タイトル:【崩月】月面会戦〜前夜マスター:安原太一

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/05 00:43

●オープニング本文


「月面基地『崑崙』、か」
 ウォルター・マクスウェル少将はそう一人ごちた。奉天社と一部科学者の提案をアジア軍がバックアップしている計画については、実験段階であると報告はされていた。しかし、L2を目指した艦隊の壊滅を考えるに、バグアは月周辺にそれなりの戦力を配置していると考えられる。
「‥‥護衛を増強するように。それから、輸送艦を優先配備。特殊作戦軍にも連絡を取れ。おそらく、バグアも月にいる事がバレたとは判っているはずだ。すぐに、動き出すぞ」
 キメラなり、無人機なりの展開はこれまで報告されていないが、おそらくは息を潜めていたのだろう。敵の正体を探るのも重要だが、情報を集める間、手元に残るカードを守りきることも重要だ。
「こちらが先か、あちらが先か。時間との勝負だ。急ぐように」
 そう指示を出して、少将は静かにティーカップを傾けた。

「また月に行くことになった」
 エクスカリバー級宇宙巡洋艦ジョワユーズ艦長ジャック・モントロン中佐は、ブリーフィングルームに集まった士官たちと傭兵たちに言った。
「L1の拠点への補給、それから輸送艦隊の護衛が任務となる。知っての通り、L2へ向かった艦隊が壊滅したことを考えれば、バグアも月へ戦力を配備しつつあるようだ。敵の戦力は不明。我々は先手を打つぞ。崑崙の戦力を一刻も早く整え、バグアの攻撃に備えなければならん。これは時間との戦いだ」
 一同、緊迫した面持ちで中佐の言葉を聞く。

「いよいよバグアも動き出しましたね‥‥大規模作戦の予感‥‥これが宇宙初めての大決戦でしょうか‥‥」
 カンパネラ在中のULTオペレーター綾河美里は、発進前の傭兵たちと言葉を交わす。
 美里は緊迫した面持ちで、腕が震えていた。
「落ち着けよ綾河。お前が戦うわけじゃあるまいに」
 KV隊長のアキラは言って、肩をすくめる。
「うう‥‥何だか怖くなってきますね‥‥L2の味方が壊滅したって聞いて、私、バグアが本気になったんじゃないかって心配で」
「仇は討つさ。このまま終わりじゃない」
 ジョワユーズは、輸送艦隊とKV輸送艦の部隊を率いて出立する――。

 アレン・キングスレー(gz0472)は、漆黒のカスタムティターンに搭乗し、攻撃部隊を率いて月の周辺にいた。
「いよいよ‥‥動かれるか‥‥あの方も」
 キングスレーが緊迫した面持ちで口を開いた。
「キングスレー、地球人はこれでお終いだ。もはや、奴らに勝ち目はない」
 回線越しに、他のバグア人達が言って、笑った。
「これからが本番だぞ。油断はできん。奴らを甘く見るな」
「おいおい、本気で言ってるのか? 確かにブライトン様は敗れたが、それはあの方が置かれた状況にあった」
「とにかく‥‥」
 キングスレーは言葉を飲み込んだ。いつになく心が揺れている。拳をほぐした。
「行くぞ――」
 バグア達も動き出す。
 月を巡る攻防が動き出そうとしていた――。

●参加者一覧

櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD

●リプレイ本文

 ジョワユーズ艦内で傭兵たちは事前の話し合いに臨んでいた。
「今回は月面基地『崑崙』への輸送艦を無事に護衛することが最優先ですね」
 櫻小路・なでしこ(ga3607)は言って、真剣な眼差しで月面周辺のマップに目を向ける。徘徊するワームの中にはアレン・キングスレー(gz0472)もいた。
「さて‥‥今回は、編成ですが――わたくしたちは主に迎撃班で迎え撃ち、軍傭兵の皆様には輸送艦の護衛に付いて頂くと言ったところですね」
「艦の護衛は任せてくれ」
 KV隊隊長のアキラは言った。
「わたくしたちは――敵指揮官機の対応に孫六様、夢守様、アーちゃん様。各種支援に美具様。恐らく出て来るであろうタロスなどの対応に堺様。遊軍にソーニャ(gb5824)様。G5弾頭攻撃の援護にわたくしと赤宮様――ですわね。迎撃班にはリヴァティー×12に付いて頂きます」
「了解した」
「護衛班には、残りのハヤテ×12とラスヴィエート×12で。宜しくお願い致します。それから、ジョワユーズにはG5弾頭による先制攻撃をお願いしたく思います」
「G5弾頭か? 使いどころは難しいぞ」
 モントロン中佐はうなって髪を掻きあげた。
「全体の方針ですが――。今申し上げた通り、敵部隊の迎撃班と輸送艦の護衛班の2班構成です。護衛班はアキラ様に指揮をお任せ致します。迎撃班は輸送艦団の前方に防衛線を張り迎撃いたします。迎撃班は更に対指揮官対応と対タロスに分かれます。先制攻撃にG5弾頭での攻撃をお願い致します」
「わたくしから艦長にお願いしたいのは、G5弾頭の件です」
 赤宮 リア(ga9958)が言った。
「と言うと?」
 モントロン中佐は、モニターの向こうで思案顔だった。
「戦闘が始まって直ぐ、乱戦状態になる前に、ミサイルを敵の密集している箇所を目掛けて撃ち込んで頂きたいのです。但し、敵指揮官機の真正面は避けてもらいます」
「ふーむ‥‥うまくいくかどうかは分からんぞ。牽制にはなるだろうが‥‥」
 中佐は言って頭を掻いた。
「ミサイルが確実に届くようにわたくしとなでしこさんで護衛は致しますので」
「とりあえず、やってみるか?」
「ありがとうございます」
 リアはにこやかに言って軽くお辞儀した。
「月での決戦か‥‥」
 堺・清四郎(gb3564)は呟いた。
「赤き月への橋頭堡確保のための月への進出、やっと人類はここまでこれたな‥‥。赤き月までの歩みは止めさせん、輸送艦はやらせんぞ!」
 そこで、アキラに声を掛ける。
「アキラ、リヴァティー四機に俺の指揮下に入ってもらうことは出来るだろうか。敵ワームの迎撃に動く」
「いいぜ。地球での経験は知ってる。リヴァティー四機預けよう」
「月をめぐる戦いも本格化してきたね。だから、月基地建設の邪魔はさせられないね」
 と呟いているのはアーク・ウイング(gb4432)。
「移動中及び戦闘中は、複合ESMロータス・クイーンで敵の接近を警戒するよ。今回は、戦闘時には積極的に迎撃するけど、輸送艦へ敵が接近しないかの警戒は行うね。ところで――初撃で一斉攻撃をするつもりだけど、いい加減、バグアにもこちらの動きを読まれていると思うので、初っ端からヴィジョンアイを使用して、敵ワームに攻撃を直撃できるよう支援してみようかな」
「そうだなあアーちゃん」
 アキラは言って、思案顔。
「バグアにも記録は残っているだろうしね。例のキングスレーとか、確実に記録を残してそうだしね」
 そこで孫六 兼元(gb5331)が口を開いた。
「キングスレーと言えば、今回もやはり物資輸送を邪魔しに来る可能性が高い! あいつは、鼻が良いと言うか何と言うか‥‥こちらの厳しいところを狙ってやって来るからな! L1の拠点の強化は可能な限り、だが絶対阻止して来るだろう! ともあれ、宇宙戦闘での燃費が改善されたばかりだ、出会ったら目に物見せてくれるぞ!」
 それから、孫六は整備班との連絡を取る。
「今回に関しては、いずれにしろ早いうちに敵指揮官機の足止めに当たらねばならんので、スピードが要る! 発進前に既に、ドレスA・Bで装甲をパージした状態にして、機体を待機させておきたい! 今作戦では素早い対応が必要だ! 整備班、スマンがワシの機体は装甲を外して待機させておいてくれ!」
「了解した孫六」
「ボクは高速で戦域を移動し、敵の弱点を突くよ。また、味方のフォローだね」
 ソーニャ(gb5824)は言って、肩をすくめる。
「燃費の向上は有り難いね。基本戦術はいつも通り、アリス、通常ブースト常時起動、Mブースター適宜、常に高速で戦域を移動するよ。遊撃的かな。手傷を負った敵、交戦中で隙だらけの敵に止めを差し、効果的に数を減らす役割だね。みんな連携よろしくね。ボクは死角に潜んでちくちくやるよ」
「攻撃は最大の防御。攻勢で有り続けるコトで、敵のネームドクラスを抑えるコト」
 夢守 ルキア(gb9436)は言った。
「ま、いずれにしても、アレン君やネームドが出たとして、そっちへ向かうヒト多いし。離脱できそうなら、先にL1へ向かってもいいよね」
「そうだな。まあ、離脱できそうなら、だが」
 清四郎は言って、うなった。
「G5弾頭がうまく機能して、ワームを撃破出来れば良いケド。私もネームドの押さえに回るケド、G5弾頭は援護させてもらうからね」
「キングスレーよ、ここであったが100年目、今度こそあの世へ送ってくれようぞ」
 美具・ザム・ツバイ(gc0857)は言った。
 美虎から始まって美具に至るまでキングスレーを追いまくってきたシスターズであるが、未だその息の根を止めるには至っていない。バグアのスーパーエースにもそろそろ御退場いただかないと今後の大規模にも影響が出るやもしれんのでなろう事なら今回で引導を渡す気満々の美具である。宇宙での戦闘経歴も着々と積んで環境適応状態も申し分ない。
「今日この宇宙で会ったなら、キングスレーには確実に落ちてもらう。これ以上シスターズ、美具らの邪魔はさせんぞ」
「ガッハッハ! ツバイ氏、きみも奴にはしてやられた口かね!」
「孫六殿、シスターズがやられた苦杯は、必ず返してやるのだ」
 美具は言って、思案顔で顎をつまんだ。
 そうして、準備を整える傭兵たちに、敵襲の報が入る。
「敵さんが来るぞ! アレン・キングスレー、来やがった! 行くぞ!」

「G5弾頭発射――!」
 ジョワユーズからミサイルが放たれると、なでしこと赤宮はその護衛に付いた。G5弾頭ミサイルは撃墜される恐れがある。
「ブーストの燃費、大幅に改善されましたね。これならば宇宙でも今まで以上に積極的に攻め込んで行けます! 一機でも多く沈める為に‥‥参りますよ! 熾天姫!!」
 赤宮は、全身に炎のような赤いオーラを纏う。
「なでしこさん、お願いします!」
「了解、こっちも護衛に付くわ」
 二人はブースト状態で護衛に付く。ミサイル前方を、ある程度の距離を取って先行。単なる単機突出と誤認させ、敵の注意を引く。ミサイルの存在に気付かせない事が出来ればベストだが‥‥。
「もっとです‥‥もっと群がって来なさい!!」
 タロスは最初ばらばらと接近して来た。
「小賢しい地球人が! たった二機で突進してきてやれるつもりか!」
 バグア達の笑声が響く。
「ならば、掛かって来なさい! たった二機で何が出来るか見せて差し上げましょう!」
「何だと!」
 タロスが接近して来る。
「これでも!」
 赤宮はGP−7を全弾叩き込む。なでしこも、G放電を撃ち込んだ。
「そう簡単に当たるかよ!」
「待て! 敵艦から発射されたミサイルが来てるぞ‥‥奴らは囮だ! 全機離脱しろ!」
 バグア達はすぐさまG5弾頭の存在に気付き、素早く最大戦速で離れていく。
 G5弾頭を小型の移動目標に当てるのはやはり至難の業である。G兵器はバグアの戦略兵器に対抗するために作られたものであり、ワームのように機動する小さな移動目標に命中させるのは不可能に近い。
「く‥‥見破られましたか‥‥」
「仕方ありませんわ。赤宮さん。モントロン中佐が懸念していたのはこのことだったのでしょう」
「残念ですね‥‥読みが甘かったですか」
 赤宮となでしこは、離脱する。G5弾頭は無人の宇宙空間で閃光とともに炸裂した。
「引き続きワームに当たるわよ! 赤宮さん、行きましょう!」
「了解しました――!」
 なでしこと赤宮は格闘戦に移行し、なでしこはロケット弾をばら撒き加速、人型に変形して練槍でタロスを貫く。爆発四散するタロス。赤宮はSESエンハンサーで人型に変形して突進すると、超威力の機杖でタロスを破壊した。
 清四郎は、リヴァティー4機を指揮下において輸送艦の護衛に付く。
「いいか、今回はどれだけ敵を落とそうとも輸送艦を守れなかったら負けだ! はき違えるなよ?」
「了解清四郎!」
「迎撃機を突破してきた敵に対してKー02を全弾発射! 編隊を組んで護衛に当たるぞ! 敵に組織だった行動をとらせるな、一機ずつ確実にしとめろ!」
「ミサイル、撃て!」
 さらに矢尻型に編隊をとり、輸送艦に対艦攻撃しようとするタロスに対して集中攻撃を掛ける。
「輸送艦はやらせん!」
 タロスの集団を貫通する清四郎ら。
 アーちゃんは、高機能ロータスクイーンの管制能力を使って戦域の情報を味方に送る。ロータスクイーンは味方への情報を提供することで相対的に脅威を低下させる。
「敵ワーム集団、迎撃班と接触します。護衛部隊は警戒態勢を取って下さい。3時方向の敵部隊に対して、輸送艦隊を守って下さい」
「了解したアーちゃん! いつでも行けるように態勢を取る!」
 アキラは言って、全機に命令する。
 ソーニャのエルシアンが駆け抜けると、後には爆散したタロスの残骸が残る。
「タロスの操縦者はみんなバグア人? 強化人間でじゃないの? 本格的なバグアとの接触ってかんじだね。でも、多くのバグア人にとってボクはただのものでしかないんだね。ならば、ボクは彼らにとってただの死神にしかなれない。ボクは彼らに祈ることしかできない」
 それからソーニャは言った。
「この剣を振り上げし時、我は汝に永久の安らぎを祈らん。甘き死が貴方とともにありますように。我は死。早き翼にて汝を訪れん。死にたくなくば、我を見よ。死してなお、我と共に生きよ。もし、ここを生き延び、再び会えたらなら。憎しみを込めてでもいい。ソーニャと呼んで欲しいなぁ。そう、ボクはソーニャだよ。そして、初めて君とボクは出会う」
「死神を気取りおって‥‥ソーニャ傭兵だと? その名前、忘れんぞ」
 バグア達は、格闘戦を演じながら、撃破されて行く中、ソーニャを罵った。
 ルキアは、アルゴシステムに、蓮華の結界輪を起動。逆探知の開始。
「何時もより、派手に暴れよう。大型輸送艦は、敵の目的のハズ。危なくなったら直ぐに知らせて。護衛の皆、補給したくなったら私が埋め合わせるよ。(――囮に使えるコトも事実、って言うのは言えないケド)対空砲で自衛は忘れないで」
 言いつつ、高機能アルゴシステムで宇宙空間の状況を伝達する。
 美具は、ミサイル満載のKVで前進し、開戦当初にブースト+マルチロックミサイル弾幕で、強化タロスの前衛にミサイル弾幕を食らわせ、敵の出鼻をくじいて編隊を乱した後に、キングスレー潰しに回る。
 ミサイル群がタロスを薙ぎ払う。
「行くぞキングスレー」
 アーマゲドン・スプラッシュを叩き込む。ブースト+マルチロックミサイルによる単機多重ロックによる飽和攻撃で相手の注意を引きつけたところに死角からの高命中率ミサイルで虚を突く、美具の必殺技である。
「思い知ったか、人類の力ってもう聞いてはおらんか」
 キングスレーを捉える高速ミサイル――。キングスレーは直撃を受け止めた。
 孫六はブースト使用しレミエルを撃ち、一気に接近する。09式とWR02Cを牽制射として使い、ウィングエッジの斬撃を叩き込む。
「艦隊へ近付く事は出来んぞ、キングスレー! 悪いがワシ等に付き合って貰うぞ! ‥‥ウム、この台詞も何度言ったかな?!」
「やってくれるな孫六、美具・ザム・ツバイ」
 孫六は人型に変形し近接戦に持ち込むと、ファーマメントとウィングエッジで切りつける。浮上回避を使用、ティターンを基点に上下左右に回りこみながら剣を繰り出してゆく。
「バグアにかつての勢いは無く、急激に衰退の一途を辿っている! 逆に地球は勢いを増し、科学水準に勝るお前達を押し返している! 最早この時勢は、例え神であっても止められん!」
「神とは‥‥大きく出たな」
 キングスレーは弾き返す。
「いい加減ストーカー被害を出したいくらいに会うな、キングスレー!!」
「バグアにストーキングされては冗談ではすまんな」
 キングスレーは清四郎の斬撃も弾き返す。
「ねぇアレン、殺し合おう」
 ソーニャは回線を開いた。
「君は君でボクはボク。君の前ではボクはボクでいられる。ボクの前の君は宇宙で唯一の君。例え、全てが違い、理解できなくとも。ボクは君を知ってる。違うからこそ二つの交わりに時が、世界が生まれる。それはボクが生める唯一の命。この出会いこそが生きた証。ボクの中に君がいる。君の中にもボクがいますように」
「ソーニャ傭兵、俺の中にお前がいるか? いるとしたら強敵である忘れ難い傭兵だ」
 そこで、ルキアも回線を開いた。
「アレン君――逆に、ヨリシロを纏うコトで感化される。つまり、きみ達はきみ達自身の個性を歪めてるって思うんだよね。一地球人からの見方だケド」
「ああ。だが、俺はキングスレーと言うヨリシロをまとってはいるが、感化されるのは知識のみ。俺は一人のバグア人だよ」
「きみは既に認識を得てるよ? ソンザイに名前をつけるのであって、ヨリシロに名前を付けるワケじゃない。同じ音の羅列でも、別の意味を持つ場合もある。私の『ルキア』は養父が始め与え、そして私が捨て、同じ音の名前を付けた。けど、込める意味は違う」
「地球人の思いの力と言うやつか。だが、いずれにしても俺はお前の言葉に説得力があると思っているんだがね」
「なるほどね。ところで知識を蓄えるのであれば、そこに感情も蓄えられてる?」
「いや、感情は蓄えられていない。お前は人間とは何か? と言う問いに答えられるか? 俺もバグア人とは何かと聞かれて、明確な答えを持っているわけじゃないんでね」
 そこまで言って、キングスレーは後退する。タロスは半数が撃破されていた。
「どうやらここまでのようだな。悔しいが崑崙へは行かせてやる。だが月面基地は破壊させてもらうぞ」
「撤退するの? まあ、こんなところで討てるとは思っていないけど。その代り、いずれ起こる決戦の時に絶対に討ち取ってやるから逃げないでよね」
 アーちゃんは言った。決戦の時に逃げられないようにするための挑発だが、正直、キングスレーがこの程度の挑発にのるとは思っていないので、形式美としての挑戦状みたいなつもりであった。