タイトル:ターボ・グランママスター:柳高 ぱんな

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/09 00:36

●オープニング本文


 北アメリカのとある場所、町と町をつなぐ長い道が続く場所。
 そこでそれは目撃された。
 運転手が小型のトラックを飛ばしていると、ミラーにチラチラと人影が映る。
「誰か歩いているのか? 次の町まではまだ結構かかるんだが」
 もしかして途中でタイヤがパンクしたとか、ガス欠とか‥‥そうでなければこんな何もない道を歩く人などいるだろうか。
 運転手は少し心配になり、トラックを止めて窓から顔を出し、後ろを振り返った。
「あっ!」
 振り返った男のすぐ横を掠めるように、老婆が白髪を振り乱して駆けていった。
「何だ‥‥ありゃ」
 運転手の男はしばらく呆然としていたが、今見たものが何だったのか確かめるため、トラックを走らせた。

 しかし、彼が時速80キロで1時間トラックを走らせ町のガソリンスタンドにたどり着いても、自分がすれ違ったはずの老婆を見かけることはなかった。

 男はガソリンスタンドで燃料を入れるついでに、スタンドの店員に猛スピードで走る老婆の事を聞いてみた。
 まぁ、気のせいだろう。笑い飛ばされるのがオチだろうがな‥‥そんな風に考え、軽い気持ちで話してみたのだが、店員の反応は意外なものだった。
「ああ、『ターボ・グランマ』にあんたも会ったのか」
 店員は老婆のことを知っているらしい。
 それどころか、この町ではその『ターボ・グランマ』と名づけられた高速で走る老婆の目撃談が耐えないのだという。

 老婆が何かをしてくるわけではなく、ただ猛スピードで走っているだけなのだが‥‥
 このままでは、老婆に驚き事故を起こす車も出てくるだろう。
 その前に、この老婆を捕らえねばなるまい。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
朔月(gb1440
13歳・♀・BM
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
九条・護(gb2093
15歳・♀・HD
雨衣・エダムザ・池丸(gb2095
14歳・♀・DG
ファーリア・黒金(gb4059
16歳・♀・DG
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜」
 いつもならそう、少々変わった笑い声を上げながら登場するドクター・ウェスト(ga0241)だったが、今日はそういうわけにもいかなかった。
 先の戦闘で負傷し、今もその傷が癒えずにいるため全身包帯や絆創膏だらけで自慢のマシーン『00マシーン』(ランドクラウン)の中に座っているのだ。
 ウェストに代わり運転手を務めるのはセレスタ・レネンティア(gb1731)。ウェストの傷を気遣いながらも、今回現れた迷惑なキメラの容姿その他になんとなく、どうしようもないような感情を抱いていた。
 彼女がそう思うのも無理はない。『80キロを超えるスピードで走る老婆型キメラ』など、よくもまあバグアも考えたものだ。
 セレスタの隣、助手席に身を収めている少女は朔月(gb1440)。幼さの中にも瞳に強い光を宿している少女だ。
 紅 アリカ(ga8708)も、皆の乗るランドクラウンで武器の最終調整を行っていた。大規模作戦中にはた迷惑なキメラではあるが、こちらもたかがキメラといって見過ごすわけにはいかない。

 ランドクラウンに乗り合わせた面々が例の老婆キメラを誘い出すため長い一本道を軽く流している中、アーク・ウイング(gb4432)は地面にぺたぺたとトリモチをつけていた。
 作戦ではある程度の量のトリモチを地面に設置し、キメラの足止めに使えれば‥‥と考えていたが、考えていたよりもトリモチが入手しにくく、また高価でもあった為、支給された経費を使い切っても、ネズミ捕り用の物をほんの少量しか手に入れることができなかった。
「ターボ・グランマか。なんか似たような存在が都市伝説の中に一つか二つはありそうだけど。でも、現実の存在なだけに、こっちのほうが性質が悪いかな」
 アークのつぶやきのとおり、都市伝説は都市伝説として恐怖を楽しむものであるからいいものの、こうしてキメラとして現れては厄介この上ないものである。
 これも人間の恐怖心を利用するバグアの手口の一つであるのだ。
 トランシーバーを取り出してランドクラウン乗車組と連絡を取ろうとしたが、さすがに電波が届かないらしい。合流を諦め、アークはわずかなトリモチを撒いた付近にあった茂みに身を隠した。

「頑張れ、私」
 途切れがちな小さな声で自分なりに気合いを入れている雨衣・エダムザ・池丸(gb2095)。
「ミスタデューク、大丈夫、でしょう、か、怪我が、とても、心配」
 雨衣の言う『デューク』とはドクター・ウェストの本名である。大怪我をしているウェストよりも、それを心配する雨衣のほうが小さくはかなげで心配になってしまう。
「雨衣さん、大丈夫ですよ。みんなで力を合わせましょう」
 ファーリア・黒金(gb4059)は雨衣とは正反対といってもいいような、ブルマがまぶしい元気印の少女だ。同じドラグーンとして、AU−KVの上にちょこんと乗っている雨衣に声を掛ける。
 ただ彼女が心配だったのは、丈夫なワイヤーとネットを借りることができなかったことだ。人型のキメラに使用できるような強度のものとなると、元々流通量が少なく、ULTでも常に貸し出し用の在庫を用意しているわけではない。UPC軍からもそう簡単に借りることのできる品ではなかったらしく、彼女の申し出を断ることしかできなかった士官がひたすら謝っていたことが思い出される。
「ワイヤーは用意できませんでしたけど‥‥」
「なんとかラスト・ホープのホームセンターでロープを調達することはできたから、これでやってみるしかないね」
 二人と同じくドラグーンの九条・護(gb2093)のバッグにはロープが入っている。これで仕掛けを作る算段だ。

『はひひひひ‥‥』
 ランドクラウンのダッシュボードの上でかすれた笑い声を上げるぬいぐるみに気を取られることもなく、セレスタは注意深く街道を走り流す。
 ランドクラウンと併走する雨衣のAU−KV。
 無線の届く範囲でそれとは別に走る護とファーリア。

 しばらく走った頃、後方から土煙を上げて猛スピードで『何か』が迫り来た。
「あれ、ですか‥?」
 ミラーで確認しながらセレスタが言う。確かにそれが老婆らしい。ピンク色のひらひらした服も見える。
 セレスタがアクセルを踏み込み、加速する00マシーンことランドクラウン。
 100キロ近いスピードが出ているはずだが、老婆はゆっくりと不気味に距離を縮めてくる。
 セレスタはさらにアクセルを踏み、老婆と付かず離れずの距離を維持する。老婆から攻撃を受ける距離ではないはずだ。
「‥‥ここから狙い撃つわ。運転の方、頼むわね」
 アリカは車から身を乗り出し、真デヴァステイターで老婆――ターボ・グランマの足を狙い撃った。
 3発の弾丸がグランマを襲うが、グランマはその突出した素早さですべてを回避した。これにはアリカも驚く。しかしすぐにまた狙いをつけ、トリガーを引く。
 土煙のせいで弾がグランマに命中したのかどうかよくわからない。グランマは人間型にしては小柄でかつ素早い。

「レェェッツ!! パァァアアティィィィ!!!」
 グランマ遭遇と時を同じくして護が叫びと共にAU−KVのスロットルを全開に握った。
 そしてグランマを追い越し、ランドクラウンに手を振って走り抜けた。
「私もいきます!」
 ファーリアは無線で皆に告げると、AU−KVを変形、瞬時に全身にまとい竜の翼連続使用で護に追いついた。

「100キロババアに死んで詫びやがれっ!」
 朔月は窓を全開にして弓『天狼』でグランマの胸や頭など当てやすいと考えた場所を狙った。
 しかしこれが普通のキメラならまだしも、グランマは動きだけは素早い。ちょこまかと動き、致命傷を受けないように矢を避けている。
 ドクター・ウェストは朔月に練成強化をかけ、電波増幅でエネルギーガンを振るった。怪我をしているのでこれで精一杯だが、攻撃は多いほうが当たるだろう。
「この先、に、トリモチ、が」
 雨衣が手でセレスタに合図を送る。
 セレスタの安定した運転で車の振動による照準のぶれはあまり影響しなかったが、それより何よりグランマが素早いのだ。トリモチは少量ではあるが、何とかなれば‥‥

 ドドドドドドドドォォォォーーーーーッ!!!

 何とかならなかった。
 やはりトリモチが少なすぎたのと、フォースフィールドを持つ中型のキメラに対してトリモチがそれほど有効ではなかったことが原因だろう。
 アークはとっさに超機械で電磁波による攻撃を試みるが、グランマは一瞬感電したようにビリッと飛び跳ねただけで走り去ってしまった。
「乗って、追いかけましょう」
 セレスタが窓からアークに声を掛けると、アークは素早く後部座席に乗り込んでグランマの追跡を続けた。

 グランマがトリモチゾーンを走りぬけた先には、ロープによる罠が張ってあった。
 両側を持つのは護とファーリア。人一人なら、何とかなるだろう‥‥

 ドドドドドドドドォォォォーーーーーッ!!!

 何とかならなかった。
 グランマはロープなどなかったかのように簡単に引きちぎって走り去ってしまったのだ。
 やはり見た目はおばあちゃんでも中身はキメラである。
 ファーリアも護も素早くAU−KVに乗ってグランマを追ったが、グランマは土ぼこりだけを残してどこかへ消えてしまった。
 おそらく、この攻撃を警戒してどこかに身を潜めてしまったのだろう。
「嘘でしょ‥‥」
 グランマがわずかに残した血の跡を見ながら、護はがっくりと肩を落としてつぶやいた。

「や、やはり我輩が怪我などしていなければ‥‥」
「ミスタデューク、そんな、こと、ありません、失敗、も、勉強、です」
 サンプル採取もできなかったウェストを雨衣が一生懸命励ましている。もちろん、雨衣の言うとおり、ウェストが悪いわけではない。すべてが成功するとは限らないのだから。
「それより、怪我、が、心配、です」
 雨衣がウェストの隣に座り込んで精一杯心配しているが、ウェストは口から魂が抜け出してしまっていた。

「‥‥つめが甘かったのかしらね」
 アリカは悔しさに唇をわずかに噛みながら、アークと共に地面に付いたトリモチに砂をかけて一般車両の邪魔にならないよう後片付けをしていた。
「次にこんなキメラに出会うことがあれば、そのときは絶対に負けない‥‥今日の失敗は経験だよ」
 アークもトリモチの掃除をしながら悔しさを噛み締めていた。


 この失敗が明日の成功につながるよう祈りながら、報告官は筆を置く。