タイトル:荒野は血に染まるマスター:柳高 ぱんな

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/13 04:29

●オープニング本文


「頼む! 助けてくれッ!!」
 全身傷だらけの傭兵からの救助要請。いや、それは嘆願だった。

 彼らは北アメリカ大陸中央平原に位置する町外れにキメラ討伐の任務に出かけた傭兵のチームだった。
 事前の情報では8人の戦闘レベルで問題ない任務だった。そのはずだった。
 しかし彼らが討伐したキメラはある意味で囮だったのだ。小型の飛行型キメラを数体倒し、剣を鞘に収めようとしたときにそれは襲い掛かってきた。彼らが倒したキメラの数倍はあろうかと思われる、体長2メートル前後の猛禽類を模したキメラ、それが5体。先の戦闘で力を消耗していなかったとしても、彼らに勝ち目はなかった。
 勝ち目がなくとも彼らは戦った。戦い、生きるのが傭兵だからだ。彼らは自分が傭兵であることに誇りを持っているからだ。
 ライフルのスライドが金切り声で弾切れを告げ、血濡れの剣が手から滑り落ちても彼らは生きることを諦めなかった。そして、彼らの道を切り開いたのがチームのリーダーだった。
 実際彼がチーム内でもっとも戦闘能力が高く、場数を踏んでいたのは間違いない。だがそれ以外は他の傭兵と変わらない。強いて言うならば、彼の精神力が他の傭兵のそれよりも飛びぬけて高かったのかもしれない。
 彼は装甲を施された軍用ジープを盾にキメラの群れに突っ込んだ。キメラも彼の能力の高さを理解したかのように、わずかな時間だが彼に攻撃を集中した。彼はライフルの銃身が焼け付くまで、ハンドガンの衝撃にすら腕が耐えられなくなるまで戦ってキメラを引き付けた。仲間の血路を開くための、死への戦い。
 もちろん仲間がそんな行動を認めるはずはなかった。しかしリーダーは、無線が割れるほど逃げろと叫んだ。

「あんたを置いて逃げられるかよ!」
「生き残れる命まで落としてどうする! 生きて帰れ! 援軍でもつれて来い! 死んだら殺す! 振り返ったら撃つ!」
「ふざけ‥‥!」
 肩を小口径拳銃の弾丸が貫いた。
「本当に撃つ奴がいるかぁぁ!!」

 8人の傭兵チームは、大型飛行型キメラを2体戦闘不能にした。
 生きてラスト・ホープに帰ってきたのは7人、内2人が重症。
 彼らのリーダーが生き残っているかどうかはわからない。キメラがその場を離れたのかどうかもわからない。
 ただ、彼らの望みはリーダーを救出すること。死んでいるだろう、などという憶測はどうでもいい。奴の前では確率など宝くじの当選データより当てにならない。

 生かすためなら仲間もぶち抜く最高に最低でクレイジーな男の名は、メンフィス・ワイズマン。

●参加者一覧

ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
火茄神・渉(ga8569
10歳・♂・HD
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
ディッツァー・ライ(gb2224
28歳・♂・AA
ミスティ・K・ブランド(gb2310
20歳・♀・DG
原田 憲太(gb3450
16歳・♂・DF

●リプレイ本文

●傭兵は荒野に集う
「しかしマジパネェッスね、そのオッサン」
 一見したところとても傭兵とは思えない、独特の強い個性を放つ男は植松・カルマ(ga8288)。チンピラとも間違えられてしまいそうなその風貌には『ギラギラ』という言葉が実に似合う。
「カルマちゃんはどうしてこの依頼を引き受けたの?」
 助手席のカルマに話しかけるドライバーはナレイン・フェルド(ga0506)。銀色に流れる髪が美しい、男性である。
「パネェ奴は尊敬するっスよ。ナレインサンこそどうなんスか?」
 アクセサリーをジャラつかせてカルマが答え、問い返す。
「そうね、私、笑顔が消えていくのは‥‥嫌なの」
 ふと男性だとは思えない繊細な表情を見せるナレイン。
「死なすには惜しい男だ」
 ジーザリオに同乗しているディッツァー・ライ(gb2224)も言う。彼は鬣のような赤髪の、熱血漢だ。
 荒野を三台のジーザリオがそれぞれ別方向から走る。
「熱くてクレバーで仲間思い、そしてなかなかクレイジーなムードメーカ‥‥いいリーダーじゃないですか」
 二挺拳銃のエネルギーガンの最終点検をしながら、シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)が言う。
 ああ、とステアリングを握り返事をするのは神無 戒路(ga6003)。全身を黒で包んだ、寡黙な男だ。
 ブーストを効かせたジーザリオのドライバーズシートに身を沈めているのは火茄神・渉(ga8569)。クッションでかなり高くしてあるはずだが、小柄な体はどう見てもシートに『沈んでいる』ように見えてしまう。
 その隣で、双眼鏡を手にジープを探している原田 憲太(gb3450)。インドア系に見えるが二本の刀が前衛の戦士であることを示している。
 そして、車より先をリンドヴルムで走るグラマラスな美女はミスティ・K・ブランド(gb2310)。最高な阿呆を救うため、荒野に赤い髪をなびかせる。

●メンフィス・ザ・クレイジー
 荒野にキメラの姿は見当たらなかった。とりあえず。
 そして一台のポンコツジープが、ぽつんと止まっているのが見えた。
 目撃されている大型キメラに注意を払いながら、渉のジーザリオとミスティが向かう。
 ジープにギリギリぶつかる寸前で急ブレーキを踏んだミスティは、リンドヴルムのスタンドも立てずに放り出すようにしてジープのドアを開けた。
「メンフィス・ワイズマンか?!」
 ドライバーズシートには、ジープと同じくポンコツな男がぐったりとしていた。ミスティは胸元から写真を引っ張り出し、男の顔と見比べる。間違いない、こいつがメンフィス・ワイズマンだ。
「おい‥‥」
 ミスティが男の頭を支えるように手を入れると、どろりと真っ赤な血が腕まで伝って垂れた。びくりとするミスティだが、彼女の思いもよそに、男は低く唸ると目を開けた。
 男のバカさが前面に押し出されたのは、ミスティと、駆けつけた渉、憲太が小さく安堵した次の瞬間であった。
「やべ‥‥俺死んだのか、天使が見えるぜ‥‥しかしこんなにセクシーな天使とは、神様もイカしてやがっ」
 ミスティに頬をつねられ、ようやくメンフィスは口をつぐんだ。
 憲太は肩をすくめ、渉はどうしようもなく笑いながら頭をかいた。
「さぁ、ここから逃げましょう」
 笑いもつかの間、即座に頭を切り替え憲太がメンフィスに手を差し出す。
「おう、逃げたいのは山々なんだがな」
 メンフィスは自分の足をちょいちょいと指差す。見ると、左足が膝下からどす黒い血にまみれている。
「実は千切れかかっている」
 実はも何もない、膝上を布で固く縛ってあるので出血はほとんど止まっているものの、肉がはぜ骨まで露出している。
「これが邪魔だ、その刀でバッサリ頼むわ」
 ああ‥‥、と、ミスティは額に手をやりうなだれた。こいつ、平然ととんでもないことを要求する。
 憲太はメンフィスが逃げることに抵抗することを予想していたが、別の意味で驚愕させられた。しかしそこは彼も刀を持つ男である。小さくため息をつくとメンフィスに確認した。
「いいんですね?」
「ああ、もう感覚もないしつま先までズタズタだ、くっつかん。こいつを引っ張ってる間にキメラが出てくるからな」
 男の目が本気であることを確認して、憲太は『花鳥風月』を振るった。まだ戦歴の浅い彼に人の肉を絶たせるのはいささか酷かとも思われたが、メンフィスはそんなことは考えてもいないし憲太もまたしかりだった。
 あうー‥‥、と小さな声を上げたのは渉だった。傭兵と言えども重ねた年齢の少なさには堪えたのかもしれない。
「いくぞぉ! 逃げろっ!」
 間抜けな掛け声のメンフィスを担ぎ、渉のジーザリオに放り込む憲太。大分予想と違う人だなぁ。
「すまんな、血で汚した」
「気にしないで」
 渉もこの人がメンフィスかと半ば疑いながらもジーザリオのドライバーズシートについた。
「メンフィス確保、予想を上回る阿呆」
 ミスティはトランシーバーで仲間に連絡を入れ、救急セットの箱を開けた。
「グラマラス・エンジェル、俺の仲間は無事に逃げたか?」
「7人は無事だ。‥‥全く迷惑でクールな大将だな、バディ。場所が場所でなければキスしてやりたいぐらいだ」
 ミスティの笑みにメンフィスはニヤリと笑うと、そのまま気を失った。
「原田、任せたぞ」
「はい!」
 ミスティはメンフィスを憲太に預け、素早くリンドヴルムに乗った。
 キメラの殺気をビリビリ感じる、やはりタダでは帰してくれないか。

●飛来する悪夢
 その頃、後方支援についていた戒路とシンが空を舞う影を確認していた。
 すかさずトランシーバーで囮部隊に連絡をとる。
「メンフィス、やはり生きていたか! その執念、見事だ! ここからは選手交代だ!」
 大型拳銃と小銃の間を取ったような銃、フォルトゥナ・マヨールーによる牽制射を試みようとディッツァー・ライが飛び出す。
 メンフィスを乗せた渉の車を狙っていたキメラたちの視線が、荒野に現れた赤き炎のような男に注がれる。
「あなたの相手はこっちよ!」
 ナレインは華麗に勇ましくキメラを挑発する。
「こっちは任せてさっさと逃げるっスよぉ」
 カルマが無線で救出班に脱出するよう連絡を入れ、自身も銃と剣を手にキメラに立ち向かう。
 挑発に乗った大型の鷲を思わせるキメラが3体、すべるように空から降ってくる。そこにディッツァーとカルマがフォルトゥナ・マヨールーの強烈な銃弾を叩き込む。一発はキメラの翼を打ち抜いたが、それでスピードが弱まる気配はない。
「やはり相当手ごわいな」
 ディッツァーは蛍火を構え、紅蓮衝撃により自らの覚醒能力を引き上げた。炎のような髪が舞い上がる。
 カルマの放った二発目の銃弾がキメラの胴をえぐり、大きくバランスを崩させた。
「その隙、貰った! 飛び込むッ!!」
 ディッツァーの流し切りがキメラを掠める。が、またキメラもその爪でディッツァーの腕を引き裂いた。
「ぐっ‥‥!」
「どうして命を奪う事しか、できないの‥‥その翼は自由に空を舞えるのに」
 ナレインの俊足がキメラを捕らえる。ディッツァーが攻撃を受けたほんのわずかな隙だった。
 強烈な一撃を食らったキメラは地に落ちたが、残りの2体は目を血走らせてこちらへ向かってくる。

「ブーストスイッチ、オン!」
 渉はジーザリオのアクセルを踏み込み、全速力で荒野をとばした。石をはねるごとに車体が大きく跳ね上がる。
「無駄口叩いてた割に、重症じゃないですか」
 片っ端から止血をしていく憲太は、車が跳ねるたびにメンフィスの大きな体を押さえた。血圧が低下して今なお危険な状態にあることが専門家でなくともわかる。
「メンフィスさん! 何があってもオイラはアナタを助けてみせる!!」
 ステアリングにしがみつくようにして、渉は自身を力づける意味もこめて叫んだ。

「唸れ俺のパネェ魔剣! そぉぅらお亡くなりになりやがれェッ!!」
 カルマがソニックブームでキメラを迎え撃つ。確かにその攻撃はヒットしたはずだが、大型キメラはそのまま突っ込んでくる。一撃を受けたことで冷静さを失っているかのように。
 カルマがイアリスで攻撃を受ける動きを見せるとほぼ同時に、別の方向からの銃弾がキメラに叩き込まれた。
「迂闊に隙を見せるからだ。加えて言うなら、今は更に隙だらけだぞ」
 シンのエネルギーガンだ。さらに戒路がライフルでキメラの動きを牽制する。
「ついでにこれでも食らいなさい!」
 ナレインの瞬即撃がキメラの胴にきれいにヒットし、その体を空へと返した。
『こちらは戦線を完全に離脱します! 閃光手榴弾を投げます!』
 戒路の無線連絡を受け、ナレインが叫ぶ
「さぁ、こっちも撤退よ!」
「戦略的撤退って奴か、性に合わんが死ぬわけにはいかないからな」
 ディッツァーも蛍火を鞘に戻し、車へと走る。
 ディッツァーとカルマの二人がジーザリオに飛び込んだのを確認して、ナレインがドライバーズシートに座る。
「とばすわよ!」
 囮班撤退の間も、後方支援班のシンと戒路は銃でキメラを牽制し、逃げ道を作る。
「こちらも撤退しよう!」
 シンと戒路は頷きあい、車に乗り込んでアクセルを全開に吹かした。
 キメラの舞う後方で閃光手榴弾が炸裂し、光の膜を張った。一時的に視界を奪われたキメラは大空へと舞い上がり、そのまま飛び去った。

●オッサンはマジパネェ
 高速移動艇で落ち合った8人だが、メンフィスは予断を許さない状態だった。何せ片足を失っている。
「オッサン、これで貸し一つっスよ。返すまで絶対ェ死ぬんじゃねーぜ?」
 カルマが言うと、メンフィスはパチッと目を開けた。
「うお?!」
「たりめぇだ! ミスティちゃんにキスしてもらうまで死ねるか!」
 ものすごい気迫でそれだけ言うと、またぱたりと目を閉じた。
「当分、大丈夫みたいだね。ディッツ」
「だな」
 シンとディッツァーは顔を見合わせて苦笑した。

●男は何度でも立ち上がる
 依頼を終え、ラスト・ホープの病院へと向かう8人。
 自分たちが救出したメンフィスがどうなったのか、彼らには知る資格があった。
 軽くドアをノックして病室に入ると‥‥
「電話番号くらい教えてくれてもいんじゃね?」
 ナースを口説き散らかしているメンフィスがいた‥‥。
「よう」
 ナースと入れ替わりに部屋に入った8人の傭兵を、メンフィスは片手を上げて迎え入れた。左足の膝から下は置いてきてしまったが。
「元気そうじゃない、よかったわ」
 ナレインが花束を花瓶に活けながら言った。そういえばこの男の顔をまともに見るのはこれが初めてだ。
「おい、あのときのメンバーにミスティちゃん以外にこんな美女いたか?」
 ニヤニヤと笑うメンフィスに、ナレインがウフフと笑い返した。
「メンフィスさん、ナレインさんはぅっ」
 素早く渉の口を押さえる戒路。
「知らぬほうがよいこともあるのです」
 そのやり取りに皆が笑ったが、メンフィスだけはよくわからない笑みを浮かべていた。知らないほうがいいことってなんだよ?

 病室の外には、かつてメンフィスと依頼を共にした仲間たちが待っていた。
「あいつ、足をなくしてもまだ傭兵に復活するんだってよ。あんたたちのおかげだ、最高に感謝してる。それからメンフィスに頼まれて、奴の貯金からあんたたちにボーナスだ。こっちはULT本部のほうから受け取ってくれ」
 入れ替わりに彼らが病室に入ると、メンフィスがまた大声で何かを話す声が聞こえた。
「‥‥今度は、一緒に戦いたいですね」
「そうね、彼と一緒なら何でもできそうな気がするもの」
 憲太とナレインが笑いあう。
 そこにいた皆の気持ちを代弁するかのように。