●リプレイ本文
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「久し振りの空戦です。緊張は‥‥しないんだなー、これが」
出撃直後、ルリム・シャイコース(
gc4543)はKVの中で余裕の表情を浮かべていた。非常にリラックスした様子である。
というのも、彼ら傭兵達に与えられた任務と、そこに向けた作戦がしっかりと組まれていたからだ。段取りが分かっていれば、怖いものはない。
「とりあえず敵の頭を潰すのは兵法の常道だな」
「ああ。多数と敵対する時のセオリーだ」
榊 兵衛(
ga0388)やゲシュペンスト(
ga5579)が言うように、傭兵の任務は敵の指揮官を叩くことだ。
東リフト・バレーを制圧するため、陸上では作戦が動こうとしている。敵の目を引きつけるべく空で暴れることも役目に含まれ、指揮官を潰すことは敵の混乱を招くことに繋がる。そこまでいけば、敵戦力が陸上に目を向けることはないだろう。
「つーワケで、石榴ちゃん、管制宜しく☆ 頼りにしてるよン♪」
「はーい。ちょっと待ってね」
聖・真琴(
ga1622)の呼びかけに応えた弓亜 石榴(
ga0468)が索敵を開始。
この空域で最も驚異レベルが高いとされるワームは、タロスだ。敵指揮官はこのタロスに搭乗しているものと考えられる。その位置と、展開するワームの配置状況を調べることが、弓亜の第一の仕事であった。
「ジークルーネ‥‥K−03を見るのも久し振りな感じですね‥‥」
後方に控えるヴァルキリー級参番艦ジークルーネの最大の特徴と言える装備がK−03ホーミングミサイルである。ミサイルを愛するBEATRICE(
gc6758)は、このK−03をよく知っていた。戦艦から一気に放出される大量のミサイルが敵の群へと吸い込まれてゆく様は圧巻である。
今回は、一度だけ傭兵の望んだタイミングでのK−03発射が認められている。KV用の武器にK−02ホーミングミサイルというものがあるが、ジークルーネの有するそれの威力はK−02の比にならない。ならば、これを利用しない手はないのだ。
まず、敵の位置を割り出す。そして初手でK−03を初め、誘導弾の類を一気に放出することで序盤の優位を確立しようというものが、今回の作戦。その後は一斉砲撃によりダメージを受けるであろうタロスを各個撃破しようということだ。
「しかし大気圏を飛ぶのは良いもんだ。KVは宇宙でしか乗ったことがねぇからな」
「環境の違いに惑わされないようにな。さて、どうだい?」
KVを大気圏内で飛ばすのは初めてという御剣雷蔵(
gc7125)の呟きに、ドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)が軽く注意を入れて状況を確認する。
弓亜の索敵結果が鍵を握るのだ。まず、タロスを発見出来なくてはどうしようもない。
「えっと‥‥よし、索敵完了。データ送るよ」
表示されたデータには、展開する敵のおおよその布陣が示されていた。タロスと思われる四つの光点の周囲には護衛戦力が多く、このまま突撃してタロスだけを相手取ることは難しそうだ。
UPC兵がこうした取り巻きを相手する間に、傭兵達が指揮官を潰す動きも軍の方では考えていた。が、そうではなく、この取り巻きごとタロスにもダメージを与えるべくK−03を用いようということで話が決まった。
「発射タイミングは?」
「三十秒後だね。それまでに敵を射程に捉えンぞ」
ルリムの問いに聖が答える。
どうせ一斉に攻撃するならば、自分らもそこに加わろうという考えだ。そのため、可能な限り敵に接近しておきたい。
射程に捉え、一気に攻撃を浴びせる。ダメージを与える程、後に優位に立てるはずなのだ。
「‥‥捉えた!」
「タイミングバッチリ! ジークルーネ、お願い!」
全ての傭兵が敵の先陣を射程に捉えた。これに榊が声を上げ、弓亜がジークルーネに射撃を促す。
放たれた大量のミサイル群。同時に傭兵達も次々にミサイルを放ってゆく。
中空に巨大な爆華が咲くと、大気を揺るがす轟音が響いた。機体までもが叩きつけられたかのような感覚に、傭兵達は胸中に強く拳を握り締める。
だが。煙が晴れてみると‥‥。
「あぁん? どうなってんだ?」
タロスどころか、射線上にあったはずのワームにも大きな被害は与えられていなかったのである。あれだけ叩きこんだというのに、だ。これに御剣は疑問の声を上げた。
初手でのミサイル弾幕による優位形成。これまでに多くの戦場で幾度となく用いられてきた戦法だ。それはもちろん、有効であることが理由である。
何故敵がほとんど無傷でいられたか。これに最も早く気付いたのはBEATRICEであった。
「撃ち落とされたのでしょう‥‥。‥‥多量のミサイルとはいえ‥‥、敵の数も膨大ですし‥‥。初手は相手も警戒しますし‥‥、正面から撃ったのでは‥‥敵の予測の範囲だったのでしょう‥‥」
当然、彼女とて最初からそこに気付いていたわけではない。飽く迄結果から見た予測だ。
作戦は失敗。ならばそれを引きずるのではなく、次を考えた方が建設的である。
「こーなったらしょうがねぇな。このまま予定通りタロスを迎撃すンぞ」
「四機いますが、どれを狙えば?」
「どれだっていいよ。皆変わらないし。とにかく、目についたヤツからで!」
聖は当初の通りに作戦を遂行することを提案。このまま二機一組のロッテを組み、二組のロッテで一機のタロスに当たろうという流れだ。
本来、初手で最も損壊の激しいタロスから潰してゆく予定であったのだが、今はそうも言っていられない。四機のタロスのうち、最低でも一機には敵指揮官が乗っていることは間違いないのだから、虱潰しに当たっていくより他に方法はない。
タロスの取り巻きならば、UPCが引き受けてくれる。その間に、一刻も早く指揮官を片付けなくては‥‥。
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「出来れば短時間決着と行きたい所だったが‥‥四の五の言っていられんか!」
ゲシュペンストは榊に並び、直近のタロスに目をつける。どれが指揮官なのかなど、構っていられない。少しでも早く敵を片付けるためには、敵一機に対し一斉に仕掛けることが肝になるか。
「なら、援護は僕らで」
「‥‥難しい状況ですが‥‥誤射に気をつけて‥‥」
これに追従するドゥとBEATRICEが、射撃の構えを見せる。
対抗するタロスも四機そろってゲシュペンストらを迎撃する動き。プロトン砲を構えた直後には、光線が放たれていた。
傭兵は散開して回避。ゲシュペンスト、榊はそのまま距離を詰め、ドゥとBEATRICEが威嚇射撃を行ってタロスの動きを制限する。
この間、残る四人の傭兵が迂回。別の方面からタロス分断へと動いた。
接近する榊らへ、タロス達が再びプロトン砲の照準を合わせる。が、その砲身に火花が散った。
「おぅら! 手前ぇの相手はコッチだ。余所見してンじゃねぇよ♪」
追い着いた聖がプロトン砲を撃ち抜いたのだ。これに釣られ、他のタロスも一瞬動きが鈍る。
隙を見せたタロスに、榊が遠距離からAAMを放つ。
丁度後方についていたドゥ、BEATRICEもタロスを逃がさぬよう射撃で動きを阻害。
他のタロスが好きにさせまいと前へ出るが、これを御剣とルリムが遮り、タロスを一機威嚇してその場から誘い出す。
「誘いに乗るってこたぁ、こいつはハズレかもな」
「‥‥」
「ケッ、『そうかも』くらい言えばいいのによ」
御剣が察するには、今注意を引いたタロスは指揮官ではない。この状態でやすやすと標的を変えてしまうような判断は、有人機ならばしないであろう。
交戦状態に入るなり口を閉ざしたルリムは、何を考えているのか不明。互いの動きを把握し、現状最適であろう行動を考え、それに沿って動いているのだから問題はない。が、御剣にとって、それは愛想がないように見えていた。
「まずは一体。決めるぞ!」
最も手前にいるタロスへ、榊が射撃を仕掛ける。
これを合図に、ゲシュペンストが飛び出した。ぐんと加速し、タロスの頭上へと位置取る。
プロトン砲をゲシュペンストの方へと向けるタロスだが、ドゥやBEATRICEの射撃に動きが封じられ、榊の銃撃が胴に弾けてなかなか照準を合わせられない。
もらった!
ゲシュペンストが半ば確信した、その時だ。
「攻撃中止! 散開散開!」
弓亜が叫ぶ。
面食らったように各員が一瞬動きを止め、弾かれたように機体をロールさせる。
するとゲシュペンストの翼を、光線が掠めた。
見ればUPC兵の攻撃を振り切ったらしいHWが、タロスの救援に迫っていたのだ。
すぐさまUPC兵が追いすがり、HWは救援どころではなくなるわけだが‥‥。
「これは間が悪いね」
「だが、今の制止がなければ危なかったな」
敵の数を減らす絶好の機会を逃したことにドゥが舌打ち。とはいえ、榊が言うように、弓亜が周囲の情報を確認していなければ、ゲシュペンストが墜とされるところであった。
また態勢を整えて再度攻撃を‥‥いや。
邪魔は消えたのだ。今ならば、撃墜も狙える。
「もう一度だ。まず一機、墜とすぞ!」
ゲシュペンストは大きく旋回し、タロスとの距離を計る。
しかし一度攻勢をかけたことでトドメを刺そうと動く機体がどれであるのかを、タロスに悟られていた。
タロスの砲撃がゲシュペンストへと集中する。距離が空いているため易々とは命中しないが、必殺の間合いに飛び込むことが出来ない。
他の傭兵らが敵の注意を引こうと牽制をかけるが、タロスはお構いなし。御剣とルリムが誘い出した一機を除いた残る三機がゲシュペンストへ集中砲火をしかけていく。
「だーかーらっ、コッチが相手だっつーの!」
業を煮やした聖が超至近まで接近。
だがタロスはまともに取り合わず、砲口をゲシュペンストの方へ向けたままふらふらとした挙動。動き自体はランダムで、射撃で狙いをつけることは難しい。
この状況を、聖は利用した。
「無視してっと、痛ぇ目見るゾ!」
タロスへ機体ごとぶつけるかのように突撃。傾けた翼が絶妙にタロスのプロトン砲を捉え、もぎ取った。
流石にタロスもこれには怯む。
「ほーら、周り見ないとこういうことになるんだから」
得意げに笑った弓亜がマシンガンで砲身を失ったタロスに牽制を仕掛ける。
状況の変化に戸惑いを見せたタロスはゲシュペンストを狙うことも忘れ(そもそも遠距離から攻撃出来ないだろうが)、当て逃げの要領で離れてゆく聖の後ろを慌てて追いかけんとするも、その装甲で弾ける火花になかなか速度を出せない。
「伊達や酔狂で飛び回っていたわけではない」
これこそが絶好のチャンス。残る二機の攻撃をかいくぐり、ゲシュペンストが一気に降下する。
頭上スレスレ。KVゲシュペンスト・アイゼンは、人の形を取る。脚部に装着したドリルが高速回転を開始。突き出したその先には紛れもなくタロス。この距離で外しはしない。
さぁ、皆で叫ぼう!
「究極ゥゥゥゥゥッ!」
レッグドリルが閃光を放たんばかりの火花を散らす。
「ゲェェシュペンストォォォォォッッ!」
機体はイナズマと化して電撃的な速度で落下。
いや、ただの落下ではない。
ブーストの力も借り、重力と質量と推進力が相乗して目にも止まらぬ一筋の光と化した。
「キィィィィィィィッック!!!!」
轟音が空を穿ち、タロスの装甲を抉り、大穴を空け、ゲシュペンスト・アイゼンが突きぬける。
派手な爆音が響いた。この攻撃に耐えきれず、タロスが自壊したのだ。
タロスを一機撃墜。これで大分状況が変わる。
‥‥はずだった。確実にタロスを落としたはずだが、残るタロスの動きに変化が見られないのだ。
今のタロスに指揮官は乗っていなかったのか、それとも複数の指揮官がいるのか。それは分からない。
だが、それでも一歩前進した。とにかくタロスさえ全て落としてしまえば‥‥。
「同じ手をまた繰り返すのは拙いか」
「では‥‥役割をローテーションしましょう‥‥」
ドゥは呟く。一度攻勢をかけて阻止された後、同様の手段で攻めんとして、攻めあぐねた。少なくとも、敵指揮官が存在するうちは攻め方を工夫しながら戦わねばならない。
そこでBEATRICEは役割交代を提案。ドゥ、BEATRICEが敵の注意を引き、榊の援護の下ゲシュペンストが必殺の一撃を叩き込むやり方を変え、必殺を狙う人間を別に設定するのだ。
問題は誰がどの役になるか、だが‥‥。
「流石に再生能力は厄介だな」
タロスが一機落ちた。この時御剣とルリムは、火力不足によりタロス相手に苦戦を強いられていた。
攻撃すれども、その場で再生能力が発動してほとんどダメージにならない。もう一人でも加勢があれば状況は変わるだろうが、このまま長引かせるのも悪手。
打開策を講じるか、それとも応援を呼ぶか‥‥。いずれにせよ、長くは持つまい。タロスは被弾しても再生可能だが、KVはそうもいかないのだから。
「どうする?」
「‥‥」
御剣が尋ねても、ルリムは答えない。ひたすらに一撃離脱を繰り返し、タロスを自分らに釘づけにし続けんと動く。
とにかく、やられる前に他の傭兵達が合流してくれることを祈るしかないのか。
「うん、よく持ちこたえたね。さぁ、巻き返すよ!」
その折に弓亜が合流する。周囲の様子を確認しながらではあるが、火力が一人増えたことで形成は一気に切り変わる。
「よっしゃ、これならいけるぜ!」
強気になった御剣が、逆転の際に用いようと残していたミサイルを撒き散らした。
これを回避せんと動いたタロスへ、ルリムがガンランチャーの一撃を叩き込む。
ヒットと同時に爆煙が広がり、タロスの再生機能が起動する。
今までなら、ここで攻めきれず振り出しに戻っていた。だが、今は違う。
「させない!」
弓亜の攻撃が加わる。
再生速度と被弾の配分がイーブンとなり、動きが止まった。
そこへさらに御剣、ルリムが追撃をしかけることで、タロスの装甲は徐々に剥がれ、やがてゆっくりと、動かなくなっていった。
結局、トドメを刺す役目はBEATRICEに決まったようだ。
残るは二機となった時点で、片方の注意を引くことは容易。これ以降はさほど苦労もなく、全てのタロスを撃墜出来たわけである。
「それで、結局はどれに指揮官が乗っていたんでしょう」
「さーね。全部落としてやったンだから、どれだっていーだろ。それよりほら、まだ頑張ってる兵がいンだから、加勢加勢!」
いずれかのタロスに指揮官が搭乗していたことは間違いないが、結局どれが正解だったのか分からずじまい。これが早い段階で分かっていれば、もっとスムーズに作戦を展開出来たかもしれないとドゥは悔やむ。
が、聖が言うように、今となっては最早関係ない。
地上ではまだ作戦が進められている。指揮官を失って、空中の敵は動きに乱れを見せているのだから、後は引き上げの合図があるまで戦い続けるだけだ。
「さて、行くとしよう。参る!」
榊の掛け声に傭兵らが呼応し、残るワーム群へ向けて燐光を引くのであった。