●リプレイ本文
「わたくし思うんですけど、ナラシンハって、時代錯誤も甚だしいと思うんです。いまどき古の王とか‥‥」
櫻小路・なでしこ(
ga3607)がおっとりとした口調で言うと、一同和やかに笑った。
「まあそうだよなあ‥‥」
隊長のバレルは言って、肩をすくめる。
「でも許せませんね。‥‥本当に。いつかきっと倒して見せます」
なでしこは言うと、バレルに言った。
「全体の方針としては、空戦、陸戦が連携して基地一帯の空爆を実施すると言うのはどうでしょうか。空戦部隊は陸戦班の援護を行います。そのための爆装はシュテルンにお願いしたいと思います。中盤から終盤にかけてシュテルンの降下による基地制圧を行います。それについての判断は基地上空の制空権を押さえた時点で行い、基地制圧戦の締めにつなげることが出来ればと」
「爆撃か‥‥悪くない手ではあるな。手っ取り早く基地を無力化して戦線を押し上げるには効果的だろうな」
「俺はまたきっと美人のマリア・シュナイダーを狙いに行かせてもらおうかな。シスの最後には付き合うことも出来なかったしなあ‥‥」
言ったのはソード(
ga6675)。ソードはキングスレーのパートナーで「あった」マンダ・シスをたびたび追い詰めるところまで行っており、シスを好敵手と見なしていたのだが、その最後を見届けたのは、ソーニャ(
gb5824)だった。
「マリアとは少し話して見たいね。挑発に乗って来るのか、それとも、報告書に見るように本当に冷静なバグア人なのか。シスとはちょっとタイプが違うみたいなので、仕掛けてみないとね」
「マリアはちょっとシスより怖いみたいだよソードさん」
「どうだったソーニャさん?」
「シスより穏やかだけど、操縦に関しては卓越してるし、容赦ない感じ?」
「それにしても、ナラシンハだよなあ。とんでもない司令官だな。何と言うかこう‥‥例のアレンとマリアだっけ? 連中の呆れる顔が目に浮かぶよ。バカ、パート2だな」
「パート1は誰なんだ」
ソードの問いかけに、「それは‥‥」と思考の縁を辿るユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)。
「まああれかな、ゼオンジハイドにいた中野詩虎かなあやっぱり」
「なるほど」
「ただまあこっちはインドの王族だからなあ。追放されたと言っても大ダルダの暗殺計画を進めていたような奴だし。国内にもシンパは残っているようだし、厄介ではあるよな。あいつの活動拠点、ビルワラ近くに見つかりそうなのかシャノン?」
「それは何とも。占領地域を移動しているんだとしたら、インド北部にいるんでしょうけどねえ」
「それはさておき、戦闘では俺が最初に管制を行うつもりだけど、カスタムプラスとの乱戦になったら、後の管制はシャノンに頼むつもりだ」
「そう? 私なら戦列に加わった方が力になれると思うけど」
そこで、堺・清四郎(
gb3564)が忍び笑いを漏らした。
「権威か‥‥権威とはな、くくく、それを扱う奴があれでは権威が可哀想だ」
清四郎は亡き父の志を継ぐ誇り高い愛国者だが、軍ではそのことが足かせとなったか、それとも上官に疎んじられたか、命令無視のために除隊となっている。
「トチ狂ったナラシンハがバカな事をしでかしてくれたものだ。そしてそれに付き合わなければならないものたちに敵ながら同情するぞ。だが、奴らが無理な戦いを仕掛けてくるのならばそれを利用し撃破するのが俺たちの役目だ。勝利を我が手に!」
だがバグアとの戦いに身を投じる能力者となった今、清四郎の過去は不問に付され、UPCは彼を再び戦場に送り込むのだった。清四郎に葛藤が無いわけではないが、そんなことより彼を突き動かしているものがあった。
「ミカガミ部隊だが、俺も行動を共にさせてもらいたい。後れはとらんぞ」
「噂の剣虎か。構わんよ。ミカガミ部隊はお前さんに預けよう」
「キングスレーとの戦いは1ヶ月ぶりだね。がんばるぞ」
と気合を入れているのはアーク・ウイング(
gb4432)。依頼は目にしていたのだが、中々入る機会に恵まれなかった。すっかりひと月が経過していた。
「ガッハッハ! アーちゃん氏、久しぶりだな! うむ? 少し変化でもあったかね。逞しくなっとるな!」
孫六 兼元(
gb5331)は豪快に笑って、アークの頭を軽く撫でた。
「いえ、大したことはしてませんよ。ハロウィンキャンペーンにちょっと出ただけで。どっちかって言うとリラックスしてきましたっ。報告書は見てましたけど、キングスレーの奴、相変わらず化け物ぶりを発揮してますね。やっぱりアーちゃんもびっくりなのです」
「ガッハッハ! 全くだよあのヨリシロ。ワシの布都斯魂剣の腕を立て続けに切り落としていきおったわい!」
それから孫六は真面目な顔になって、腕組みした。
「ナラシンハとか言うバグアめ、無差別攻撃などと外道な所業を行い、何がマハラジャか! 被害をこれ以上増やさん為、一刻も早く占領地域を開放せねば!!」
「あのヨリシロって、前にも少し出てましたけど、ますますおかしくなってきてますよね。それだけ影響を与えるナラシンハってとんでもない人間だったんでしょうけど」
「大ダルダが危惧されていた通りだな! バグアと合体して本当の怪物になってしまったな! 今のナラシンハに人間の道理は通じんのだろう! それでいてバグア人的な理性もない。ここに至るまでに大量殺りくを行ったブライトンやウォン始め、バグア人が人間をゴミのように扱ってきた過去はあるにしろだ!」
「アーちゃんまだ生まれてないですから教科書でしか習ったことがないんです」
「‥‥‥‥」
孫六は、目の前の少女が傭兵だという現実にこの時代の悲劇を見る。
「空爆前に陽動撹乱。敵の指揮を混乱させる――」
ソーニャは言って、シャノンに言葉を投げる。
「シャノン、ボクの話にのってみる? うまくいくかはともかく、気分いいと思うの。あのね‥‥」
それはソーニャの秘策。シャノンはそれを聞いていたが、「どうかしらね」と呟く。
「まあ、そうね、キングスレーの部下達には通じるかも。でもヨリシロは簡単に行かないと思うわ」
「やってみる価値はあるよね。それでほとんどが崩れるなら。ねぇ、シャノン、もし気に入ったのなら、今夜は君のおごりね。これで、向こうに不和が生まれたらいいんだけどね」
「あなた、けっこう黒いわねえ。プロフィールにはメルヘンチックって書いてあったんだけど‥‥」
「技巧派のヨリシロ相手にしてたら鍛えられたのかも」
「よく言うわねえ‥‥」
ドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)は緊迫した面持ちでおどおどと口を開いた。
「インドの戦いには時折関わったがこれ程の戦線は初めて。確実に自分の戦いをしよう‥‥!」
「緊張しているといつもの力が出せませんから、肩の力を抜いて行きましょうね」
なでしこの穏やかな声に勇気づけられるドゥ。
「でも、やっぱり怖くないと言えば嘘になります。ナラシンハ、キングスレー、シュナイダー、僕の戦歴の中でもトップに来るヨリシロばかりですからね」
「そうですね。わたくしも似たようなものですけど、みなさんも戦闘になればやっぱり怖いって思うことはあると思うんですよ。こんな危険な戦場でしたら」
「なでしこ君、僕とほとんど変わらない歳なのに落ち着いてますね。何と言うか‥‥凄いオーラが出てます」
「そんなことないですよ〜、頑張りましょうね」
「フヒヒ、戦う前からこれじゃあ先が思いやられますね。でも頑張るぞ。ティターン相手にだって噛みついてやる」
それから、やがて作戦をまとめた傭兵たちはビルワラへ向かって出撃する――。
「敵さん上がって来るよ。カスタムタロス10機に、カスタムHW10機」
ユーリが簡易管制を行いつつ、地上とのデータリンクを図る。
「地上部隊、頼むよ」
「こちらドゥです。各機配置につきました。爆撃をお願いします」
「了解した。――それじゃみんな、乱戦になる前に仕掛けるよ。全機ブーストで降下、距離400で攻撃開始」
「了解したぜ。それじゃあ一つぶちかますか」
ソードは、口許を緩めて、降下していく。
「シュテルン隊、降下開始して下さい」
なでしこは言いつつ、操縦桿を傾けてシャノンのサポートについた。
「距離400! 全機対地攻撃開始!」
ユーリとソード、シュテルン隊がK02ミサイルを叩き込む。
「兵装1、3、4、5発射準備完了。PRM『アインス』Aモード起動。マルチロックオン開始、ブースト作動。ロックオン、全て完了! 『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
K02が地上に炸裂し、爆炎を舞い上げる。
「よし、爆撃は成功。各機ドッグファイトに備えろ」
「了解!」
「さぁいくわよ。うまくいったらほめてね」
ソーニャはそこでオープンチャンネル。
「ナラシンハの犬ども、お久しぶり。オルマーラ以来ね。相変わらずの道化ぶり、呆れるわ。ナラシンハの演説は聞いた? 神聖不可侵? まるで神ね。その神が貴方達の事、どう思っているのかしらね。仲間? 部下? いえ、手駒以下、無よ。虚栄心が肥大して頭のいかれたのってみんな同じ。ここでボク達を退けてもそれは自分だけの力と考えるわ。勿論、失敗は貴方達のせい。憎まれることはあっても感謝や評価はなしね。これは彼の虚栄心を満たすためだけの戦い。その先になにもないわ。まったくの無意味。他のバグアからばかにされてない? ここまでくると同情を通り越して呆れるわね」
チャンネルオフ
「また来るかな。思いっきり逃げるよ。データーリンク、位置情報お願い。逃走経路5、3、8、1誘導して下さい。各ポイント、迎撃よろしく」
「ソーニャ傭兵、あなたの挑発は見え透いてるわね。そんなのに毎回乗るほど私は間抜けじゃないのよ」
それはマリア・シュナイダーだった。
「マリアか。俺はソードだ。あんたじゃあシスの代わりにはなれないだろうけど、せいぜい頑張ってくれよ。あんたじゃ役不足だって言ってるんだけどね」
「お前がフレイア、ソードか‥‥役不足はどっちだ? 私に勝てるつもりか? シスに手こずっているようじゃ役不足だな」
「なるほど、シスとは違うようだなあんたは。シスなら激昂して飛びかかって来たよ」
「敵機が戦闘隊形で加速して来る。プロトン砲に気を付けろ! シャノン、管制を引き継いでくれ」
「了解。まあいいわ。任せて」
「迎撃します」
なでしこはミサイルポッドを叩き込み、続いてGP7を撃ち込む。
「なでしこ、援護よろしく」
ユーリは加速すると、タロスプラスにリニア砲を叩き込み、リニア砲を続いて発射する。
「行くぞ!」
そのまま突進してソードウイングで切り掛かる。タロスプラスは真っ二つになった。
「ソーニャ傭兵! 殺してやるぞ!」
「ほんと。前の時もそう。反応が人間ぽっくてびっくりするよ。いや、強化‥‥人間だものね」
ソーニャは逃げつつ誘導。
「飛行技術の見せ所だね。おもいっきり派手にいくよ。フレア展開、フルブースト、回避技――ファントム」
「食らえバグア野郎!」
ソードは誘導されたタロスをエニセイで破壊する。
「プラチナタロス――」
マリアが接近して来る。
ソードとマリアはドッグファイトに突入し、激しく上空で揉み合う。
プロトン砲を回避しつつ、エニセイを撃ち込む。
マリアは回避し、バグア式カプロイアミサイルで反撃して来る。
ソードはアクロバットに機体をジャンプさせて回避する。
「やるなこいつ――」
清四郎はミカガミと行動を共にして先頭を立っていく
「いくぞ、いい加減キングスレーとの腐れ縁も切りたいものだ!」
楔形の陣形を取り、相手に突撃を仕掛けて穴を開ける。
「さあ、神聖不可侵な領域を土足で踏みにじらせてもらうぞ!」
「行くぞキングスレー!」
孫六は、開戦と同時にストライクAC併用で筒(種子島)を敵集団に放ち、急速接近。
「ガッハッハ! ナラシンハのような、イカレた奴の下で戦うお前には同情するな! どうせだから、ワシ等にあのじぃ様の居所を教えてくれんかね? ガッハッハ! 前回も腕を斬り落とされたからな、流石は童子切と言った所か! このままだと腕のスペアが無くなりそうだからな、今回はやらせんぞ!」
「アーちゃんにも熱意があるんだよっ。キングスレー、君にいつまでも地球を蹂躙させないんだからねっ」
「孫六、堺、ウイング――俺も勉強させてもらったよ。お前たちとの戦いで、学ぶことが無かったら、今頃処分されているかも知れん」
「ナラシンハは命を懸けるべきほどものか? バグアども! くだらない主のために戦うのが嫌なら、矜持のために戦え!」
「それは正論だが、ナラシンハは狂っても上位バグアだ」
「折角なので楽しんでって下さいな、僕のトゥオマジアが指揮する演奏を!」
ドゥはスナイパーライフルLPM−1を地面に撃ち込んだ。
「何だそれは? 地球の言葉か」
「行くぞ――!」
傭兵たちは加速した。
カスタムタロスも抜刀して突撃して来る。
キングスレーのカスタムティターンも前進する。
「邪魔だ!」
「ガッハッハ!」
清四郎と孫六は刀と剣でカスタムタロスを切り裂く。
アークが側背から回り込む。
「ひさしぶりだね、キングスレー。あんな変人の命令で出撃とはご苦労だね」
練剣「白雪」でティターンの胴体を連続して突く。
「ナラシンハって言動を聞く限り、ヨリシロにした人間の影響をもろに受けているよね。それって、バグア的にセーフなの?」
「そんなことは無問題だ。この状況下での無差別攻撃は愚策だが、人間を幾ら殺したって咎められるわけじゃない。指揮能力とは別問題だな」
キングスレーは言うと、アークのシュテルンを練剣で吹き飛ばした。
「ぬう! キングスレー!」
孫六のシコンの一撃をキングスレーは受け止める。
「いよいよクライマックスが近いか」
鍔迫り合いになったところで、暗器として用意したメガレーザーアイをストライクAC併用で撃つ。ティターンはよろめいた。
「食らえ!」
清四郎が雪村で切り掛かる。
「ちい‥‥!」
キングスレーは弾き返しつつプロトン砲で応戦する。
「終焉の秒読みだ‥‥待ってろモンストログスト!」
ドゥは戦場を移動しつつ、テールアンカー使用でスナイパーライフルでワームを撃ち貫く。
「とと、来ましたか」
ドゥは上空を振り仰いだ。制空権を確保したシュテルン部隊が降下して来る。
「待たせたな!」
「本当ですよ。でも、後は止めを差すだけです」
ドゥの言葉に、傭兵たちは歓声を上げる。
「よし行くぞ!」
「ふむ、ナラシンハに借りを作る必要もない。ここまでだな」
キングスレーは言うと、部下たちと戦線を離脱する。
ビルワラを制圧したUPC軍は、司令部の残骸で意外な発見をする。
孫六は、言葉を失った。
「マールデウ‥‥か」
残された映像から、ナラシンハの作戦拠点と思しき場所が明らかになる。それは、かつてジョージ・バークレーのラインホールドによって消滅させられた場所だった。