タイトル:【CO】先端摘み出しマスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/22 23:28

●オープニング本文


「全く。ここも随分と長丁場になったものだ」
 代わり映えしない景色を下に、ジークルーネ空戦隊長ヨアン・ロビンソン中尉は呟く。戦火によるものか、それとも本来こうした土地か。そんなことは彼にとって興味はない。それに、考えるべきことは他にある。
 この戦争がどうなろうと、知ったことではない。景色がどうなっても、預かり知るところではない。空戦隊長ヨアン・ロビンソンとして、与えられた戦場で勝利をもぎ取ることを考えれば良い。そのために、どうすれば良いかを。
 ジークルーネの搭乗員に選抜される以前から、空を舞台に戦ってきた。経験がないわけでもない。少なくとも、隊長を任されるだけの手腕はある――と判断されるのだろう。それならば、その期待に応えなくてはなるまい。
 とはいえ、今回は偵察任務。今後攻略していくことになるであろうコンゴ共和国ディロロの下見が仕事の内容だ。会敵した際の対処は、交戦である。
 アフリカに於いて、一時は停戦ラインを設け互いに距離を取った人類とバグアであった。しかし今やその影は薄れ、この大陸を巡った攻防は続いている。
 元々、バグア襲来の折真っ先に奪われたこのアフリカ大陸である。当然といえば当然だが、これを奪還せんとするならば時間がかかるのも必至。これをボヤくのも筋違いではあるが、長いこと戦場に留まりたいと思うヨアンではなかった。
「さっさと片付けてしまいたいが、さて‥‥」
 敵の領域に踏み込めば、迎撃を受けるのは当然のこと。恐らく、ディロロの様子を探る余裕はないだろう。
「レーダーに感!」
「来たな。隊列を組み直せ! それから、後方に待機している傭兵に合図だ。出鼻をくじくぞ」
 彼が率いるのは、五機のKVだ。隊長のヨアンを含めて六機。
 情報を集めるのは、次の機会でもいい。少なくとも、敵にディロロを防衛する意思があることを確認出来ればそれで十分だ。攻めるための作戦を立てる参考になる。
 そうとなれば後はのこのこ出てきたワームを叩いてやれば良い。

●参加者一覧

百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
有村隼人(gc1736
18歳・♂・DF
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER
竹下 花音 (gc7160
20歳・♀・ST
御名方 理奈(gc8915
10歳・♀・SF

●リプレイ本文


 傭兵達は低く空を飛んでいた。
 恐らく、索敵能力等は敵方が上。発見されぬよう上手く回り込むためには、多少なりとも遠回りを強いられる。情報によれば、予測の通り敵戦力が迎撃に出てきたらしい。交戦中のジークルーネ空戦隊が引きつけている間に何とか背後を取り、強襲を仕掛けたいところだ。それも、なるべく早急に。
「空戦‥‥って言うか、ミカエルに乗るのって久々だケド、頑張っちゃうモンねっ!」
 KV戦闘は久しぶりというユウ・ターナー(gc2715)は、悪魔を体現しつつ天使の名を冠した愛機の中で気合を入れた。さほど難しい任務にはならないだろう、と聞いていたこともあり、リハビリ、あるいは練習にはもってこいである。
 少なくとも、機体を動かす感覚を体に思い出させることは可能。報酬ももらえるのだからこれ以上ない自習だ。
「宇宙での戦いも激化していますが、このアフリカを始めとした地上の情勢もまだ動きます。さぁ、きっちりと片付けていきましょう」
 ヨハン・クルーゲ(gc3635)は操縦桿をぐいと強く握った。人類は宇宙にも勢力を伸ばし始めたが、だからといって地上からバグアを駆逐出来たわけではない。
 これは飽く迄、宇宙へ行く術とそこで戦う術を得たからに過ぎない。フィールドが広がったとはいえ、地上での争いは続く。足元をすくわれぬためにも、大気圏内における戦争でも着実に地盤を固めておく必要は確かに存在する。だから気を抜けないのだ。
「アフリカの空を飛べるなんて嬉しい♪ 動物さんとかいないかなぁ」
 両足を擦り合わせるようにしてはしゃぐのは御名方 理奈(gc8915)。宇宙に上がったことのある者なら分かるだろうが、どこを飛行しても大して景観の変わらないのが星の海だ。距離の感覚も分かりにくく、先へ進んでいるのかどうかも体感で判断することは難しい。
 だが地球上なら、飛べば飛ぶほどに景色が変わる。まして、普段お目にかかれない土地を飛ぶとなれば御名方くらいの歳ならばテンションも右肩上がりの鰻登りだろう。
 ちなみに、彼女が脚を擦り合わせている理由については後述する。
 この一帯を飛ぶ機影は八。敵を挟撃するために動く割には大所帯だ。相手に圧力をかける意味もあれば、万が一敵の方こそ陽動を仕掛けてきた場合に対処する意味もある。この様子では、特に問題なくすんなりと挟撃出来そうだが、準備は準備だ。
「戦火は尽きないけどもね。ここは、追い詰める為の助力よね」
「ファリスもがんばるの。ジークルーネはファリスのジークルーネとおなじ名前だから、おともだちみたいなの」
 はしゃぐのも良いが、これも戦争の一環。もちろん、気を不要に張り詰めるよりは良いが、ヨハンのように現実を見る目も必要だ。百地・悠季(ga8270)は、気が緩み過ぎないように言い聞かせた。
 その横ではファリス(gb9339)が愛機のコンソールを撫でる。その機体の名はジークルーネ。後方に待機しているヴァルキリー級三番艦と同じ名だ。
「へーっ、そのKVジークルーネっていうんだネ。ユウのミカエルと一緒で神話っぽいヨネ!」
「うん。まもられてるかんじがするの」
 名を耳にしたユウが興味を示せば、ファリスも笑む。
「‥‥この子達の手伝いもね」
 そう呟く百地の視線は、ファリスやユウだけでなく御名方も捉えている。まだまだあどけない少女達も、戦士としてこの場にいるのだ。
 経緯はどうあれ戦う道を選んだ以上、彼女らにもそれなりの覚悟があろう。それを否定する気も、馬鹿にする気もない。だから、誰かが支えてやらなくてはならない。それは百地にとっての使命感でもあった。
「はっ、面倒見がいいな。誰かを気にしてる余裕なんてあるのかい?」
 竹下 花音(gc7160)が茶化すように言う。彼女とて自分のことしか考えないわけではない。だが戦場で他人を気にかけることが出来るかどうかはまた別の問題だ。
 言葉は粗暴だが、そこに棘はなかった。その裏に、自分のことも大事にしろ、との意図が伏せられていることに、百地もそれとなく気づいていたようである。
 敢えて反発するようなことはしない。
「子を持てば、きっと分かるわ」
 そう返すに留めた。
 目標地点まであと僅か。そろそろ敵の索敵に引っかかってもおかしくない距離だ。
 気合を入れ直すのはもちろん。もう一つ、実施しておきたいことがあった。
 作戦の確認である。
「会敵一番‥‥各員ミサイル一斉射で一気に優位を作ります‥‥。せかっくですので‥‥派手に行きましょうか‥‥」
 BEATRICE(gc6758)が述べた通り。空戦隊が遭遇した敵戦力は、数こそそれなりにそろっているが、個体の力はさほどでもない様子。ならば、初手で一気に優位な状況を作り出す。合流さえしてしまえば、数ではこちらが勝るのだから手負いの相手に負けることもなかろう。
 一斉射後は、予め決めておいたロッテで各個撃破に当たる。話としては簡単だ。
「周りとの協調が大事ですね‥‥」
 作戦に伸るか反るか。取るべき選択は一つであろうが、有村隼人(gc1736)はぽつりと呟いた。
 別に、決まった作戦に不満があるわけではない。後にロッテを組んで戦闘に当たるのだから、一人で戦うのではない、ということを自分に言い聞かせたのだ。
「見えてきましたよ。皆さん、準備はよろしいですね?」
 ミサイルでも放たれたのだろう。中空から発する黒煙を、肉眼で捉えることが出来た。ヨハンが周囲に声をかける。
 返事は聞くまでもなかった。


「隊長、傭兵はまだ‥‥!」
「泣き言を言うな。一匹二匹落としとくくらいの気概を見せろ」
 ジークルーネ空戦隊は正面から迎撃に出てきたワーム群に応戦していた。
 味方への被害はないものの、ワームに決定的な攻撃を仕掛けるには至らないのもまた現状である。数では劣るが、おいそれとやられるほどヤワなメンバーではない。傭兵さえ合流すれば勝機は十二分にある。
 待機時間というものは、実際に経過する時間より長く感じるものだ。空戦隊員の一人が弱音を吐きかけるが、それをヨアンはピシャリと制した。
 とはいえ、あまり悠長にも待っていられない。傭兵はまだ来ないのか、そんな焦りが浮かぶのも無理のない話ではある。
 そんな折であった。
「システム起動‥‥フルオープンアタック開始します‥‥」
 彼方に見えた八つの影が、大腕を広げるように散開する。そして微かに伝わってくる通信。BEATRICEの声だ。
「ミサイル一斉に行くよ! どいてどいてーっ!」
 次いで、御名方の注意喚起。
 傭兵が初手で一気に決めるつもりだ。巻き添えをくらうわけにはいかない。ヨアンが急旋回を指示、離脱を開始した。
 重ねるようにして傭兵達が動く。
「距離は‥‥十分‥‥ミサイル、発射します‥‥」
 呟くように告げると、有村が発射管を開く。
 続く各機も一斉にミサイルの発射態勢を整えた。
「ヒーハー! ど派手にいくぜ? レッツパーリィー!」
「‥‥れっつ、ぱーりぃ〜、なの!」
 歓喜の声と共に竹下が、併せてファリスが、持てるミサイルを一斉に放つ。
 彼女らだけではない。百地も、ユウも、ヨハンも、傭兵達全員がありったけのミサイルを放出。地から突き上げる強烈なアッパーだ。
 ジークルーネ空戦隊も、ただ見ているだけではない。
「ボヤッとするな! 祭りには乗るのが流儀。各員発射管開け! 目標なんか定めるな、とにかくあるだけ出せばいい!」
 ヨアンが先に立ってワーム群へミサイルを放り込む。
 視界を埋め尽くさんばかりのミサイルがワームを襲う。これを避けきるだけの技量が、果たして無人のワームが備えているだろうか。いや、いかに人類を上回る技術力を誇るバグアでも、これは不可能だ。
 黒煙が広がる。
 まるで吸い込まれるように次から次へとミサイルが放たれ、中の状況など一切把握出来ない。
 それでも傭兵達は、空戦隊の面々はミサイルを撃ち続けた。
 そして、撃ち尽くした者から順次距離を取る。生き残ったワームが煙の中から闇雲に砲撃を仕掛けてくる可能性があるからだ。
 途上で予め決めておいたロッテを組み、この後の戦闘に備える。
 爆煙が収まる頃には、全員が臨戦態勢に入っていた。
 ワームにはいったいどれだけの被害が与えられたのか‥‥?
 煙と共に散る金属片。拭きとられたように晴れた空。そこに残るワームは、僅かにゴーレムが三体のみ。HWは全てあのミサイルの雨に飲まれてしまったようだ。
「これだけですか? 拍子抜けですね‥‥」
 ヨハンが思わず嘆息する。
 あまりにも、少ない。数では圧倒的優位。しかも残ったとはいえ三機のゴーレムも損傷が酷い。
 勝ちが見えた――!
「ふぅ、あれで駄目だったらどうしようかと思ったの。隼人おにーちゃん、行くよっ♪」
「‥‥はい」
 テンションフルスロットルといった様子で、ユウが飛び出す。
 対照的に物静かな有村は、その後ろにしっかりとついて加速を始めた。
「うぅ‥‥」
 一方で、先ほどまで張り裂けんばかりに元気だった御名方が、唸るような声を漏らしていた。
 挟撃のために迂回していた際にもそうだったが、しきりに足を擦り合わせてなんだか少々肌寒そうである。
「正念場よ。しっかり‥‥大丈夫?」
「うん、その‥‥」
 ロッテを組む百地が心配して声をかける。
 応える御名方も、何だか少々言いにくそうだ。よほど不測の事態が起こったのか‥‥?
 しかしてその回答は。
「パンツ履き忘れちゃったみたいで、ちょっと寒くて‥‥テヘッ♪」
「‥‥行くわよ」
「わーっ! 待って、待ってってば!」
 呆れた、とばかりに百地が先行。
 ボケでも何でもなく、敢えて言うならば天然。まさかパンツを忘れてくるという大失態。足を擦り合わせていたのは、ただの無意識。今ここにきて、その事実に気付いたのだ。
 高速で高度の切り替わる空戦で下着一枚忘れるだけで具合を悪くしかねないのだが、そこは流石能力者と評するべきか。後に御名方が体調を崩したという情報はない。
 そんな奇妙なやりとりをしり目に、ファリスは小さく息を吐いた。
「‥‥ありえないの」
「ま、まぁ、そう‥‥ですねぇ」
 よりにもよって下着を忘れてくるなんて、ファリスには考えられなかった。ズボンやスカートの前に、パンツを履く。幼稚園児でも知っていることだ。ファリスくらいの年齢では、自分が常識として備えていることはほぼ絶対的なものとして認識することが多い。つまり、自分の常識から外れる物事はまずあり得ないこととして捉えるのである。
 ‥‥いずれにせよ、ちょっと考えにくいことではあるが。
 話題が話題だけに、ヨハンも食いつきにくいものである。冷や汗を垂らしながら、言葉を濁すように相槌を打つに留め、機体を進める。
「おらおらーっ! ミサイル切れたからって舐めんなよー!」
 既に竹下が交戦態勢に入っていた。
 その背後ではBEATRICEがしっかりとサポートに入っている。
 懐に潜り込み、ゴーレムへ機関砲を叩きこまんとする竹下。
 だがそれは敵にとってもチャンスである。その手の大剣が高々と振りあげられる。
「バックアップ‥‥。勝利は揺るがせません‥‥」
 大剣を狙い、BEATRICEがガトリングを放つ。
 動きを封じられたゴーレムがぐらりとふらつき、竹下がこれでもかと機関砲を撃ち込んでゴーレムを沈黙させた。
「僕も負けていられません」
 最早手元にミサイルはない。だが、一撃の重さならミサイルにも負けないブツなら、ある。必殺の一撃を放つタイミングを逃すわけにはいかない、と有村は瞳に力を込める。
 先を飛ぶユウが、ガトリングの弾を撒き散らしてゴーレムの脚を削ぎ落す。あらぬ方向へ放たれたプロトン砲が青空に線を引く。
 そこに追い打ちをかけるように、空戦隊の面々が機銃で次々に装甲を剥がした。
「隼人おにーちゃん、今なのっ☆」
「行け‥‥!」
 試作型「スラスターライフル」から弾丸が吐き出される三十の弾丸が、一斉にゴーレムを襲う。
 剥き出しの骨格にそれだけの攻撃を受けて、無事なはずがなかった。
「退路はないわ。諦めることね」
 残るは一匹。
 百地は逃げようとするゴーレムの進路を射撃して動きを封じていた。さっさとトドメを刺しても良いが、彼女はそうしない。
 自らで口にしたのだから。「この子達の手伝い」と。
「援護します!」
 これにヨハンもレーザーバルカンを放ち、百地の火線も合わせてゴーレムを挟み込むよう囲う。
 完全に身動きの取れなくなったゴーレムへ、ファリスと御名方が迫った。
「いたいのいたいの、ぶつけるの!」
「さーぶーいーっ!」
 ファリスのガトリングにワームの装甲内がスパークする。
 痙攣するかのように空中で静止したそれへ、今度は御名方が荷電粒子砲を見舞った。
 ゴーレム撃沈。空域の掃除は完了である。


「ジークルーネ‥‥良い艦ですよね‥‥艦長も‥‥K−03ホーミングミサイルも‥‥」
 帰還の途上、上空からではあるがヴァルキリー級三番艦ジークルーネを目にする機会に際した。
 かつてこの艦に触れたことのあるBEATRICEは、当時を思い出して呟きを漏らす。
 このジークルーネは、ヴァルキリー級の中でも攻撃力に特化した艦だ。K−03ホーミングミサイルはKVのそれとは比にならない弾頭の量や威力を誇るのはもちろんのこと。ひたすらに攻めるための艦なのである。
 ここに秘められた浪漫を、BEATRICEは感じていた。何しろK−02ホーミングミサイルをこれでもかと積んできた彼女であるから、大量のミサイルを一斉に発射する感覚には痺れずにいられないのだろう。
「あれがジークルーネなの?」
「そのようですね。このアフリカで活躍しているようですよ」
 自身の機体と同じ名を持つヴァルキリー級を前に、ファリスの声も高い。
 ヨハンが簡単に説明してやると、ファリスは一層声を弾ませた。よほど同じ名前ということが嬉しかったのだろう。
「これで終わりではなさそうですし‥‥次も気を引き締めないといけませんね‥‥」
 有村はポツリと呟く。
 そう、これで終わりではない。今回はほんの様子見だ。
 少なくとも、敵が迎撃に出てくる程度には防衛の用意があるのだろう。
 次は簡単にやらせてくれない。そんな予感は、誰の胸にも宿っていたのである。