●リプレイ本文
●高速移動艇にて、最終ミーティング
「アンダーソン伍長もつくづくついてない人だよねぇ、なんていうか、上司運がないっていうか?」
平野 等(
gb4090)はやれやれと肩をすくめた。彼の前においてあるホワイトボードには、今回の依頼内容やおおよその地図などが記されている。
実は等は今回の依頼より以前に何度かアンダーソン伍長と顔を合わせており、今回も『友達が困ってたら助けるっしょ』と彼らしいノリで参加したのだった。
「メモを地図に起こすとこのようになるのじゃな? 注意すべき点は通路が狭いこと、階段の足元の悪さじゃな。やはり持つべきものは人脈じゃ」
依頼者であるアンダーソン伍長と連絡を取ることができた等の説明とホワイトボードを眺めて秘色(
ga8202)が感心したように言った。彼女は外見は非常に美しい妙齢の女性であるが、一風変わった古風な喋り方をする。先の依頼で負傷し、その傷も癒えぬうちの依頼であったが彼女の豊富な経験は間違いなく役に立つだろう。
「よっ、ヤナギさん、ガンバろうよねっ!」
等は今回が初依頼となるヤナギ・エリューナク(
gb5107)に軽い調子で声を掛けた。これも緊張をほぐそうとする彼なりの気遣いなのだろう。
「ああ、よろしく頼む」
当のヤナギは緊張している風でもなく、作戦の確認などを行っているが。
「では班分を確認しておくぞ。まず正面突破班はわしとヤナギ、それから」
「俺だな。俺が先頭を行く」
秘色の声を継いだのは紅月・焔(
gb1386)。真面目そうに見えて常に煩悩に悩まされている男性能力者だ。
「先に裏口から入るのはボクたちですね」
ホワイトボードの地図に印をつけながら言ったのは、まだ幼さの残る少年、ヨグ=ニグラス(
gb1949)。
「焔、ヤナギ、余計なことは考えず秘色さんのフォローをちゃんとするんだぞ」
男性二人にビシッと釘をさす破天荒お嬢様系能力者、レベッカ・マーエン(
gb4204)。彼女も同じ裏口班である。
「裏口班はこの二人と、俺と真理亜さんだね」
「ドラグーンの神宮寺真理亜だ。よろしく頼む」
等に引き続き、神宮寺 真理亜(
gb1962)が歳に見合わぬしっかりした口調で挨拶をした。
「帰路の確保は私がします」
最後にハイン・ヴィーグリーズ(
gb3522)が自分の持ち場をホワイトボードに記した。
●進入、フロストバイト
「ハインさん、頼みましたよ〜」
高速移動艇を降りたところで、裏口進入班の先頭を行く等がハインに声を掛けた。
ハインはその辺りに転がっていた木箱を即席のバリケードにし、素早く脱出できるように帰路を確保する。
「何かあれば無線で知らせてくれ」
「あたしがついている、心配ないのダー!」
ハインの心配もよそにレベッカがびしりと指を指し、裏口班は裏口シャッターへと向かった。
しばらく進むと大きなシャッターに突き当たった。キメラ戦を想定して作られたものではないので作りは頑丈ではないようだ。
「これなら爪で余裕ッ!」
先頭を行く等がエリュクの爪でシャッターを突き破る。シャッターはまるで紙のようにあっさりと大きな穴を開けた。
「思いっきり派手に暴れて敵をひきつけるのです! 竜の鱗発動!」
AU−KVを身につけたヨグは竜の鱗で防御の力を高め、思い切り走りこんでいく。
「さあ、出てくるのダー!」
超機械を手にレベッカも意気込む。
その騒ぎに何事かと、ハーピーが飛び出してきた。
ハーピーは背中に羽を持つ人間型キメラだ。
真理亜が後方からガトリングを発射、ハーピーたちの気をこちらにひきつける。
4人が内部に進入、レベッカが灯りのスイッチを探して押すと電気は生きているらしく灯りが灯った。
「ふむ、裏は上手くやったようじゃ。‥‥そろそろ参るかの」
裏口班からの無線連絡を受け、秘色が蛍火を抜いて正面へと回った。
正面には鉄製の古ぼけたドアがあるが、秘色がエネルギーガンを数発打ち込むとドアは木っ端微塵に吹き飛んだ。
「じゃ、俺から行きますか!」
焔が先頭で進入。ハーピーの姿は見えない、どうやら裏口班が上手くひきつけているようだ。
焔、秘色、ヤナギの順に細い通路を静かに進んでいく。二階へと続く道の途中にドアがあるが、これも秘色がエネルギーガンで破壊。
『ギャアッ!』
ハーピーが獣の声を上げ、ドアを破った秘色に向かって飛び掛ってきた!
秘色は素早く近くにあった木箱で体をガード、その隙に焔が拳銃クルメタルでハーピーの頭を撃ちぬいた。
「嗚呼、なんてこった‥‥。こんな色っぽいキメラと敵同士だなんて‥‥! 俺は呪うぜ‥‥。運命って奴をナ!!」
などと冗談めいたことを言いながらも心臓を撃ちぬき、拳銃使い常道のスタイルでハーピーをしとめた。
「けどまぁ、色っぽさなら秘色さんのほうが上だしナ」
「大人の女をからかうでないぞ、しかし助かったわい」
負傷している秘色は思うように動くことができない。しかし経験で養った戦士のカンは馬鹿にはできない。彼女ほどの手練でなければ木箱でガードすることすら難しかっただろう。
「無理すんな、あんたの盾になることくらいできるぜ」
「ふふ‥‥言うものよのぅ」
ヤナギも秘色を気遣いながら、私物箱のある場所へと足を進めた。
「そこっ! もっと派手にやるのダー! ええい違う! 仕方がないのダー!」
レベッカは後方でああだこうだと破天荒お嬢様っぷりを見せながらも、等に練成強化をかけてしっかり戦闘の補助をした。
「力がみなぎってきたーっ! 戦闘は火力!」
武器の力を強化された等は瞬天速で勢いをつけ、壁を蹴破らんばかりの三角飛びでハーピーの体を引き裂いた。
真理亜は後方から拳銃で支援、ヨグはAU−KVの装甲を生かしてチームの盾になった。
「こら! 前方で防御してくれているヨグが狙われているぞ!」
「でぇいやぁ! 仲間を傷付けるやつは容赦しないぞっ!」
レベッカと等、やや天然系の二人が絶妙のコンビネーションでハーピーを打ち落とす。
「進んで正面班と合流するですよ」
ヨグが木箱を蹴散らして二階へと上がる。等、レベッカがそれに続く。
「先に行け。援護する」
真理亜が後ろに付き、後方を警戒しながら建物内部の中央へと向かった。
「私物箱発見!」
一方、先に二階へたどり着いたヤナギが私物箱を確認、部屋に隠れていたらしいハーピーに円閃の一撃を加えて先頭不能にした。
「お、無事にたどり着いたか」
やや遅れて等たち裏口班が合流。私物箱は等が確保、裏口班の四人から正面へ向かって脱出する。
「箱は任せたぞえ」
等、ヨグ、レベッカが破れたドアから一階へ降り、真理亜が最後に周囲を警戒しながらガトリングに装備を持ち替え出口へと向かった。
四人が中央から脱出したのを確認して、秘色、焔、ヤナギが後を追う。
「箱を回収、これから出口へ向かうぞえ」
『外は異常ありません』
秘色の無線越しにハインの声が響いた。
「箱もあったし、うまくいったかな」
「どうもハーピーの数がすくないのダー」
レベッカの言葉に等も少し不安になった。ハーピーの殲滅が目的ではないが、箱を運んでいるときに襲われるのは勘弁願いたい。
「もしや外か? ハイン殿、そちらにキメラはいるか?」
真理亜が無線機で外のハインと連絡を取る。
『こちらは‥‥』
パン、と銃声が無線の向こうから聞こえた。
『異常なし。一匹しとめましたよ』
「だそうだ」
「じゃあ、脱出しますですね」
ヨグが破壊された出入り口から飛び出し、続いて等、レベッカ、真理亜が用心しつつ脱出した。
うっすらと雪が残る平原に、木箱のバリケードと羽と足を撃ちぬかれたハーピーが転がっている。
ハインが双眼鏡で辺りを警戒する中、箱と建物内部に入っていた7人は無事脱出した。
●スミス大尉の箱
「‥‥箱の中身が非常に気になるのじゃが、覗き見禁止とは言われなんだよのう?」
秘色が怪しげな笑みを浮かべる。
「いやいや、だめですよ覗いたりしちゃ!」
等が慌てて言うが、すでに焔が箱に手をかけていた。
「まさかコレクションで人を死地に向かわせるとはな‥‥」
ズシリと重たい箱の中に入っていたのは、案の定中隊長が熱烈に応援しているアイドル歌手、シルヴィ・ラナのグッズであった。
「少し反省してもらおうか」
などと言いながら、焔は銀髪の少女が水着姿で微笑む生写真を一枚抜き取って懐に収めた。
「今何かとったですね?」
「おっと、これは反省料だ。ヨグにはまだ早いぞ。水着の美女よりプリンだろう」
「呆れた‥‥」
「健全な男子である証拠じゃ」
真理亜の背をトントンとたたきながら秘色が笑った。
「いやほんと、毎回すいません!」
中隊長付きのアンダーソン伍長は平謝りで中隊長の私物箱を受け取った。
「いやいや、友達が困ってれば助けるのが普通でしょ! ‥‥なんちゅーか、元気だしてくださいねー」
何度か依頼でアンダーソン伍長と知り合いになっていた等が伍長の肩をたたきながら何か手渡した。
「これ、シルヴィの新曲」
「ま、マジですか?!」
「ラスト・ホープではもう発売されてるからね、お土産にと思って」
「神よ〜!」
中隊長と同じくシルヴィ・ラナのファンであるアンダーソン伍長は泣き出さんばかりに感激していた。
その様子を遠くから見守るハイン。
「やれやれ、大切なものなら肌身離さず持っておけばいいのに」
「あの量じゃ肌身離さずは難しいだろ」
ぎっしりつまった箱の中身を思い出しながらヤナギ言った。
「いや、本当に大切なものだけでもね」
ハインの言葉にヤナギが首をかしげる。ハインが言っている『大切なもの』とは、箱の奥に押し込まれていた大尉の両親の写真のことだった。
「中隊長殿!! 分かりますよ。貴方の気持ち! 俺も、ちょっとここでは言えないような写真集やらを失ったら、我身を割かれるようで‥‥!」
「おいオッサン、そんなに大切な物なら自分で管理するんだな」
中隊長の前では、生写真をくすねた焔とおっさんの宝物にげんなりしたレベッカが各々言いたいことを言っていた。
「ボクも一つ、頂いたですよ」
ヨグが手のひらに乗せて秘色に見せたのは、銀色の包み紙で両端をねじってあるキャンディー。
「箱の中に袋ごとたくさん入っていたのです。きっと中隊の皆さんへのバレンタインのプレゼントですね」
「少々ドジなようじゃが、なかなか粋な男じゃの」
アンダーソン伍長にキャンディーの袋を押し付ける中隊長を眺めながら、秘色が目を細めた。