タイトル:ラストフードチョコマスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/10 23:29

●オープニング本文


「おいマイク、賭けないか?」
「‥‥何をだい?」
「晩飯さ」
 しんと静まった夜の森。
 月は高く上っているが、木々が広げた葉によってほとんどの光は遮断されていた。
 その中でも一際背の高い木の下、二人の男が座り込んでいた。
 ちりちりとした髪の黒人と、短く切りそろえた金髪の白人。
 最初に声を発したのは黒人男性の方だった。彼は鞄の中から半分ほど既に食べられた板チョコを取り出して笑う。
「ふっ、晩飯、か。で、ボブ、何で勝負する?」
 ため息とともに同じく笑みを漏らした、マイクと呼ばれた白人。
「これさ」
 黒人――ボブは、腰にぶら下げておいた拳銃を示した。マイクの表情から笑みが消える。
「生き残った方が、飯を得る。簡単だろう?」
「馬鹿な」
 視線を逸らし、マイクが吐き捨てる。
 しかしいつの間にかボブからも笑みが消え、睨んでいるようにすら思えるほど真剣な目つきで、拳銃を取り出した。
「食い物といえば、もうこれしかない。助けだっていつくるかも分からない。もう限界だ‥‥。やるぞ。でなきゃ生き残れない」
「ボブ、落ち着くんだボブ。そんなことしたって無意味だ。二人で救助を待とう」
「Shut up!」
 拳銃をマイクにつきつけ、ボブは撃鉄を起こした。
「俺だってこんなこたぁしたくないさ。でも、でもな‥‥!」
「分かった、分かったよ。そういきり立つな。チョコならお前が食っちまっていいから」
「駄目だ、それじゃ駄目だ。俺はお前には生き延びて欲しい。でも、俺だって生き残りたいんだ。平等に、どちらが生き残るかを決めなきゃ、駄目だ」
 マイクが手汗をぐっと握る。
 隊とはぐれてこの森に迷い込み、3度目の夜。マイクもボブも、心身ともに限界だった。
 通った道には一定の間隔で木にナイフで傷をつけ、どう進んできたかの目印としてきた。それをたどっていけば、森の入り口近くまでは戻れることだろう。だが、この森にはキメラが潜んでいる。そもそも、そのおかげで隊からはぐれてしまったのだ。
「なんでそう極端なんだよ」
 マイクは呟いた。
「このままじゃこいつを食えなかった方が飢えて死んじまう。飢えに苦しんで死ぬ様は見たくない。飢えに苦しんで死にたくもない。だったら、いっそ」
 拳銃を持つ手が震えているのが、暗がりでもよく見えた。
 いや、震えているのは、手だけではない。
「‥‥分かった。やろう」
 腰を上げ、マイクも銃を引き抜く。互いに視線を絡めたまま、徐々に距離を開けていき、そして、駆けだした。

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
天空橋 雅(gc0864
20歳・♀・ER
守剣 京助(gc0920
22歳・♂・AA
シィル=リンク(gc0972
19歳・♀・EL
橙乃 蜜柑(gc5152
20歳・♀・FC

●リプレイ本文

●救出作戦始動
 二人がはぐれたのは、丁度森の入口でキメラと交戦した時だという。本来、付近の調査に当たるために差し掛かった道。そこで森から突然現れたキメラにより、隊は散り散りになってしまった。ボブとマイクはキメラに追い立てられ、森の奥へ消えてしまったというのが、彼らの所属していた隊の隊長から聞かされた話だった。
 森はは広くないがとても複雑で、迷いやすい。
「本来は高レベルの能力者ですら至難の業なのに、全く‥‥」
 キメラが潜むという森を見つめ、辰巳 空(ga4698)が静かな怒りを呟きにした。キメラは能力者が複数人でかかってようやく1匹倒せる、ということもあるほど手ごわいものだ。そんなものがうろつく森で過ごすことの危険性は、言うまでもない。
「‥‥今頃キメラの腹の中という展開も有りますね」
 肩を竦めて見せたソウマ(gc0505)。この二人はボブとマイクを心配するあまりに感情が逆転してしまっているようである。
「地図、ハ、ナイ、ノ、デスカ‥‥?」
 隊長に確認を取るのはムーグ・リード(gc0402)だ。
「キメラが出没している通り、この辺りの地形調査は不十分だ。地図は用意できていない」
「ソウ、デス、カ‥‥」
 返答は良いものではなかった。だが、ムーグはさほど残念そうな様子は見せない。自前でマッピングする用意は出来ていたからである。
 大方、集められる情報は集まった。傭兵達はボブとマイクの救出作戦を開始すべく、森の入口に立つ。
「今回は助ける側か。待っていろ、今度こそ助ける」
 命の消えた体を抱いた冷たい感触。それを思い出し、その手を見つめ、握った。天空橋 雅(gc0864)は、あの時のような思いはすまいと心に誓い、顔を上げる。
「どうか俺たちが救出するまで生きててくれよ。そんで俺に最高のギャグを見せてくれ‥‥」
 救助対象の二人は、普段は愉快な連中だと聞いた守剣 京助(gc0920)は、また違ったベクトルでやる気をみなぎらせていた。非常にノリは軽く見えるが、願うことは同じである。
 この救助作戦は、傭兵達を4人ずつの2班に分かれて森を捜索、救助対象を保護しようというものである。もちろん、ただやみくもに探すのではなく、各々で手掛かりを探しながら、互いに連絡を取りながら、だ。
「よし、じゃあ行こー」
「2人とも、気がふれてなければいいけれど」
 フローラ・シュトリエ(gb6204)がウォーキングライトの電源を入れ、シィル=リンク(gc0972)が続いて歩き出したのをきっかけに、他の傭兵達も次々と森の中へと突入していった。

●森のアナウンス
「ボブさんマイクさんいますかー? いませんかー? 救助隊ですよー? ご飯もありまーす! 出てきてくださーいっ! あ、ちゃんと周囲警戒は忘れずに!」
 ムーグより借りたソニックヴォイス・ブラスターを使い拡声器で森に声を響かせる橙乃 蜜柑(gc5152)だが、すぐ救助対象が見つかるなら苦労はない。
 木々に茂る葉を揺さぶる声とともに進むも、返ってくるのは橙乃の声だけだ。
「三日となると結構経っちゃってるわよねー。目印だけでも早い所見付けたい所だけど」
 ライトであちこちを照らしながら、フローラが言う。隊長の言い付けを守っている限り、ボブとマイクがどこかに目印を残しているはずなのだ。
「で、ムーグさん。自分ではやらないんですか?」
 呼びかけを続けるフローラを示し、ソウマが問いかける。
 様々な方向に気を巡らせつつ歩くといっても、会話がなければ退屈だ。もちろん、問いかけた相手を見れば回答なんて分かり切っていた。
「私、ハ、喋ル、ノハ、得意、デハ、ナイ、ノデ‥‥」
 やっぱり、と苦笑。スキルを使用しつつ目印を探すソウマだが、なかなか見つからない。
「‥‥近くには居ないようですね」
 ふ、と顔を上げて呟く。が、その目が捉えたものが、今の言葉を撤回させた。
「軍人さんは、ね」
 不穏な雰囲気を感じ取ったフローラがライトで頭上を照らす。
 光に照らされた何かが、影も残さずに降る。
「橙乃ちゃん!」
「え‥‥?」
 叫ぶフローラ。声に振り返った時には、遅い。影は橙乃の胴から腕を拘束し、縛り上げた。

 シー‥‥。

 その正体は、蛇だ。大蛇とすら言えるほどの体格からの締めつけに、橙乃は声も出せずにもがく。手に握られていたマイクも地に転がった。ミシ、ミシと骨の軋む音。
 息が詰まり、みるみる顔が赤くなる橙乃を助けようと、ソウマとフローラが地を蹴った。だが。

 キキーッ!

 2人の背中を強い衝撃が襲う。重心が大きくずれ、倒れこんだ。
 暴れるウォーキングライトの光が一瞬照らしたものを、ムーグは見逃さない。
「お猿、サン、デス、ネ‥‥」
 木の枝で飛び跳ねるキメラ。その手にはバナナ。そしてソウマらの脇に転がるのも、バナナ。あの猿が投げつけたものと見てまず間違いない。
 しかし今は橙乃の救出が先決だ。ムーグがヘビへと近づこうとする。が、その足元をバナナが襲った。
 回避。だが、これではヘビに近づけない。
 勝ち誇ったように枝で踊る猿。体勢を立て直したフローラが超機械「扇嵐」で猿を狙うが、軽快なステップで避けられてしまう。
「くっ、このままでは‥‥!」
 焦るフローラ。ムーグも隙を見て橙乃を助けんと構えている。
 一瞬。猿が首を傾げた。そして、落ちた。
「! 今、デス」
 突然のことにフローラもムーグも硬直したものの、チャンスと見たムーグが一目散に大蛇へと向かって駆けた。
 一方、落とされた猿は何が起きたのかを理解出来ずにキョロキョロと周囲を見回す。その背中を電撃が襲う。

 ギギッ!?

 ビクリ、と痙攣。鼻息を荒くして振り返ったそこには、ソウマが立っていた。
「僕の知覚からは、何人も逃れられません」
 冷たく笑うソウマ。手に握られた超機械「グロウ」から再び電撃が走った。バナナをくらって倒れた瞬間に身に降りかかったことを理解し、即座に隠密潜行を使用して背後に回り込んでいたのだった。
「時間掛けたくないんだから、出てこないで欲しいのよねー」
 機械剣「ウリエル」に持ち替え、フローラが猿に飛びかかった。
「‥‥くはっ」
 ムーグの一撃でヘビから解放された橙乃が地を転がる。足はふらつくが、戦える。
 ホーリーナックルに拳を通し、殴った。

 キシャーッ!?

 脳天に攻撃を受けたヘビが大きく仰け反る。その隙を狙い、ムーグが拳銃「ケルベロス」のトリガーを引く。
 眉間を貫かれたヘビ。地をのたうちまわるところを、追い打ちとばかりに番天印が撃ち込まれ、ヘビは完全に動かなくなった。

 キメラ2匹と交戦し、討伐したとの報を受けたもう一方の班は、丁度軍人2人の手掛かりを見つけていた。
「この木の傷、人の手でつけられたものか?」
 天空橋が木の幹につけられた矢印型の傷を調べる。
「恐らく、矢印の示す方向に向かったのでしょう」
 試しに先へ進むのはシィルだ。彼女の言葉に、誰も反対しなかった。
 その推測は、すぐに正しかったのだと知れる。
 5分ほど歩いた先に、同様の矢印が発見されたのだ。
「手掛かりを発見しました。これから付近の調査にあたります」
 辰巳が他班へ無線で連絡を入れる。これを辿っていけば、きっと2人へ辿りつけることだろう。
 彼らが既に力尽きていなければ、だが。
「静かに。今、音がした」
 歩みを止め、天空橋が耳を澄ます。
「‥‥どうした?」
 ほんの少しの間をおいて、守剣が静かに尋ねる。
「銃声が聞こえました。ちょっと遠いですが‥‥」
「マジか!? 急ごうぜ、キメラと戦ってるかもしれねぇ」
 一同頷き、木々を照らしながら歩みを速める。
 時折、乾いた銃声が湿った木の間から聞こえてくる。音は徐々に大きくなり、2人に近づいているのが分かる。
 そして、ピタリと銃声が止んだ。
「ボブさん、マイクさん! いるなら返事してください!」
 妙な胸騒ぎがして、駆けながらシィルが叫ぶ。
 深とした森に、彼女の声が虚しく反響した。
「おーい! 助けに来たぞー!」
 守剣も叫ぶ。
「ひ、人か!? ここだー!」
 ややあって、森の奥から男の声が聞こえてきた。矢印の方向にも一致している。
 さらに脚を速める。すぐそこにまで来ているはずなのだ。
 ゆら、と、木の間に小さな光が灯った。こっちだ、と叫ぶ声も聞こえる。
「頼む、助けてくれ、マイクが、マイクが‥‥」
 そこには話に聞いていた容姿に一致する2人の軍人の姿があった。白人は木にもたれてぐったりとし、黒人の方はその脇に膝をついている。
 見れば、白人――マイクの肩が赤黒く濡れていた。
「これは、一体?」
 辰巳がマイクの様子を確認する。かなり衰弱しているが、何とか生きているようだ。
「俺が、俺が撃っちまったんだ。生き残るために、撃っちまったんだ。そしたらマイクが、マイクの奴が!」
「落ち着いてください。大丈夫ですから、まずは治療を‥‥」
 かなり錯乱している様子のボブをまずは静めようと天空橋が救急セットを示す。
「撃っちまった、俺があんなこと言ったばかりに、俺が――っ!?」
 尚もツバを飛ばして何かを訴えんとするボブを、シィルが押さえつけた。
 能力者に捕まったとなれば、流石に身動きが取れない。
「大丈夫、助かるから。ゆっくり深呼吸‥‥」
 シィルの語りかけにこくこくと頷き、大きく呼吸したボブがいくらかの落ち着きを見せていた。
 その間に天空橋がマイクの手当てをする。
「ゆっくり話せ。何があった?」
 ボブの目の前に膝をつき、辰巳が状況を聞く。シィルは既に腕を放していた。
 戸惑いながら、ボブが口を開く。
 そして話した。最後の食糧をかけて勝負をマイクに持ちかけたこと。ついさっきまで互いに撃ち合っていたこと。自分がマイクの肩を撃ってしまったこと。
「話は分かりました。手当が済み次第、すぐ脱出‥‥と言いたいところですが、私達の仲間を待ちます。その間に軽く食事を取ってください。食べやすいものを軍の方からいただいてきましたので」
 シィルが携帯用の食糧を取りだし、ボブの口へ運ぶ。マイクには、辰巳が食事を与えていた。
「救助対象を発見したぜ。これから位置の合図を出す。手近な木に登ってくれ」
 コーラをボブに持たせ、守剣が無線で他班に連絡を入れる。そして返事を待たずに傍の木に登り始めた。
『了解。いつでもどうぞ』
 腰に下げた無線からの言葉を聞き、守剣が樹上から真上に照明銃を放った。
 その光に、少し遠くの方で黒猫が空を舞ったように見えた。
「あれはソウマだな。さて、合流を待つか」
 木を降りる。その頃には、マイクの治療もあらかた終わっていた。
 後は合流を待って森を出るだけだ。が、そのまま終わりとはいかなかった。
 地を踏みならす音。メキメキという木の悲鳴が響いた。
「キメラか!」
 武器を取りだした辰巳が警戒する。相手はすぐに現れた。
 木の間から何かが恐るべき速度で動いているのが見える。
 先手を打った天空橋が超機械「シャドウオーブ」を放った。

 ブォォーーン!!

 雄たけびを上げたのは、イノシシ型のキメラだ。大きく発達した牙を構え、尚も突進してくる。
「くっ!」
 身を捻ってかわした辰巳がすれ違い様の攻撃を狙ったが、振るった剣は空を切った。
 消耗したボブとマイクを連れてこのまま離脱するのは困難だと判断した守剣が、2人の傍で警戒に当たる。
「お前の相手をしている暇は、ない!」
 天空橋がさらに一撃をかける。体の焦げる感覚に、イノシシが振り向いた。
 そして地を踏みならし、突撃。回避が間に合わず、天空橋が撥ね飛ばされた。
 狙いを突き飛ばしたことで、イノシシが一度停止する。
「今なら!」
 タイミングを見計らったかのように踏み込むのはシィル。
 テーザーブレードが稲光を発し、イノシシの体に突き刺さったのも一瞬。
 苦悶に暴れたその牙に身を打たれ、シィルが転がった。
 ブルル、と鼻を鳴らしたイノシシが定めた次の狙いは、動けないマイクだった。

 ブォォーーー!

 咆哮とともに猛烈な加速。
 その間に割って入ったのは守剣だ。
 この状況、一か八かでもキメラを止めるしかない。
 スキルを腕に剣に乗せ、振り上げる。
「でぇいっ!」
 落とされた剣が、イノシシを真っ二つに断った。
 慣性に従い、身が裂かれた状態で宙を飛び、どさりと地に落ちた。
「助かった、のか‥‥?」
 肩を押さえながら、マイクが呟く。
「あ、あぁ‥‥、そうらしい。‥‥助かった、助かったぞ、俺達! 帰れるぞマイク!」
 ボブが歓声を上げる。丁度その頃、他班の発するライトがちらちらと見え始めていた。

●It is joke
「おい、お前ら愉快な人間だって評判なんだって?」
 無事森を脱したところで、守剣が2人に尋ねた。
 マイクは苦笑したものの、ボブは大きく頷いてみせる。
「そりゃ、隊の中じゃ最高のお笑いコンビだって言われてるぜ」
 衰弱しているはずなのだが、ボブはやたらと元気だ。
 いいか、見てろよ、とボブがマイクを伴って全員の目が集まる場所へ立った。
「やぁマイク。この数日のサバイバルは大変だったな」
「あぁ、まさに命がけだったぜ。あんなのは金輪際ごめんだね」
「でも俺は丁度良かったと思っているんだ」
「何故?」
「それは‥‥、最近運動不足だったからSA!」
 え、これで終わり?
 誰かが口にした。
「ボブ、軍にいながらそりゃないぜ!」
「あの、もういいです」
 勢いはあるが、期待していた面白さとはかけ離れていたことにがっかりしたシィルがストップをかけた。
「私、ハ、面白い、ト、思い、マシタ、ガ‥‥」
 ムーグが顎を撫でる。私もー、とフローラも笑った。
 今のコントに笑えたのは、彼らだけだというのは言うまでもない。
「2人とも、ちょっといいか」
 場が一度収まったところで、天空橋が手招きした。
「お、何だい?」
「命の使い方が違うだろう!」
 寄ってきたボブとマイクを彼女は怒鳴りつけた。
 チョコを賭けて決闘したことを怒っているのだ。互いに殺し合うなど馬鹿らしいと。
「歯を食いしばれ」
 拳が握られる。
 振り上げられたそれを、しかし振り下ろすことは出来なかった。
「それは私の仕事だ」
 丁度合流したボブとマイクの隊長が、天空橋の手を掴んで止めたのだ。
「彼らの遭難には私に責任がある。殴るなら私を殴れ」
「‥‥そうですか」
 宙に浮いたままの拳は、隊長の頬を捉えた。
 能力者の力を受けるには、一般の人間は脆すぎる。その隊長は血を吐きだしながら倒れ伏した。
「だ、大丈夫ですか?」
 橙乃があわあわと駆け寄る。隊長はすっと立ち上がると小さく頷いて見せ、ビシリと敬礼する。
「二度とこのようなことがないようにするつもりだ。諸君らの協力に感謝する」
 隊長は言った。篭る喋り方ながらも、むしろ殴られたことにすら感謝するかのように。彼は、何よりも2人の生還を喜んでいたのだった。