●リプレイ本文
推測は正しかった。
今回の任務は、陽動。敵拠点を爆撃するため、敵防衛戦力を誘い出すことが目的である。爆撃自体は軍が行うため、傭兵達はこの陽動任務にさえ集中すれば良い。
では、どうやって敵を誘い出すか、が問題であった。ひとまず、敵のワームは、KVが拠点に近づいたことを察知するなり飛び出してきたのだ。正しかった推測とは、このこと。
「最初のKV戦だが、どうなるか‥‥」
初の経験に、佐東 司(
gc8959)は戸惑い気味。任された仕事が大きいこともあり、緊張は高まる。
出てきた敵の中には、タロスやティターンの姿も。KVに不慣れな者がいきなり相手するには少々厳しいワームなのかもしれない。
「見覚えのある奴がいるな」
「アノときのティターンだね〜。必殺技が見切られたのは認めるが、ダカラといって引くわけには行かないね〜!」
このティターンと戦った記憶のある榊 兵衛(
ga0388)とドクター・ウェスト(
ga0241)が言葉を交わす。
これに、BEATRICE(
gc6758)も頷いた。彼女も交戦したことがあるのだ。
数的優位に立てていたにも関わらず、連携を崩されボロボロになったわけである。油断はならない。
「とはいえ、数は少ない、ですね。HWが四機にタロス、ティターンが一機ずつ、ですか」
「少し外れたところでジークルーネが派手にやっているみたいだからね。こっちの防衛は薄くなっているだろうという読みは、当たってるわけか」
防衛戦力と言う割にはあまりに少ない敵戦力。この拠点さえ陥落させれば、ディロロを落としたも同然なのだが、これではあまりにも、と石動 小夜子(
ga0121)は疑問を口にする。
これに応えるのがドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)。先にも、件のジークルーネと共に一戦終えてきたばかりなのだ。敵もそうそう、こちらまで戦力を回せまいというのは軍の予測であったし、実際それは正しかった。
「お喋りはここまでと致しましょう」
「ほ〜ら、撃ってきましたヨ!」
先手を取ったのはワームの方だった。飯島 修司(
ga7951)が会話に制止をかけ、セラ・ヘイムダル(
gc6766)が言葉と共に散開を促す。
パッと散ったKV達の間を、光線が駆け抜ける。敵の数はそう多くはないが、一気に優位を築きたい。ならばまず、脅威度の低いHWを墜とすべきであろう。
そんな時の常套手段が、初手でのミサイル弾幕である。
「K−02を積んできた方も相当数いらっしゃりますし、ここは早速‥‥」
「それはそうだけども、有効かどうかは‥‥」
飯島の提案に、ドゥは若干渋り気味。
ミサイル弾幕を展開しようとして、そのほとんどを撃ち落とされた経験があるからだ。
「‥‥心配には‥‥及びません‥‥」
次々飛んでくる光線をギリギリで回避しつつ、BEATRICEが意見を述べる。
続きを引き継いだのは、榊だ。
「敵は少数。ミサイルを撃ち落とすだけの力もあるまい」
「正確な位置データ、出ました。適性弾道情報を共有します」
石動が敵機の情報を弾き出す。敵が少数であるが故に、ミサイルを放つのに最適なタイミング、最適な弾道を予測するのも比較的容易であった。
これに則って攻撃すれば、少なくとも失敗はしなかろう。
榊、飯島、ドゥ、BEATRICEといった面々が、K−02の発射態勢に移る。
石動は敵の挙動を観測し続け、ウェスト、セラ、佐東は敵機を囲い込むよう散らばった状態からの前進を開始。
タロスやティターンは、当然のようにHWの後方に位置。前衛を盾にし、後方から砲撃をしかけるつもりのようだ。常套手段と言える。
ならば、その盾を剥ぎ取ってしまえば良い。
包囲的挙動により、HW間の距離が狭まる。K−02攻撃班所属各機のロックオンカーソルが、全てのHWを捉えた。
「今です」
「よし、一斉射!」
発射のタイミングを石動が指示。
合わせて、ドゥが発射管を開いて躊躇いなくミサイルを放つ。続いて、他のメンバーも大量のミサイルを放り出した。
敵ワームもこれを撃ち落とさんと動く素振りを見せたが、それを包囲班が許さない。撃ち落とせば銃撃を、迎撃すればミサイルを。いずれにせよ被害は免れず、判断しかねていたところに両方の攻撃が叩き込まれた。
だが、これで終わらせない。K−02攻撃班はすぐさま第二波での攻撃を開始。ここで飯島、ドゥが攻撃の前に一呼吸置き、時間差による継続的な弾幕を形成した。
散り切らぬ爆煙の華は、そのテリトリーを徐々に広げて大空を飾る。
黒の花火の中に、石動はワームの反応が一気に四つ消失したことを確認していた。HWが全て墜ちたのだろう。
「やりましたネ! よーしっ、一気にやっちゃいますよ」
「タロスとティターン‥‥。四機ずつに分かれますか?」
「いや。タロスを先に叩いておいてくれ。その間、ティターンは我々で抑えておく」
勢いづいたセラが爆煙の中へ威嚇の射撃を放ち、その横では佐東がこれからの動きを考えていた。
敵の頭を潰すか、それともそれぞれ同等の戦力で相手をするか‥‥。
これに対する榊の提案は、まず残る取り巻きであるタロスをさっさと墜とし、後に全機で一斉にティターンを撃墜しに掛かろうというもの。
これに、傭兵達は頷きを以て応えた。
ティターンを抑える役目は、腕に覚えのあるウェスト、榊、飯島が担当する。残る五人はタロスに当たることになったのである。
初撃で敵を分断出来たわけではなかった。盾の役割も担うHWが墜ちた以上、タロスとティターンはさらなる連携を取らんと互いに距離を近く取り、いつでもフォローし合える態勢だ。
対処する敵を定めて役割を分けたのは良いものの、このまま戦ったのではどちらかに狙いを絞ることは難しい。
本作戦――裏で行動する爆撃機の動きを悟られぬよう敵の目を引く。そのためにBEATRICEが用意してきた手が、ここでは有効であるかに思えた。
艦艇が装備するような超大型対艦誘導弾「燭陰」というものがある。これを積んできたBEATRICEは、自らが爆撃を担当するかに見せかけることで、軍がこっそり動かしている爆撃機をカモフラージュしようといった考えだ。
敵は釣れる。確証はあった。先にも盛大にK−02を撒き散らしたばかりである。砲撃、爆撃に特化した機体だと思わせる(実際にそうなのだが)ことが出来れば、多少は「攻撃に対する」敵の連携も崩れることだろう。
「少なくとも‥‥爆撃装備をしている敵を拠点に近づけたいとは思わないでしょう‥‥」
「当然だろうね。援護するよ」
「それならば、こちらも」
そんなBEATRICEの動きの補助に名乗りを上げたのがドゥと佐東である。
いかに爆撃をするかに見せかけるとはいえ、リアリティがなければ引っかかってくれないだろう。あたかもBEATRICEが作戦全体の鍵を握っているかのように、その防御を固める必要があるわけだ。
「ではでは、こちらで拠点の位置情報を」
「ルートも、ですね」
これに合わせ、セラが拠点の位置を、石動が拠点までの適正進行ルートを割り出しにかかる。何かを調べている、ということくらいは相手にも知れるだろう。こうしたことも、リアリティに繋がるはずだ。
だが、相手はそうそうBEATRICEが拠点の爆撃を狙っていると誤った見抜きをするのかどうか、という疑問も生じるのかもしれない。その回答は、見抜かずにはいられない、だ。先にも述べたように、超大型対艦誘導弾「燭陰」はユニヴァースナイト級が使用するような、その名の通り巨大なミサイルである。当然KVに内蔵など出来るわけもなく、外部に取り付けるように搭載されているのだから、目立つ。
案の定タロスとティターンは、直近にまで迫ったウェストらよりも、BEATRICEの方へと砲口を向けて宙を漂うように飛行する。警戒している様子がよく分かる。
「少し威嚇しようか」
HWを墜としたとはいえ、まだ拠点に近すぎる。ひょっとすると、爆撃機の存在に気付かれかねない。少しでもこの位置から敵を離すには、相手が前に出たがるようなきっかけを作らなくてはならないだろう。そこで、ドゥがタロスを射撃し、反撃を促す。
ひらりとかわしたタロスは、仕返しにとばかりにプロトン砲を放つ。狙う先は、BEATRICEだ。
間一髪、光線が翼を掠めた。これをきっかけに、BEATRICEがゆっくりと後退を開始。
釣られて、タロスがふらりと前へ出た。
敵の頭たるティターンがタロスに追従せんと動く。
このまま拠点から少しでも引き離すことも考えたが、その後を考えると、タロスと同じように動かれては苦しくなるだろう。
だから、ティターン迎撃班は間に割って入った。
「悪いけど、我々が相手をさせてもらおう〜。この間の借りもあるしね〜」
ウェストが挑発気味に射撃。
仰け反るような姿勢で弾丸をかわしたティターンは、ようやく彼らティターン班を向き直った。
『借り、か。操縦を誤って、勝手に墜落しかけたのではなかったか』
「ぐ、ぅぅ‥‥」
「誘いに乗ってはいけません。冷静さを欠けば――」
「分かっている。分かっているよ」
ティターンの主に挑発を受け、悔しさに唸りを漏らすウェスト。
噴き出さんばかりの怒りに、飯島は制止をかけた。
相手の思うツボになってはならない。せっかく良い調子でここまで展開を運んできたのだから、この流れを止めてはならないのだ。
ウェスト自身が言っていた。このティターンに乗る者は、ウェストの必殺技を見切ったと。沸騰した頭で勝てる相手ではないはずである。
「共に踊るには色気がないが、付き合ってもらおう。援護は受け持つ。冷静に、かつ大胆に舞台に立つと良い」
中距離から射撃でティターンを威嚇するのは榊だ。
前へ出るのは飯島とウェストの役目。殊に、共に一度敗退へと追い込まれたウェストには、何としても決定打を決めて欲しいのだろう。
タロスとティターンは分断された。このタイミングならば、最早爆撃機の存在が気付かれようと、敵に拠点を守るだけの時間はあるまい。
じりじりと後退していたタロス迎撃班は反転。一気に攻勢へと移る。
「当てる!」
佐東がロケットランチャーを放ったのを皮切りに、ドゥ、石動も攻撃を開始。
BEATRICEは念のために様子を見、セラが囲い込むために迂回する。
砲撃をその身に掠らせながら、タロスはプロトン砲の照準をBEATRICEに合わせて放った。
翼が焦げる。同時に襲い来る振動に、BEATRICEは顔をしかめた。
仕返しにと石動がタロスの脚を撃ち抜く。
弾けた火花と共に、タロスの姿勢がぐらついた。
このタイミングを狙い、佐東、ドゥがもう一撃射撃を加える。
バチリとタロスの装甲が小さく弾けるが、すぐに自己再生機能が起動する。
「しかけて‥‥いえ、こない、ですね」
が、さらなる反撃へ移ることなく、タロスは向きを変えて撤退の動きを見せた。石動がその挙動から行動予測を割り出す。
「合流するつもり、のようです」
「そんな時のために!」
タロスの向いた方に割り込んだセラが威嚇射撃。
敵を分断するために動いていた彼女に、石動も追従。
前後を挟まれたタロスに、これ以上の身動きは取れない。
「一斉射‥‥」
「よし、やるぞ!」
BEATRICEの声にドゥが応え、タロス迎撃班が火力を集中させる。
これ以上の抵抗をするだけの余裕は、タロスにはなかった。
一方で、ティターン迎撃班はやはり数の上で苦戦していた。
射撃で隙を作り、そこへ迫って一気にケリをつけんとする。しかしティターンもプロトン砲で応戦してくる上、接近すれば大剣を振るい踏み込ませてくれない。
「やはり、手練れか。この人数で気を引くのは至難だな」
「しかし半端は出来ません。何としても持ち堪えなくては」
隙を作れないことに焦った榊が、三機でも対等以上に当たれないことを嘆く。
それでもやらなくてはならないと口を挟む飯島。
もちろん、それは榊も承知している。
「とはいえ、悔しいがこのままではまずいね〜。相手は再生機能があるからね〜」
多少距離を取りながら攻撃していても、いくらか打撃を与えることは可能。だが相手はその再生機能ですぐ無傷の状態に戻ってしまう。ウェストにもやはり焦りが浮かぶ。
決して、傭兵側に火力がないわけではない。ただ、有効打が与えられないのだ。敵も棒立ちしているわけではない。射撃されれば、かわしもする。
『その程度か。くだらぬ、もっと骨があるかと思っていたが、失望だ』
あげく、この挑発。
先に冷静になるよう飯島が釘を刺していなければ、誰かが暴走していたかもしれない。
「まさか、これだけの人数で勝てるとは思っていないからね〜」
『ふっ、乗ってこないだけ誉めてやろう。だが!』
冷や汗を流しながらウェストが応えれば、ティターンが加速する。
一気に距離を詰められ、反射的に散開。大剣による一撃を免れたが、それで終わりではない。
ティターンが追撃に選んだのは、飯島だ。ぐんと翼を傾けてかわした飯島の背後を、振り向きざまにプロトン砲で狙う。
散ったばかりのウェストや榊では、フォローが間に合わない。
飯島が思わずコクピット内で舌打ちする。
『まずは一機。沈め!』
叫びと共に空に光線が走る――ことはなかった。
代わりに、タロスのプロトン砲がスパークし、その背で爆発が起こる。
「ふぅ、危なかった」
タロスを墜としたドゥらが加勢に現れたのである。
これで八対一。これならば‥‥。
「よし、一斉に仕掛ける」
榊の引率で、合流した面々が一斉に十字砲火をしかける。
飛び交う弾丸に、ティターンが空を泳ぐ。ここを狙って飯島が距離を詰め、ウェストが頭上を取る。
「今度は逃がしませんよ」
ティターンと擦れ違いざまに剣翼で一撃。
胴を深く抉られたそのワームが、空中でバランスを失い、ぐるりと踊るように回転する。
「練力残量から‥‥、うむ、行くか〜!」
高空からのブーストを吹かしながらの急降下。ウェストが以前放った技の初動だが‥‥。
『二度も同じ手を使うか。この態勢であろうとも!』
「グラヴィティブースト――いや」
一直線に降下。以前はこのまま一撃を叩きこむだけであった。
だが、今回は違う。
空中変形を遂げた機体が突き出した拳。これが飛び出す――のではない。代わりに機体の目が激しい光を発した。
面食らったティターンが身を捩る。目が逸れたこのタイミングに、正確な回避など出来ようものか。
「バーストォォ!」
『えぇい、こしゃくな!』
一瞬の隙を狙い、今度こそバニシングナックルを撃ち出す。これがティターンの装甲を撃ち抜く寸前、大剣が振られた。
インパクトは両者に。ナックルはティターンを捉えて完全に崩壊へと持ち込み、大剣はウェスト機を両断する。
「いけない!」
墜落。ウェストの安否を確認すべく、佐東が高度を下げた。
丁度この時、傭兵達に通信が入る。
――敵拠点の爆撃、無力化に成功したと。