●リプレイ本文
●象なんです
「あの長くて太くて逞しい鼻から、溶解液を出す訳か。‥‥何考えてんだよ、バグアの連中」
タクティカルゴーグルの望遠倍率を上げ、テト・シュタイナー(
gb5138)が舌打ちする。敵はどこからどうみてもアフリカゾウ。それが出すという溶解液が問題なのか、それとも長くて太くて逞しい鼻が問題なのか、それは分からない。ちなみに筆者としては(修正テープ)
「なんかエッチぃきもします」
恐らく後に検閲削除されるであろう筆者の言葉を、非常にソフトにして二条 更紗(
gb1862)が言ってくれた。が、その方向性は筆者とは違い、溶解液について言ったもの。
「‥‥またこういう手合のキメラですか、どうしてこういった破廉恥なキメラと縁があるのでしょう」
「遭遇率の高い人はホントに毎回のように出くわすみたいね。お姉ちゃんもだけど」
短く息を吐いたリュティア・アマリリス(
gc0778)をよしよしと撫でつつ、樹・籐子(
gc0214)は言う。
ちなみに、「お姉ちゃん」というのは、樹が自らを指して言う一人称。彼女に姉がいるわけでは‥‥多分、ない。
彼女、樹の出で立ちは青ストライプのシャツに、紺のパンツ。一見すればデキるOLの私服といった雰囲気だ。
対するリュティアは、メイド服。戦闘用に動きやすく設計されたものであるが、そうでなくても、彼女は本物のメイドさん。戦うメイドさんなのだ。だから、この服装は彼女にとって正装なのだと言っても差し支えなかろう。
「また変わった、キメラね」
「こんなキメラが変わったキメラでなくてたまるかよ」
とテトの突っ込みを受けたのは橘 緋音(
gc7355)。
だが、冷静に考えてみれば、ものを溶かす力を持ったキメラくらい、いくらでもいそうである。
とはいえ、変わったキメラであってほしい、という願いはあるのかもしれない。彼女ら女性にとって、ある意味人生のかかった問題であるのだから。それについては、後述する内容からお察しいただきたい。
「それはそうと‥‥配置されたのは天運だと思って諦めた方が良い人も居るわね」
樹の視線の先にいたのは御剣雷蔵(
gc7125)だ。この中にあって、唯一の男性。とはいえまだ、児童だ。樹が危惧するようなことは、‥‥起こらないとは、言い切れない。
妙な目で見られて、機嫌を損ねたのだろうか。
「なんだよ?」
御剣は片眉を吊り上げた。
ふ、と首を振り、樹は目を逸らす。何でもない、といった風に。
「某条約で禁止された象狩り‥‥。しかし相手がキメラならばそんな条約は効力を発揮しないのであります。禁を破らずして得る、禁を犯す感覚。超ゾクゾクするのであります」
禁を犯す感覚。筆者的に超分かります。多分、別の意味で。
美空・桃2(
gb9509)。敵の様子を観察しつつ、彼女はにやりと口角を上げていた。
その横で――。
「妙な格好だな。何か仕込んでんのか?」
同い年‥‥よりはちょっと小さいくらいに見えるビリティス・カニンガム(
gc6900)へ、御剣は声をかけていた。
彼女は、全身を覆うマントを着こんでいた。動きにくそうだし、何だか怪しい。
言われて、ビリティスはふっと笑んだ。
「秘策があるのさ。まぁ、見てな」
かくて、敵の観察は済んだ。
傭兵達はいよいよ、キメラ退治へと動き出す。
●象さんの傾向と対策
溶解液を吐き出してくる、というのは先に挑んだ傭兵達のおかげで判明している。彼女らは着こんでいた服やら鎧やらが溶かされ、下着姿で逃げ帰った、とのこと。肌がただれたり、髪が溶けたり、という様子はなかったとの報告があるから、どうやらその溶解液には溶かしやすいもの、溶かしにくいものがあるらしい。
そこで、今回挑む傭兵達の一部は、相手の溶解液への対抗策を講じてきた。それは防御という面だけでなく、羞恥心に負けないように、という面も。どちらかに偏っている場合もあった。
「うっし、俺様が援護する。その間に一気に近づけ!」
巷で話題のKV少女とやらを彷彿とさせるような格好でエネルギーキャノンを構えるテト。射程も威力も、自信がある。そうして気を引いている間に、速さ自慢の味方には一気に迫ってもらおうというのだ。
並のキメラなら、テトに反撃するのは難しいだろう。エネルギーキャノンはそれだけの射程があった。
「では、お願いします。――行くぞ、一気に距離を詰めろ!」
覚醒して口調の変わった二条は、盾を構えて一気に突撃する。
その後を橘らも続いた。
すぐに足を止めたのは樹。SMGを取り出し、前衛が距離を詰めるまでの援護射撃を行う。
さらに後方では、早速テトが一発目を撃ち放った。光の塊が、象の足元を捉える。
直撃はしなかった。しかし、象は今の攻撃に怒りを覚えたらしい。けたたましく鳴き声を上げ、耳をパタパタとさせたかと思うと、その鼻から白い液状の塊を吐き出した。
突撃する橘やリュティアらの頭上を通り越したそれは、樹の頭上で大きく広がった。真下にいた樹はもちろん、それはテトをも巻き込み、降りかかる。
「やっ‥‥ぬるぬるする‥‥」
白い液をもろに被ったテトは口元に指を当て、眉尻を下げ、ほんのりと頬を染めながら、今にも一滴の涙を零しそうな切ない目つきで言葉を漏らす。その様子を間近に見れば、言いようのない解放感と背徳感、しかし心のどこかが満たされるような気がする。筆者的に。うむ、実に将来が楽しみだ。
「じゃなくてだなっ! 変な所でチートくせぇ性能を発揮してんじゃねぇよ! なんだよ、その射程は!?」
100m離れたものも撃ち抜けるエネルギーキャノン。その射程ぎりぎりから撃ったにも関わらず、象はその場から反撃してきた。キメラのくせにでたらめな射程だ、と言わざるを得ない。
だがテトの怒鳴り声は、あることを思い出したことで、途端に静まった。
「いや待てよ。あいつが出すのって確か‥‥」
溶解液。服や鎧をも溶かしてしまうという、今回のキメラの最も厄介な特徴。
だから、彼女の着ていたスーツやアーマーも‥‥。
「ぎゃあああッ!」
溶けていた。ついでに、下着として用いている人工皮膚も溶けかかり、最も見えてはならない部分が今にも露出してしまいそうになっている。触れれば吸い付きそうなすべすべな柔肌の全てが露わになるまでもう少し‥‥。
さあ溶解パオーンよ、もう一撃だ!
「こんなこともあろうかと、替えの下着を用意してあんだよっ」
だがテトは事前に用意しておいた同じ下着に着替えるため、木の陰に隠れてしまった。
非常に残念だ。‥‥非常に、残念だ。
さて、同じように溶解液を被ったのが樹。彼女へ焦点を当ててみよう。
「あらあら、大胆ねー。ふふっ、新しい下着を着てきた甲斐があったわー♪」
デキるOLを連想させる服装が溶け落ちて一転、胸があふれ出そうに見えるデミカップブラと、ミリ単位でも下がれば大変なことになりそうなショーツ。それらが露わになっていた。下着は黒く、その雰囲気はもはやお姉ちゃんというより、OLというより、小悪魔とか、女王様とかいった様子。
ニヤと笑んで唇を指でなぞる動作がより色気を出している。
テトによる援護射撃は一時的に止まった。だが、樹の射撃は継続して行われている。前進を続ける傭兵達の内、最も早く相手の懐に飛び込んだのはリュティアと二条だった。
迅雷、竜の翼により、一気に自分の間合いにまで入り込んだのだ。
「全力で参ります!」
リュティアが拳を構えて踏み込む。突き、隙を作るつもりだ。
だが象の鼻は、彼女らを――リュティアと二条へ向いていた。
白液。
咄嗟に二条は盾を構え、肩や素足を晒すだけに留めた。だがリュティアは、それをもろに受ける。
戦闘用メイド服が徐々に徐々に、破けるようにして溶けてゆく。黒の生地に白濁の液が溶け込み、裂け、内にある玉のような肌がむき出しになってゆく。
嗚呼本職のメイドさん。その禁欲的イメージが、けしからん象さんにより汚されてゆく。
「あっ‥‥、い、いやぁっ」
思わず手で服を抑えるも、手で液は掴めない。為す術なく溶けてゆく服。しかし幸いにして、下着の露出まではぎりぎりで抑えることが出来た。象が近距離で溶解液を出したため、余計な拡散を恐れて量を減らしたのだろう。その影響だった。
「はぁ、なんとか――ッ!」
ホッとする間などない。
象はその長い鼻でリュティアを強く打ちつけた。宙を飛ぶリュティア。地に打ち付けられ、彼女は呻いた。太もものほぼ全体が露わになるほど短くなってしまったスカート。倒れたことでその中を覗き見ることは――出来ない。メイドさん補正というものか。ちくしょう、もう少しで見えるのに、見えない! 教えてくれ、何色なんだ!
しかし筆者の焦点をすらりと伸びた足に這わせたままにしておくわけにもいかない。カメラを移そう。
リュティアを叩きつけたことで、キメラには隙が出来ていた。そこを逃す二条ではない。今の彼女は、喩え溶解液の池に落ち、全裸になろうとも戦い続けるだけの覚悟があるのだ。
がら空きになった胴へ、槍を突き入れる。
「委細構わず!」
突くべし、突くべし。
痛みに象が地を鳴らして暴れ、二条は一度距離を取った。そこへ後から追っていた面々が合流する。
「フッ‥‥。溶解液が服を溶かすなら、服を着なきゃいい!」
そこで着こんでいたマントをバッと脱ぎ棄てたビリティス。その内に隠された、彼女の秘策とはいかに。
「キメラ野郎、てめぇの攻撃は対処済みだぜ!」
児童用インナーシャツに、ショーツ。要するに下着姿。いや、シャツはただのシャツではない。各所が不自然な柄になっているのだ。無地だったり、妙なところが水玉だったり、縞だったり。話題のティピーリュースのプリントされた部分もある。
いったいこのシャツは何なのか。ビリティスさん、説明お願いします。
「鎧溶かすってなら、下着で鎧作りゃいい! つまり、装備は下着で覆えばいい! どうだ完璧だろ!」
自信たっぷりに言い放ち、どこかから取り出したショーツを頭に被るビリティス。発想は面白い。ただ何故か‥‥残念だ。
そうこうしている内に、橘が追いついた。二条にキメラの意識が向いているところへ、拳を一発叩きこむ。
象の鼻が橘を向く。だが、彼女にもまた、秘策があった。
溶解液が吐き出される。その直前、彼女は飛び上がった。そして鼻に掴まり、それをそのまま締めあげる。その、豊富なバストで。
「ふふ、これで出せないでしょ?」
溶解液を出すための鼻。それを締めてしまえば、最早出せるはずがない。橘はそう考えていた。
だが、実際は違った。
たった今噴射した溶解液。その鼻を橘が胸に挟んだとたん、間髪入れずにまた噴出したのだ。白濁した液が、宙を舞う。
「あら、随分元気ね」
橘は、くすくすと笑った。
変化は、象そのものにも表れる。何度も溶解液を出す内に、動きが鈍ってきたのだ。
「それにしても、みなさん発育いいのでありますねー」
その頃。一人別行動を取り、木の陰に隠れてこっそり様子を窺っていたのが、美空。どのようにして溶解液を防ぐか、ではなく、どうしたら溶解液を被らないか、を考えた結果が、この行動だ。皆が戦っているうちに陰から近づき、仕留めてしまおうというのである。
この状況なら大丈夫。思わず美空も羨む、女性的成長の証を揺らし、戦場を舞う傭兵達を横目に、さらに象へ接近するために陰から抜け出す。
丁度その時だ。
狂ったように吐き出された溶解液が、運悪く美空を捉えた。
頭からざっぷりと液を被り、一瞬にして衣服を持ち去られた美空。つー、と視線を降ろして自分のあられもない姿が晒されている、ということを理解するのに数秒。
「うぎゃー、美空はもうお嫁にけないのであります!」
隠さねばならぬ部分は絆創膏で隠すのみという、最も露出度の高い格好。取り乱した美空は、エネルギーガンを乱射。せっかく隠れていたのに、その趣旨も忘れ、彼女は象キメラへ突撃した。
それと並ぶようにして駆けたのが御剣。美空の放つエネルギーの光を掻い潜り、橘の乗った鼻へと盾を叩きつけた。
「おらおらおらおらぁぁぁぁ」
気合と共に、手にしたノコギリアックスを振るう。
鼻に傷が入った。それに合わせ、ビリティスらもさらなる攻勢をかける。
「あら、危ないわね」
自分も斬られかねない。そう思った橘は、象の鼻を解放した。
その頃、リュティアは立ちあがるので精いっぱいだった。今すぐ駆け出したいが、脚がふらついた。
「大丈夫? 無理しない方がいいわよー」
それを支えたのが樹だ。膝をつきそうになるリュティアの腰に手を回し、そのまま蘇生術をかけてやる。
「あ、ありがとうござ――ッ」
礼を述べようとしたリュティアの言葉は、途切れた。
リュティアを支えた樹の手が、そのまますーっと這い上がり、膨らみへと差し掛かると、それを持ち上げるように、子を抱くように、撫でまわし始めたのだ。
これぞ樹流蘇生術。何とうらやま――いや、何でもない。
丁度、着替えを済ませたテトも遠距離射撃を放棄して前線へと上がってきていた。その表情は、笑顔。あぁ、にこりと眩しいそのお顔に、青筋が浮かんでいるのが見える。
「乙女の柔肌を‥‥」
手に持ったエネルギーキャノンから光線が走り、象を捉えた。
グッとテトの表情が激変。
くわっと目を見開き、彼女は引き金を引く。
「何だと思っていやがるぁあああッッ!!」
嗚呼、象キメラよ永遠に。
散々吐き散らして、きっと君も満足だったことだろう‥‥。
●粛清タイム
それは、戦闘後のこんな一言が契機だった。
「えろいな、その姿は」
御剣の言葉だ。
服が溶けて、実にけしからん姿となった女性の面々。それを前にして、しれっと放たれたこの言葉。
これがいかほど彼女らの心に触れたことか。
要するに、言ってはならない一言であった。
「‥‥あんま見てっと、後でブチ抜くぞ?」
と、テト。彼女は今や人工皮膚により大事なところを隠しているのみ。いや、それに関しては他の面々もほとんど変わりはないのだが、やはり羞恥か、そして彼女の性か、そのでっかいキャノンを抱えて言う言葉は、いささか物騒だ。
だが筆者は、ブチ抜かれても(字が掠れている)。
テトはああ言ったのみだったが、実際に行動に出た者もいた。
「忘れてください‥‥」
二条だ。彼女は露出こそ少なかったものの、それでもところどころから可愛らしい下着が見え隠れしている。覚醒が解け、羞恥心が戻ったのだ。見られた、という事実は、何としても消し去りたかった。
「でもなぁ」
「忘 れ て く だ さ い !」
この後何が起きたか、筆者にしてみればまさに筆舌に尽くし難い。
二条による壮絶な粛清が行われた、とだけ述べるに留め、本報告書の締めくくりとする次第である。