タイトル:【QA】作戦名イリオスマスター:安原太一

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/10 21:19

●オープニング本文


 宇宙空間に存在するユダ。その位置の正確な特定を、ブレナー博士は隠密裏に行い、結果を北中央軍へ通知した。それは、可能性のある場所を絞込み、その全てに通信を行うという方法ではあったが、バグア側にとっては特定された、という事実のみがある。
『おそらく、ユダはその地点から移動はしているだろう。しかし‥‥』
 ブレナー博士が特定に至った条件からすれば、その位置から半径10km以内にいると推測されるとオリム中将は言う。通信越しとはいえ、傭兵向けの依頼の説明に彼女が現れる事は異質であった。そのすぐ後ろに、バグアが立っているように見える、という事も。硬質ガラスを隔ててはいるが、言うまでも無く危険ではある。このショーには、その危険を冒す価値がある、と考えたのだろうが。
『‥‥‥‥』
 オリムが言うのは、ユダのいる宙域への攻撃作戦。エアマーニェの4はその会話を聞きながら、特に反応を見せない。いや、口元には笑みに似た何かを浮かべている。おそらくは、この程度の戦力でユダに挑む事への嘲笑だろう。表向きの目的である、戦闘によるユダの排除が作戦の全てと信じきっている様子だった。
『旗艦はブリュンヒルデ2号を用いる。危険な任務ゆえ、撤退の足は速い方がいい。何か付け足す事は何かあるか、バグア?』
『見事だ、と申し上げます。人間。ユダに乗るエアマーニェは楽しい時を過ごすでしょう』
 頷き、オリムはスクリーンから消えた。ほっと傭兵の中の誰かが息を漏らす。
「さて、これからは個別の依頼についての説明だが。オリム中将の発言は偽装だ。こっちが本命ゆえ、しっかり聞いてくれ」
 待ちかねていたように、担当が口を開いた。

 ――宇宙要塞カンパネラ。その新造エクスカリバー級宇宙巡洋艦の名を、ジョワユーズと言った。フランク王国の国王カール大帝が所持していたという大剣から名を得た。その運用方針は、対バグア戦において戦略レベルでの作戦行動を主とする宇宙巡洋艦、である。その攻撃目標はバグア宇宙戦闘艦、封鎖衛星、宇宙要塞、他、戦略レベルでのバグア兵器であり、G兵器での敵戦略兵器の撃滅を目的とする。純粋な意味でのエクスカリバー級の運用を想定しており、仕様自体は特別な改造もない標準艦である。兵装は資料にも掲載されているG兵器を主とし、あくまで決戦兵器として、戦略兵器としての運用に主眼を置いている攻撃艦である。艦長は勇猛果敢な猛将として知られるジャック・モントロン中佐である。
 だが、このジョワユーズの初任務は残念ながらバグアの戦略兵器の攻撃とはならなかった。ブリュンヒルデ2号が中心となって行う今回の作戦行動――オペレーション・イリオスの一翼を担うことになったのである。
 ジョワユーズの任務は、艦自らユダの周辺宙域に進出し、迎撃に出て来るであろうユダの増殖体を引き付けることにあった。戦術レベルにおいてはジョワユーズはこちらの意図を隠すための囮である。UPC軍の最終的な戦略構想はユダの拠点を密かに特定、撃破することでエアマーニェの動きに制約をつけることにある。そこから先、エアマーニェとの交渉がどう発展するかは分からないが‥‥。
「まあ、バグアとの駆け引きはオリム中将始め、上層部に任せるとしてだ」
 モントロン中佐は腕組みして口を開いた。猛将の呼び名に相応しく、精悍な風貌の偉丈夫である。
「増殖体は無限に出せるというものではないと想定されるため、戦力が削られればユダ本体も更なる増殖体を生むために補給に帰らざるを得ない、という楽観的な予測に基づく我が艦隊主力への支援が目的の一つ。もう一つは、ユダの周辺を叩く動きを見せる事で、周辺のどのバグア拠点が援護の動きを見せるかの観測だ。ユダが退却すれば、その基地となっている拠点を特定することも出来よう。仮にそれが失敗した場合でも、支援の動きを見せるという事で絞り込む事が可能だろう、ということになる。いずれにしても危険を伴う高度な作戦だ。まさか、初陣で艦を増殖体の危険に晒すことになるとは思わなかったが‥‥それでも主力よりはましか」
 モントロン中佐は、うなるように言うと自然に不敵な笑みを浮かべた。
「綾河、カンパネラ周辺の敵勢力に変化はないか」
 モニターの一角に映るオペレーターの綾河美里(gz0458)は、宇宙ステーションからもたらされる情報をもとに状況を確認していた。
「はい中佐! ですが、目的地周辺は敵の勢力圏内ですから、気を付けて下さいね!」
 中佐は豪快に笑った。
「綾河、俺たちはもしかしたら帰ってこないかも知れん」
「中佐‥‥そんなこと‥‥」
「冗談だよ。そんな泣きそうな顔するな。初陣でくたばりゃせんよ。なあお前ら!」
 中佐は、同じくモニターの別窓に映る傭兵たちに呼び掛けた。彼らは今回ジョワユーズに搭乗する20名の傭兵たちで、ユダの増殖体を迎え撃つことになるであろう。
 傭兵たちは歓声を上げて拳を突き出す。
「艦長、発進準備整いました」
 小柄な副官の女性が言うと、モントロン中佐は頷いた。
「よし、一般航行速度25%で発進せよ」
 中佐の命令で、オペレーターが回線を開く。
「こちらジョワユーズ、カンパネラ管制塔、これより一般航行速度25%で発進します」
「了解ジョワユーズ。ドックを開きます。幸運を」
 ゆっくりと開かれる宇宙港の扉から、ジョワユーズはカンパネラを離脱、加速するといよいよ初陣の戦場へと向かうのだった。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文

 凄絶な剣気をまとった傭兵が口を開いた。ラストホープ屈指のエースアサルト、鳴神 伊織(ga0421)。
「とりあえず、増殖体を片端から撃破しろ‥‥と。引き際は後で考える事にしますか、どれだけ戦えるかも分かりませんし」
 ジョワユーズ艦長のジャック・モントロン中佐は、地上にいたころ、伊織の噂を聞いたこともあった。
「お前さんが噂のエースアサルトか。インドのMaha・Karaからも一目置かれてるって‥‥なるほどねえ。頷けるわ」
 モントロンは言って、からからと笑った。
 伊織はふっと笑った。
「ユダの増殖体を相手に無尽蔵の敵と戦う‥‥私は正直落ち着きませんよ。まだ宇宙では経験が少ないですからね」
 櫻小路・なでしこ(ga3607)が口を開くと、たちまちのうちに空気がふわりと和んだ。やはり彼女は良くも悪くもムードメーカー。
「宜しくお願いしますモントロン中佐、みなさん。オペレーション・イリオス、成功させましょう」
 なでしこは言って、にこりと笑った。
「わたくしたちの編成ですが、1班がアーちゃん様、孫六様、鳴神様、ソーニャ(gb5824)様、それからコロナ×2、スフィーダ×2、リヴァティー×2。2班担当がわたくし、クローカ様、ヤフーリヴァ様、タマモ×2、ハヤテ×2、ラスヴィエート×2となりますわ」
 なでしこは、モニターの戦場マップを確認しながら、振り返った。みなふむふむとお嬢様騎士の言葉を確認している。
「2班構成で、各班が広範囲に対象宙域をカバー。ユダの疲弊を狙って、増殖体を消耗させていく。長期戦を踏まえ、補給に注意いたしましょう。練力残量20〜30%で補給へ向かう‥‥と言ったところでしょうか?」
「そうだな‥‥」
「ジョワユーズを基点として展開する宙域はこちらですね‥‥」
 なでしこは、ユダの増殖体との長期戦ということもあって多少緊張していた。
「増殖体とは初めての登場からの縁ですが、未だ侮れませんね。気を引き締めて参りましょう」
「延々と出現するユダの増殖体と戦闘して、敗北を演出か。下手をしたら壊滅なんてこともありうるね」
 と呟くアーク・ウイング(gb4432)。傭兵たちの可愛い妹。
「まあ、引き受けた以上は成功させるだけだね」
 と気合を入れている。
「今回は、ユダの増殖体が相手ですけど、増殖体って何だか不気味ですよね。ワームって言うより、キメラみたいな感じですよね。何て言うか‥‥外見もちょっと生物的ですし」
「増殖体を作りだすためにはユダも力を必要とするという予測に基づく作戦ですけど‥‥どこまで応戦できるものかは分かりませんしね」
 アークの言葉に、伊織が応じる。
 武士、孫六 兼元(gb5331)。豪放快活な男は、思案顔でうなった。
「ユダ増殖体‥‥・。戦うのは2度目だな! 文字通り湧いて出てくる厄介な敵だが、観測班が仕事を達成できるように此方も最善を尽くそう!」
 孫六は、増殖体との交戦経験があったが、気がかりなこともあった。
「兎に角、どれだけの敵を倒せば良いのか、見当が付かん! 故にダメージコントロールには、細心の注意が必要だ! 被弾せず、補給のタイミングを逸しない事が肝要だ! 難しいところだな! 連携が重要になって来るぞ!」
 ソーニャ(gb5824)は、落ち着いて淡々としていた。蒼い閃光シアン――エルシアンに宇宙キットを付けて来た。
「ユダの増殖の底、疲弊を確認するまで永遠に戦い続ける地獄のローテーションを続ける。脱落厳禁。それ以外作戦失敗。そんなところね。いくら増殖体を落としても効果わかりませんじゃね」
「ガッハッハ! ソーニャ氏、上層部も無茶ばかり言う」
「まあ‥‥ボクはオリム中将の肌年齢が後退しないかどうかが気がかりだよ」
「ウム! それは中将の目の前で言うとかなり危険な台詞だな!」
「さすがにボクもそんな勇気はないよ」
 ソーニャはいたって真面目に言った。
「それにしても‥‥バグアの兵器って生物っぽい。サソリ類も卵胎生や胎生だし、なんか似てるかも」
 宇宙で自分が駆るそいつがカンパネラのハンガーから母艦に運ばれるのを見据えていたドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)。一言、「覚悟しろよ」短くそれだけ告げ、ヤフーリヴァはジョワユーズに乗り込んだのだった。
「僕は初めての宇宙戦ですから、手探り状態ですかね。それでそんな危険な任務に手を上げたのかって? それはみなさんが戦っているからですよ。僕も世界に後れを取ってはいけない‥‥そんな焦りみたいなものがあったのかもしれませんね」
「宇宙は最前線だけど、危険も多いからね」
 ソーニャが言うと、ヤフーリヴァは真摯な表情で頷く。さすがに、宇宙と言うことで緊張している。
 そんなヤフーリヴァの肩をほぐしたのは伊織。
「肩の力を抜いていきましょう。がちがちになってますよヤフーリヴァさん」
「あ、すみません鳴神君」
「ドゥさん、地上でも大活躍ですし、いつも通りに頑張っていきましょう」
 アークが言うと、ヤフーリヴァは吐息した。
「僕には覚悟はあります」
 ロシアの少年、クローカ・ルイシコフ(gc7747)。ある事件が原因で宇宙での戦闘に強い執着を抱き、人類の宇宙進出に生きる目的を見出しつつある。
「手に負えない化け物を踊らせるこの緊張感。これが地球人の闘い‥‥あぁ、ゾクゾクするよ。しかし感情に流されれば全て台無し。興奮に呑まれぬ様、演技と割り切って戦闘に臨むとしますかね」
「よおルイシコフ、楽しそうじゃないか。宇宙はそんなに湧きたつものがあるかね」
 モントロン中佐が言うと、クローカは小さく笑った。
「そう言うわけじゃありませんけどね中佐‥‥ただ、僕は宇宙が好きなんですよ。宇宙に何かきっかけを貰ったっていうか。これまで戦場と言えば昔の記憶しか無かったんですよ」
「何だそりゃ」
「志願兵ですよ。戦うしかなかったんです。バグアは何もかも奪い去って行きましたから」
「まあこんな時代だ。いつ地球がバグアに乗っ取られるかも知れない、そんな恐怖は誰しもあるだろうな。楽天家であれとは言えんよ」
「クローカさんにアタック☆」
 ソーニャがクローカに無重力体当たりをぶつける。
「何すんの?」
「えへへ」
 いたずらっこソーニャ、舌を出して笑う。
 ――と、副官の女性が無重力の艦内を舞いながらやってくる。
「艦長――」
 副官は、傭兵たちに会釈して壁に手をついて着地した。
「予定宙域に入ります。ユダが動き出すとすれば、すぐにでも敵襲が来るかと」
「よし。いよいよだな。お前さんたち、宜しく頼むぞ」
「了解しました。みなさん、参りましょうか」
 なでしこが言うと、一同「おう」と頷く。
 室内を出ると、壁の取っ手をつかんで無重力の廊下を泳ぐように進んでいく。各自、自身のKVの前に集まると、整備士から確認の言葉を受けて機体に乗り込む。
「エマージェンシー! エマージェンシー! 予定宙域にユダの増殖体と思われる敵機が出現。KV隊、直ちに発信せよ。繰り返します――」
「いよいよか‥‥」
 そうして、傭兵たちはジョワユーズから宇宙空間に飛び立っていく。長期戦の幕が開く。

「――敵第二波を撃退。周辺宙域に敵影ありません」
 アークが言うと、孫六は吐息した。
「どうにか第二波を退けたか‥‥。しかし、ユダ増殖体が小型のみとは、如何いう訳だ? ユダの奴も此方を認識しとる筈。もしやワシ等を試しているのか? それとも、此方の動向を探っているのか? まぁ良い、一体でも多くの増殖体を倒せば解るだろう!」
「ひとまず私達は補給に戻りましょう。これ以上は限界です。2班に任せて」
 伊織の言葉に、ソーニャも頷く。
「そうだね。それじゃ2班のみんな、よろしくお願いね」
 1班はジョワユーズへ帰還する。

「敵第三波、来るわよ!」
 なでしこの鋭い声が飛ぶ。
「FOX2ミサイル発射!」
「ファイア!」
 傭兵たちはミサイルを叩き込む。直撃を受けて爆散するユダ増殖体。
 ヤフーリヴァとクローカは人型形態に変形すると、加速した。
 ユダ増殖体が口を開いて、奇怪な咆哮が回線に轟き、クローカは眉をひそめた。
「何だこいつ‥‥怪獣かよ」
 ガトリングで殲滅していく。デブリの間を蹴って、姿勢制御で態勢を整えつつ応戦する。
 増殖体からプロトン砲が来る。クローカはかわしつつ、ガトリングを叩き込んでいく。
「みんな、よろしく!」
 クローカはデブリの間を移動しつつ、後退しながらガトリングで応戦。
 格闘はなるべく避け友軍格闘機を援護することに専念する。増殖体の腕部、頭部等を狙って戦闘力を奪い無力化していく。一体一体に固執せず、戦闘不能を確認後は即座に次目標へ移行する。個々への労力を絞り数をこなす事を重視していた。
「この戦いじゃね」
 ヤフーリヴァは人型に変形すると、高分子レーザーガンの射程に捕えたところで、簡易ブーストと姿勢制御で敵との相対距離を保ちつつ撃破していく。
 ワームのプロトン砲は射程に勝る。それはかわしていくしかない。ヤフーリヴァはどうにか友軍と連携して、デブリを生かして高所、死角、背後からレーザーと09式自動歩槍の弾幕を浴びせ増殖体を殲滅していく。
「こちらヤフーリヴァ、増殖体を撃破――」
 増殖体は咆哮して、獣のように襲い掛かって来る。
「まだ来るか、それはそうだな」
 ヤフーリヴァはデブリを足場等に利用しつつ後退。
「ヤフーリヴァ――支援する」
「十字砲火に誘い込む」
 ヤフーリヴァは増殖体を引き付け、後退。増殖体が噛みついてくるのを至近距離で目撃していたが、直後に増殖体は破壊された。
「ふう‥‥」
 今回一番注視するべき点、最悪敵が無尽蔵に溢れる可能性も考え、同時リロードを避け常に弾幕で敵を牽制するよう攻撃2、3回分は保持しておく。
 なでしこは変形して加速すると、槍と刀で増殖体を粉砕する。
「ジョワユーズには近づけませんわ!」
 グギギ‥‥と回線に奇怪な声が響き渡る。増殖体は牙を剥いて突進して来る。
「これでも!」
 なでしこは、タマモの援護射撃を受けつつ、増殖体を両断した。
「みなさん! 無事ですか!」
「こちらヤフーリヴァ、どうにか」
「そろそろ後退した方がいいんじゃないかな」
 クローカは、練力の残量を確認する。
「そうですわね。では、1班と交代しましょう――」
「‥‥頃合かな。モルニヤ、戦域より離脱します。コール、RTB」

「敵集団接近します」
 アークは言って、コンソールを操作する。
「さて‥‥どこまでやれますか」
 伊織は人型形態に変形すると、接近する増殖体をアサルトライフルで撃墜していく。撃ち漏らして接近してきた相手は二振りの機刀で一刀の元に斬り捨てる。さらに突進して来る増殖体を光輪で切り裂く。
「掻い潜ってきましたか‥‥まあ、ここからが本領ですが」
 後退しつつ、接近する増殖体を撃ち抜いて行く。
「そう容易くは抜かせませんよ‥‥」
 伊織は巧みな操縦でコロナを操り、デブリの中を簡易ブーストと姿勢制御で移動していく。増殖体との格闘戦。
 アークはコンソールを操作して、全体の状況把握に努めている。
「孫六さん、ユダ増殖体、前面に展開してきます。気を付けて下さい」
「了解した!」
「伊織さんも、新手の増殖体が来ます」
「分かりましたアーちゃんさん」
 アークは敵の位置情報や味方の損害情報を管理して、敵の突破や引き際を誤ることがないように注意する。
 モニターには各機とのデータリンクした情報が映し出されている。機体ダメージや練力の消費、兵装の残弾などから、味方の消耗具合を把握して、全体の一定割合の消耗ごとに味方に消耗具合を連絡する。
「各機、繰り返しになりますが無理はしないで下さい。せいぜい戦えるのは10分もありませんからね」
 孫六は前線に出て機剣を振るう。
「むう‥‥結局分からんな。数を吐き出せばこれがユダの限界なのか‥‥。いや‥‥大規模作戦で見せたブライトンのユダの増殖体はこんなものではなかったが」
 孫六の疑問が氷解することはなく、彼はひたすら増殖体を斬りまくった。
「孫六さん、ダメージに気を付けて下さい」
「何の! アーちゃん氏! ここからがワシの真骨頂よ!」
 生命が40低下したところで、D.Re.Ss A を発動し、外装をパージし身軽になる。
「さぁ、此処からがこの機体の真価だ‥‥。抜刀!!」
 抜刀の掛け声と同時にパージする。
「ガッハッハ!」
 増殖体の攻撃を受け止めつつ、格闘戦で切り込む。
 さらに残生命が100になったところでD.Re.Ss Bを発動。
「此処から本番だ!」
 高機動力で加速する天――都牟刈大刀。
 ソーニャのエルシアンは猛烈な勢いで増殖体を撃墜していく。凄絶なレーザー攻撃で破壊していく。
「発生時が一番危険だからね、こういう瞬発力タイプも必要ってわけね」
「ソーニャさん、効率よく行きましょう。移動は最低限度に」
「了解アーちゃん、再発進の指示は任せる。最強には程遠いけど、最速には近いつもりだよ。今日はボクを好きに使っていいよ」
 ソーニャは加速する。
「そこ、引いて、フォローに入る。肉を切らせて骨を絶つなんて、それで楽になろうなんて許さないんだから。危なくなったら逃げなさい、そしてまた戦うのよ。無限にでもこのループを続けるのよ」
 姿勢制御での方向転換を駆使して圧倒的な攻撃力で近づく増殖体を木っ端みじんに打ち砕き、
「アーちゃん、深追いや、疲れが見えてるのは早めに戻して。それから、フォロー箇所の指示お願い」
「了解しました」
「敵の数は増減してる。タイミングを見て、わずかでも休憩なさい。まだまだ地獄は続くわよ――」

 そうして、傭兵たちは20回以上にわたる増殖体の出現を撃退し、ジョワユーズと撤退する。限界だった。

「艦長、増殖体が後退していきます」
 副官の女性は、言って小さく安堵の息を吐き出した。
「やれやれだな」
 そこへ傭兵たちが帰還して来る。
「よお前ら、ご苦労だったな。お見事だったぜ」
「それで‥‥ユダの拠点は発見できましたか?」
「ああ、まだ解析中だが、恐らく何か掴めそうだ。良くやってくれたな」

 傭兵たちはカンパネラへ帰還した。
「いい参考戦闘履歴は取れたかな? お前を見事躾けるよう僕も腕を磨くから、今後も覚悟しとけ」
 ヤフーリヴァは言って、タマモを見上げる。
 ソーニャは、綾河美里(gz0458)と話す機会があった。
「イリオス、シュリーマンが発掘したのは彼の夢だったのか。永遠に戦争を続ける人間の業だったのか。ねぇ、美里さん、ボクに夢を見せてよ。ボクは自分の夢なんてうんざりなんだ。どうせなら君の夢を見て眠りたい」
「私の夢なんてちっぽけですよ」
「どんな?」
「私はただ、バグアがいなくなって、この戦いが終わってくれることを祈っているだけなんです。ULTに入ろうと決めたのは、自分も何か役に立ちたかったからですけど」
「そうかあ‥‥その夢、ボクが叶えるよ」
 ソーニャはそう言って、美里に笑みを向けた。