タイトル:【MN】無双の荒野マスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/06 19:04

●オープニング本文


※ このオープニングは架空の物になります。このシナリオはCtSの世界観に影響を与えません


 人の世は、終わりを迎えた――。

 抵抗と恭順。人類は、恭順を選んだ――。

 その力の前に、人は屈した――。


 侵略者、バグア。
 人類は度重なる衝突の末、遂にバグアに投降する。敗北。そして、バグアへの隷属。
 未来などない。だが、抵抗を続ければ、人類は皆殺しにされていただろう。
 洗脳など、最早必要ではなかった。力と恐怖による支配が、何より人の心を強く握っていた。
 光りなき世に、生きる意味などない。そう感じる人々であっても、己の命がかかるとなれば、恐怖から、バグアの言葉に従うことしか出来ずにいた。

 そして、そんな人々に、一つの命が下される。

 今もなお、バグアへ抵抗する者がいた。
 最早バグアを打ち倒すことは不可能。だが、だからこそ、戦い抜くことで命を散らさんとする者がいた。
 戦いを挑む。
 せめて一泡、吹かせてやろうと。
 その者は、その者達は、一つの決意の元、立ち上がった。

●参加者一覧

威龍(ga3859
24歳・♂・PN
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
秋月 祐介(ga6378
29歳・♂・ER
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
囚人No.5159(gc6773
13歳・♂・FT

●リプレイ本文

●荒野に立つ八人
 乾いた風が、ひび割れた大地を撫でる。ヒューという唸りは、潤いを失った地の慟哭。世界は黄昏を迎えていた。
 人の群が、この荒野を踏み鳴らす。低く土煙を漂わせ、芋虫が這うようにぞろぞろと、のろのろと動いていた。
 その最後尾の男は、その大斧を大地に叩きつけ、叫ぶ。
「さっさと歩けェ! ブッ殺されてェかァ!」
 身の丈2mは軽く超えた、得物に違わぬこれまたガッシリとした体格。男は、この群のリーダーあった。
 その進路上。対面するように立ち並ぶ八つの影があった。
「‥‥我ながら、頭悪い生き方をしていると思うぜ。バグアどもに面従腹背してさえいれば、さほどの危険など無く命を全う出来るだろうにな」
「人類がバグアに降伏し、晴れて俺達能力者はバグア・人類共通の反逆者というわけだ」
 威龍(ga3859)の言葉を受け、堺・清四郎(gb3564)が頷く。
 世界の状況。世界を侵略したバグアにとって脅威となった能力者と呼ばれる存在は、その侵略が成った後もやはり危険な存在として扱われた。そして今、彼らは元侵略者にして世界の支配者となったバグアへ、せめて一矢報いんと立った者。
 いや‥‥。
 最早そんな大それた義など意味を持たない。
「あははははっ♪ つまらない戦場につまらない敵。まだまだこんな場所では死ねませんわ」
「バグアの奴さんの支配はつまらねェし、大量殺人鬼ラビッシュ復活と行こうかねェ‥‥クヒヒ‥‥! キハキヒ! カヒヒククキハ!!」
 ミリハナク(gc4008)や、ラビッシュ・マークこと囚人No.5159(gc6773)の言葉は、狂気を孕んでいた。戦う悦び。殺す悦び。殺戮の宴が幕を開けることへの狂喜を隠す必要などない。
 本能のまま、欲望のまま、何も考えず、ひたすらに力を振るうことの許されるこの世界。彼らの待ちわびた世界。内に秘めたものを解放する快感に水を差すものはない。
 そう。要は倒せばいいのだ。敵、を。
 戦いの気配に身を震わせる二人とは裏腹に、
「人が相手だと、やりにくいですね〜‥‥」
 八尾師 命(gb9785)は、人として生きることを捨ててはいなかった。人間であるが故、人間を手にかけることを拒み、恐れる。
 この期に及んでは、それは甘えとすら言える。だが、そう言われようとも彼女は人でありたかった。生きていたかった。
「しかし、今や彼らもバグアの一員だ。殺さなければ、殺されるだけですよ」
 と、秋月 祐介(ga6378)。いや、彼自身、最早その名は捨てた。今の彼は、教授。それ以上でも以下でもない。彼の武器は理論。故に、言葉は正論。
 それが、八尾師の心に突き刺さる。
 彼女もそれは理解している。だからこそ、その道理を蹴飛ばしてやりたかった。
「気持ちは分かるわ。それでも戦わねばならないの。今となっては、それしかないの、分かるわよね?」
 その言葉は、本当に八尾師にだけ向けたものだったのか。遠石 一千風(ga3970)の目は、人へ言葉をかけるにしてはどこか遠くを見ているようだった。
 八尾師の心に生じた戸惑いは、揺れたまま。唇をきゅっと結び、思わず漏れそうになった「仕方ない」の言葉を飲み込む。
 いわゆる敵は、もう目の前まで迫っていた。お喋りもこれまで。
「距離、120m‥‥。敵先頭集団、射程内」
 重機関銃を構え、クラーク・エアハルト(ga4961)が小さく呟く。
 弾が飛び出すのは、その直後だった。

●無双の荒野
 断末魔が響く。
 荒野を駆ける弾の嵐に、人の群の先頭が崩れたのだ。長距離からの射撃のため、被弾の衝撃で体が真っ二つになるようなことはなかった。故に、被弾箇所によっては一撃が致命とならなかった者も存在する。
 死を免れてしまった者が地に伏し、呻く。
 その頭を、ラビッシュが踏みつける。
「キッヒヒヒャハハ! いいなァ、エ? いいなァ!」
「ひ、ひ‥‥っ」
 その手の大きな鋸が、人の首へ立てられる。通りの悪い刃が、痛みと苦痛を与える。その手ごたえが、彼にとって何よりの快楽だった。
 飛び散るのではない。染み出る。漏れる。生命の朱が、刃を染め、地を潤す。ラビッシュの奇怪な嗤い。それが、あの人間達にどれほどの恐怖を植え付けたことか。
「ブッヒヤァーッヒャヒフヘッハッハヒャァアアッ! さーァ、次はどいつだァ? ギチギッチヂチィ? ギュリュップァアア? どんな死に方がいーのかなァ? ウヘヤヒヒァ!」
「な、何だってんだ、あいつらは!」
 剣を、槍を手に、人々が一歩も二歩も退く。
 その群のリーダーは、その大声を張った。
「何してやがる! あいつらは能力者、反逆者よ! 殺せ、奴らをブチ殺せェ!」
 さもなくば‥‥。
 殺されるのは、自分。人々は、それを察した。
「や、やるっきゃない! 覚悟!」
 恐怖を恐怖で上塗られた人々は、引けた腰のままに武器を構える。
 それを見た八尾師は、これこそが説得のチャンスだと考えた。
「お願いします〜。道をあけてください〜」
 目的は、敵の頭。確か、サイモンとか言ったか。その打倒さえ果たせれば、それで良い。何も無理に、人を殺める必要などないのだ。
 こうして声をかけて、相手が道を譲るならば良いのだ。
「そうだ! 俺の目的はサイモンの野郎をこの手で打ち倒すことだ。手向かいしないなら、見逃してやるぜ」
 それは、威龍からしても同じだった。余計な血を敢えて流す必要はないと、彼は考えていた。
「こ、こっちだって命かかってんだ!」
 だが、それで聞くなら苦労はない。
「やめなさい、無駄よ」
 遠石が八尾師の肩に手をかけた。
 戦わずに済むくらいなら、敵も最初から襲ってこないのだから。
 誰かが、誰もが言っていた。相手が襲いかかってくるのなら、やるしかない。
 とはいえ殺したくは、ない。
 彼女は、八尾師はその手の超機械を封じた。
「ご、ごめんなさい〜」
 ただの人間が相手なら、素手で十分。振り下ろされた剣を軽く流し、拳を相手の横っ腹へ突き入れる。
 一瞬の苦悶。直後、人はどうと倒れる。
 手が震えた。
 それは恐怖。
 それは‥‥悦楽。
「いい感触ですわ。震えるほどの快感‥‥。これが本物の暴力ですわ!」
 ミリハナクの顔には笑顔が貼りついていた。赤黒い両刃の斧に、色を塗り重ねて。
 血は踊る。舞う。ドレスに馴染む。
 肉塊が宙に泳ぎ、ミリハナクの華麗なステップが、力の調べに乗せてトンと踏まれる。その度、ステージは赤く紅く朱く染められてゆく。
「邪魔をするんじゃねえ!」
 敵の戦意は変わらない。ならば威龍は、戦うより他に、手段を選ぼうとしなかった。
 その手の爪が咲かせる生命の華が、この乾いた舞台を彩ってゆく。
 さらに別のところでは。
「貴様等の親玉は何処にいる?」
 向かってきた人間の胸倉を掴み、その額へ銃口を突きつけつつ、教授は問う。
 面倒なことをする必要はない。さっさとサイモンの正確な位置を割り出し、一気にたたみかけてしまえば良い。そして、それならば敵に口を割らせた方が手っ取り早い。
「し、知らん! いや、知ってたって言わん! 殺されちまう」
「知らないか、なら他の奴に訊こう」
 殺されちまう?
 いや。最早能力者へ立ち向かった時点で、彼は殺されていたも同然だ。生きる術など、ない。
 恐らく、問いに答えていたとしても。
 引き金が引かれるのとほぼ同時に、男の眉間に大穴が空いた。
「排除、殲滅、抹殺‥‥」
 クラークの機関銃はなおも火を吹く。
 教授のように、親玉の位置を聞き出すわけでもない。八尾師らのように、投降や撤退を呼び掛けるわけでもない。かといって、ラビッシュやミリハナクのように、戦いに喜びを見出しているわけでもない。
 無感情、無感動。‥‥無気力。
 トリガーを引き続ける。その時間の分だけ、目の前が開ける。
 今まで硬かった地面が柔らかくなり、ぬめぬめとまとわりつくようになり、躓きやすくなった。何故かなど、考えもしない。
 ただ彼の心に唯一残ったものは、あの人の面影。それもやがては‥‥。
「違う! 解からない。わからない。ワカラナイ‥‥!」
 断末魔にかき消されそうな彼の咆哮。受け止める者は、受け止めてくれる人は今はもう、亡い。
 この気が狂いそうな世界。彼クラークのように崩壊してゆく者もあれば、この時代でより一層の力と意志を光らせる者もある。
「退け‥‥我が刀の錆となる前に‥‥! さもなくば‥‥」
 岩を粉砕して力を見せつけ、威圧。ギラ、と光る目。
 見回した景色。怯え竦む者はあれど、従うと見える者はない。
「『人類』堺・清四郎‥‥推して参る!」
 二振りの刀を手に、堺が荒野を疾る。
 空を斬る。刃の軌跡を追って、紅がパッと散っては世界を染める。
 狂気の剣ではない。
「俺にかかってくる度胸があるのならばなぜそれをバグアに向けない‥‥!」
 その言葉が示すのは、彼の強い覚悟。
 絶望に彩られた世界に、強く生きようとする彼自身の輝きだった。

 圧倒的な力。
 八つの無双の影に、いつしか人の群は形を失った。
 そして、群の頭が姿を現す。

●真・無双の荒野
「ぬぐぐ、小癪な奴らめ。ええい、人間風情が調子に乗りやがって! この俺自ら、直々に相手をしてくれるわ!」
 大斧をぶんと振り、サイモンはついに戦場へと駆け出した。
 それに最初に気付いたのは、秋月。
 周囲の雰囲気の変化にハッとしたのだ。これまでとは違う何かが来る、と。
 この期に及んで、味方というわけではないだろう。ならば。
「サイモンが来たようだな」
 そう考えるのが自然。
 有無を言わさず気配の方向へ発砲。手応えは‥‥ない。
「よくぞ俺の接近に気付いた! だが、所詮はそれだけよ!」
 人が、さっと退いた。
 サイモンが退かせたのだ。
「貴様らなどこの俺一人で十分だ。さあ、かかってくるがいい!」
 大した自信である。
 この状況を待っていた人物がいた。
「あなただけで私達と〜? 好都合ですね〜」
 人と戦うことに躊躇いを感じていた八尾師だ。
「あら、貴方は私を楽しませてくれるのかしら?」
 妖艶に笑んで、ミリハナクが真っ先に飛び出した。
 それを見て、八尾師がサイモンへ練成弱化をかける。
 かち合う斧と斧。だが単純な力では、サイモンの方が強い。
 弱化をかけたとはいえ、だ。
 弾き飛ばされるミリハナク。
「本命来た殺れェ!」
 入れ替わりに突撃をかけるラビッシュ。その鋸ががちがちと刃を鳴らす。
「力に任せるだけとは嘆かわしいわ!」
 斧で鋸を斬り払う。体勢の崩れたラビッシュへ、膝を叩きつけた。
 声もなく宙を舞うラビッシュ。
「力任せはお前の方だ!」
 そこへ飛び込んだ堺が刀を振りあげる。
 切っ先がその胸板に傷を入れた。
「おのれぇぇッ!」
 くわと目をカッ開いたサイモンが斧を振り下ろす。
 堺はそれを刀で受け止める、と見せつつ、地へと払い落した。
 舌打ち。斧をそのまま振るう。
 堺はそれを華麗に回避。
 青筋を立てたサイモンが再び斧を返す。だが、どうもおつむは足りないらしい。正面からやり合うにはそれなりに難儀するが、背後を取ること自体は容易い。
「リーチは確かにそちらが有利かもしれないが、それならそれで戦いようはある」
 回り込んだのは威龍だ。持てるスキルを全て解放し、背後からの奇襲をかける。
 サイモンの背がバックリと裂ける。
「ぬぐぅ、きっさまぁ!」
 振り向けば、しかし、今度は堺が攻撃を仕掛ける。
「いいんじゃないかしら? いただくわ」
 さらに遠石も仕掛ける。刀を突き入れるように腕を狙う。
 だが、ただでやられるわけでもない。サイモンは遠石の腕を掴み、一気に引き寄せ、顔面に頭突きをかました。
「あぐ‥‥っ」
 ぐわんと脳が揺れる。視界がぶれる。倒れそうになる体。一撃離脱のつもりだった。だが、腕を掴まれてはそれもままならない。ならば。
「力任せだからっ!」
 掴まれた腕をそのまま引き寄せ、サイモンの顎を蹴りあげた。
 ぶふ、と声を漏らし、仰け反る。
 その隙に遠石は離脱。
 そこへ、クラークが銃口を向ける。
「援護を」
 怯んだサイモンに銃弾の雨。
 苦悶に呻く。
 だが、クラークが容赦をすることはない。決して。
 そして彼は、自らの異常を自覚していた。
 敵の苦しむ姿が、やたらと鮮明に目に映える。それは、快感なのか。
 もっと、敵に対し力を振りかざす快感が、ホシイ。
「ただやられるだけではありませんわ。その胸に恐怖を抱きなさい」
 一度弾き飛ばされたミリハナクが再度接近を図る。
 弾丸の雨を華麗なステップで掻い潜り、その手の斧を振りかざす。
 咄嗟にサイモンも大斧を振るった。
 だが、刃はかち合わない。
 するりと互いの軌道は逸れた。いや、ミリハナクが逸らしたのだ。
 純粋な力では相手が上。それは既に経験済み。同じことを繰り返すような愚は犯さない。
「動きが単純ですわ。散りなさいな」
 ぐんと姿勢を低くし、頭上すれすれを斧が通り抜けたのを見計らい、下から斧で斬り上げる。
 サイモンの姿勢が完全に崩れた。
「自分の何もかもをくれてやってでも、お前の何もかも消えて無くしてやる。そして、お前にはまず、こいつをくれてやる!」
 貫通弾を込めた教授の一撃。
 近距離で放ったそれは、サイモンの脇腹を抉った。
「ぬぐァアアア! 貴様ァ、ちょーぅしに乗るなよァ!」
「しまった!?」
 語気を荒げたサイモンは、クラークの弾幕を脱し、弾を切らした教授へと急接近する。
 慌てる教授。思わず銃を取り落とした。
 ニタリ。サイモンが笑む。もらった。確実に仕留めた。と。
 だが――。
「切り札は最後まで見せるな。見せるなら更に奥の手を持て‥‥。甘かったな」
 教授が懐から取り出したのは一冊の本。
 ただの本ではない。能力者の武器、機械本だ。
 バチリと閃光が弾ける。
 それがサイモンを捉え、その動きを封じた。
「今だ、一斉に畳みかける!」
 威龍が叫ぶ。
 遠石が駆ける。
 クラークが鉛の雨を降らす。
 秋月の容赦ない電磁波。
 堺の二刀一迅。
 八尾師が次々と補助を入れる。
 ミリハナクが斧を振りかざす。
 ラビッシュが奇妙な声と叫びを以て疾走。
 サイモンは、呪いの叫びを上げ、地へ崩れた。
 荒野に立つ八つの影。
 荒野に吹き抜けた、八つの風。
 破壊の衝動。
 生命の息吹。
 狂乱の宴。
 すべてが、この大地に――。

 彼らが目覚めたのは、この時点。
 夢を見ていた。
 真夏の夜の夢を見ていた。
 何を感じたか。
 何を思ったか。
 ただの夢なのか。
 それとも彼らを動かす何かなのか。
 分からない。
 分からない。
 分からない。
 だが、夢だ。
 夢だ‥‥。
 真夏の夜に見た夢だ。
 たかが夢。
 だが‥‥。
 その心は、夢を見た彼らしか持ちえない。