タイトル:【DR】レナ川の炎マスター:柳高 ぱんな

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/12 02:00

●オープニング本文


「レナ川上流に敵だと?」
 ヤクーツクの作戦司令本部に座するヴェレッタ・オリム(gz0162)中将は、その奇妙な報告に目を細めた。
「はい。比較的少数の戦力のようですが、哨戒中の部隊が発見、ヘルメットワームと交戦したとのことです。その時は大した戦闘もなく、撤退したとのことですが‥‥レナ川流域で、少しずつ位置をずらしながら何度となく同じような報告が来ています」
「つまり追い払われても懲りずに何事かをしているのか」
「はい。また、ヘルメットワームと遭遇したポイントに再度の偵察を行ったところ、そのポイントにキメラが配置されていたとのことです」
 報告にきた本部付参謀の言葉にオリムは考えをめぐらす。
 バグアが何かをレナ川に仕込み、その守りとしてキメラを配置したのは間違いない。
 だが、具体的に何をしているのかがわからない。
 ウダーチヌイへの進軍ルートからも外れるから待ち伏せの線は薄い。交戦してもすぐに逃げるのであれば、拠点を構築しているとも思えない。
 だが、この一大決戦の最中に小規模とはいえ、部隊を遊ばせておく余裕はさすがのバグアとてないはずだ。
「他に分かっていることは?」
 考えのまとまらないオリムは参謀に次の言葉を促す。
「配置されたキメラはいずれも炎をまとうタイプだったと‥‥」
「炎だと? こんな極寒の地では‥‥っ!」
 この極寒の極東ロシアで炎のキメラの話を聞くとは思いもしなかった。河川が凍りついて幹線道路になるような土地柄である。そのことに思いをはせた時、オリムの脳裏にひとつの可能性が浮かんだ。
「水攻めか?」
 凍りついた河川は天然の堰となる。
 この地域の地勢として緯度が低い上流から氷が融け始めるので,下流の融解が遅れると洪水が起きると出発前に読んだ資料にあったはずだ。本来は、それは5月中旬頃からの話であり、勝っても負けてもそこまで作戦が長引くこともあるまいと思っていた。
 しかし、バグアが4月の今の段階で凍りついた河川を融かす手段を持っているとしたら?
「なんであるにせよ、放置はできないか」
 オリムは傭兵を呼び寄せると、当該のヘルメットワーム、並びに炎キメラの撃退を命じるのであった。

●レナ川のケルベロス
 凍てついた川の側にたたずむ大型のキメラ。ケルベロスである。
 考えられうるバグアの作戦、『水攻め』に対して炎による攻撃を得意とするケルベロスが2体‥‥
 危険の芽は摘まねばなるまい。

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
トリシア・トールズソン(gb4346
14歳・♀・PN
夢姫(gb5094
19歳・♀・PN
今給黎 伽織(gb5215
32歳・♂・JG

●リプレイ本文

●眼前に広がるは氷の川
「ロシアって‥‥寒〜い!」
 ふるりと体を震わせて夢姫(gb5094)はぎゅっと自分の体を抱きしめる。
 南国育ちの彼女には厳しい気温。それでもこの重要な任務を果たそうと気を引き締める。
「重要な任務だからね、失敗は許されない。心して臨まないと、ね」
 今給黎 伽織(gb5215)は柔らかい表情を浮かべるが、それと反対に気持ちは硬い。
「東側がヘコたれちゃ、困るんでな。極東戦線なんぞ、さっさと終わらせて西に帰りたいもんだ」
 ぐっと大きく伸びをして体をほぐす。緋沼 京夜(ga6138)は煙草に火をつけて、空を見上げる。
「容赦はしませんくてよっ!」
 きりりと表情を引き締めて、ぐっと手を握り意気込むのはロジー・ビィ(ga1031)。
「寒いのと炎と‥‥どちらにも対処が必要なのは大変ですね‥‥」
 水属性の外套の下に耐火ジャケットも着込み、これで防げればいいのだけれども、と朧 幸乃(ga3078)は呟く。
「北の地のケルベロス、か‥‥似合いといえば似合いかもしれんが」
 リュイン・カミーユ(ga3871)の瞳には強い意志がある。それは絶対に大規模作戦の邪魔はさせないという強い意志。
「だが、レナ川の氷を溶かさせる訳にはいかん。精々叩きのめしてやるとしよう」
「‥‥絶対に止める」
 トリシア・トールズソン(gb4346)の抱える気持ちも大きい。それにはちゃんと、理由がある。
「だいすきな人も別の場所で、水攻め阻止の為に頑張ってるんだ。私達が失敗する訳にはいかない」
 胸に大好きな人のことを思い浮かべ、トリシアは気持ちを固める。
「ケルベロスが2匹‥‥犬ッコロが2匹‥‥」
 須佐 武流(ga1461)は今回の敵を反芻する。
 そして一度瞳を伏せ、開けたときには。
「いいぜ、誰がボスだか‥‥教えてやろうじゃねぇか?」
 挑戦的な表情を浮かべ、見据えるのはこの先にいるという2頭のケルベロスだ。

●炎の円舞
 目視できる距離にはケルベロスが2頭。
 口から炎を吐き、周囲の氷を少しずつ溶かそうとしているのだとわかる。
 あたりは身を隠すにはもってこいの岩がたくさんある。
 それを利用しない手はもちろんない。
「あっぶねーなー‥‥近づくのも結構骨だぜ‥‥」
 岩を使い、慎重に隠れて傭兵たちはケルベロスへと近づいて行く。
 そして、攻撃が届く範囲についた時、あらかじめ決めていたことをそれぞれ視線で確認して。
 ガトリングを、ケルベロス2頭へと向ける。
 けたたましい音とともに、弾幕が踊ればケルベロスの意識は炎を吐き、氷を溶かすことから傭兵たちへと移る。
「ミサイルでも‥‥喰らえ!」
 向かってくる1頭に向かって、武流はミサイルを放ち、それで完全に1頭の意識をこちらに向けさせる。
 もう1頭にももちろん攻撃が向かう。
「お利巧さんにしてて下さいませね?」
 走りこんだのはロジー。その手には水属性の盾と剣。ケルベロスに川に背を向けさせるように気を引きながら動く。
 ソニックブームを放ち、ケルベロス1頭を引き込む。
 2頭のケルベロスをうまく引き離せば、あとは4人ずつで、倒すだけだ。
 先にミサイルをあてた1頭を囲むのは武流、幸乃、京夜、トリシア。
「ケルベロス‥‥一度見た事あるけど‥強敵、だね」
 小柄な体を生かして深く沈んだままケルベロスに素早く近づきトリシアは蛇剋とチンクエディアを振るう。
 一つの首を攻撃すれば、ほかの首がトリシアを襲おうとする。
 くるっと舞うように避けながら一撃二撃、そしてケルベロスがその爪を振り上げれば、紙一重の回避は無理と判じて距離をとる。
 トリシアが距離をとればその反対側から、武流がすかさず刹那の爪を装備した足で端にある頭の喉元に蹴りをくらわす。
「氷が解けたら‥‥まずいんだよな、今回はっ!」
 その攻撃を受けた頭は、低いうなり声をあげ蹴った武流の方を睨み、その口を向ける。
 だがその反対側に幸乃が走りこみ、一瞬気をそらせる。
「朧、良いタイミングだ‥‥くらえっ!」
 翻弄されるケルベロスに生まれる一瞬の隙を狙って超機械『雷光鞭』に持ち替えた京夜が頭をばちりと打つ。
 その攻撃を振り払ったケルベロスは、ぐっと氷に爪をたて、三つの頭が態勢を立て直す。
「ブレス、来るぞ――3つ首の動きを見逃すな」
 後からの京夜の声に、前に立っていたトリシア、幸乃、武流はケルベロスを注視する。
 そしてその言葉の一拍あと、ごぅっと炎が音を纏い、その三つの頭から吐きだされる。
 炎の攻撃を、幸乃が外套で防ぐ。
 炎を吐き終わる一瞬のタメ、幸乃の後からトリシアと武流が待っていましたとばかりに飛び出す。
 トリシアは右の頭を、武流は左の頭を狙って。
「はぁぁぁぁぁっ‥‥! ‥‥おぉらぁぁぁっ!」
 武流はケルベロスの顔を、踏み台にしつつ三連続の蹴りを放ち、その一撃ひとつの頭の視力を奪う。
 そして、幸乃がタイミングを見計らって放ったナイフを足場にして、高く跳びあがりそのままその力もうまく乗せて、攻撃を振り下ろす。
 右の頭に対するトリシアは身を低く沈めて、もぐりこむように動く。
 そして逆手にもったチンクエディアを首筋に向かって素早く振り上げ、切り上げ、その衝撃を感じたあとすぐに順手に素早く持ち替えつつ身を翻して振り下ろす。
 リズムよく、円閃を使い攻撃を重ねれば、やがてぐたりと首が下がってゆく。
 残る、真ん中の首は京夜が雷光鞭をふるい注意を引く。
「‥‥生意気な犬だ。さっさと伏せろ」
 くたりと下がる両脇の頭。
 チャンスを見逃すはずなく、京夜は雷光鞭をその首へと巻きつけ、ぎりりと締める。
 その上で、動きが鈍くなり狙いやすくなった目に向かい、幸乃はナイフを投げる。
 響く声は苦痛に悶えるような低い唸り声だ。
 抑え込まれた頭に向かい、トリシアと武流は同時に、攻撃を仕掛けた。
 その攻撃は重なって、ケルベロスへの致命傷となる。
 一方、もう一頭の方はというと。
 囲むのはロジー、リュイン、夢姫と、伽織の4人。
 牽制すべく、射撃を行うのは伽織。
 真デヴァステイターを構え、足元を狙い撃ち尽くしてゆく。
 ケルベロスの動きが止まっている間に、あたりの岩蔭を利用し近づいていくのは夢姫。
 岩陰から素早く飛び出し盾を構える。
 その姿に気がついたケルベロスの口から放たれる炎弾をそれではじいて距離を詰めていく。
「さぁ、手早く片付けてしまいましょ」
 夢姫とは逆の方向から距離を詰めたロジーは表情を変えず、蒼い闘気をまとい、通り抜けざまに流し斬りで首筋を切り裂いてゆく。
 紫に変わったその眼が確かに与えたダメージを確認。
 ケルベロスの首が向き、ロジーを追おうとするところ、上から声が降り落ちる。
「まずはその炎、消してやろう」
 頭と頭の間をすり抜けるように地に降りるリュイン。そのまま体を深く沈めフォルトゥナ・マヨールーを喉元に向け打つ。
 攻撃を受け、上へと勢いで跳ね上がるところにもう一撃。
 そのまま頭にも攻撃を加えて離れる。
 すでに一つの頭は攻撃に回れない状態だった。
 このままの勢いにのって、攻撃は止まない。
 伽織も距離を詰めたことで援護から、接近戦へと切り替え真デヴァステイターから刹那へと持ち変える。
「しつこい犬だな」
 真紅に変わった瞳を細め、銀に変わった髪をなびかせ伽織は踏み込みケルベロスの目へと刹那をつきたて引き抜く。
 ひるんだところに、夢姫が二連撃で今傷を受けた頭を攻撃する。
「っとと!」
 光のオーラをまといつつ、黒から銀に輝く髪と瞳。
 夢姫は攻撃後あと、崩しかけたバランスをすぐにとって滑るのを防ぐ。
 四方からうまく囲み、やむこと無い攻撃にケルベロスは動けない。
 炎を吐こうとしても。
「まぁ大きなお口ですわ!」
 ロジーがそのあいた口を見逃すことなく、刺突を行う。
 舌を貫かればケルベロスは痛みにその体を引く。
 4人の攻撃は止まらないものの、ケルベロスは倒れない。
「ふん、なかなかしぶといが‥‥これでどうだ」
 たんっと、その体を足場にして、後ろからひらりとリュインが飛び上がる。
 飛び上がるのは身軽に、しかし落ちる勢いに重ねて力をこめ、鬼蛍をその首筋へと振り下ろす。
 ぐっと手ごたえを感じ、その体の上でバランスをとりつつ鬼蛍を引き、おまけとばかりに背中に一度つきたて、その場から離れる。
「わ、危ないよっ!!」
 リュインの攻撃を受けてたまらなくなったのか、ケルベロスはその前足を振り上げる。
 その振り上げた足が氷上に落ちてくるのを紙一重でよけ、夢姫は機械剣『莫邪宝剣』を横に薙ぐ。
 腱を切ったのか、ぐらりと傾いた体。
 反対側でも同じようにロジーから攻撃が加えられていく。
「っく‥‥まだまだですわッ」
 攻撃の手応えが重く、振りぬく瞬間に力がこもる。
 そして後方後ろ脚。前に傾く体を支えるべく、その爪が氷上にめり込むほどだ。
「そのまま、伏せだな」
 伽織は言って、刹那を振るう。
 地に伏した形のケルベロスの頭上を、再びリュインが舞う。
「地面ばかり見ていても、我は捕まらんぞ?」
 ケルベロスの視線がそちらを捕える。
 捕らえたが、また違う方から。
「‥‥と、余所見はいけませんわ。こっちがガラ空きでしてよッ! これで‥‥最後です‥‥ッ!」
 上からはリュイン、右からロジー。
 そして左からは夢姫、後ろから伽織。
 伏せり身動きがとれないケルベロスに、一斉に攻撃が放たれた。
 それは勝ちを感じ取った瞬間のこと。

●倒れ伏すはケルベロス
「無事、終わりましたね‥‥氷も、大丈夫そうですね‥‥」
 幸乃はあたりを見回す。
 多少はやはり、解けたものの許容範囲。
 問題はないであろうことにほっとする。
 そしてその視線が巡った終着点。氷の上に倒れる二つの巨体が、そこにある。
「ふ‥‥誰がボスかよ〜くわかったか犬ども!」
 その巨体を前にして、武流はボス宣言を高らかと掲げていた。
「どちらが先に倒れるか、な‥‥と、お前たちの方だったな」
 リュインも、倒れたケルベロスに向け、どこか艶やかな笑みを浮かべる。
「さっさと帰ろう。煙草切れた。ちっ‥‥義手の調子も悪ぃか。レグ様に殺されるな」
 煙草がもうないことに悪態をつき、少し軋む義手を見て京夜は頭をガシガシとかく。
 帰って義手の製作やメンテをしてくれる友人から向けられる表情を思い浮かべて、なんとなく頭が重い。
「倒せたよ、ちゃんと‥‥今回も、ありがとう」
 大事な人からもらったチンクエディアを一度撫で、トリシアはそれを大事にしまう。
「さぶい‥‥も、もう我慢も限界‥‥! はやく帰りましょう‥‥!」
 戦闘が始まって、終わるまではあまり気にならなかったこの寒さ。
 だが戦いが終わって、少し気が緩めばそれが身にしみて夢姫は迎えのある地点まで急ぎ始める。
「確かに、長居してもしょうがないね」
 夢姫の言葉に伽織は少し苦笑し、その後ろを歩みだす。
「そうですわね、ここでやることは終わりましたもの」
 極寒の地を後にすべく、傭兵たちは帰途につく。

<代筆:玲梛夜>