タイトル:SKVS4マスター:矢神 千倖

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 易しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/02 22:24

●オープニング本文


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●ジャッジメント ブリッジ
 前回の戦闘で回収したカリスト隊の二名を加え、以前逃走した謎のKVを追う機甲戦団。
 その母艦、ジャッジメントでは、艦長であるエラーブルが溜め息を吐いていた。
 何故なら‥‥。
「居住区も格納庫もいっぱいいっぱい。これじゃ、せっかくあのKVにおっついても、捕まえらんないねぇ」
 そう、度重なる増員で積載量がギリギリになっているのだ。元々傭兵が用いるために開発された艦であるから、さほど大量の人員や兵器を積めるようには出来ていないのである。そもそも、傭兵のために開発された艦というのが異例であるから、今の大きさでも十分すぎるくらいだ。
 とはいえ、軍に協力することとなった以上、これ以上の戦力増強は見込めない。ついでに物資も不足気味だ。
 どこか大きな施設に寄って、最悪補給だけでも済ませたい。出来れば情報収集もしたいところである。
 エラーブルは付近に補給可能な街を探し、連絡を取った。

●砂の国 首都
 面積の大部分を砂漠が締める国がある。戦団はひとまずここで補給と情報収集を行うこととした。
 そういった作業については、パイロットが参加する義務はない。むしろ休暇が与えられるほどだ。
 一日限りではあるが、パイロットには自由時間が与えられる。何をするのも、自由だ。

●参加者一覧

西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER

●リプレイ本文

●ジャッジメント ブリッジ
「冗談じゃないよ!」
 砂の国にジャッジメントを停泊させたエラーブルは、通信機に向かって怒鳴った。
 彼女以外のクルーも、そりゃそうだよな、といった様子で肩をすくめる。
『決定事項だ。モノの到着は遅れるが、中身は既にそちらへ向かっている。合流すると良いだろう』
「格納庫にゃ一機分の余裕だってないんだ。なのに増員をよこされたって――」
『そう荒れるな。手は打ってある』
「‥‥聞こうじゃないか」

●砂の国 港
 港、といってもここに海はない。空中飛行を可能とした船の停泊する、いわば空港である。
 この軍用の空港は基地を兼ね、有事の際には付近一帯の司令部としても機能するようになっているらしい。
 その、基地の屋上。施設の役割からすれば不似合いな、さわやかな青のパラソルの下、苺を思わせるフリルつきの水着を着こんだ女性が、オレンジを差したソーダを手に持って揺らしていた。
 眼下には、ULTが建造したというジャッジメントが停泊している。女性は、ふう、と息を吐く。
「そろそろ、挨拶にいかねばのう」
 じゅる、とソーダを飲み干した女性――美具・ザム・ツバイ(gc0857)は、水着の上から軍服を羽織り、施設内へと入っていった。

●一時間後 ジャッジメント 格納庫
「まさか、仕事がないとはのう」
 美具はぶつくさと言いながら格納庫をほっつき歩いていた。立ち並ぶABAFやKVの姿は圧巻と言えるが、しかし、彼女にとってそれは、異様な光景でも何でもなかった。
 むしろ異様なのは‥‥。
「何者だ‥‥?」
 水着の上から軍服の上着を羽織っただけの、彼女の方だった。
 自機の整備を行っていた西島 百白(ga2123)が、奇妙な来客に片眉を上げる。
「聞いておらぬか? ‥‥まあ、かなり急な話だったからのう。増員として――」
「‥‥ブレードの‥‥予備は‥‥あと一本」
「先ほど艦長に挨拶――」
「射撃武器は‥‥無いほうが‥‥軽くなる‥‥か」
「事情で機体の搬入は遅れ――」
「追加ブーストは‥‥以前より‥‥ご機嫌だな‥‥」
「ええい、人の話を聞かんか!」
 ついに美具が怒鳴った。まあ、当然だろう。
 だが西島は美具に見向きもせず、立ち上がった。そして一言も言葉は交わさず、格納庫を後にする。
「何なんじゃ、あやつは」と美具が呟いても、彼は振り返りすらしなかった。

●砂の国 繁華街
 与えられた休暇を全力で満喫する。それが、八尾師 命(gb9785)が自らに課した任務であった。
 戦場には不似合いなほどに等身大な少女は、だからこそ、こういった場面での楽しみ方を知っている。そしてそれがどれだけ大事なことなのか、自覚していない。自然と出来ることなのだ。
 彼女の傍らには、もう一人。UPCから出向という形でジャッジメントのクルーとなったヤヅキ・リオンだ。八尾師が強引に連れ出してきたのである。
「あ、あっちにお土産屋さんがありますよ〜。行ってみませんか〜?」
「そんなに走らないでくださいよ」
 彼女がそうしたのには、訳があった。
 だが、それを口にしては彼はついてこなかっただろう。だから、彼女は何も告げずに引っ張って来たのである。
「休暇は待ってくれないんですよ〜。ほらほら、ぼんやりしてたらあっという間に時間なくなっちゃうんですから〜」
「僕は普通にのんびりしていようと‥‥」
「駄目駄目っ、駄目ですよ〜。動かなきゃ、余計なこと考えちゃうんですから〜」
「別に、余計なことなんて‥‥」
 そう言うと、ヤヅキは目を逸らした。
 八尾師の言葉は、核心だった。ヤヅキは悩んでいる。その悩みは、彼女だけが知っているというものではなかったが、しかし、そこを突かれるのは、ヤヅキとしてもかなり心の痛むことであったのだ。
 だから、ここに来るまではその話はしなかったのである。下手に思い詰めさせて、せっかくの休暇を台無しにしたくはなかったし、させたくもなかったのだから。
「まだ、パイロットなんてしたくない、とか、思ってますね〜?」
 今を逃せば、後がない。もやもやした感情を植え付けただけで終わってしまう。
「だったら、どうだってんですか」
 だから、今やらねばならない。
「気持ちが分かるんですよ〜。一緒だなと思いまして〜」
 その悩みを拭いとってやらねばならない。
「分かるわけないですよ。戦いたくもないのに、戦うハメになった僕の気持なんて」
 きっと、そう言うだろうと思った。
「戦いたくて戦ってる人なんて、滅多にいないんですよ〜。そうだとは思いませんか〜?」
「そんなの、分からないじゃないですか」
 ははあ、自分しか見えなくなっているな。
「じゃあ、私を見て、どうでしょう。戦いたくて戦ってるように見えますか〜?」
 言われて、ヤヅキは八尾師の顔をしげしげと眺めた。どこにでもいそうな、ちょっと可愛い普通の女の子。こんな子が、好きで戦っている‥‥?
 そんなの、見ただけで分かるわけがない。
 分かるわけはないが‥‥。
 そこまで考えて、ヤヅキは首を振った。こういう話をしているんじゃないのだ。
「喩え君が嫌々戦っているんだとしても、同じ境遇の人がいるってだけで、僕が戦わなくては済まないことにはならないよ」
「分からずやさんですね〜‥‥」
 励ますのも何だか馬鹿らしくなって、八尾師は思わず嘆息した。

●砂の国 大通り
 ルカ・カリストは一人で街を見て回っていた。照りつける日差しは強く、人でごった返したこの大通りはまさに地獄のような暑さだった。
 額に浮かんだ汗を拭い、周囲を見回す。このままでは、いずれ倒れてしまう。どこか涼しい場所で休憩しようと思ったのだ。
 ジャッジメントのクルーも引き連れてこなかったのには、理由がある。
(隊が壊滅したのも、ヴァレンとアダムが捕えられたのも、私の力不足のせい‥‥。今は少しでも頑張らなきゃ。でも、まだ気持ちの整理が――!?)
 彼女の率いていた隊は壊滅。辛うじて生き残った隊員の一人と、機密レベルの高いKVが敵に強奪された。
 隊長として負うべき責任は重大だ。どのような処分が待っているのかと思うと、気が重い。
 それだけではない。ヴァレンは、自分にとって‥‥。そこまで考えた時だった。
 流れゆく人ごみの中に、見慣れた影を見つけたのは。
 全ての思考が吹き飛んだ。気がつけば走っていた。
 あの影は、二つ目の角を曲がった。急げば追いつけるかもしれない。
 曲がった先にはぱらぱらと人はいるものの、あの影はない。見間違えただろうか。
 自分の未練がましい気持ちが、幻影でも見せたというのか。
「こんなところに、いるわけないか‥‥」
「た、隊長? どうしてこんなところに」
 諦めかけた時。聞き慣れた声が背後に聞こえた。
 ハッとして、振りかえる。
「ヴァレン‥‥。どうしてここに」
 それは、先日の戦闘で敵に捕らわれたはずのヴァレン・デューだった。
「何だっていいや。隊長、戻ってきてくださいよ」
「え‥‥?」
 何を言っているのか、分からなかった。
 戻ってきて。
 その言葉は、自分が言うべき言葉だ。何なら、このまま力づくで連れて行くことも出来る。
 だが不可解なのは、捕らわれたはずのヴァレンがこの場にいること。
「馬鹿言わないで。戻ってきてって、それは私の台詞です」
「‥‥そっか。やっぱり、人間共に洗脳されているんですね。でも、俺達の技術なら元の隊長に――」
「そこまでにしておけ」
 言葉は交わらず、互いに一方通行となっていたところへ、待ったがかかった。
 ヴァレンの肩を掴み、引き寄せるようにして現れた男。天野 天魔(gc4365)が声の主だった。
「ルカには重度の洗脳が施されている。今のままでは我々の声は届かん。お前は先に戻り頭を冷やしてこい」
「‥‥はい」
 苦虫を噛み潰したような表情を残し、ヴァレンは立ち去った。
「待って!」
「大層ご執心じゃないか。俺の玩具がそんなに気に入ったか?」
 追いかけようとしたルカを遮るように立ち、天野がにたりと笑みを浮かべる。
 その言葉の意味。この男だ。ルカは確信した。ヴァレンを連れ去ったワームに乗っていた男。そして、この男が、ヴァレンに何かしらの手を加えたに違いないのだ。
「ヴァレンに何を‥‥!」
「何をしたって良いだろう。それより重要なのは、『どうしたらヴァレン・デューを解放出来るか』、じゃないか?」
「‥‥条件は?」
「君が代わりになれば、あのアダムというKVもろとも、返してやろう」
「断れば?」
 問いへの答えは、より深い笑みだった。
 どちらを取れば良いというのか。
 どちらを取れるというのか。
 どちらを取るべきなのか。
 どちらを、取りたいのか‥‥。
「これから用があるのでな、少しだけ考える時間をやろう。街を南に出てしばらく進んだところに崩れた廃ビルが砂に半分埋もれている。その気があるなら、そこへ来るがいい」

●砂の国 路地裏
「‥‥迷った?」
 男が、ふらりと人の波を外れた。
 そこには、別の男がいた。
「‥‥道を‥‥尋ねたい‥‥」
「目に見えない道なら、教えよう」
 迷い込んだ男の目が、細く光った。

●砂の国 繁華街
「戦いたい人でないと戦えない、とか〜、戦いたくない人は戦っちゃいけない、とか〜、そんな風に考えたりしていませんか〜?」
 八尾師は質問を変えた。
 多少嫌われてでも、今は核心をついて言葉を投げねばならない。そうでなくては、届かないのだ。
 問われて、ヤヅキは目を逸らした。
 そう思っている、いや、思いたいのだ。そうやって、逃げ道を作っていたいのだ。
「でも、気持なんて関係なしに、桜輝はヤヅキさんにしか動かせられないんですよ〜」
「ちょっと訓練すれば、あんなの誰にだって」
「えいっ」
「あだっ」
 唇を尖らせるヤヅキの頭を、八尾師はぽかりとやってやった。
 そしてその鼻頭に指を突きつけて言った。
「ヤヅキさんが戦ったことで守れた人がいるはずですよ〜。私達もそうですし〜、街で戦ったこともありますから、そこに住んでる人達もです〜。名前も知らないようなその人達全員を数えるとして、両手両足の指で足りますか〜?」
「あれは僕だけじゃなくて皆で‥‥」
「皆で救った命があるんですよ〜。ヤヅキさんも一緒にです。ほら、数えられますか〜?」
「か、数えられるわけ、ないじゃないですか。だいたい、何人いるのかも分からないし」
「じゃあ、それでいいじゃないですか〜。ヤヅキさんが救った、ヤヅキさんだから救えた命が、数えきれないほどいるんですよ〜。私達も、ヤヅキさんも、抱えきれないほどの感謝をもらっているはずですよ〜。だから、ヤヅキさんには戦う理由があるはずです〜」
 にぱっと笑う八尾師に、ヤヅキはもう何も言えなかった。
 ただ、一言だけ。
「眩しいな‥‥」
 そう呟いた。

●ジャッジメント ブリッジ
 日が暮れ始めていた。
 補給作業も区切りがつき、明朝には出立出来そうである。目的地も、決まった。
 主要メンバーを集め、行き先についてブリーフィングを行わねばならない。
 だが‥‥。
「ルカはまだ来ないのか?」
 既に余暇を十分満喫したクルーは全員艦へ戻ってきている。殊八尾師に至っては、何やら紙袋を持って上機嫌での帰還だった。ルカも例外でなく、搭乗した姿もしっかりと確認されていた。
 彼女も含め、メンバーに召集をかけてから既に十数分。ルカのみを残し、他は全員そろっているというのに‥‥。
 エラーブルの苛立ちが募る。
「先に始めたらどうじゃ? 後で要点を伝言しておけば問題なかろう」
 提案された美具の意見に、エラーブルは溜め息と共に頷いた。
 一人のために貴重な時間を無駄にするわけにもいかない。
「じゃあ始めるけど、その前に。紹介しなきゃならないね。ほら、自己紹介だ」
「UPCより出向した美具・ザム・ツバイじゃ。パイロットになるわけじゃが、機体が運び込まれるのは少々遅れるとのことでの。しばらくは非戦闘員か、空いた機体を使わせてもらうことになると思うが、よろしくのう」
 彼女が艦長と挨拶をしたのが、休暇をもらったクルーの一部が外出した後だったために全体への挨拶がこの場まで持ちこされたのである。
 どうじゃ、と言いたげに、美具は西島に視線を向けた。
 だが、目は合わない。西島はどこか上の空で、全く別の方を向いていた。
「で、だ」
 エラーブルが話を続ける。
「新メンバーの機体の受け取り、それから、このジャッジメント改修のため、一度イタリアへ戻ることになった」
「イタリアにはこの間行ったばかりですが〜」
 そうだ。八尾師が言うように、イタリアで桜輝とヤヅキをクルーに迎え、女神と形容されるKVが現れた。そしてその女神を追って出立。途上でルカ達を救出し、補給のためにこの都市へ立ち寄って、今に至るわけだ。
 まだ何一つとして成果を上げていない。だから、今戻るというのも妙にむずかゆい感情が芽生えるものであった。
「ここから一番近くて、必要な設備がそろってるところといったらどうしてもイタリアになっちまうのさ。それに、大規模な反撃作戦が――」
『艦長!』
 横槍。ブリーフィングルームに備え付けられた通信用モニターからだ。
 艦内格納庫からの通信であることを示すランプが点灯している。
「何だい騒々しい」
『そ、それが、ルカ・カリストがイブに‥‥!』
「回線をイブコクピットに!」
 モニターの背後では、KVイブが動いていた。作業用クレーンをへし折るようにして歩き、出撃用カタパルトに脚部を固定させている。
 外部スピーカーを使い、ハッチ開放を作業員に要求しているように見えた。
「ルカ、あんた何やってんだい!」
『出撃させてください! ヴァレンが待ってるんです!』
「ど、どうしたんですか〜? それなら、私達も一緒に‥‥」
 モニターに駆け寄った八尾師も声をかけるが、言い終える前に、イブがハッチへ手を向けた。
『私一人で行きます。このハッチを破壊してでも!』
 明らかに様子がおかしい。
 ヴァレンが待っている。確かに、そう言った。
 前回の戦いで捕らわれたという、彼女の率いていた隊員だ。
「ハッチを開けてやんな。いいかいルカ、必ず戻っておいでよ」
 彼女は、無言のままに出撃していった。
 何があったのか、何があるのか。見当がつかない。だが、それでも彼女は出ていった。
 そして、それをぼんやり見送るわけにも、いかない。
「全員戦闘配置! 妙な状況だ。いつでも出れるようにしておきな!」
 エラーブルの号令に、一同が敬礼を以て応え、持ち場へ向かって駆け出す。
 八尾師の抱える紙袋の中では、ジャッジメント搭乗パイロット人数分の、そろいの御守りが揺れていた。