●リプレイ本文
●シンプル・イズ・ベスト
御山・アキラ(
ga0532)は長い黒髪を一つにまとめ、食堂から借りた三角巾と割烹着を身につけた。
「豊満な体に割烹着‥‥新境地を開拓してくれたな」
メンフィスはラーメンとはあまり関係のないところに妙に感心していた。
当のアキラはメンフィスのいやらしい視線など目もくれず、早速スープ作りに取り掛かっていた。
質のよい鰹と煮干、それに鶏ガラからしっかりとダシを取る。予算のほとんどがこのスープにつぎ込まれている。
濃厚な出汁に醤油ダレを控えめに加え、醤油っぽさを押さえて出汁の風味が引き立つ絶妙のバランスに整える。
湯につけて温めておいたどんぶりの湯滴を手早くふき取り、スープにやや硬めに茹でた縮れ麺を合わせる。
出来上がったのは、スープと麺のみのシンプルな『醤油ラーメン』である。
「チャーシューだのメンマだの煮卵だのは、美味いラーメンに乗せる物であって乗せたからラーメンが美味くなるわけでは無いと思う」
きっぱりと言い切るアキラ。シンプルだが、自信溢れる一品である。
早速試食に移るメンフィスとジェスター・サッチェル(gz0189)。
具がないとかなんとか‥とぼやいていたメンフィスだが、一口食べてハッと目を見開いた。
「これはッ! 繊細かつ丁寧に作られたスープが縮れ麺に程よく絡み、口の中でしゃっきりぱいーんと踊りだす!」
「シンプル‥‥これはシンプルだからこそわかる、素材を生かしたスープの味! ダシと醤油の絶妙なバランス、見事だ!」
ジェスターもどこかの料理アニメを思い出させるリアクションを見せた。
●幻の味
「カップラーメンも確かに美味いかも知れないが、目の前で作ったラーメンの方がどれくらい美味いか、とくとその舌で味わって不毛な争いは止めろよな」
自信たっぷりに言い放つ威龍(
ga3859)実は彼の実家は中華料理店であり、彼自身プロ並の料理の腕を持っているのだ。
「俺が作るのは和風とんこつラーメン、今や幻の味となりつつあるラーメンだ!」
まずスープ。とんこつスープを濁らないように煮出して作る。それとは別に鰹節と昆布、腑を抜いて細かくした煮干から和風出汁を取る。
さらに威龍は自家製のチャーシューを用意、厚すぎず薄すぎず食べやすい厚さに切っていく。厚さにバラつきがないのも彼の料理の腕のなせる技だ。
スープに茹で上がった中太麺を合わせ、メンマと薬味葱、生卵、そしてチャーシューを盛り付ける。
「豚骨ラーメンと思って食べると裏切られたと思うかも知れない。先入観を捨てて、味わってみてくれ」
威龍は出来上がった『和風とんこつラーメン』を二人に差し出した。
「むっ、まさかこの味は‥‥名古屋防衛戦で失われつつある伝説の名古屋名物のあのラーメン‥?!」
一口すすって、メンフィスが唸った。
「これが、あの名古屋の皆さんにおなじみのあの‥! しかも自家製のチャーシューがまた美味い!」
とんこつは嫌だと言っていたジェスターも、その癖のない食べやすさに心動かされている。
●おいしいラーメンニャ☆
「あたいはおいしいラーメンを作るニャ!」
アヤカ(
ga4624)は『塩ラーメン』を作るつもりらしい。
白エビの干しエビからダシをとる。他にも鰹節、鯖節、昆布、煮干からダシをとるようだ。
腑を取り、下処理をして弱火でじっくり煮込み、灰汁をとって澄んだダシを作る。
さらに鶏ガラも下処理をして煮込み、におい消しにりんごとしょうが、葱を入れる。
普段はやや暴走気味の元気娘も、キッチンに立てばさすが女の子。細かいところまで気を遣う。
「塩はミネラルたっぷりの塩を使うニャ」
スーパーを探し回って見つけたこだわりの塩でスープの味を調える。
澄んだスープに細めのストレート麺を合わせ、メンマとチャーシュー、揚げた干しエビを砕いてトッピング。仕上げにエビを揚げた油を少しかけて完成だ。
「おいしいニャ☆」
味見をしたアヤカは満足げに二人に塩ラーメンを出した。
「アヤカちゃんの作ったラーメンならおいしいに決まってるだろ〜☆」
「塩は嫌だと言っていたじゃないか」
「それとこれとは別な」
アヤカが一生懸命作ったラーメンに二人は舌鼓を打った。
「やっぱり塩だな、さっぱりしつつさまざまなダシが程よく合わさった澄んだスープに細麺がよく合う。アクセントの干しエビも香ばしくていい」
ジェスターはかなり満足な様子だ。
「さっぱりしているが奥深い味だな、しかもアヤカちゃんが作ったとなれば言うことなしだろ!」
メンフィスはラーメンの味もさることながらかわいい女の子が作ったということで高得点らしい。この辺は無類の女好きということで勘弁してやってほしい。
●辛味がポイント! 台湾ラーメン
「私が作るのは台湾ラーメンです」
櫻杜・眞耶(
ga8467)は若いながらも料理の腕はさすが女の子。威龍ほどの手早さはなくとも丁寧に作っていく。
スープは醤油と鶏の出汁ベース。具に唐辛子味噌とニラを混ぜ合わせ、さらに鶏そぼろを作る。
「まぁ‥‥ここで手を抜いたり、化学調味料を使えば簡単に出来上がっちゃうんですけどね」
決してあせることなく急ぐことなく、丁寧に手際よく。中華麺を硬めに茹で上げ、スープに合わせて二人に出す。それとは別に、具の入った器を並べる。
「辛いのがお好きでしたら唐辛子ニラを多めに、苦手なら鶏そぼろを多めに入れるようにしてみてください。屋台の食物ですし、礼儀なんて決め込まずにお好きにどうぞ♪」
眞耶の説明を受けてまずは具を入れずに、それからメンフィスは唐辛子ニラをたっぷりと、ジェスターは鶏そぼろを多めに入れて味わった。
「ふーむ、この唐辛子ニラってのが癖になる味だな。しかも眞耶ちゃんの料理する姿は女の子らしくて眼福ってヤツだぜ」
「辛味が食欲をそそるな」
メンフィスはお言葉に甘えて豪快に、ジェスターはよく味わうようにして台湾ラーメンを食べた。
●プリーン!
ジングルス・メル(
gb1062)は赤いバンダナを頭に巻いてやる気十分にカップめんを取り出した。
まあ、それだけでも十分唖然とするに値するのだが、湯を注いで出来上がったしょうゆ味のカップめんに何を思ったのかジングルスはプリンを‥‥プリンをプッチンしたのであった。
「さあ、食え」
ターンと二人の目の前に置かれた、プリンがインしたカップめん。
「へ?」
ジェスターはマヌケな顔でジングルスとプリンラーメンを交互に見比べた。
「くせっ! くせえ! 食えってか、これを食えってか!」
メンフィスも顔を背けながらわめいている。
「プリンに醤油をかけるとうにの味がするって言うじゃん」
こともなげに言って見せるジングルス。
「ジェスター」
「ああ」
ジェスターとメンフィスは互いに目配せすると、素早くジェスターがジングルスの背後を取った。
メンフィスはにっこりと不気味に笑い、ジングルスの口にプリンラーメンを押し込んだ。
●プロジェクト・ラーメン
メンフィスとジェスターの目の前にカップラーメンを置き、お湯を注いで蓋の上にフォークで重石をする鈴木 一成(
gb3878)。
「まさかおめーもプッチンとプリンを入れてくれたりするんじゃねーだろうな?」
メンフィスに睨まれ、思わず体を小さくする一成。
「‥‥あ、あの‥これから‥その‥えぇと‥‥」
わたわたとする一成であったが、次の瞬間!
「ヒャッハァーーー!! 三分間で即席ラーメンについて語りたいんですがかまいませんねぇぇえ!! 返事は『はい』か『YES』でお願いしますよぉぉっ!」
ものすごい勢いで語りだした! しかも『はい』か『YES』では拒否の選択肢がない!
「な、何だこいつ?!」
ガタガタと椅子から滑り落ちそうになるメンフィス。
「始まったな、覚醒だ」
ジェスターは以前の依頼で一成の覚醒について知っている。が、本物を目にするのは初めてだ。
その場に集まった全員の視線が一成に注がれる。震える狼が狼に変わった瞬間である。
「WW2後の日本の食糧難から開発は始まり、商品化に至るまでには様々な試行錯誤が繰り返されてきました。お湯さえあればどこででも食べられる、場所を選ばず調理の手間も掛からないこの利便性がカップラーメン最大のウリといっても過言ではないでしょう!」
拳を握り、熱く語る一成。なるほどねぇ、などと暢気に聞き入っているジグことジングルス。
「今や全世界で約498億8千万食が食べられているそんなカップラーメンされどカップラーメン、さぁ、ここで三分出来上がりですお召し上がりください!」
きっかり3分で一成の覚醒状態が終わった。
「おま‥カップラーメンの説明に覚醒する必要があったか?」
「あ、あの、す‥すいません‥つい、その‥‥緊張してしまいまして‥‥わ、私は、手軽に食べられるものでも、それが出来上がるまでは先人の偉業があり‥‥食べ物が口に入るまでは、色々な人の労力があるということを‥つ、伝えたくて‥‥」
おどおどしながらも、自分の思いを伝える一成。
「一成の言うとおりだ、カップラーメン一つにも人々の苦労と熱い思いが詰まっているということだな」
ジェスターは感銘を受けたらしく、カップラーメンをずるずるとすすった。
「ジェスター、ジェスター、俺にも」
口を開けるジングルスに「ほれ」と麺を絡ませたフォークを突っ込むジェスター。
「うまい」
ジェスターとジングルスをのぞく面々は、一成の変貌にまだぽかんとしていたが。
●すいーつ☆らーめん
まだ幼い少女にしか見えない最上 空(
gb3976)は、てきぱきと用意を始めた。
まずごく普通の麺を茹で、軽く水を切って皿の中央に盛る。
次に四方をガトーショコラ、紅茶のシフォンケーキ、羊羹、きんつばできれいに囲む。
中央に盛られた麺の上にチョコフレークとカカオパウダーを振り、その上にワッフルを敷く。そしてそのワッフルに蜂蜜をかけ、プリンとバニラアイス、苺大福を配置。
何度も何度も味見をする空。
「大変です! 味見をしていたらいつのまにか、半分位消えています!? きっとこれはバグアの仕業ですね!!」
「いや、おじさん見てたけど明らかに空ちゃんの仕業だったぜ」
メンフィスが言うと、空はそんなはずないと言いながらさらにトッピングを加えていった。
最後に生クリームをトッピングし、チョコレートを溶かしたスープをかけて出来上がり。
「っておい! これラーメンじゃねぇだろ! ラーメンの意味あるか?」
「激務でお疲れのお二人に等分を補給してリフレッシュしていただきたいと思って空が一生懸命作ったのですよ。さあ、召し上がれなのです」
至極真面目に空が答えた。
「空が一生懸命作ってくれたんだ、うまいかもしれんだろう」
ジェスターはチョコレートがたっぷり絡んだ麺をすすり、頭を抱え込んで空に見えないように水を飲んだ。
●寒い日の冷やしラーメン
ミルファリア・クラウソナス(
gb4229)は、普段着‥らしい、ドレスのすそを少し気にしながらキッチンに立った。
長めに茹でた太麺に牛、鰹節、昆布の和風スープとごま油を加える。その上にキンキンに冷やした鴨肉チャーシュー、メンマ、海苔、煮卵、きゅうりをトッピング。
そして冷やしラーメンの肝、氷は溶けてもスープが薄くならないようにスープそのもので作られている。
「これが‥‥ミルファリア手作りのの冷やしラーメンだー」
メンフィスの前にトン!
「ばぁぁぁぁん‥‥」
ジェスターの前にコトン!
「くっ、何だこの上品に見えて呆けた天然娘は! 新たなる境地の開拓か!」
「寒い日に食べる冷やしラーメンというのもいいものだな」
ラーメンよりミルファリアの独特のペースが気になるメンフィスと、黙々と冷やしラーメンを食べるジェスター。
●勝者決定
「とりあえずこれは勝負ってことなんで、この中から一番美味いラーメンを決めさせてもらうぞ」
「俺とメンフィスが厳正に審査した結果、優勝者は‥‥御山 アキラのシンプルしょうゆラーメンだ! 初心に帰ったシンプルな見た目ながらも丁寧に作られたスープが決定打となった。ボーナスを受け取ってくれ。もちろん他のみんなのラーメンも美味かったぞ」
「ちなみに他のみんなの中にジグは入ってねーから」
「ひどい」
その後は、皆でラーメンを食べ、レシピを教えあったりと和やかな雰囲気でこのくだらない諍いに終止符が打たれたのだった。