●リプレイ本文
上空――。
「聞いてますかアマンダ・シス――」
ソード(
ga6675)は回線に呼びかける。
「聞こえているぞソード」
アマンダ・シスは唸るように言った。
「アマンダ、時として敵同士でありながら特別な感情が芽生えることがあります。こんな戦場で、敵を認めることがどんなに馬鹿げたことか。でも、俺はどうやらあなたに特別な感情を抱いている自分に気付きました。あなただってそうじゃありませんか」
「お前――」
アマンダは笑い出した。
「そう言うことか。ブライトン様を退けた人間の守りの力は恐るべきものだが、それとは別だ。恋愛感情に私が翻弄されると思っているのか。人間は知識を吸収するための道具に過ぎん。既に人間はバグアにとって危険だと私も考えている。だから、お前のことは思い切り叩き潰してやりたいんだよソード!」
「そう来なくちゃいけませんねえアマンダ。好きですよ」
それを聞いていたソーニャ(
gb5824)。
「まいったなぁ。ボクはボクの欲望にまかせてボクだけの為に飛ぶ、妙な考えは控えようと思っていたのに‥‥面白すぎだったよ。また、妙な好奇心が。だよねえソードさん」
「ええ全く」
「ナラシンハ――こんなにも人間だった時の憎悪、妄執、感情が影響するなんてね。もし、今までバクアが侵略してきた異星生命体と比べ地球人がとびきり感情的な生き物だったら、ひょっとして地球人のヨリシロは地球人的感情に汚染されているのかもしれない。生前、強い感情を持っていたヨリシロは特にね。妄執かぁ‥‥それは愛だね。ヨリシロと人との愛‥‥いいかも。君だってそう思わないアマンダ」
「ああ、ナラシンハは狂ってる。ああいう奴は自爆するのが落ちだろうなあ‥‥ふふ」
「アマンダ――そう言う君の中には恋しい人はいないのかい。検索してみてよ。それとも恋してみる? いい人紹介するよ。ソードさんなんてどぉ?」
「ソーニャ、解った気がする。お前がバグアの心に固執する訳は、自分の心の持ち合わせに自信がないからだな。ヨリシロでさえ心を持っている、ならば自分もと安心したいんだ。それとも、こちら側のものと疑ってるのかな」
その言葉にソーニャの目つきがきらりと変わる。
「アマンダ、それは女の感? 君とは生身で話し合う必要がありそうだね。じっくり恋についてね。だからまずは落ちなさい」
「今日のお前たちは歯切れが悪いな。女の勘? そもそもバグア人に男だの女だの存在しない。ヨリシロをまとったら私と価値観を共有できるとでも思っているのか? 生身で話し合う時は、私が限界突破する時だ。もちろんそこにお前がいたらずたずたに引き裂いてやる」
「今日はボクたちの負けみたい」
陸上――。
「サマーワの続きだ、派手にいくぞ!」
堺・清四郎(
gb3564)は言って、コクピットで拳を打ち合わせた。
「サマーワでは、空戦だったからな。雪村を使えず不完全燃焼だったが今回は陸戦だ。我が建御雷と雪村を信じ、前に進むのみ!!」
僚機にはミカガミを四機。陣形はアローヘッド、清四郎は中央の矛先となり、一気にバグア軍の陣形に穴をあけ後続の道を作るつもりだった。
「フォーメーションアローヘッドだ、俺がセンターを務める。敵陣に飛び込んで穴をあけるぞ」
「了解した清四郎。後に続く」
「怖気づいたか? ミカガミファイター?」
「そんなわけないでしょう。そっちこそ、今になってびびってないわよね」
「ああ、いや、実を言うと正直言ってちょっと怖いかな。俺は弱っちいし、こんな大規模作戦でトップを張るのは初めてだ。みんなには助けて欲しい‥‥」
「ちょっと! あなた、ぶっ飛ばすわよ!」
女性パイロットは清四郎のジョークに大受けだった。清四郎は声のトーンを切り替える。
「アローヘッドで突入する! 遅れるなよミカガミファイター!」
「変なバグア幹部が出てきたみたいだけど、まあ、アーちゃんたちはいつもどおり戦うだけだね」
と呟いているのはアーク・ウイング(
gb4432)。
「みんな準備はオーケーかな? アーちゃんたちのチームの一番の目的はキングスレーのカスタムティターンを狙っている孫六さんの援護だよ」
アークのチームは、アークの他、同じくシュテルン四機だった。
「接近戦は避けて行くよ。アーちゃん達は射撃に専念して、友軍のサポートに回るからね」
「了解したアーちゃん」
「噂のカスタムティターンか。もの凄く速いそうじゃないか」
「カスタム機なんだけど、あの改造機は凄く強い。それに、キングスレーは歴戦のつわものです。何でも、アジア・オセアニアバグア軍の本部にいた上級戦闘員らしいですから」
「上級戦闘員ねえ‥‥」
「キングスレーが射程に入るまでは、各自、各個撃破に専念していきましょうね」
「ガッハッハ! 今回はいつにも増して、規模が大きな作戦だな! 此れだけの戦だ、必ず奴が現れる! キングスレーの奴がな!!」
言ったのは孫六 兼元(
gb5331)。
「ワシも新たな『牙』を持って、この戦いに挑む! ロールアウトされたシコン『布都斯魂剣』だ! ヤマタノオロチを退治した剣『天羽々斬剣』の別名『布都斯魂剣』を愛称とする、ワシの新たな機体。筒の威力、見せてくれよう! ガッハッハ!」
孫六のチームは他オウガ四機が同行する。
「格闘戦に特化して行動するので、きっとゼピュロスブレードは優秀だろう!」
「孫六、キングスレーは出て来るかな」
「うむ! 必ず出て来る! あのバグア人は思ったよりも何と言うか‥‥自分でも言っていたが矜持を持って戦うと! ワシが狙いに行けば必ず応えて来るだろう!」
「リーダーが先陣切って突撃しないでくれよ」
「ガッハッハ!」
「――孫六さん。アーちゃん達がサポートします」
「うむ! アーちゃん氏らの援護射撃に期待しとる!」
「まあ、奪われたり取り戻したりってのには興味がねぇ」
そこで杜若 トガ(
gc4987)が言った。
「ただそこで暴れさせてくれるってんなら使ってくれってところかね。ネームド相手は御免だよ。こっちの目的はカラチの攻略。基地の攻略に専念させてもらうぜ」
「ああ、頼むぞトガ。全員でワームを狙いに行って基地は落とせなかったってんじゃ洒落にもならんからな」
清四郎は言った。
「俺も出来るだけ基地の攻略には気を使うつもりだが‥‥足りん所は任せるぞ!」
「ああ。そんなに頼りにされちゃ俺の心臓もバクバク言ってるよ」
「またそんなことを。よろしく頼むぞ!」
「クク‥‥! さぁて、猟犬部隊のお出ましだぁ。行くぜみなの衆」
トガのチームはシラヌイ二機とオウガ、破暁を一機ずつ。
「ハウンドワン、先頭に付くぜ。オウガと破暁は左右に付け。スリートップで行くぞ。シラヌイは後衛の射撃役をよろしく!」
チームの全機ともに黒にカラーリングされている。漆黒の猟犬部隊と言うところか。
「とっとと基地を攻略して、後は適当にパーティーでも開こうや」
「ト〜ガ〜!」
「そうマジになるなよ。俺が自分から死にに行くタイプに見えるか? チームワークだろ?」
「お前さんが言うとどうもな」
「そう言うの、面白いじゃねえか――」
戦闘開始――。
「兵装1、3、4、5発射準備完了。PRM『アインス』Aモード起動。マルチロックオン開始、ブースト作動。――ロックオン、全て完了! 『レギオンバスター』、――――発射ッ!!」
「よーし行くぞ! FOX2ミサイル発射!」
ソードのレギオンバスターに続いて、軍傭兵たちはミサイルを発射した。
「行くよ! アリス、マイクロブースト起動! 最初のGP−02Sミサイルポッド! 行けーエルシアン!」
ソーニャもバレルロールで加速する。
反撃のプロトン砲が来る。上空に散るHWとタロス――。
「ソードさん!」
「行きましょうかソーニャさん。シュテルン各機、支援をお願いしますよ」
「了解!」
突進して来るHWを叩き落としつつ敵中に切り込む。
「ソード!」
「待ってましたよアマンダ。会いたかったですよ」
「調子に乗るなよ、今日こそ決着を付ける!」
アマンダはゴールドタロスを駆り、プロトン砲を連射して来る。
直撃を受けて爆発するフレイア。
「さしずめボクは愛のキューピッド、君をまずは引きずり下ろすよ」
ソーニャは側面からプラズマリボルバーを叩き込んだ。
「シスを追いこんで下さい」
ソードは僚機に言いつつ、エニセイを八連射した。ゴールドタロスの装甲が吹き飛ぶ。
「おのれ‥‥でやああああ!」
アマンダは叫びながら後退して、プロトン砲を連射する。
「そこまで! ソードさん!」
ソーニャとソードが連携して、ゴールドタロスを挟み込む。エニセイとプラズマリボルバーが立て続けに撃ち込まれる。
爆発炎上するゴールドタロス。
「空に‥‥だがここまでか‥‥くそ!」
アマンダは撤退すると、数百発のミサイルをばら撒いて戦場から離脱した。
清四郎は突進する――。
「死地は前にこそ活路がある! よーし行くぞ続け!」
「全く無茶苦茶なんだから!」
清四郎は笑声を上げて加速すると、アハトを叩き込みつつ加速、最初の一撃でゴーレムを一刀両断した。続いて、返す一撃でタロスを真っ二つに切り裂く。
「どうしたバグア! 初期の勝ち戦に慣れすぎたか!?」
「凄いな清四郎は‥‥何て機体だ」
僚機の軍傭兵は次々とゴーレムとタロスを粉砕していく剣虎に、戦慄を覚える。
「雑魚ども! 掛かって来いやあ!」
言いつつ、清四郎は巧みに敵との間合いを図る。無謀な突撃は行わない。
だが無人機のゴーレムは続々となだれ込んで来る。
「切り裂け! 行くぞ!」
清四郎は突撃する。友軍各機ともにレーザーを叩き込みつつ前進する。爆発炎上するゴーレム軍。激突――! 清四郎達はゴーレムの群れを叩き潰した。
「兼元! どうだ! お目当ての奴は出たか!」
「ガッハッハ! それがどうやら、まだでな!」
兼元は笑って、種子島の発射態勢に入る。
「筒を放つ! 巻き込まれるなよ! 3・2・1、撃い!」
シコンの固定兵装高出力レーザー「種子島」。直線200メートルを薙ぎ払うレーザーがバグア軍の戦列を貫通する。
孫六は双機刀に切り替えると、即座に吶喊し、有人機を優先して倒しながら、キングスレーを探す。
「キングスレーは何処だ?! 知らんのなら、お前に用は無い! 散れ!」
「ぬう!」
「孫六――気を付けろ」
「ガッハッハ! 何の!」
一撃二撃とタロスと打ち合い、これを後退させる。
「そのためのみなの衆だ! サイドを固めてくれ!」
「了解した」
オウガがシコンの側面に回り込み、ワームを押し返す。
――と、アークはレーダーに目を落とした。
「これは‥‥来ましたっ、キングスレー! みんな銃撃用意を!」
「来たか――」
悠然と戦列を割って姿を見せるカスタムティターン。
「どこかで聞いた声がしたと思ったら、孫六兼元か。シコンか」
「みんな! 銃撃開始! 一斉射撃!」
アークらが問答無用で十字砲火を浴びせると、キングスレーは盾を持ち上げて受け止めた。
「アーク・ウイングか、挨拶も無しか」
「孫六さん――援護します!」
「キングスレー! 死期が近いか!? 初御目見えの機体だ! 冥土の土産に、良く見ておけ! 超伝導アクチュエータ起動! みなの衆、回り込め!」
オウガはTB/Bのタイミングを図りつつ散開する。
アークらの激しい銃撃でキングスレーの足が止まる。
孫六は加速すると、超伝導とストライクACを使い真Dコレダーを放つ。ティターンの盾が砕け散る。続いて練剣「白雪」で追い討ち!
「隙を衝き、深く入り強く撃つ! 兵法の基本だ!!」
練剣がティターンを貫通するが――。
「ならばこそ、虚を以って実を討つ、そうだろう孫六――」
キングスレーは腰に差したレーザーブレードを素早く抜いて、シコンの片腕を切り落とした。
「ぬう――!」
「あれは前のエースか! 散開! フラットシザース!!」
そこへ突入して来る清四郎。自身に注意をひきつけさせ、両翼の2機を一時突出させ敵後方から攻撃をしかけ前後から機動挟撃を仕掛ける。
「ぬっ――」
「でやあああ!」
清四郎は超強化の刀を撃ち込んだ。
キングスレーはもう一本の刀で受け止める。
「まだまだあ! 機体内蔵雪村!」
ミカガミの高出力エネルギーがティターンを切り裂く。そして背後からティターンは貫かれた。
「さすがに、やる奴がいるな」
キングスレーは冷静に刀とレーザーブレードを捌くと、剣虎の腕を切り飛ばし、友軍のミカガミを叩き潰した。
「化け物かこいつ‥‥!」
清四郎は後退した。
その頃、トガたちは、軍から戦況のデータを貰って戦術的に落とすべき地点や苦戦区域を確認だ。情勢に応じて必要な現場に向かっていた。
「さーてお仕事開始だぜ、ククッ」
素早く展開するトガたち。オウガと破暁がフェンリルを援護する。
接近して来るゴーレムを撃破していく。
「クカカッ、そこ行くぜえ! 援護しろ! 部隊突入!」
「行くぞ!」
トガ達は、カラチの東部に進軍していく。基地を破壊しつつ前進する。
「ククッ! 打ち上げ花火だ!」
グレネードを叩き込み、護衛のゴーレムもろとも敵の司令センターを破壊する。
トガはアリスシステムとマイクロブーストを起動させて、真っ先に飛び込み引っ掻き回す。アサシネイトクローで切り掛かる。
「ちい!」
タロスエースは舌打ちしつつ、プロトン砲を叩き込み後退する。
「行け!」
破暁とオウガが突撃する。シラヌイは後方から左右に展開する。
「超限界稼働!」
「ツインブーストB!」
続いてトガが加速して「グレイプニル」を叩き込む。
「クカカッ、お前なんぞ犬の餌で十分だぁ!」
疾走する黒狼。練牙がタロスを真っ二つに引き裂いた。
「よしここまでだ! いったん退くぜ! シラヌイ、煙幕装置で撤退を支援しろ! 一気に戻って補給だ――」
その後――カラチは激戦の末に制圧された。シスとキングスレーは後退する。
トガは戦場にあって、カラチの残骸を見つめていた。と、オペレータと回線を開く。
「まっ、折角だし無線越しにオペレーターでも口説いておくか。こちらハウンドワン、作戦終了だぁ。ククッ、オペレータ、どうせなら成功報酬に一晩お付き合いなんてのはつかねぇか?」
「あら、いきなりですね。それで誘ってるつもりですか」
オペレータの女性はトガの言葉を軽く流した。
「お堅いこと言うなよ。流れに身を任せ、今を楽しむ」
「ハウンドワン、オペレータがみんな冷たい視線でお出迎えしますからね」
「そうとも限らないだろうぜ、クカカッ」
「ハウンドワン、切りますよ!」
オペレータは通信を切った。
清四郎は、無事に生還したことを祝して僚機の皆に酒の飲み放題などを奢る。
「無茶な戦いに付き合ってもらい感謝する」
「いや、さすがはラスホプのエースだったよ」
「飲むか? むろん俺のおごりだ」
「やったー! 私じゃんじゃん飲んじゃうよー!」
そうして、清四郎達は夜の街に繰り出すのだった――。