タイトル:血まみれのマリーマスター:柳高 ぱんな

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/25 01:18

●オープニング本文


 あれは去年の冬だった。
 私の母は能力者に殺された。私の目の前で。
 何も知らなかった私と母は、キメラと能力者の交戦中にその現場を通りかかった。
 そこで戦闘があるなんて知らなかった。
 流れ弾が母の体を正面から貫き、血しぶきが私に降りかかった。
 つないでいた手がずっしりと重くなるのを感じながら、私は呆然とたたずんでいた。

 母と二人で暮らしていた私は、その瞬間にすべてを失った。

 能力者が憎い。母を殺した能力者が。
 力がほしい。能力者を凌駕する力が。

 そして彼女は力を手に入れた。
 しかしそれは人間の敵、バグアの力。
 バグアの力が結果的に彼女の母を殺したのだとしても、能力者を憎むことしか考えられなかった彼女はその力を求めた。力が手に入れば、それが何によるものだろうと関係ない。人間であることを捨てようとも。
 禁忌の力を手に入れたマリーは、能力者に牙を剥く。

 純粋無垢で、残酷なマリー。
 かわいそうなマリー。

●少女は荒野に降り立つ
 北アメリカのとある地方にある町より、ULT本部に連絡が入った。
 町の外に巨大キメラ『ケルベロス』を2匹従えた少女がいるという。
 真っ赤なドレスに身を包んだ少女はケルベロスの背に乗り、まだあどけない顔で表情一つ変えずに言った。
「能力者をよこさなければ、この町を破壊します」
 少女は町の外に広がる荒野で能力者を待っている。

●参加者一覧

国谷 真彼(ga2331
34歳・♂・ST
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
武藤 煉(gb1042
23歳・♂・AA
カララク(gb1394
26歳・♂・JG
イリス(gb1877
14歳・♀・DG
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD

●リプレイ本文

 少女はケルベロスの背に乗り、荒野にたたずんでいた。東の方角には小さな町がある。少女はその『町ごと』人質にとっている。
 三つ首の獣、ケルベロスの背で少女は血のように真っ赤なドレスを風にはためかせ、長い金髪をなびかせていた。青い瞳はじっと見つめている。能力者たちを。

 町にシェルターはなかった。小さな町に都合よくシェルターが用意されているのはまれなケースかもしれない。国谷 真彼(ga2331)は考えた末、町長に町の住人を町から退避させることを進言した。万が一、自分たちがケルベロスをとめることが出来なかったことを考えて。
 真彼を師と慕うカララク(gb1394)も町を守ることを最優先と考えており、人々の退避に協力した。結果、住人の9割以上を何とか町から脱出させることに成功した。

「私はシャーリィ・アッシュ。‥‥能力者であり、騎士だ。我々を呼び出した目的を‥‥聞かせてもらいたい」
 シャーリィ・アッシュ(gb1884)は少女と対峙し、問うた。
 少女は無表情を保った。無言のときがわずかに流れた。
「能力者の力を自分で確かめるため」
 少女が答えた。
「我々との決闘がお望みか?」
 水無月 春奈(gb4000)が少女に確認するように言う。
 少女は答えない。
「能力者なんて言葉でひとくくりにしないで。あなたがこのイーリス・フォン・シュヴァルツェンベルクの敵なのかどうか、はっきり聞かせて!」
 イリス(gb1877)は自分の言葉を少女にぶつけた。はっきりと敵であると言われれば、こちらも納得して戦うことができる。
「あなたが能力者なら、敵です」
 少女とイリスの視線がぶつかる。互いを敵だと認識しあった瞬間だった。
「‥‥聞かせてくれ。何故手前は、戦うことを選んだ?」
 武藤 煉(gb1042)は、まだ幼さの残る少女が血なまぐさい戦闘をすることに納得がいかなかった。そこには何か理由があるはず。
「あなたに話す義務があるかしら」
 少女は顔にかかる髪を払いながら答えた。いや、正確には答えではないが。
 何か事情が聞ければ、と思っていた煉は唇を噛んだ。
「可愛らしいお嬢さんだが、散歩させる犬はもう少し選んで欲しいな」
 夜十字・信人(ga8235)は誰に言うとでもなく、しかし少女を見据えて冗談めかして言った。
「あなた、これが犬に見えて?」
 少女は少し首をかしげて言葉を返すと、もう一匹のケルベロスになにやら合図を出した。彼女の合図に反応し、ケルベロスがこちらに向かって突進してくる。
「いきなりかよ!」
 すぐさま覚醒した宗太郎=シルエイト(ga4261)が槍を構え、迎え撃つ体勢をとった。しかしケルベロスは彼の射程に入る前に三つ首から同時に炎を吐く。その炎が信人を襲った。
「ぐっ!」
 ガトリング砲を盾に炎を防ごうとしたが、炎の威力が圧倒的に強い。両腕を焼かれ、信人は苦痛に顔をゆがめた。
「さがれ信!」
 煉がケルベロスと信人の間に入るようにして距離をとらせた。
「貴様よくも‥‥!」
 友人を傷付けられ、カララクが激昂するがそれを煉が止める。
「頭に血ぃ上らせて勝てる相手じゃねぇ!」
「俺なら平気だ、カララク」
 ガトリング砲を引きずりながら信人はなんとかカララクに視線を向け、彼を落ち着かせる。真彼は練成治療で信人の火傷をある程度まで癒した。
「とにかくケルベロスは片付けなければならないでしょう」
 エネルギーガンに持ち替え、ケルベロスに狙いをつける真彼。
「敵ならば戦うまで!」
 イリスはAU−KVを着用し、ケルベロスに接近する。炎を岩で防ぎながらバスタードソードに練力を流し込む。
 真彼とカララクはエネルギーガンで援護射撃、信人はガトリング砲を放った。
 イリスは自分から右側の頭に狙いをつけ、バスタードソードを振るった。ケルベロスは至近距離から炎を吐き、イリスを包み込む。AU−KVがなければ火傷どころではすまなかっただろう。
 カララクは拳銃『ラグエル』に貫通弾を装填し、ケルベロスの頭部を狙った。弾丸はケルベロスの中央の頭に当たり、顎から上を吹き飛ばした。
 のたうつケルベロスに吹き飛ばされるイリス。剣を地面に突き立てて立ち上がるが、先の炎を浴びたせいもあってダメージが大きい。
「イリス君、下がってください! 治療を!」
 真彼が声を上げる。
 頭を一つつぶされたケルベロスの四つの目が、怒りに燃え滾っていた。

●マリーとケルベロス
 一方、少女とケルベロスには宗太郎たちが向かっていた。
「一体何が手前をそんな風にしたんだ? 何か理由があるはずだ」
 煉はなおも少女に問いかける。
「私の名はマリー。あなたにお話しするのはそれだけです」
 まるで感情のない声で少女はマリーと名乗った。
「理由もなく俺たちをここに呼び出したっていうのか、町ごと人質に取ってまで!」
 煉は少女には何か理由があると確信していた。そうでなければ、幼い少女がバグアに身を窶すなど。
「能力者が憎いの。能力者であればすべて私の敵。理由はあなたたちが能力者だから。能力者はすべて私の敵」
 ケルベロスの背からマリーが言い放った。しかし憎しみがこもっているような声ではない。感情を持ち合わせていないような。
 洗脳‥‥煉はそう感じた。バグアによる洗脳か、彼女の『何か』につけこんで。
 煉が考えをまとめようとしているしているとき、膠着状態を打開すべく春奈が飛び出した。
「ケルベロスは強敵だぞ!」
 宗太郎が後を追う。エクスプロードでスマッシュを繰り出し、ケルベロスの足を払おうとするが動きを止めるには至らなかった。
 マリーはケルベロスの背から飛び上がり、宙を舞って地面に足をついた。
 なおもケルベロスに向かおうとする春奈の体に衝撃が走った。ラジエルを握る彼女の腕部のAU−KVが割れ、肉が裂けて血が噴出していた。
「ああっ!」
 剣を落し、膝をつく春奈。
 目の前にはマリーが自身の背丈を越えるバスタードソードを片手に持って立っていた。
 見かねたシャーリィが飛び出すが、赤い風のように動くマリーのほうが早くシャーリィの目の前に立ちふさがった。
「私は騎士だっ! その名にかけて!」
 シャーリィとマリーのバスタードソードが交錯する。弾き飛ばされ地面に刺さる大剣、それはシャーリィのものだった。
「力に見合わぬ名なら意味がない」
 マリーは剣先をシャーリィの喉元に当て、突いた。軽く突いただけのように見えたが、シャーリィの体は吹き飛び大地に叩きつけられた。
「ゲホッ!」
 AU−KVがなければ首が飛んでいたかもしれない。シャーリィはすぐ立ち上がることができなかった。
 宗太郎と煉が助けに行こうとするが、こちらもケルベロス相手に身動きが取れない。すでに炎を受け、体の各部に火傷を負っていた。
 とにかく目の前のケルベロスを何とかしなければ。
 宗太郎はエクスプロードをケルベロスの口に差込んだ。槍の先が爆発し、頭を砕く。しかしケルベロスも別の頭を宗太郎にぶつけ、炎を吐いた。
 誰も傷ついてほしくない、そんな煉をあざ笑うかのようにマリーは一瞬にして仲間をなぎ払った。シャーリィと榛菜もまた、マリーとケルベロスを甘く見ていたのかもしれない。
「俺は誰にも傷ついてほしくねぇんだ、手前にだって傷ついてほしくねぇ!」
 煉はマリーに向かって叫んだ。心のからの叫びだった。
 マリーは額に手を当て、煉から目をそらした。
「中途半端な力は人を傷付けるだけよ‥‥」
 少し苦しそうにマリーが言った。初めて感情の感じられる言葉だった。

 宗太郎と煉はそれぞれシャーリィと春奈を抱きかかえ、ケルベロスと血のようなドレスをまとったマリーから距離をとった。
「己の力を過信していたようね、そんな戦い方ではいずれ命を落します。このマリーの手に掛からずとも」
 AU−KVのバイザーの下で、春奈は悔しさに唇を噛んだ。
「敵に忠告か?」
 すでに戦える状態になくとも覚醒状態を保っている宗太郎がマリーに向かって叫ぶ。
「次に会うときは、命を賭して向かってきてください。そうでなければ何を斬ったかもわかりません」
 無感情にマリーが言った。
 彼女は風に金髪をなびかせながら傭兵たちに背を向けた。
 煉は悔しさと、わからぬマリーの過去と、さまざまな思いを抱えて歯噛みした。
「万が一のことを考えておいてよかった、もし彼女が町へ向かったとしても、住人は避難しています」
 分かれて戦っていた真彼が合流し、マリーの背を見送った。
 マリーとケルベロスを追う力は、残っていなかった。

●マリー
「能力者をよこしたのだから町はそのままにしておこうと思ったけれど」
 マリーは傷ついたケルベロスをつれて歩きながら一人ごつ。
「気が変わったわ」
 彼女の瞳に一瞬、憎悪のようなものがよぎった。