単な理屈なんだ。そんな話をしてみたいよ――」