タイトル:【CO】ディロロ正面攻略マスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/06/04 04:47

●オープニング本文


「随分と正攻法だな」
「口を慎め、中尉」
「‥‥失礼。しかし、正面から当たって上手くいくのですか?」
 ヴァルキリー級三番艦ジークルーネ。その中で空戦隊隊長のヨアン・ロビンソン中尉は提示された作戦に呟きを漏らした。
 現在の攻略対象はコンゴ共和国のディロロ。つい先日先行しての偵察活動を行い、様子見に現れたワームを数体撃退したばかりのこの地を、攻めるという。それ自体に問題も疑問もない。
 要はそのやり方だ。下手な策を弄せず、正面からぶつかるというのである。
 作戦なくしてバグアには勝てないことくらいヨアンも十分理解しているし、それこそ、作戦があって然りとも考えている。だというのに正面からぶつかる? 少々――いや、かなり安易ではないのだろうか。
 思わず口をついて出た言葉を、艦長ウルシ・サンズ中将は聞き逃さなかった。ピシャリと咎め、鋭い眼光をヨアンに突き刺す。意見があるのは結構。だが、上官に対する口の利き方ではない。
 まず一言、詫びを入れる。そして、思ったことを素直に口にする。
 ふぅ、とウルシは小さく息を吐いた。
「話は最後まで聞くものだ。アスナ中尉」
「はい。ヨアン中尉及び空戦隊の方々には、今説明がありましたようにこのディロロに正面から攻めかかっていただきます」
 副官の朝澄・アスナ中尉が広げた地図に指示棒で空戦隊の予定進路を示す。正にジークルーネのから一直線にディロロへ向かうルートだ。
 だから、それが問題ではないのか。ヨアンは口を挟みたかったが、この場はひとまず飲み込んだ。
「前回の偵察より大きく間を空けずに攻めることで、敵には短期決戦の電撃戦と思わせます。恐らくそれなりの戦力を投入してくることでしょう。その間、別働隊を編成し、迂回して再度ディロロの情報を集めます」
「この侵攻作戦のみでディロロを落とせるとは思っていない。優位を確立しつつ、今後の作戦展開に於ける地盤を固める。何か質問は?」
 なるほど、要は正面切って思い切り戦うことがそもそもの作戦というわけだ。
 これにヨアンは納得し、むしろやる気を漲らせたのである。

 薄暗い格納庫で一際異彩を放つ巨人を見上げる影があった。
 一歩踏み出せば、乾いた金属音が小さく鳴る。その身に包んだ鎧が、彼そのものであるかのようだった。
「ようやく我にも声がかかったか。しかし、この仕打ち‥‥。よほど切迫しているか、あるいは――」
 そこまで考えて、彼は小さく笑んだ。
「許せ。そして我の呪縛から解き放たれるが良い」
 小さな呟きは、誰の耳にも入らなかったことだろう。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER

●リプレイ本文


「敵の情報もしっかり集まっていないのに仕掛けるとは、少々無謀と思うが」
 榊 兵衛(ga0388)は呟いた。
 これから攻略しようというところへ、正面から攻める。この一帯の調査もさほど十分とは考えられない。無謀であることには間違いないが、これも裏での偵察を成功させるためだ。
 何だかんだ言っても、仕事を引き受けた傭兵である。尽くすは最善。負けるつもりは毛頭ない。
「陽動だとしても‥‥敵の数を減らすことは無意味では無いでしょうし‥‥」
「ああ、分かっているさ」
 無謀とはいえ、無茶でも無価値でもない。BEATRICE(gc6758)は、榊の言葉にネガティブな意図を感じたのだろう。この戦いは無駄ではないと諭そうと言葉を口にする。
 杞憂だった。榊は理解している。無謀という言葉は、この仕事に対する客観的な評価でしかない。
「せっかくなら、根こそぎ全滅させたいところだけどね〜」
「やってみましょう‥‥少なくとも‥‥やれる限りで‥‥」
 口調は軽いが、ドクター・ウェスト(ga0241)の目には憎悪の炎が宿る。
 バグアは全て駆逐しなくてはならない。自らを脅迫するような観念だが、彼はそれだけを胸にこの争いの時代を生きてきた。
 終夜・無月(ga3084)は言葉の裏にあるウェストの感情には触れず、飛行ルートを確認。
 ほぼ一直線の飛行だ。特に脇道に逸れている様子もない。このまま進めば、バグアが迎撃に出てくるはずだが‥‥。
「‥‥っ、頭痛‥‥」
 その直後、BEATRICEが異変に気づく。気圧の変化によるものではない。過去にも体験したことがある不快感、そして頭痛。
「近くにいるな‥‥」
 CWだ。榊が周囲に目を走らせる。
 既にディロロの領域に入っていのだから、当然か。
 彼ら傭兵達と共に飛ぶのは、ジークルーネ空戦隊の面々。その数六機。基本的にはS−02が隊を構成しているが、ここに一機だけ、電子戦用にウーフーも編入されている。
「前方に敵性反応。数は‥‥十なんてものじゃない!」
 そのウーフーが最も早く敵を捉えたようだ。
 報告を耳に、ロングボウを駆るBEATRICEがカメラの倍率を切り替える。‥‥なるほど、確かに敵がこちらへ向かって来ているのが分かる。頭痛が示すように、CWの姿も見てとれた。
「HW‥‥タロスにティターンが見えますね‥‥」
「では我々傭兵がタロスやティターンを相手しよう〜。ジークルーネの面々はHWなんかを頼むよ〜」
「ついでだ。擦れ違いにHWやCWに打撃を与えておく。それでいいな?」
 BEATRICEが敵の構成を伝える。
 するとウェストが役割分担を提案。次いで、榊が案を補強する。
 スピーカーからの返事は肯定。これに頷き、傭兵達はブーストを吹かすのであった。


「いいか、大物は傭兵に任せろ。功を焦るなよ」
 ジークルーネ空戦隊隊長ヨアン・ロビンソン中尉が隊員に指示を飛ばす。
 先を飛ぶのは傭兵達。敵戦力を射程に捉えるまで、あと僅かだ。
「まずは‥‥CWから狙いましょう‥‥」
「私はそのままHWの相手を務めます‥‥。タロスやティターンはお任せします」
 不愉快な存在、CWを一斉に攻撃。初手を終夜が確認する。
 確認し得る限り、CWは四機。撃墜はさほど難しくないだろう。対して、HWは数を数えている余裕がない。BEATRICEは、さらに厄介なタロスやティターンに割ける戦力を少しでも早く確保するためにHW対応に回ることを宣言。
 反対はなかった。
 敵との距離が詰まる。HWを先陣に据え、その後方にCWが配置されているようだ。さらにその背後からタロス、ティターンと続いてくる。
「ロングボウの射程なら‥‥きっと‥‥」
「よし、俺も続こう」
 HWが邪魔だ。まずはこれを引きはがす。BEATRICE、そして榊がミサイルの発射管を開いた。対象は各五機ずつ。
 K−02ホーミングミサイル。実に便利な武器である。
「では、合図に合わせて我々は突貫しよう〜」
「先に参ります‥‥レディー‥‥」
 ミサイル発射態勢に合わせ、ウェストと終夜が小さく旋回する。
 榊より先に、BEATRICEの照準が定まった。
「FIRE」
 彼女の掛け声に合わせ、ミサイルが一斉に放たれてゆく。
 同時に、ウェストと終夜がブーストを吹かす。
 ミサイル群がHWを捉えて爆煙を散らすと同時に、榊が第二陣を発射。
 まだ弾数に余裕がある。マルチロックの出来るミサイルは、敵が固まっているうちに使用したいところだ。
 BEATRICE、そして榊はさらにミサイルの嵐を巻き起こしてゆく。
 黒煙に紛れ、ウェスト、終夜が敵戦力へ攻撃をしかける。これにジークルーネ空戦隊の面々が追従。次々と煙の中へ飛び込んだ。
「厄介者だね〜」
 その中にCWの姿を発見したウェストがスナイパーライフルを放つ。
 ミサイルの影響を受けていたのか、CWは中心を弾丸に貫かれると、その場で自壊。
 これは終夜が狙った別のCWも同様であった。
「タロスまで‥‥もう少し‥‥」
「間もなく榊君も合流するだろう〜。さぁ、一気に叩いてしまおうではないか〜」
 いわば、HWやCWはタロスの盾。反撃の余裕すら与えずに盾を突き抜ければ、後は目の前の巨人を落とすだけ。
 ‥‥とはいえ、当然簡単なことではない。
 煙が晴れてくる。まだHWは全て落ちてはいないようだが、CWの影響は感じられない。
 目の前にはタロス。
「‥‥っ」
 ハッとすると同時、終夜はKVを旋回させた。
 そのブレードが振りあげられていたのだ。
 間一髪。翼を掠るようにブレードが降ろされる。
「‥‥油断大敵。そちらは‥‥?」
「一撃で仕留めたいところだが、そうもいきそうにないね〜」
 何と言っても、タロスといえばそのタフさである。上手く一撃で仕留めることが出来れば楽だが、果たしてそれが可能だろうか。ウェストには疑問だった。
 当然、一撃で仕留めるくらいの気概はある。だがそれと、可能不可能については別の話だ。
「‥‥分かりました。お手伝いします」
 仮に一撃では無理だとしても、一瞬で倒してしまえば大差のない話。
 終夜が、迅速な撃墜に乗り出す。ウェスト機の位置から、対象のタロスを選定。下方に潜り込み、突き上げるようにレーザーライフルを撃ち込んでゆく。
 一方でタロスに向けて加速するウェスト。敵は終夜に対してプロトン砲を向けている。今さらこちらが気付かれようと、避けられまい。
「さぁ、開園と行こう〜」
 エアロサーカスを起動。ウェスト機が戦闘機形態から人型形態へ変形、その手に剣を携え、ブースターの炎を迸らせながら、飛ぶ。
 装甲の焦げたタロスが、緩慢な動きで振り返る。
 その瞬間には、ブーステットソードが溶けた装甲に突き立っていた。
 動力部を貫かれたタロスが、自慢の回復能力を発揮することもなく爆散する。
「やっているようだな。これより加勢する」
 榊が合流する。
 タロスは残り三体。加えて、ティターン。先手を取ってここまで一気に優位を確立してきたが、果たして‥‥。
 攻撃後の隙を狙い、タロスがウェストを砲撃する。
 翼に光を受けたウェストは舌打ち。
 フォローに入ろうと榊が動くが、それを別のタロスが阻害した。
「やってくれるね〜」
「援護に‥‥」
 ならばと終夜が助けに入ろうと動く。
 だがそこに立ちはだかったのが、ティターンであった。
『初手は見事であった。が、力押しで勝てるとは思わぬことだ』
 通信への介入。男の声だ。合わせてティターンがその手の剣を構え、終夜機へ迫る。
 レーザーライフルで終夜は応戦。
 剣を盾にレーザーを受け、ティターンが懐へ潜り込む。
「く‥‥っ、一機では‥‥」
 堪らず旋回。反応が一瞬早かったおかげで、剣は空を切った。
 ホッとしたのも束の間。振り向いたタロスが終夜機の背をプロトン砲で狙う。
「いかん‥‥!」
 タロスを振り切り、榊が飛び出す。
 AAMを放ち、ティターンの気を逸らせば、その隙に終夜が離脱。
 だが、タロスはまだ残っている。
「ここまで見下されるとはね〜。面白くないのだよ」
 ウェストが不快感を顕わにする。根絶やしにしてやりたい憎き虫ケラに、いいようにされているのだ。これが面白いわけがない。
 被弾の影響で機体が上手く安定しない。目の前のタロスに対してさえ、攻めあぐねている状態だ。
 状況は、決して良いとは言えない。
 タロスのプロトン砲が向けられる。回避出来るか‥‥?
 ふと、瞬間的に機体が軽くなった。ぐんと翼を傾け、光線を避ける。そのままアサルトライフルを撃ち込めば、怯んだタロスに爆煙が咲く。
「‥‥間に合ったようで」
「ほう、助かったよ〜」
 HWの退治を終えたBEATRICEが合流したのだ。ばら撒かれたラージフレアがウェスト機の回避を助け、放たれたミサイルがタロスを捉えたわけである。
 ウェスト自身もラージフレアは搭載してきてはいたが、使用する暇もなかった。被弾のダメージが各所に出ており、タロスと対等に渡り合うのも難しくなっている。BEATRICEの加勢があって、ようやくまともに戦えそうだ。
 煙からタロスが飛び出す。だがまだ再生が追いついていない。
 トドメを刺すなら、今だ。
「さぁ、墜ちてもらおう〜」
 損傷個所を狙い、ウェストがスナイパーライフルを撃ち込む。
 そこへBEATRICEのガトリングも加わり、損傷が徐々に広がる。
 反撃にとプロトン砲を構える動きを見せたタロス。だが肩の関節がやられたか、腕が持ち上がらないようだ。
 チャンス!
 距離を詰め、ウェストとBEATRICEがさらに過激に攻め立てる。
 反撃できない敵を放っておく理由などない。それに、再生能力を持つ敵ならばさっさと潰してしまいたいところだ。
 だが――。
 肩の力だけでプロトン砲の照準を合わせられないと気づいたタロスは、ブレードを投げ捨て、空いた手で砲身を掴み、ガツリと金属物質の欠ける音を響かせながら強引に照準を合わせてくる。
「く‥‥っ」
 BEATRICEが奥歯を噛み、翼を傾ける。翼を、光が掠めた。
 入れ違いに、ウェストがスナイパーライフルをもう一撃叩きこむ。
 発射の衝撃に耐えられなかったのか、それともウェストの攻撃が決定打になったのか。タロスはそのまま、空中で自壊したのだった。
「さて、そろそろ押し返したいが」
 タロスは残り二体。そしてティターン。
 ジークルーネ空戦隊の合流も間もなくだろう。数は優位。しかし、と榊は敵から距離を取った。
 連携が崩され、攻撃を受けたことで本来のポテンシャルを発揮出来ない者もいる。
「このまま力押ししては、勝てたとしても被害は甚大。得策ではないな」
 伸びてきた光を回避しつつ、提案するような口ぶりで榊は言う。
「退くと言うのかね? したければしたまえ。我輩は一人でもやるがね〜」
「悪いが、撤退だ。目的は果たしたしな。一人残ることは許可出来ない」
 バグアは根絶やし。これを胸に生きてきたウェストに、撤退など選択肢の内に存在しない。
 数では圧倒的に優位だ。多少の被害が何だというのか。倒せるなら、倒す。そうすべきではないのか。
 だが。
 合流したヨアンの口から告げられたのは、退去。
 目的を果たしたというのは、別働隊の偵察行動が完了したということである。つまり、ここまでやれば無理に攻める必要もない。HWも多く撃破し、タロスだって二体も墜とした。戦果としては十分である。
 それでも、ウェストは納得しない。高度を上げ、ティターンの真上に位置を極める。
「よせ! 怪我では済まないぞ」
 榊の忠告にも、耳を貸さない。
 このまま一気に決めるつもりのようだが、この状況では無茶だ。
「‥‥仕方ありません‥‥」
 加速した終夜がティターンに向けて射撃。
 これを回避せんと、ティターンはぐるりと半回転。
 今が好機と見たウェストが、一気に急降下を開始する。
 空中変形で人型形態へ。そして降下の加速を利用し、その拳を振りかざす。
「バ〜ニシングナッコォー! グラヴィトンブーストォ!!」
 ティターンを捉える!
 ウェストは確信した。が‥‥。
「ぬ、ぐぅぅ〜っ」
 一直線に降下するその軌道は、タロスによって見抜かれていた。機体を掠めた光によって世界が揺らぎ、その拳が目標に打ち込まれることはなかった。
 だがその機体は落下の勢いに乗ってそのまま地へと向かってゆく。
 追撃をかけんとティターンが動くが、その眼前を空戦隊のバルカンが塞ぐ。
「これ以上無理を通しては、怪我では済まんぞ」
 ウェストが姿勢を立て直すための護衛をしながら、榊が再度声をかける。
「本気でバグアを根絶やしにしたいのなら、ここは退くべきだ。舞台は整えられたのだから、次で今回の倍仕留めれば良いだろう」
「ぐぬぅ〜‥‥仕方あるまい」
 聞き入れたウェストが苦々しげに了承する。
 態勢を整えた傭兵達と空戦隊の面々が、牽制をかけながら徐々に撤退。この空域を後にしたのである。