タイトル:俺達の最終オブジェクトマスター:柳高 ぱんな

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/15 18:16

●オープニング本文


 ジェスター・サッチェル中尉は怒っていた。
 UPC北中央軍が保有する旧米軍の演習場、その一部は競合地域にもあるのだが、今その演習場の施設がキメラの巣になっていた。
 なぜか巻貝のような不思議な形をしたトーチカ。そこに巣くっているのは『ボンバーマウス』という口から弾丸を吐くキメラだ。
 機関銃を出す窓から弾丸を吐いてくるって訳か、クソ。キメラ風情が人間のようなことを考えて。
 キメラは繁殖しない。が、居心地がよければ仲間が寄ってくるだろう。そうなれば演習場を丸ごと奴らにのっとられてしまうではないか。
 サッチェル中尉にとって演習場は居心地のいい場所だった。特に何だ、あの巻貝のトーチカ。俺はなぜかあれが好きだった。あいつを最終オブジェクトと呼んで走り回っていたっけな。
 しかし今や思い出の最終オブジェクトはキメラの巣窟。とうとう物理的にあれを破壊するときがきた。昔は油性ペンで『グレネード』と書いた紙箱を投げ入れれば状況終了だったが、今回はダイナマイトを設置して破壊せねばなるまい。

「ダイナマイトは二つ、一つでトーチカを粉々にできる威力がある。もう一つは予備だ。設置は簡単、3秒で誰にでも設置できる。置いて、スイッチを押すだけだ」
 サッチェル中尉はダイナマイトを二つ、机の上に置いた。
「スイッチを押せば解除は不可能、5秒で爆発する。設置したら10メートル以上離れろ。敵はネズミだが口から弾を吐く。頭のほうは大したことはないがとにかく素早い。ネズミは最低でも5匹以上だ。確実に処理してトーチカを爆破せよ」
 簡単な地図が各員に配られた。平原に身を隠すための岩の壁がいくつか、その先に巻貝の形をしたトーチカ。
「場所は演習場だがこれは演習ではない、ネズミ相手でも心してかかれよ」

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
鈴木 一成(gb3878
23歳・♂・GD
戸隠 いづな(gb4131
18歳・♀・GP
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD

●リプレイ本文

●作戦前夜
「遅くなってすまない」
 ジェスター・サッチェル中尉はクリップボードを片手にようやく卓についた。軍人にしては小柄な体格、黒い髪と瞳を持つ青年士官。
 傭兵と軍人は軽く挨拶を交わした後、早速質疑応答に移った。
「そのトーチカは元々この演習場にあったものですか? また、トーチカの構造上弱い部分はありますか? たとえば雨風でもろくなっている部分や壁が薄いところなど」
 長身で無駄なく鍛えられた体、つややかな黒髪の青年は白鐘剣一郎(ga0184)。今回のメンバーの中でも経験を数多く積んでいる。
「トーチカは元々演習場にあったものだ、それをキメラが占拠している。雨風には晒されっぱなしだし、作りもあまりいいほうではない。特にあの妙な形だ、上に行くほど脆いと聞いている。しかし確実に崩すには下部にダイナマイトを仕掛けてくれたほうがいい」
「では作戦通りですね。拙者がダイナマイトを設置するのはトーチカ内部の下部」
 中尉の言葉に答えたのは戸隠 いづな(gb4131)。小さな体ながら日本で言われる『くのいち』らしい。
「それではボンバーマウスと呼ばれるキメラの攻撃射程距離はどのくらいでしょうか」
 さらに剣一郎は重要な質問を続ける。囮をつとめる上でできる限りの情報はほしい、たとえ敵が貧弱なネズミキメラであっても隙を見せることはできない。
「個体差はあるが、今回のキメラの有効射程距離は40m前後という報告が入っている。威力は小型の拳銃程度で、弾もそれほど大きくないが当然当たり所が悪ければ大怪我をすることになる」
 キメラ相手に怪我をせずに済む戦闘が少ないことはわかっているが、直接口に出されると緊張が違う。机に置いた手が少し震えている男は鈴木 一成(gb3878)。どうやら緊張しているようだ。
「なお、弾丸は炎弾で金属ではないそうだ。それからキメラの回収は遠慮してもらえますかね? ドクター」
 サッチェルが『ドクター』と呼んだ銀髪の男はドクター・ウェスト(ga0241)。怪しい笑みを浮かべている。
「君は我輩の研究のことを知っているのかね?」
「多少小耳に挟んだ程度ですが。いいですね? キメラの回収はこちらに任せていただきたい」
 ドクターは笑みを浮かべながら頷いた。
(「あ、あの顔は絶対諦めてないよぉ‥‥」)
 ドクターの怪しく光る眼鏡を横目で見ながら体をちぢこませているのは橘川 海(gb4179)。ずばり今回がデビュー戦であるドラグーンの少女だ。
「あのぅ、中尉さん、訓練に使うようなスモークってないですか?」
 その場の雰囲気を振り切るように海は思い切って質問を投げかけた。
「あるが、どうするんだ?」
「えっと、ダイナマイト設置のときにキメラを撹乱できるかと思うんです。それにダイナマイトより目を引きやすいから、そっちに気を取られて隙ができると思って。だめですか?」
「いや、いい考えだ。煙幕手榴弾を2つ用意しよう。設置班のお前に携帯させる」
 おそるおそる聞いてみた海だが、サッチェルはクリップボードに目を落としながら少し微笑んだ。
「あ、わ、私からも質問です。トーチカから見て狙いやすい場所や目に付きやすい場所はありますか?」
 控えめに手を上げて尋ねる一成。
「トーチカには覗き窓がある。連中はそこからこちらの様子を見てくるだろう」
「それでは奴らの餌は? おびき出せるような」
 グリーンの瞳に強い力を感じる歴戦の傭兵、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)。
「お前らが餌にならんよう祈るよ。しかしトーチカに閉じこもりきりでは腹も減っているだろう、作物を食べるという話なら聞いたことがある。これも個体差によるが」
「ではそのキメラによる被害者はいるのかね? つまり我々の前の餌といったところか」
 またもや怪しく瞳を輝かせるドクター。
「いませんよ、被害が出る前に退治というわけです、ドクター」
 サッチェルの言葉にドクターはハイハイと手で頷く仕草をした。
「しかし、『最終オブジェクト』とは、面白い名前だな‥‥」
 誰に言うともなく、ホアキンがつぶやいた。
「で、ですよね。それにその形まるで‥‥」
 そこで言葉を飲み込む一成。
「巻き○×だろ?」(紳士淑女の皆さんのために伏字)
 こともなげに後を続けるサッチェル。
「施設班の連中の大掛かりなジョークだよ。俺はあそこが本当に好きで、『最終オブジェクト』なんて大掛かりな呼び名で仲間と暴れまわったもんだ」
 小さな部屋にクスクスと笑い声が響く。軍人の考えることはわからない。
「軍人さんも下品なんだから」
 海は頬を小さく膨らませてぷん、とそっぽを向いてしまった。
 サッチェルは冷静を装いながら内心このかわいらしい娘に嫌な印象を与えてしまったのではないかとデリカシーのない自分を嘆いた。

●作戦開始
「では作戦通りに。皆、決して無理はするな」
「了解!」
 剣一郎の出発の合図に元気な声で答える海、そして頷く他のメンバーたち。
「カズナリ、そんなに心配せんでも大丈夫だぞ! 君を餌にはさせん、けひゃひゃ‥‥」
「な、なんだかあんまり安心できませんよぉ〜」
 背中を叩くウェストに、一成はビクビクしながら言った。もしかしてキメラよりドクターのほうが怖いんじゃ‥‥
「囮をよろしく頼みます。拙者と海はその間に確実にダイナマイトを設置します」
「ネズミたちにとっては、私たちは侵略者だから。家を壊そうとする人に向かっていくと思うんです。その間に隙ができるはずだから、ダイナマイト設置はうまくいくとおもいます。ダイナマイト設置前にスモークを炊きますから、煙を見たらみんな猛ダッシュで逃げてください!」
 いづなと海のダイナマイト設置班に見送られ、囮班が先に駆け出した。最終オブジェクトへ。

 まず、能力的に申し分のない剣一郎が盾を構えてトーチカへ近づく。遮蔽壁には隠れずあえて姿を見せ、敵の攻撃射程を知りたい。
 悪ふざけで作られたようなトーチカから、キメラの殺気がビリビリと伝わる。向こうもこちらの出方をうかがっているようだ。
 トーチカの覗き窓に、ドブネズミのようなキメラが目をギラギラ光らせてこちらを見ている。剣一郎がさらに一歩踏み込んだ瞬間、『ボッ』という音と共に盾に小さな炎の塊がぶつかった。30m程か、これなら確実に攻撃を当てられるという射程は。思った以上に射程があるな。
「行くぞ!」
 剣一郎の掛け声で、岩陰に隠れていたウェスト、ホアキン、一成が飛び出した。
「ひゃああぁぁ〜」
「カズナリ! しっかりせんか!」
 緊張のあまり素っ頓狂な声を出してしまう一成をウェストがグイグイと押し出す。
 ホアキンは先ほど確認した射程ギリギリのところへ餌として持ってきたチーズを撒きながら走った。ネズミといえばチーズだろう。一成もそれに倣い、せっせとチーズをちぎっては撒く。
 立てこもりでよほど空腹だったのだろうか、チーズの匂いを覗き窓から嗅ぐボンバーマウス。やはりキメラも食料なしには生きながらえないということか。
 チーズの匂いにほんのわずか気をとられている隙に、剣一郎とウェストがぐんと距離を縮めてきた。
 ボンッ! と再びネズミたちが炎の弾を吐き、それが剣一郎の上着をかすめて焦がした。
「狙いもそういい加減ではないか‥‥」
 剣一郎はサッと岩陰に姿を隠す。
 ポリカーボネートのシールドで弾を受けるウェスト。
「やはり炎属性の弾は熱いねぇ〜!」
 攻撃を受けながらも、キメラの属性を少しでもつかめることが嬉しそうな調子だ。楽しみながらもエネルギーガンで反撃に出る。
「そろそろ出てきてはどうだね〜?」
 かなり強力に改造されたエネルギーガンの弾が、容赦なくトーチカを襲う。
 篭っているのも限界だと感じたのか、ボンバーマウスが3匹ほどトーチカから飛び出した。
「この間合いならば‥‥天都神影流・虚空閃!」
 岩陰から飛び出した剣一郎がすかさずボンバーマウスにソニックブームをぶつける。覚醒して光をまとった姿は黄金の騎士のようでもある。
 鮮やかに繰り出された一撃に成す術もなくちぎれて地に落ちるボンバーマウス。
 さらにウェストもエネルギーガンで1匹を撃ちぬいた。
 チーズを撒いたホアキン、一成のほうにも数匹のボンバーマウスが駆け出していた。キィキィと不気味な声を上げながら、最後の晩餐にありつこうとでもいうのか。
「さぁ、こっちへ来い!」
 覚醒で左の掌を熱く燃やしながらホアキンがボンバーマウスを挑発する。跳ねるように宙を舞うボンバーマウス‥‥
「ヒィヤーーーーーーーッアーーーッハハハアァーーーッ!!」
 奇声を上げながらそれをソードで叩き落したのはあれほど緊張していた一成だった。
 これにはさすがのホアキンも一瞬後ろに跳び退った。
「だ、大丈夫かねカズナリは‥‥テンションが高いようだが〜‥‥」
 ポリカーボネートごしに一成を見守るウェスト。覚醒した一成はまるで別人のようにキメラをものともせず叩き落していた。
「やあああーーーっははははぁぁああぁぁ!!!! いーーーひっひひひぃぃひぃぃぃ!!!」
 跳ね上がったテンションに任せてキメラに剣を振るう一成。やや距離を置いて、フォルトゥナ・マヨールーによる射撃で一成をカバーするホアキン。実際は実戦経験の多いホアキンがほとんどのキメラを撃ち落していたのだが、一成の覚醒はチーズ以上にキメラをひき付ける力があった。主に恐怖的な面で。
「銃眼の向こう、狙わせて貰うぞ。天都神影流、虚空閃・波斬!」
 とりあえず一成とそれに向かうキメラはホアキンに任せ、剣一郎は正面の敵に急所突きを加えたソニックブームの斬撃を食らわせた。

「な、なんだかすごいんだけど‥‥」
 遮蔽壁に隠れて様子をうかがっていた海が、AU−KVのハンドルを握り締めてつぶやいた。双眼鏡を持ってくればあのすごい戦闘がよく見れたかもしれない。
「海、今が好機! 行きますよ!」
 いづなに促され、海はスロットルを全開に最終オブジェクトへ向かった。うわわ、中尉さんの言ってたとおりの形だよぉ‥‥
 瞬天速で瞬きも終わらぬうちにトーチカに到達したいづな。その後に続いた海は素早くリンドヴルムを全身に纏う。
「スモークを炊きます!」
 海は煙幕手榴弾のピンを引き抜き、トーチカからそれほど離れていない場所に放り投げた。
 地面に落ちた手榴弾から、もうもうと白い煙が上がる。
 煙が上がったのを確認してから、海といづなはトーチカ内部へと侵入する。その際、リンドヴルムを装着した海がいづなの行動の妨げにならないようかばいながら進んだ。
 トーチカの中は空だった。囮班がうまく追い出してくれたらしい。
「火薬の匂い‥‥素敵‥‥」
「ちょ、ちょっといづなさん! ダイナマイトでトリップしないで!」
 ダイナマイトに頬ずりしながらうっとりするいづなを慌てて海がこちらの世界に呼び戻した。
「設置完了‥‥」
「脱出しましょう!」
 いづなは瞬天速で素早く安全な距離をとり、岩陰に身を隠す。海も竜の翼で素早く脱出した。
 囮班は事前に投げたスモークですでに退避している。
 ドオォォン‥‥
 きっかり5秒で、ダイナマイトは爆発した。しっかり耳を押さえていたいづなは、爆炎を見ながらまたもやうっとりしていた。
「綺麗‥‥」
「いづなさん帰ってきてぇー!」
 リンドヴルムを全身から開放した海がいづなの肩を揺する。我に返ったいづなと共に、無事に逃げてくれたはずの仲間たちのもとへリンドヴルムを走らせる。
「みんな無事ーっ?!」
 粉々になったトーチカを追い越して、リンドヴルムに立ち跨る海。
「しまった、まだ1匹‥‥」
 剣一郎が言い終わる前に、残った1匹のボンバーマウスを海のリンドヴルムがひき潰していた。
「え? どうしたの?」
 海が振り返ると、そこにはぺしゃんこになったネズミが1匹。
「いやぁーッ!」
 海が悲鳴を上げた。
 すでにある程度のダメージを受けていたキメラは、海の最後の一撃で完全に息絶えていた。
「もうキメラは残っていませんか?」
「彼女が最後の1匹を片付けてくれたからな」
 いづなの問いに、剣一郎が苦笑して答えた。
「こんな大胆な攻撃にはそうそうお目にかかれないだろう」
「ホアキンさんまで〜っ!」
 海はポカスカと叩こうとするが、闘牛士でもあるホアキンに軽くいなされてしまった。
「い、今更、手が震えて‥‥」
 両手を見つめながらカタカタと震える一成。
「キメラはもとよりカズナリの生態も気になるねぇ〜」
「や、やめてくださいよぉ〜」
 ウェストに興味ありげな目で見られて、一成は体を縮こまらせた。
「さて、研究に使えそうなキメラのサンプルは‥‥」
「中尉さんがダメだって言ってたじゃないですかぁ〜」
「ならばカズナリのサンプルを採ろうかねぇ?」
「やめてくださいよぉ〜!」
 ウェストと一成のやり取りを見てやれやれと肩をすくめるホアキン。

 ちなみに、ドクター・ウェストが隠し持って帰ろうとしたボンバーマウスのサンプルは、いづなが『忍者』の技を使ってかばんから抜き取り、サッチェル中尉に渡したとのこと。