●リプレイ本文
「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェスト(
ga0241)だ〜」
ドクターはそう言って、アキラに自己紹介する。
「私設研究グループのウェスト――異種生物対策――研究所所長だ〜。分子生物学が専攻だが、フォースフィールドの分析、無効化を研究中だね〜。吾輩の研究対象は多岐にわたる。そう、仲間の能力者でさえ吾輩の研究対象なのだ〜。勿論君もだね〜」
「それはどうも。随分博識な人なんだなあんたは」
「けひゃ、フォースフィールドについて聞きたいかね〜。誰が見てもあの赤色の障壁にはバグアの超科学がつぎ込まれているんだが、あれは――」
「ドクター、超科学なら人間にはどの道理解できないんじゃないか? だって慣性制御装置すら解明できていないのに」
「けひゃひゃ、君は良いところを突くね〜。だがガリレオだって当時は誰にも信じられなかった。我輩が超科学に挑むのはそこに真実があるからなのだ〜」
「ガリレオですか」
アキラは呆れたように肩をすくめる。
「まあ、確かに地球が平らだと信じられていた時代に地動説を唱えるのは勇気がいるでしょうね」
「分子生物学の観点から言えばあのフォースフィールドは――」
「ドクター、その辺で良いですよ」
アキラは慌ててドクターを止める。
ソード(
ga6675)はお茶を飲んでいた。
「ふう、それにしても、久しぶりの日本だな。ダム・ダル(gz0119)と春日で戦って以来かな。半年以上になるな」
「もうそんなになるんだねあれから」
ソーニャ(
gb5824)は言って、コーヒーの紙コップに口をつけた。
「ボクは時々日本には来てたけど‥‥」
「どうやら、聞くところによるとまたキングスレーとシスに会えそうじゃないか。ナオミさん、あの二人はヨリシロで、とんでもない凄腕なんだ」
「とんでもない凄腕と言うからには、それはもう凄いんでしょうね」
ナオミは面白そうにソードをからかう。
「冗談ではなく、凄いぜあの二人は」
「報告書はフローラから貰ったわ。確かに、尋常じゃない。でも興味深いわね。これだけの戦績を残しているヨリシロがアジア全域を飛び回っているなんてね。バグアも前線のてこ入れでも図っているのかしらね」
「この地上もまだ見捨てられたわけじゃないのかもな。戦闘は宇宙へ上がりつつあるようだが」
「オペレーションアウターフロンティア。ようやくあの赤い星に近づくことが出来るのね。まあ壮大な話だけど、こんな日本の一角でも戦闘は続いている‥‥戦闘はいつか終わるのかしら。停戦は無いって噂も流れ始めているしね。私たち下っ端は何を信じていいのやら」
「目の前の戦いに集中するしかないだろう。俺たちにはそれしか出来ない。手の届かないものを追いかけることは出来ないからな」
ソードはお茶目な糸目でにっこり笑った。ナオミは肩をすくめる。
「ふーむ、以前よりも有人機の数が少ないな、どうやら補充要員が来ていないようだな」
堺・清四郎(
gb3564)は言って、資料に目を落としていた。
それにしても千葉の奪還の依頼を受けてみればなんという僥倖。我が剣虎の片腕を持っていかれた借りを返すとしよう。勝利を我が手に――!
「アキラ、陸から基地へではなく海からK02を全弾発射後ミカガミ部隊とともに超低空飛行で一直線に基地に強襲をかけ強行着陸し、そのまま陸戦を挑む、と言う流れでどうだ」
「いえ、良いんじゃないですか。ミカガミ部隊はそれじゃあ清四郎さんに任せますよ」
「首尾良く基地へ取り付けたら通信系と対空兵器、及び発電系を優先的に狙って壊す」
清四郎は言って、回線を繋いだ。
「フローラ、こっちは海からK02を叩き込んで強行着陸、敵の通信系と対空兵器、発電系を潰していきたい。支援を頼めるか」
「了解しました清四郎さん。銚子基地のデータは全機に送っておきますね。管制支援はこちらでも行います」
フローラ・ワイズマン(gz0213)は、モニターの向こうで頷いた。
「何ヶ月ぶりかの日本だね。しかし、キングスレーもあっちこっちの戦場に出てくるね。フットワークが軽いのか、単に便利使いされているだけなのか」
と呟いているのはアーク・ウイング(
gb4432)。日本に来るのは東京以来となる。
「アーちゃんさん、実はアジア各地でキングスレーが関わっていると思われる散発的なゲリラ的な破壊工作が起きています。UPC軍の後方支援部隊を狙ったりしたものですが」
モニターの向こうのフローラは言って、アークに言葉を掛けた。
「そうなんですか? それは知らなかったですね。そんな事件があるんですか?」
「中国、インド、中東で、軍の後方支援部隊が破壊されています。大きな被害は出ていませんが。キングスレーが動かしていると見られる強化人間が破壊工作に当たっているようです」
アークは唸った。
「そんなことに関わっているんですねキングスレーは」
アークは言って、ぷりぷりと怒って拳を握りしめる。
「ワイズマン氏は現場勤務になったのか? 思えば直接会ったことは無かったな! 作戦が上手くいったら、飛びきり苦い珈琲でも入れてくれれば嬉しいな!」
孫六 兼元(
gb5331)はそう言って、ガッハッハ! と笑った。
「これからは現場にてみなさんのサポートに回ります。孫六さんには苦いコーヒーを用意しておきますね」
「ガッハッハ! 現場はきついぞ! オペレータも大変な仕事だが、現場の先輩としてアドバイスさせてもらえば、現場は現場で厳しいからな! 慣れんうちは大変だろう! 肩ひじ張らずに頑張って欲しいぞ、ウム!」
「自分から希望した仕事ですから、頑張ります」
「ガッハッハ! よろしく頼む!」
それから孫六は愛機を見上げる。シコン――布都斯魂剣(フツシミタマ)。機体は全身銀色に染め上げ、先日キングスレーに斬られた右腕の、肘から先のみを深紅に塗装している。
「アキラ氏、ワシとアーク氏、堺氏は陸戦で基地侵攻に参加する! 軍KVの副長機と雷電5機にも加わって貰いたいぞ!」
「了解した。ではナオミ、そっちへ回ってくれ。俺は空へ回る」
「了解。よろしく孫六」
「ガッハッハ! よろしくだ!」
孫六とナオミは握手を交わした。
「では行くか」
アキラは軽く拳を持ち上げた。
「デルタチーム、これより発進するぞ。イーグル、支援をよろしく頼む――」
「兵装1、3、4、5発射準備完了。PRM『アインス』Aモード起動。マルチロックオン開始、ブースト作動。ロックオン、全て完了! 『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
ソードの空戦必殺技『レギオンバスター』――ブースターとPRMを起動。錬力100全てを状況に合わせた能力に使用しミサイル2100発を発射するフレイアの空戦必殺技である。
空戦の皮切りはレギオンバスター。
「けひゃ、FOX2ミサイル発射だね〜」
「全機ミサイル発射!」
「食らえ! FOX2!」
傭兵たちから放たれる数千発のミサイルがタロスに叩きつけられる。タロスは回避行動をとりつつ、プロトン砲による反撃に出る。
「やあ、アマンダ。日本でも会えるなんて奇遇じゃないか。良かったら景勝地を案内しようか」
ソードは、回線を開いてシスに呼び掛ける。
「また何言ってるお前は。私をおちょくる手はそろそろ飽きて来たぞ」
アマンダ・シスは苛立たしげに答える。
「あ、そうだ。景勝地はほとんどバグアに占領されたんだ。残念だな〜」
「だ・ま・れ!」
シスは回線を切った。
ドクターはフェニックスのアキラと、ディアブロ部隊、シュテルン部隊を率いて空戦に参加。
「さあ、撃墜といわず、バグアを撃破しにいこうか〜!」
と、貰った敵の情報を精査する。
「ふ〜む、ドチラも模範的な軍人ではなかったようだから、ちょっと手こずるかもね〜」
「ドクター、来ますよ!」
「けひゃひゃ」
ドクターはバレルロールで加速すると、戦場に飛び込み、ミサイルポッドにレーザーカノンで仲間を援護する。
「ドクター! そっちへ一機!」
ドクターはコンソールを操作すると、スタビライザーBで変形しながらブーステッドソードで反撃する。高性能ラージフレアをばら撒く。すれ違いざまにタロスの腕を切り取った。
「カスタムタロスプラスだね〜、ディアブロの攻撃力、シュテルンの機動力を頼りにしてるよ〜。行こうかね〜アキラ君」
「そっち、頼みます!」
ドクターは旋回すると、援護を受けつつ空戦スタビライザーでアキラと挟撃。スタビライザーAB、エアロサーカス起動、バニシングナックルで攻撃する。
「エアロサ〜カス〜! そして、バ〜ニシング、ナッコォー!!」
「食らえ!」
タロスプラスは、凄絶なバニシングナックルの一撃を受けて爆散する。
「アレンとシス、本当に日本に来てたんだね。追って来ちゃった。こんな高揚感は久しぶり。顔が上気しちゃう。色っぽい?」
ソーニャは回線を開いて呼び掛けた。今回は最初から全開モード。アリス、マイクロ、通常ブースト全開で一気に突っ込み、火力を叩き込む。
「‥‥‥‥」
「先回はしてやられたね。シス、君にじゃないよ。君のとどめに気を取られ過ぎてたのはあるけど、ボクに後ろから体当たりだなんて、やるじゃない? ほんと情熱的だよ、あのタロス。君を追って行けばまた会えると思っていたよ。ひょっとして君の事がすきなのかもね。でも今日はボクでいっぱいにしてあげる」
「おい、お前のことらしいぞ」
「またソーニャ傭兵か。敵じゃなかったらな」
「ほら見つけた。フルブースト! 今回はシスを助けになんか行かさないよ。今日はソードさんに百戦練磨のドクターがいるからね。シスもいっぱい感じてるんじゃないかな。君の出番はないよ――。G放電連射! どう? 逃げられないでしょ」
「何だと、うわ‥‥この!」
タロスは凄絶な放電の直撃を受けて傾いた。
「君を想い、幾夜眠れない時をすごしたことか、今度は君がボクをいっぱい感じてね」
捻り込み、下からタロスを突き上げる。GP−7全弾集中攻撃!
「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」
爆風でタロスをさらに高く突き上げる。
「そしてこの空に砕け散りなさい」
レーザーを連射、貫く。
「お前‥‥何だ‥‥と‥‥!」
件のタロスはソーニャの猛攻を受けて爆発四散した。
「ヘン? これでも、ボクは大人の女だからね。疼いちゃう時もあるんだよ。シス、君がボクのへんなスイッチいれちゃった。今日は全開で行く」
「ソーニャ! お前はおかしい! わ、私に近づくな! 近づくなああああ!」
シスのゴールドタロスは、機動を乱してでたらめにプロトン砲を撃つ。
「今ね。フルブーストで一撃、挨拶よ。君にもしっかりお礼しておかないとね。君もボクの想い人だよ――やっぱり、人を想い、焦がれるっていいね。笑みがこぼれる。わくわくする」
ソーニャはミサイルを放出して突撃、加速した。
「なーんてな! やっぱり掛かったなソーニャ! 所詮は人間!」
ゴールドタロスはアクロバットに加速すると、エルシアンの上に回り込み、プロトン砲を連射した。爆発炎上するエルシアン。ソーニャは落下していく機体から脱出する。
「ソーニャさん! アマンダ! こっちだ!」
「来たかソード――!」
「まさか、ありえないという思い込みこそが奇襲や強襲を成功させるコツだ」
清四郎は海上から銚子に加速して行く。
「どのみち敵もエースぞろいだ、一手を打たないとこちらの被害も大きくなるのが必定――変に及び腰になったほうが撃墜されるぞ! 全機カプロイアミサイル発射!」
「撃て!」
清四郎らのミカガミ部隊は、海上から超低空飛行で奇襲をかけ、強行着陸に打って出る。その作戦は見事に成功した。
「よし行くぞ! 敵にこの基地を守る価値を無くさせろ!」
基地の通信系と対空兵器、及び発電系を優先的に狙って壊す。
タロスが前進して来る。
「待て‥‥奴らが来るまで‥‥よし今だ!」
清四郎達は瓦礫から飛び出した。ゲリラ的接近戦――。清四郎はタロスを切り捨てた。
「どうした、寄生虫の犬共! この程度か!?」
「よし! アーちゃん氏! 堺氏の強襲が上手く行くよう、盛大に暴れるとしよう! キングスレーが出てくるまで、手身近な敵には手当たり次第に攻撃だ!」
「援護します孫六さん」
タロスを撃退していく孫六にアーク、友軍各機。そして――。
「む! アーちゃん氏、奴が来た! 抑えるぞ!!」
出現したのは、アレン・キングスレーのカスタムティターン。
「この前はヤッてくれたな、キングスレー! 斬られた腕の借りを返しに来たぞ!」
「久々だな! 左遷でもされたか!? 俺もエース等と言われてるのでな、無様は見せられん!」
「アーちゃんが懲らしめてあげるからね!」
「来たか傭兵ども。孫六に清四郎、アークか。久しぶりだな」
キングスレーは悠然と機刀を地面に突き立てた。
「他人に勝手に称号を付ける癖が有るので、キングスレーにも付けてやろう! 源頼光と酒呑童子の故事になぞらえて『赤星の童子切』を進呈だ! もっとも、結末は故事の様には行かん! 最後に勝つのは『鬼』であるワシの方だ!」
「それはすまなかったな。だが最後に勝つのは俺だ」
「ワシだ!」
「いやそれは違う孫六――」
するするとアークが友軍と側面に回り込んでいく。
「好き勝手に暴れられたら、たまらないからね。お前の相手は、アーちゃん達がするよ」
名乗りの代わりと、キングスレーの注意を引くことが目的。
「何?」
アークはブースターで加速した。白兵戦用の兵装もうまく振るえないくらいの距離まで一機に接近して、練剣「白雪」をティターンに突き立てる。
「やるじゃないか!」
キングスレーは機刀を一閃してアーク機の片腕を切り落とした。
「さすが――でも!」
アークが離脱するのと入れ違いに、清四郎がマニューバ使用の雪村で切り掛かる。
「先の借りは返させてもらうぞ!」
「ぬうっ――」
後退するティターンの手首を切り飛ばしたが、反撃のプロトン砲で剣虎は凄絶に破壊された。
「こいつ‥‥!」
「孫六さん!」
アークが銃撃を継続する――孫六が加速する。
「堺氏行けるか!」
「ああ! やってくれる!」
孫六は機剣「ファーマメント」を右肩に担ぎ、八双の構え。アークとの攻撃を行いつつ、ティターンの上半身に攻撃を集中する。
ティターンのプロトン砲はAECで凌ぎ、至近距離に張り付き攻撃を加える。
「ちい‥‥しぶとい!」
キングスレーは孫六機に片腕を切り飛ばされて後退する。
その瞬間、孫六はティターンの下腹にゼロ距離で種子島を撃ち込んだ。上半身に攻撃を集中したのは、この伏線。
「筒の抜打ちだ! 言ったろう、借りは返すとな!!」
高出力レーザーがティターンを貫通する。
「孫六‥‥次にあった時は俺が借りを返す」
言って、キングスレーは機体を立て直して舞い上がると撤退した。
かくしてUPC軍は銚子市のバグア基地を制圧する。
‥‥帰還した孫六はとびきり苦いコーヒーでほっと一息ついたそうである。