●リプレイ本文
傭兵達はみやこ町の北部戦線に到着した。相次ぐ戦闘でバグアとの交戦地域は無残に破壊されている。
十五人の傭兵達は高速艇から降り立つと、戦場に向かってそれぞれの表情を向ける。
「よく来てくれたな」
年配の中年士官がやってくると、傭兵達に敬礼する。
「色々と厄介な相手だけに皆で一致協力して事に当たりたい。宜しくお願いします」
白鐘剣一郎(
ga0184)は士官に手を差し出した。士官は笑みを浮かべると、剣一郎の手を取った。
「全く厄介な相手だ。西園寺の奴、何をとち狂ってバグアに寝返ったんだか」
士官は軍の兵舎に傭兵達を案内する。
兵士たちが中年士官に敬礼する。――大尉と。
「まあ楽にしろ、傭兵の援軍が来たぞ」
大尉の言葉に兵士たちから歓声が上がる。兵士たちの瞳には畏怖と希望の入り混じった複雑な感情が浮かんでいる。
「ま、こういうのも悪くない」
ファファル(
ga0729)は言って肩をすくめる。
「早速だが本題に入ろう。中尉、地図を持ってきてくれ」
中尉が地図を持ってきて卓上に広げる。
「今我々がいるのがここ(大尉は指差す)、そして、敵が終結していると思われるのが‥‥」
その頃、バグア軍の陣営に西園寺明が姿を見せている。長い黒髪を伸ばした長身の青年だ。黒い戦闘スーツに身を包み、漆黒のマントを羽織っている。冷徹な瞳は異様な光を放っている。
西園寺は片手に小型端末を持ち、そこに映る映像を見つめていた。
「‥‥十五人の能力者か。これは興味深いことになってきた。千載一遇の好機とも言えるが‥‥」
西園寺が手を伸ばすと、小さな鳥のキメラがその手に止まった。この鳥キメラ、目にはカメラが内蔵されていた。西園寺は鳥キメラを戦場に放つと、周囲の狼キメラに手を差し出した。
無数の狼キメラが西園寺を恐れるように小さく唸り声を上げる。
「行け、獣達。行ってお前達の獲物を食らって来い」
西園寺が大型キメラの背中を叩くと、巨大な狼が咆哮する。
時は前後するが、作戦開始前――。
「行こうか――アルジェちゃん、パパは付いていけないけど自分が選んだ主人の為に頑張って来るんだよ」
「うん、まかせて‥‥絶対負けない(さむずあっぷ)」
鳳覚羅(
gb3095)は小さな少女を激励する。アルジェ(
gb4812)だ。血はつながっていないがアルジェの悲惨な生い立ちに娘のように気遣っている。
「市街地で攻勢か‥‥厄介な事だ」
ファファルは煙草を吹かして戦闘地域を見つめていた。
さて、戦闘地域に出た傭兵達は索敵を開始する。
「さっきの遠吠えは‥‥?」
ナレイン・フェルド(
ga0506)はビルの残骸の上から双眼鏡で戦場を見つめていた。
「聞いた?」
「‥‥油断するな」
ファファルは無線機に呟いた。
「こっちは異常ないが‥‥」
寿源次(
ga3427)も周囲を見渡している。
「UPC、レーダーに反応はありませんか」
見渡す麻宮光(
ga9696)の問いに、UPCから返答が来た。
「反応なし‥‥いや、待て‥‥一体、二体‥‥来たぞ‥‥!」
「発見‥‥まだ撃つな」
UPCの指揮官である大尉は端末に目を落とす。
「傭兵諸君、どうやら敵が正面からやってくるようだ。援護射撃を開始するぞ」
「了解――こちらは援護射撃を待つ」
「よし、傭兵達の突破口を開くぞ! 正面に展開して撃って撃って打ちまくれ!」
兵士たちは戦場に展開していく。迫撃砲と戦車も前進する。
「敵キメラ群確認!」
「撃て!」
「始まったか‥‥」
剣一郎は何十というキメラが次々と放火の前に砕け散っていく様を見つめていた。
「こちらA班! 突撃するぞ!」
「了解、B班も動く!」
「C班も同じくだ」
剣一郎は砲弾や銃撃が炸裂する中へ突撃した。月詠の刃がキメラに向かって走る。剣一郎は盾で激突したキメラの上体を起こすと、相手を一刀両断した。
ヒューイ・焔(
ga8434)も飛び出すと大地を疾走する。澄ました顔で敵に突進。キメラたちが炎弾を連発してくるがヒューイはそれらをかわしてソニックブームや二段撃を叩き込んだ。
剣一郎とアイコンタクトを交わして突進するヒューイ。二人が作った穴に飛び込んだ源次は超機械ζを発動。強力な電磁波に包み込まれたキメラ数体が瞬時に絶息する。
「試してみるか? 自分の電磁波を」
「そう簡単に、邪魔なんて、させない!」
ルノア・アラバスター(
gb5133)はガトリングを連射しながら駆け抜ける。襲い来るキメラに立ち向かうのはルノアのSPアルジェ(
gb4812)。
「マスターには指一本振れさせない‥‥」
十歳コンビがキメラの群れに立ち向かう。ルノアのガトリングが猛烈な勢いでキメラを打ち抜き、接近してくるキメラはアクロバティックなアルジェの二刀が舞い、飛んで撃退する。
キメラはバグアにとっては道具みたいなモノなの? 私はバグアへの憎しみは持っている。だけど戦いの為だけに生み出される、それだけなんて悲しすぎる‥‥命は尊いモノなのに‥‥。
ナレインの瞳には一抹の憐憫が。
「悲しみが増えるのはイヤなの‥‥だから、この戦いを終わらせるわ」
ナレインの刹那の爪がキメラの肉に食い込む、怯んだところへクルメタルを頭部に押し付けて銃弾を連発した。
「流石に多い」
とファファルは戦場を駆けながらマシンガンを連射する。
「だが個々はそれほど脅威ではないか‥‥」
ガトリングで弾幕を張っているのは井出一真(
ga6977)。
「また随分な大軍ですねえ」
走りながらガトリングをぶっ放し、次々とキメラを落としていく。
麻宮光(
ga9696)はビルの残骸の上から小銃とラグエルで向かってくるキメラを打ち抜いていた。
これでみやこ町を攻めてくるのも3度目か‥‥今回はあの西園寺とか言う司令官は出てくるんだろうか。何れにしても今回はさすがに数が多いから、さくっとは終わらないだろうが負ける訳にいかない‥‥。
(‥‥ここに何かあるのかな‥‥? 攻める理由か‥‥)
西園寺がみやこ町にこだわる理由が麻宮には分からなかった。UPCにも分からないことだが‥‥築城基地を狙っているのだろうと言うのが大半の見方ではある。
「厄介な手を打たれないうちに殲滅しましょう」
小さく吐息する柊沙雪(
gb4452)、疾風のような身軽さで大地を走ると、二刀小太刀を右に左にキメラの足を切り裂いていく。
雑魚を蹴散らしていたカルマ・シュタット(
ga6302)の前に巨大な狼キメラが立ちはだかる。
「来たか‥‥各班、リーダーが現れたぞ、気をつけろ」
無線を切るとカルマはキメラとの間合いを詰める。大型キメラは唸りながら回り込んでくると、横に飛んだ。
「‥‥!」
カルマの注意がそれたところへ、中型キメラが背後から襲いかかってくる。次々と手足に噛み付かれてカルマの動きが封じられる。キメラの牙はカルマに通じないが数が多い。
大型キメラは改めてカルマとの距離を詰めると、炎のブレスを叩き込んだ。キメラもろとも炎がカルマを包み込む。周りのキメラは黒焦げだがカルマは微動だにせずボスを睨みつける。
「紅蓮衝撃!」
鈍名レイジ(
ga8428)が大型の背後から強打を見舞う。コンユンクシオがボスキメラの肉体を切り裂いた。
「カルマ、無事か」
「レイジさんか、ああ、俺は大丈夫だ、少し不覚を取ったが」
「さすがにそれだけのキメラぶら下げてりゃ動けねーわな」
そうする間にも中型キメラが接近してくるが、駆けつけたフェイス(
gb2501)が次々と小銃で打ち倒していく。
「全く、無茶をなさいますな、命あっての何とやらですよ」
「数が多いね‥‥切りがない」
無線を聞いて援護にやって来た鳳覚羅(
gb3095)も長大な銃器【OR】GunScythe「Ain Soph Aur」を中型キメラに叩き込む。
初代AU−KVのDN−01「リンドヴルム」 をまとった萩野樹(
gb4907)は周囲の中型キメラを二刀小太刀で牽制している。
「仲間は、やらせない‥‥」
――A班もボスキメラと対峙している。
「貴様が頭か‥‥討たせて貰う! 行くぞヒューイ! 右を頼む、俺は左から!」
「任せなあ剣ちゃん」
剣一郎とヒューイはボスキメラに向かって駆け抜ける。
そうはさせじと中型キメラが二人に襲い掛かってくるかが、源次の超機械が敵を打ち砕く。
ルノアは放射状にガトリングを連射して弾幕を張って前衛二人を援護する。
「‥‥どれだけ来ようと、撃ち抜いてみせます」
「続けて攻める‥‥反撃、させない」
アルジェはルノアのSPとして飛び掛ってくる中型キメラを空中で高速回転しながら「円閃」の強打で叩き落す。さらに外套の下のソードをばばっとキメラに投げつける。
「ただの重りじゃない‥‥投げる事だって出来る」
剣一郎とヒューイはボスキメラに突撃。ボスは剣一郎に向き直るとブレスを吐いたが――。
「天都神影流『奥義』白怒火!」
ブレスを割って赤いオーラに包まれた剣一郎はボスに紅蓮衝撃+豪破斬撃+急所突きを叩きつける。
「食らえやあ!」
ヒューイはボスに体ごとぶち当たる。
ボスキメラは攻撃を受けながらも体当たりで反撃してくる。
「突然統率を失えば集団が混乱するのは道理、消えてください」
柊は中型キメラの連続攻撃を軽やかな体捌きでかわしながらボスに突撃する。
「仕掛けるぞ、援護を頼む」
麻宮は武器をディガイアに持ち替えてボスの背後から瞬天速の超スピードでキメラの群れを一気に駆け抜ける。
ナレインはボスの周りを取り巻く中型を蹴りとクルメタルで次々となぎ倒していく。
「気を抜くな!」
ファファルは飛び掛ってくるキメラを次々とマシンガンで撃ち落としていく。
「踏み込む時は‥‥思い切り良く!」
一真はキメラのブレスを盾で受け止めながら突進、直刀「鬼蛍」でキメラをなぎ払いながらボスに突入。
「この一撃で決める!」
柊が疾風のように側面から切り込み、麻宮が背後から急襲し、一真が正面からボスに攻撃。
ボスキメラは正面の一真に突進して激突。
柊と麻宮の刃がボスキメラを切り裂く。一真の鬼蛍はボスの目を貫いた。ボスは一真を体当たりで吹っ飛ばそうとしたが、一真は受け止めた。
「何ともしぶといですね」
C班――。
ボスキメラのブレスがレイジを包み込むが――。
「ヌルいぜ‥‥俺を焦がすにゃ足りねーな!」
レイジは炎の中から姿を現すと大剣をボスに叩きつける。コンユンクシオの刃がざっくりとボスの肉体にめり込む。
「頑丈な奴だが‥‥」
カルマは側面からボスの体を槍で突いた。
ボスキメラは足でカルマを吹っ飛ばそうとするがカルマはジャンプしてかわす。
猛然と押し寄せる中型キメラを小銃で撃ち落としていくフェイス。凄まじい銃撃に弾倉は瞬く間に空になっていく。
「撃ち合いで負ける訳には行きませんから」
リロードして接近するキメラに銃弾を叩きつける。キメラは銃弾を次々と浴びて落ちていく。
「退場の時間ですよ」
「何とももの凄い数だね‥‥中型は大したこと無いけど」
覚羅は両手にどっしりと構える二メートルの長大な銃器【OR】GunScythe「Ain Soph Aur」を撃ちまくって、ボスと戦うカルマとレイジを広角銃撃で援護する。
背後から飛び掛ってきた中型キメラの攻撃をかわして、覚羅は銃器の折りたたみ式の刃でキメラを叩き落した。
「残念、俺の大鎌に死角はないよ」
萩野は雑魚キメラの注意を逸らすように戦場を走り回ってキメラの攻撃を受け止めていたが、数に押されて倒れた。萩野のアーマーにキメラが群がってくる。アイカメラにキメラの獰猛な顔が間近に迫っている。
ガリッガリッ! とキメラの牙にAU−KVの装甲に亀裂が入る。
「くっ!」
萩野はキメラを振り払って起き上がろうとする。
――と、フェイスが萩野に群がっているキメラを次々と打ち抜いていく。後退するキメラたち。
「大丈夫ですか樹君」
「ええ‥‥すいません」
「さすがに数が多い、無理は禁物です」
フェイスは萩野の無事を確認して周囲に弾幕を張る。
ボスキメラとその取り巻きの中型キメラと死闘を繰り広げる傭兵達。
UPCも前進し、激しい銃撃と砲撃がキメラの集団を食い止めていた。
だがキメラは不思議なことに傭兵達への包囲攻撃を優先し、UPCへの攻撃は二の次であった。
「‥‥こちらA班。ボスを何とか足止めしているけどねえ‥‥利口な奴だ、最初に遭遇して以降は迂闊に近付いてこないねえ。B班、C班、そっちはどうだい」
ヒューイはキメラの攻撃を叩き落しながら無線機に呼びかける。戦況は今ヒューイが言った通り、ボスキメラは後退して傭兵たちには中型キメラをぶつけていた。
「‥‥こちらも同じくね。積極的に来たのは最初だけ、後は‥‥(バキッ! ドカッ!)中型が散発的に襲ってくるけど、切りが無いわね」
無線機の向こうで戦闘中のナレインがヒューイの問いに応じた。
「‥‥ボスはさすがに硬いですね、少なからずダメージは与えましたが。中型キメラの数が尋常ではありませんし‥‥(ドウッ!ドウッ!)‥‥中型は倒すのは苦労しませんが、もっといい作戦があったでしょうか? このままでは時間切れとなりそうです。どうですか?」
フェイスの指摘は尤もであった。傭兵達はかなりの中型キメラを倒してボスとも多少戦ったが、今ひとつ攻めきれないでいた。
‥‥刻々と時間が過ぎていく‥‥と、そんな時、西の空から一機のヘルメットワームが飛んできた。赤いペイントが不気味なヘルメットワームである。
「ワーム?」
傭兵もUPCの兵士たちも驚いた様子で空中を見上げる。
ヘルメットワームは傭兵達の上空で静止すると、中にいる西園寺が呼びかけてくる。
「傭兵たちよ、ごきげんよう、私は西園寺明、知っての通り北九州攻略を担当する者だ」
「西園寺‥‥こいつが‥‥」
傭兵達は赤いヘルメットワームを見つめる。
「戦いは全て見せてもらった。さすがの傭兵達が今回は攻め切れなかったようだな。私としてはキメラを全滅させる勢いで攻めかかって来るかと思っていたが‥‥」
と、そこでカルマが西園寺に話しかけた。
「西園寺とやら、以前俺がダム・ダルを倒したけど、また台湾でヨリシロとなったダム・ダルとも遭遇した。お前から見て今のダム・ダルはどう見えるのか」
意外にも西園寺はカルマに答えた。短く。
「‥‥そんなことを聞いてどうするつもりだ人間よ」
「何、ちょっとした興味だ」
「おかしなことを聞く奴だ。ダム・ダル司令はお前達の敵だぞ――さて、キメラは倒せなかったようだな。これでみやこ町北部は膠着状態に持ち込んだ。次に見える時は、陸か、空か、いずれにしても戦場であろう。その時は生きて帰れると思うな、先のゴーレム戦のようにはいかんぞ」
そして西園寺が乗るHWは旋回すると西に飛び去った。
「ワームでお出ましとは‥‥驚いたな」
「西園寺の事だ‥‥気が抜けないね」
かくして、キメラとの戦闘は練力が限界に達して、傭兵達はやむなく引き上げることになる。善戦はした、が、決定打に欠ける戦いであった。