タイトル:お茶会で新メニューマスター:柳高 ぱんな

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 15 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/23 22:58

●オープニング本文


 俺の名前はジャック・ニールセン。
 北アメリカはカンザス州にある小さな町でバーテンダー兼自警団長をしている。
 自警団といっても俺たちは一般人だから大したことはできないがな。
 ここの傭兵たちと出会ったのは、キメラ退治の依頼がきっかけだった。まぁ、おかげで俺はここにいるようなもんなんだ。
 だから、俺はラスト・ホープの傭兵たちの力になりたいといつも思ってるんだ。いつもこっちが依頼してばかりじゃ悪いだろ。それに毎回女の子に助けてもらってるんじゃ、俺の男が廃るってもんだ。
 そこにちょうどいいタイミングでそっちにいる俺の知り合いが慰安旅行を計画したっていうんで、俺はこの店を貸すことを二つ返事でOKしたわけよ。
 慰安旅行ってあれだろ? 傭兵同士が親睦を深めるってやつ。チームワークは大切だもんな。なにやらでかい作戦が近づいているとかいう噂もあるが、そんなときだからこそ簡単なパーティーでもして絆を深めようってな。俺が現役の軍人だった頃も、演習の晩は酒盛りをしたもんだぜ。

 で。ただお食事会をしても盛り上がりに欠けるだろ? そこで俺が考えたのが、『この店の新メニューを考えてもらおう』という企画だ。
 この店、マスターの名前を取って『リカルドの店』っていうんだが、メニューがいまいち少ないと思うんだよな。もっと老若男女問わずに楽しめるメニューを増やしてもいいんじゃないかと思うんだ。
 ちなみに今あるメニューは、ドリンクならカクテル各種、ビール、ウイスキーやなんかの酒類に、ソフトドリンクはコーヒー、紅茶、ミルク、緑茶、オレンジジュース、サイダー。こんなもんだな。食べ物はハンバーガーとポテトとサラダのランチプレート、サンドイッチ、パンケーキ、ホットドッグ、それに当店自慢のチェリーパイとシナモンのきいたアップルパイだな。簡単なつまみならその場で作れるんだが、どうもお子様向けのメニューが少ねぇな。
 そこで、お前らの知恵を貸してほしい! あれ、また俺からの頼みになっちまってるなぁ。
 ラスト・ホープにはそれこそ老若男女大勢の傭兵がいるんだろ、簡単に出来て美味いものを考えてくれねえかな? 試作品を持ってきてくれてもいいぞ。材料費は全部こっちにつけといてくれ。

 じゃあ、お前らに会えることを楽しみに待ってるぜ。

●参加者一覧

/ 柚井 ソラ(ga0187) / セシリア・D・篠畑(ga0475) / シャロン・エイヴァリー(ga1843) / 叢雲(ga2494) / 鳥飼夕貴(ga4123) / シーヴ・王(ga5638) / アンドレアス・ラーセン(ga6523) / クラウディア・マリウス(ga6559) / 美環 響(gb2863) / 堺・清四郎(gb3564) / 幻堂 響太(gb3712) / 青海 流真(gb3715) / ソフィリア・エクセル(gb4220) / 夢姫(gb5094) / 美環 玲(gb5471

●リプレイ本文

「おー、集まったなぁ。かわいい女の子が多くてこりゃ眼福だ」
 店主のリカルドがテーブルをセッティングする手を休めて、店までやってきた傭兵たちを見渡した。
「マスターはそういうことしか考えてねぇからな。女の子だと思って手を出すと返り討ちに合うぞ、なんせバグアと渡りあってる能力者なんだからな。今だって忙しいのにわざわざ集まってくれたんだぜ」
 店のバーテンダー、ジャックはテラスにテーブルと椅子を手際よく並べていた。彼は元軍人でがっしりした体躯の四十前の男だ。カフェにはやや不釣合いな感じもするが、甘いものが好きなことも手伝ってこの店で働いている。
「おー、シャロンじゃねぇか!」
 ジャックは金髪の美女、シャロン・エイヴァリー(ga1843)を見つけると両手を広げてアメリカ式の挨拶を交わした。
「Hi! ジャック、お久しぶり。お招きありがとう♪」
 シャロンはまぶしい笑顔を見せた。ジャックが立ち直るきっかけを作ったのは、彼女たちの活躍だった。
「ジャックさん、お元気でしたか‥‥? 又お会いできて、嬉しいです‥」
 シャロンの後ろには控えめにセシリア・ディールス(ga0475)が立っていた。無表情で、話し方にも感情が感じられないが、彼女の言葉はいつも優しい。
「久しぶりでありやがるですよ、覚えてやがるですか?」
 つややかな赤い髪の少女、シーヴ・フェルセン(ga5638)。彼女も依頼でジャックと面識があった。
「もちろん、覚えてやがるさ。誰がシーヴみたいな美女を忘れるっていうんだ」
 ジャックの言葉にシーヴは「げー」とだけ返しておいた。
「女性ばかりじゃないぞ、俺のことも忘れないでほしいね」
 アンドレアス・ラーセン(ga6523)は長身で美形の男性だ。パイ配達でジャックは世話になったのだから忘れるはずも無い。
「ああ、もちろん忘れてなんかないぞ。この片田舎じゃお前みたいに目立つ男もいないしな」
「元気でやっているか?」
「もちろん」
 ジャックとアンドレアスの再会の挨拶を遮るように、リカルドがひょいひょいとやってくる。
「おい、こんないい男が一緒じゃ俺みたいなおっさんは女の子に話しかける機会すら与えられねぇんじゃねーか?」
 五十を目前にしてもやはり女好き、容姿端麗なアンドレアスに少々嫉妬心を感じているリカルドであった。
「そっちの仲良し二人組みもこっちに来いよ」
 柚井 ソラ(ga0187)とクラウディア・マリウス(ga6559)にジャックが手招きをする。
「子どもの癖にこんなかわいい彼女連れちゃって、うらやましい限りだなぁ」
「そ、そんなんじゃ‥‥」
 ジャックにからかわれたソラがもぞもぞする。
「はぁん? お前女の子じゃなかったのかよ!」
 リカルドは、小柄で華奢なソラを女の子だと思っていたらしい。
「俺は女の子じゃないですっ!」
「Oh‥‥」
「ソラ君、そんなに怒らなくても‥きっとソラ君がかわいいからだよ‥」
「クラウがそう言うなら」
「お熱いことで」
 リカルドが引いた椅子に、ソラとクラウことクラウディアは並んで腰掛けた。
「アスに誘われてきたんだが、お茶会だとか、レシピを持って来いだとか」
 アンドレアスの近くに座る、黒髪の男性は叢雲(ga2494)。
「ここのパイは美味いから、ゆっくり楽しめばいいさ」
 アンドレアスが答える。
「そうそう、メニューね。ちゃんと考えてきたわよ」
 鳥飼夕貴(ga4123)が艶やかな空気をまとわせてレシピを書いた紙を懐から取り出した。そのしぐさの色っぽさと、初めて見る髪形にジャックとリカルドも見とれている。
「GEISYAだ‥‥」
「はじめて見たぜ、生のGEISYAだ‥‥」
「芸者ではなく、彼は女形ですよ」
 優雅な雰囲気を持つ少年、美環 響(gb2863)。瓜二つの少女、美環 玲(gb5471)と手をつないでにこやかにしている。
「OYAMAって何だ?」
「女形というのは、女役を演じる役者のことだ」
 ジャックの疑問に答えるのは堺・清四郎(gb3564)。
「つまり男ってことか?」
「そうよ」
 夕貴が答えてもむさいおっさん二人組はまだ信じきれないような、狐につままれたような顔をしていた。
「悪いニュースが多い昨今、小さいことでも人が喜んで元気になってくれれば嬉しいものだ。俺は女、子どもに人気が出そうなメニューを考えてきた」
 清四郎も何やらレシピの書かれた紙を取り出す。
「それは楽しみだね! 僕も考えてきたけど、やっぱりメインは味見係かな?」
 幻堂 響太(gb3712)は歳の割に子どもっぽい。一緒にやってきた青海 流真(gb3715)もまたしかり。小麦色の肌がまぶしい。
「ソフィリアも見本を持ってまいりましたわ。作り方もちゃんと教えてさし上げますわよ」
 手入れされた長い銀髪を揺らしながら、ソフィリア・エクセル(gb4220)が大きな箱をテーブルに置いた。
「まあ、すごくいい匂いがします、これは楽しみですね」
 黒髪の美しい、歳の割に落ち着いた優しい空気をまとう少女、夢姫(gb5094)がソフィリアの用意した箱に顔を近づけて言った。
「おぉ、かわいらしいお嬢さん、お名前は?」
 リカルドは鼻の下を伸ばして夢姫に大接近。
「夢姫といいます。よろしくお願いします」
 丁寧に頭を下げる夢姫の横で、シャロンがこめかみをピクピクさせている。
「夢姫ちゃんか、かわいい名前だなぁ。お? シャロン、妬いてんのかぁ〜? もてるおじさんはつらいなぁ」
「違うわよ! 夢姫はまだ14歳よ、犯罪じゃないの!」
「犯罪です‥‥」
 シャロンの言葉におとなしいセシリアまでが追い討ちをかける。
「私のタロットでも犯罪と出ましたわ」
 玲までがタロットカード片手にリカルドを攻め立てた。
「いや、その、落ち着いた雰囲気の子だから、もっと大人かと‥‥シャロンみたいにおてんばな感じでもねーし」
 涙目のリカルドだが、一言多かったようだ。
 爽快な破裂音と共にリカルドの頬に手形が打ち込まれた。

 それぞれのテーブルにチェリーパイ、アップルパイと飲み物が並べられ、歓談のひと時が始まった。
「パイ、おいしいですねっ!」
「ああ、この店のパイを配達する依頼を受けたことがあるが、配達先でも好評だったな」
 ソラの言葉にアンドレアスが答えた。当のアンドレアスはウイスキーを片手にこの店のマスターオススメのつまみ、みじん切りのたまねぎにソーセージだけのシンプルで小ぶりなホットドッグに噛み付いている。
「さーて、じゃあみんなのアイディアを聞かせてもらおうか!」
 ジャックが全員が見える位置にどっかりと腰を下ろす。
「俺が考えたのは甘口のカレーを使ったスープパイです」
 ソラがそう言うと、店の奥からパイを焼いたリカルドがやってきた。カレーの匂いが食欲をそそる。
「大きめの具が食べ応えがありやがるですね」
「はや! もう食ってるのかよ!」
「こういう料理は熱いうちに食べるのがいいんでありやがるですよ」
 口をモゴモゴさせながらシーヴが答えた。
「おいしいですよ、ソラ君」
 クラウディアも楽しそうにカレースープパイを食べている。
「私は‥クリームブリュレ‥作ってきましたので‥‥よろしければ、食べてみてください‥」
 紅茶を飲んで一息ついたセシリアが、そっと自作のクリームブリュレを箱から出した。
「作り方は簡単で‥プリンのようなもの‥‥ですね‥‥、生クリーム、砂糖、卵が材料です‥‥」
「それだけでこんなに美味いデザートが! さすがセシリアちゃん! 美女の作るものは美味いぜ!!」
 リカルドがクリームブリュレを一口食べて、拳を握って涙を流しているがセシリアはいつものように表情一つ変えずに静かに座っていた。
「これもうめぇです」
「シーヴは試作品を全部食べる気かよ」
 シーヴもセシリアほどではないがほぼ表情を変えずにもくもく食べている。
「次は私ね! ここのチェリーパイは絶品だったし、これから春先はアメリカンチェリーのシーズン、それにあやかってみたわ」
 エプロン姿で店の奥から姿を現したのはシャロン。手にした盆には色鮮やかなチェリーアイスとチェリージュース。
「あー、やっぱシャロンの作ったアイスはうめーなぁー! 甘酸っぱい初恋の味だぁー! おじさんこれ採用しちゃうぞぉ!」
「そうだな‥‥シャロンの作ったジュースは甘酸っぱい恋の味だ‥‥!」
 拳を握って涙を流しているおっさん二人を押しやって、シャロンはみんなにアイスとジュースを配った。
「さあどうぞ♪ ただし、お腹を冷やしたりしないでよ?」
「はわ、美味しいです。どうやって作るんですか?」
 クラウディアがチェリーアイスを食べてシャロンに尋ねた。
「これはね、シロップ漬けにしたアメリカンチェリーを粗めに刻んだものを使っているのよ。細かいレシピは後で教えてあげるわね。クラウが考えたメニューのレシピと交換しましょ」
「おじさんにも手取り足取り教えてくれ!」
「後でちゃーんと教えてあげるわよ」
 シャロンの太陽のような笑顔に、リカルドは焼け焦げたらしい。
「ジュースもおいしいね!」
 響太はチェリージュースを一気に飲み干してしまったようだ。
「アルコールじゃないから子どもにも出せるし、赤ワインみたいできれいだから女性にも受けると思うわよ。女性客が増えるかしら?」
「それは100パーセントメニューに加えるべきだな」
 女性客が増える、という言葉に即座に反応するジャック。
「ちょっとした大人気分が味わえますわね」
 お嬢様の玲もお気に召したようだ。
「俺もちょっとした試作品を持ってきましたよ」
 叢雲は持ってきた多くの試作品をテーブルに並べた。
「まずベーグルですね、スモークチキンとハム、ハムと野菜、もしくはジャムや各種ディップを使って色々なバリエーションが展開できますよ」
「うん、ベーグルは女性にも人気があるしいいと思うわ」
 ベーグルを頬張りながらシャロンが言う。
「それからトーストやミラノサンドはどうでしょうか。トーストにはベーグルのジャムが使えますし、作るのも容易」
「いい考え、だと‥思います‥」
 セシリアもきれいに作られたミラノサンドを食べながら、楽しんでいるようだ。
「まあ、アスに誘われてレシピを持ってこいと言われたので、ちょっと作ってこようかと思いましてね」
「いや、料理が得意だからと思って‥‥それだけだからな! 別に、大規模作戦の前に話したいとか、そんなんじゃないからな!」
 みえみえのツンデレ具合でアスことアンドレアスが言葉を返した。叢雲も良きライバルのこの反応には思わず苦笑する。
「しかし、ここのチェリーパイはすごいですね。是非レシピを教えてほしいです。代わりにドイツのケーキのノウハウをお教えしますよ?」
「ほう、そいつは面白い。この店のチェリーパイがラスト・ホープで再現されるのもいいな。ドイツのケーキにも興味がある」
 ジャックは嬉しそうに叢雲の申し出を受けた。ごついおっさんに見えて甘党なので、ケーキの類には目がないのだ。
「はぁーい、じゃあ俺からも提案させてもらうね」
 優雅に手を上げるのは夕貴。その艶のあるしぐさは男性だとは思えないほどだ。
「パイ生地を利用して、まずミートパイ。ひき肉はあるでしょ? あと、カレーパイ、ビーフシチューパイ、ホワイトシチューパイとか。カレーパンみたいな感じかな? おいしいと思うわよ」
 夕貴が説明している間に、店のキッチンからリカルドがトレイに何かを並べて持ってきた。
「あ、お願いしておいたアイスパイができたのね。外はホカホカ、中はつめたーいバニラアイスよ。好きなジャムをパイの上にかけて食べるの」
「わぁ、不思議だけどおいしい!」
 アイスパイを食べて夢姫が感激したように声を上げた。
「外は熱いのに中は冷たいって、面白いね!」
 流真も初めて食べる味に驚いたようだ。
「でしょ? アイスてんぷらのイメージよ」
「不思議だが、これは子どもが喜びそうだな」
 ジャックも感心している。
「俺が不思議なのはお前が男ってことなんだがな〜‥」
 リカルドはまだそれが不思議でしょうがないらしい。
「シーヴは料理得意じゃねぇですが、ちょっと作ってみたから食べやがるです」
 シーヴがトレイからテーブルに並べたのはフレンチトーストと色々な飲み物のゼリー。
「ミートパイも作ってみたから食べやがれ、です」
「フレンチトースト、甘くておいしいね」
 響は玲と一緒にフレンチトーストを切り分けて食べている。とても仲がいい二人だが、関係は教えてくれないらしい。二人だけの秘密なのだろう。
「ゼリーはクラッシュして飲み物と混ぜるのもあり、です」
「シーヴは黙ってりゃお人形さんみたいでかわいいんだがなぁ」
「喋ったらかわいくねぇですか?」
「いやいや、そんなことはないぞ。喋ってもかわいい!」
 慌てて訂正するジャック。だが‥
「シーヴにはもう大切な人がいるんだから、手を出そうとしたってダメよ」
 シャロンにきつく釘を刺されてしまった。
「こんなきれいな子に彼氏がいないわけないでしょ?」
 夕貴にまで言われてしまう始末だ。
「そういうことだ。メニューだが、俺は名物のチェリーパイをメインで考えてみた」
 アンドレアスがキッチンから持ってきたのは、パフェグラスにアイスを入れてチェリーパイを載せたチェリーパイパフェ。
「すごい迫力ですね!」
 夢姫は驚きの声を上げる。
「子どもが喜びそうだな」
 清四郎もこのアイディアはなかったらしい。
「きれいに飾り付ければ女性にもうけるかもしれないぞ」
「なるほどな! きれいに盛り付けるんだな!」
 きれいとは程遠く見えるリカルドが『女性受け』の部分にやたらと反応する。
「あとは、黒パンにバターを塗ってチェリーを載せたオープンサンド。簡単にできるし、小腹が減ったときにもいいぜ」
「黒パンのコクとチェリーの甘さがよく合っていておいしいです、アスお兄ちゃん」
「そうだろ?」
 まるで妹のようにクラウディアに優しいまなざしを向けるアンドレアス。
「こんなボディーガードが付いてたら、クラウちゃんには指一本出せねぇな」
 リカルドは参ったように肩をすくめる。
「その前に、リカルドみたいなおじさんがクラウに手を出したりしたら犯罪!」
 シャロンにピシリと言われて、ますます身をちぢこませるリカルド。
「私はカルツォーネを作ってきましたよ。ピザ生地で具を包んで焼いただけの簡単なものです。油で揚げてもおいしいですよ」
「そりゃあクラウちゃんが作ったものなら美味いと思うぜ!」
 キリッ! とリカルドが言ったが、アンドレアスとシャロン、さらにソラに『にっこり』と笑って見せられて、そそくさと店のキッチンへ戻っていった。
「はい、どーぞっ。ちょっと熱いかもだけど」
 当のクラウディアは特に気にとめる様子もなく、ソラにカルツォーネを切り分けている。
「アスお兄ちゃんもどうぞですよっ」
「ありがとう、クラウ」
 アンドレアスをうらやましげにみるジャックが少し切ない。
「具は色々試せますし、ちょっとした残り物の食材を利用したりもできて経済的かもしれませんねっ」
 純粋ににっこりと笑うクラウディア。
「僕はワッフルです」
 響がテーブルの上に置いたのはアイスを乗せたワッフル。
「僕が大好きなものの一つなんです。お子様向けにもいいと思いますよ」
「アイスクリームの味を変えると色々楽しめていいね!」
 響太はチェリーアイスを乗せてワッフルを頬張っている。
「ジャックさん、後で女性について詳しく教えてほしいのですが。美女に会ったらまずどうするのか、など」
「なんつーおませな子どもだよ、まあ後でゆっくりな」
「そんなに子どもではないんですけどね」
 響は子どもでも大人でもない、少し妖しげな笑顔を見せた。
「私が持ってきたのはホットケーキです。すべて最高級の素材を厳選して作ったものですわ」
 響とそっくりな容姿のお嬢様、玲が出したのはホットケーキ。しかし素材が普通ではないらしい。
「最高級って、どれくらいかかるんだ?」
「‥‥くらいかしら」
「さすがにうちの店では出せそうもない値段だな‥」
 玲がつぶやいた価格にジャックは苦笑した。
「俺も作ってみたぞ」
 キッチンからいい匂いのするトレイを持って出てきた清四郎。
「女性と子どもに人気が出そうなパンプキンパイとかぼちゃプリンだ。パイにはシナモン、ナツメッグ、しょうが、クローブなどをかぼちゃピューレーに加えてある。詳しいレシピはこれだ」
 ジャックにレシピを渡して、清四郎はトレイからパイとプリンをテーブルに並べた。
「プリンはかぼちゃピューレーを型に入れて焼く。最初から低い温度で焼いてくれ」
「いやぁ、見かけによらず詳しいんだな」
 ジャックも感心している。
 みんな満足して食べているようだ。
「パイロットじゃなけりゃ保父とかになるつもりだったからな」
 清四郎はやはり見かけによらず家庭的な性格なのかもしれない。
「僕が考えたのはフルーツポンチ。フルーツをサイダーにつけておけばいいんだよ。いちごミルクとか、ココアとかにつけておいてもおいしいと思うよ。‥‥多分」
「多分かよ」
 ニコニコしながら話す響太にジャックが軽めに突っ込んだ。
「でもフルーツポンチなら大勢で楽しめるよね」
 響太と仲良しの流真が提案したのはスコッチエッグ。ゆで卵をひき肉で包み、小麦粉、溶き卵、パン粉をつけて揚げたイギリスの伝統的な料理だ。
 とはいえ二人は基本的に味見要員なので、とにかくみんなが出してきた料理に舌鼓を打っている。
「はい、ソフィリアが持ってきたのはブッシュ・ド・ノエル・ホワイトデーヴァージョンですわ」
 ソフィリアが出した箱の中には、白桃クリームと苺クリームでデコレートされたブッシュ・ド・ノエルが入っていた。
「まず、缶詰の白桃、パイン、マンゴーを小さなハート型に抜いておきますね。生クリームに練乳を混ぜてきめ細かくホイップ、生スポンジの上に塗ってハート型のフルーツを乗せて巻きます」
「ち、ちょいまち、今メモ取ってるから‥‥って、それ作るの結構難しいんじゃねえか?」
「パイが焼けるのでしたら十分作れると思いますわ」
 ソフィリア先生に、ジャックも小さく「はい」と返事をしながらメモをとる作業に戻った。
「一杯ありますので皆様召し上がってくださいね♪」
 説明を終えると、ソフィリアは満足したのかみんなにブッシュ・ド・ノエルを切り分けた。
「最後は私ですね、私はオムレツを作りました。今日作ったのはプレーンだけど、チーズオムレツ、スパニッシュオムレツ、納豆オムレツ、きのこオムレツ、ポテトオムレツ‥‥可能性は無限大ですよ」
「うんー、夢姫ちゃんの作るオムレツはおいしいと思うぜー、最高だと思うぜー?」
「リカルドさん、近い、近いですっ」
 夢姫はじわじわ近づいてきたリカルドを両手でグイッと押しのけた。
「遊んでないで、飲み物を‥‥ノンアルコールで、カクテルっぽく作っていただけます? 大人の雰囲気、楽しみたいから☆」
「はいっ、すぐ作ってくるぜ、夢姫ちゃん!」
 リカルドというセクハラオヤジを前にして苦笑する夢姫だが、こういったオヤジのあしらいはうまいらしい。
「そうだ、ノンアルコールカクテルもメニューに加えたらどうかしら?」
「いい考えだと思いますわ、子どもも背伸びして大人の雰囲気を味わってみたいですし、女性にも喜ばれますわね」
 ソフィリアも夢姫のアイディアに頷いた。
「酒が飲めなくてもバーの雰囲気が楽しめるのはいいよな」
 ジャックが奥からトレイにノンアルコールカクテルを色々のせて、テーブルの上に置いた。
 今日は色々なメニューが集まり、どれもとてもおいしいものだった。この中から色々、メニューに加えていきたいとリカルドは考えているようだ。

 後の時間は、それぞれが作った試作品やチェリーパイ、女性陣は紅茶などを楽しみながらすごした。
 シーヴは店に飾ってあったアコーディオンの手入れをして披露している。
「飾りにしとくにはもったいねぇです、まだちゃんと音が出やがるです」
 響は得意の奇術を披露。トランプを使ったマジックに、みんな盛り上がっている。
 玲のタロット占いは女子に大受けで、ワイワイ言いながら結果に一喜一憂している。
「リカルドさんは、多分あと30年独身ですわ‥‥」
「マジで? 80近くなるまで独身なの?」
 リカルドとジャックも混ざって、大規模作戦前のひとときを過ごした一日だった。