●リプレイ本文
●選手紹介
「さぁこれから始まる大乱闘! ひしめき合ってそろい踏みの漢共を、この俺、ランク・ドールが――」
「終夜・無月(
ga3084)が紹介いたします‥‥」
マイクを手に勢いよく選手紹介へとしゃれこもうとしていたランクだが、そこに割って入った漢がいた。
それが終夜。いつの間にか机と椅子を用意し、パラソルで日陰までこさえている。その姿は浴衣と涼しげだ。
「実況はこのあたし、ビリィことビリティス・カニンガム(
gc6900)だぜ!」
そしてその隣にはビリィ。見た目も幼い少女だ。白いスクール水着が、なんとも危ない。水でも引っ被ろうものなら、‥‥うむ。
ちなみに机の上には二人分のマイクがスタンドと共に並べられていた。それは有線で背後の巨大なスピーカーに繋がっている。
ランクの握っていたマイクは、ジャックから抜かれていた。
「ちょ、俺のマイ――」
「あの百合の花の模様をあしらったビキニの方‥‥。サウル・リズメリア(
gc1031)ですね‥‥」
「エレガント! なんだか煌いているぜ!」
紹介をもらい、サウルはそっと観客席へ手を振った。
その線の細さ、男にしておくにはもったいない程の美貌に客席の野郎共もうっほりである。
え、女性? さあ、この客席にいるのかしら‥‥。
「続いてはイオグ=ソトト(
gc4997)‥‥」
「うおおお! 恐ろしいくらい発達した筋肉だな! 見るからに暑苦しいぜ!」
褌姿のイオグ。まだ子供とは思えぬ身長、鍛え上げられた筋肉。こんがり焼けた肌が、太陽光に照らされる。
迫力は満点だ。内から湧き上がる気合を一気に放出したかのような雄叫びが上がる。
「そして胸板の分厚いあちらが綾世 真仁(
gc7350)だね‥‥」
「ゴツい! なんてゴツさだ! 戦いで培われたファイターボディ! まさに完璧だぜ!」
スカイブルーのビキニを穿く屈強な男、綾世。
全てのものを一撃で粉砕するかのような太い腕、膨らんだ胸(筋肉的な意味で)。まさに大地にそびえる筋肉の城と言うに相応しかった。
「さて、次の方が最後の出場者でしょうか‥‥。田中 義雄(
gc7438)、ですね‥‥」
「なんつーか、凄い格好だな。あたしもやってみようかな」
ビリィさん、そいつぁ不味いぜ。
それはともかく、田中のかっこうとして、まずビキニを穿いている‥‥のは、全く問題ない。
しかし、それだけではないから、問題だ。
彼は、顔面にブルマを装備していたのだ。
‥‥こいつぁ事件だぜ!
「あ、二人ともお疲れ様。暑いから、良かったら飲んでね」
司会席に二人分のスポーツドリンクを置いたのはユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)だ。彼も能力者なのだが、今回は見物。
しかしただ見ているだけというのも、何だか性に合わない。彼は積極的に祭りの手伝い役を買って出たのだ。
飲み物の手配だけではない。彼は脱落した者へ投げ込むための情けのタオルも用意していた。
これでビジュアル的な問題は、きっと解決されるだろう。と、思いたい。
「や、ありがとう‥‥」
「さて、準備も整った。いよいよ漢祭の開幕だぜ!」
終夜とビリィが綺麗に締める。
その脇で、ランクは反応のないマイクを手にしくしくと泣いていた。
彼の肩に、ユーリはそっと手を置いてやるのだった。
●開催! 漢祭!!
各々が指定されたエリアに並び立ち、互いに睨みを効かせるようにスタートの合図を待った。
今回の参加者は四人。優勝の条件は、最後まで勝ち残ること。そして、二枚以上相手の穿きものを脱がすこと。
つまり、敵が一人になるまで逃げまわる、という戦法は封じられているのだ。
いや。
ここに集った漢共に、そのような選択肢は端からないはずだ。何故なら、彼らは漢であるからだ。漢に逃走はない。あるのは、闘争だ。
「それでは! 夏の漢祭in2011! レディィイイイ――」
「ゴォォオオオオオオッ!」
スタートの合図を切ろうとしていたビリィ。
だが、逆襲のランク現る。マイクをひったくり、最後の一言だけかっさらってしまった。
「ちょ、それあたしの役!」
「ええい知るか! 俺だってなぁ、俺だってなぁ! ‥‥覚えてやがれっ!」
最早実況など諦めたか。
マイクを突き返したランクは、そのまま謎の雄叫びを上げながらビーチの彼方へと走り去ってしまった。
実況をしたかった彼の、最後の抵抗だったのだろう。哀れランク。間違っても泣くんじゃないぞ。
さてカメラを移そう。
ランクの合図により選手が一斉に駆け出した。
人数は四人。手近な者と組み合い、一対一の構図が二つ。両組とも正面からぶつかる正々堂々の勝負だ。
「うおおおーっ! どの選手も毛穴から雄の体臭が滲み出してやがる! むせる、むせかえるぜぇえええっ!」
「なかなか白熱した開幕ですね‥‥」
思わず司会席も盛り上がる。
その組み合わせのうちの一つが、サウル対綾世だ。
「さあどうした、かかってこい!」
腕を大きく広げ、敵の出方を窺う綾世。
腰まで浸った海水のおかげで、一瞬で決めるというのは困難を極める。
そうとなれば、相手の水着を一気に引き下ろす。そのための力が重要となる。
力ならば、綾世にも不足はない。
「ふっ。ならば!」
誘いに乗ったサウル。飛び出す、かと思えば、踏み出した足でそのまま水面を蹴りあげた。
空に水しぶきがキラキラと光る。
思わず綾世が目を閉じた。
「隙あり!」
ぐん、とサウルが踏み込んだ。
とっさに腕を出し、綾世はサウルの突撃を止めにかかる。
だがサウルはふわりと左右にステップし、腕をかわした。
その様はまるで‥‥。
「こっこれは‥‥百合!? 百合が揺れてるぜ! まさに百合籠! 貴族の嗜みって奴かーっ!」
「華麗なステップですね‥‥。風に揺れる白百合‥‥、イメージとしてぴったりです‥‥」
司会のお二人、ありがとうございます。
「卑怯なんだよ!」
回り込んだサウルへ、綾世の回し蹴りが飛ぶ。
「勝負事に、汚いも何もねぇっつう事で」
サウルはその足を掴み、勢いを利用して倒しにかかった。
しかし綾世もただではやられない。水底に手をつき、ぐんと下半身を捻って逆にサウルを叩きつけた。
派手な水しぶきが上がる。
「これは凄い! 熱くも涼しげなデットヒート! 相手のビキニを奪うのはどっちだァ!?」
「いやぁ、白熱してますね‥‥」
水面から手を突っ込み、サウルのビキニへと手を伸ばす綾世。
しかしその手を払ったサウルが、あっという間に背後を取った。
スカイブルーの水着に手がかかる。
とっさに振り向き抵抗を試みる綾世だが、サウルはなかなか離れない。
かくなる上は、最終手段。鍛えられたそのボディだからこそ成せる技を使うしか、勝利への道は残されていない。
「ふんっ! はぁ〜‥‥!」
「何っ? こ、これは!」
ビキニを下げる手が、ピタリと動かなくなった。
穿きものに手をかけられた際、相手の手を掴んでの妨害はルールで禁止されている。そして綾世は、手を使ったわけではない。
どういうことでしょう、ビリィさん!
「ケツの肉の収縮だけで堪えてるだとー! やっべ‥‥尻のひくつきが手に取る様だぜ‥‥」
「恐るべき大臀筋ですね‥‥。よほど鍛えていないと‥‥あれは真似出来ませんね‥‥」
そう、尻の筋肉だけでビキニを挟み、脱がされるのを堪えているのだ。こいつはとんでもない展開だぜ‥‥。
「ならば‥‥!」
パッとサウルは手を離す。
ビキニが解放され、綾世の大臀筋が一瞬緩んだ。
そこを、サウルは狙っていた。
「引っぺがす!」
勢いよく、ビキニと尻の間に手を突っ込んだ。
「アッー!」
最早尻肉でビキニを挟むことも出来ず、綾世のビキニは降ろされた。
力んだおかげで膨張した秋の味覚が水面を突きあげ、小さな水しぶきを上げる。
こちらはイオグと田中という、見た目にもインパクトの強い組み合わせだ。
「フハハハ! 相手にとって不足はない。行くぞ!」
先に仕掛けたのは田中だ。
「アァアアアニキィイイイイイ!」
雄叫びを上げ、イオグも応じる。
がっしりと組み合い、押し合う形。脱がし合う前の力比べだ。
「あのはちきれるような筋肉と筋肉! 力は五分かぁ!?」
「いえ‥‥。僅かですが、差がありますね‥‥」
イオグに多少分があった。
ぐんぐんと褐色の筋肉がブルマ仮面を押し返す。
その力に圧され、田中が体を反らした。
しかし、それも彼の作戦だったのだ。
「とぅっ!」
「のぉっ!?」
唐突に、田中は手を離す。
力を前へ押し出そうとしていたイオグは、押さえつける相手を失ったことでたたらを踏んだ。
サイドへ回り込んだ田中が、その褌を奪おうと手を突きあげる。
「いただきだァ!」
ガシッ!
掴んだ。あとはこいつを引き下ろすだけだ。
‥‥だが、それにしては少々妙な感覚。
「くっくはははは!」
イオグは笑う。
「筋肉十字軍筆頭の褌 そう易々とは取らせはせんよ」
「な、ナニィィイイイイ!?」
その感覚の正体に、田中はようやく気がついた。
「掴んだーっ! しかしこれは! 果実! 若い果実がもがれそうだぜー! 果実もぎの漢! まさに夏の風物詩!」
「こういう風物詩は‥‥、ちょっと嫌ですね‥‥」
確かに褌は掴んだ。だが、それと一緒に、イオグのアレも掴んでいたのだ。そう、まさしく漢の象徴たる、アレを。
(な、なんて立派なんだ‥‥。こいつは、そこらの人間のものとはワケが違う! 馬だ、馬並のインパクトだ!)
ブルマの内側で、田中が冷や汗を流した。
そう、その大きさ、太さ、硬さ‥‥。どれをとっても文句のつけようがない程、イオグのソレは、立派過ぎた。
「どぉおおりゃぁあああ!」
ぐん、とイオグも腕を振るう。
そしてお返しとばかりに、田中の息子を掴んだ。そのままビキニを降ろす‥‥いや、降ろそうとしているのは、田中も何となく感じた。だが、モノを掴んでいるだけに、降ろそうという意識は若干弱い。
「のぉぉおおおっ!?」
しかしその分、痛い。
「こっちも掴んだーっ! うっひょおお! 何つー竿捌きだ! 大漁間違いなしだぜお兄ちゃん! 今夜のおかずは白子ポン酢なのかーっ!」
「最早、実況も意味不明ですね‥‥」
会場では見入る者、目を逸らす者と様々。
「あれは、直視したくないな‥‥」
ユーリは持っていたタオルで視界を覆い、このおぞましい光景から自らを隔離した。
だが、戦いは続く。
「こ、これは事故なんだ‥‥」
「何が事故だ! おいらと、勝負しようってんだろ? ま、おいらの勝ちだけどな!」
ぐぐん。
田中の手の中で、熱いアレがさらに膨張する。思わず田中も息が上がった。
負けた‥‥。コレには勝てない‥‥。
だが、今すべき勝負はこれではない。そう、大事なのは‥‥。
「今度こそもらったァ!」
パッと手を離し、そのすぐ上部にあった褌の結び目。それを摘み、一気に引き抜く。
ほどけた褌が、宙を舞った。イオグのソレが、露わになる。
「ほ、ほら、これ使って!」
慌ててユーリがタオルを投げ込む。そいつで大事なところを隠して上がってこい、と。
だが‥‥。
「はっ! こんなもんはいらねぇ! 見ろ、おいらの男の勲章をォ!」
タオルに触れようともせず、イオグは客席へ向かって自らのボディを披露した。
だが、この舞台は敗者がいて良い場ではない。
すぐに係員が笛を吹き、イオグは問答無用でエリア外へ連れ出され、着替えを強制された。
残ったのは、サウルと田中。両者ともすでに相手の穿きものを脱がしており、先に相手のものを脱がした方が優勝者となる。
「勝利の女神はどちらに微笑むのか、本当の勝負はここからだぜ!」
ビリィの実況が響く中、両者は睨み合った状態から動かない。
「あんたの格好は、俺の美意識に反する。早々に脱がしてやろう」
「ふん! このブルマこそが私の正義! ジャスティス! アイデンティティ!! 何人たりとも、私の全てたるこのブルマを剥ぐことは出来ないのだァッ!」
言うや否や、田中は飛び出した。そして一気にサウルのビキニへ掴みにかかる。
バシ、とサウルは手を払う。そしてもう一方の手で水しぶきを上げた。
「まずはそれをいただく!」
サウルは田中の被るブルマへ手を伸ばした。
間一髪、田中は両腕でサウルの腕を掴み、ブルマが剥がれることを阻止した。
「おっと! あれはルール違反じゃないのかァ!?」
「いえ‥‥。水着を脱がされているわけではないですし‥‥、それに、まだ掴まれてないですから‥‥セーフですね‥‥」
ぐぐ、と手を伸ばそうとするサウル。
押さえこみ、させまいとする田中。
ニヤ‥‥。
サウルが笑んだ。
フリーの手が、あったのだ。
「そっちに拘ったあんたの負けだ!」
「しま――」
田中のアレが、水中で跳ねた。
●閉会の後に
「どりゃああああ」
雄叫び。
イオグの振り下ろした拳が捉えたのは、スイカ。
戦い終わった後のレクリエーションにと、誰かが用意したものだった。
せっかくだから、普通に切り分けるのではなく、スイカ割りでもしよう、という流れだ。
そして、実際に割る役を買って出たのが、イオグだった。
スイカは、見事に粉砕。赤い果肉が、周囲でやんややんや言っていた面々の顔に飛び散る。
力が強すぎたのか。食べられる部分は、あまり残らなかった。
「ま、まあ‥‥こんなこともあるか」
苦笑しつつ、ユーリは顔にくっついたスイカを口に含む。
「これが、かき氷っていうやつか‥‥」
脇では、初めてのかき氷に目を丸くする優勝者、サウル。
せっかく海に来たのだから、と、屋台で勧められたものを手にとってみたのだ。それが、かき氷。
「氷を食べるという習慣‥‥。独特だろう?」
「ああ。こういうのは、初めてだ」
決勝を共に戦った田中と、がっちり握手。
相手がどんな者であろうとも、対戦相手に敬意を表すことを忘れないサウルであった。
すっかり夕暮れ。
日の沈む海岸線を、ランクは一人、ぼんやりと眺めていた。
しばし、無言。夕日に向かいながら、ランクの目は何も捉えていないようだった。
おもむろに、彼は立ち上がる。
そして波打ち際まで踏み込むと、腹いっぱいに空気を吸い込んだ。
「俺の実況ーーーーーーーーーーーッ!」
叫ぶ。
太陽よ。俺の叫びを連れてゆけ、と。
声にして、いくらかすっきりしたのだろうか。少々満足気な表情で、彼は夕日に背を向ける。
「おや、あんたは‥‥」
「飲みませんか‥‥?」
終夜が、ビールの入ったジョッキを両手に立っていた。
ふ、と笑む。
祭りで騒いで、飲んで騒ぐ。実況役をとってかわられたことなんて、今や些細なこと。
ジョッキを受け取り、ランクと終夜は勢いよく音を鳴らした。