タイトル:SKVS2マスター:矢神 千倖

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/01 00:16

●オープニング本文


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●ローマ基地。
「で、防衛しろって新兵器は何なんだい?」
 エラーブル機甲戦団代表、エラーブル・フジミヤ・シレーヌ。同戦団の運用する空中戦艦ジャッジメントの艦長も務める彼女は、入港した基地の司令官達‥‥正確には、同基地の各部署のトップを招集した会議の場ですっと立ち上がり、尋ねた。
 ここで開発が進められているという新兵器。その防衛のためにと本来の出港予定を繰り上げて送り込まれた機甲戦団には、それくらいの情報は欲しいところであった。
 司令官はニヤリと笑んだ。
「天使だよ」

●???
「こわいよ‥‥」
 少女は呟いた。
「なにか、くる。ふぃー?」
 巨大なそれは、ゴゥンと唸った。
「ふぃーのいうこと‥‥むずかしい」
 ゴゥン。
「‥‥いくの?」
 ゴゥン。

●ローマ
「やはり、この間の連中が特殊だったのか? 人間など、我々が少々本気を出せばこんなものか」
 空を飛ぶ巨人。
 地に転がるABAF。
 巨人を駆る男は、小さく息を吐いた。
「そこにいるのは分かっている。そして、厄介の種は、芽を出す前に摘み取らせてもらおう」

●ローマ基地
「第一防衛ラインが突破されました! 第二防衛ラインが破られるのも時間の問題です!」
「ええい、奴らめ、アレを嗅ぎつけてきたか」
 基地全体に鳴り響く警報。
 インカムをつけた兵が叫ぶ。
 司令官の男は奥歯を噛み締める。
 エラーブルは大仰に右手で空を切り、額に添えた。
「第624エラーブル機甲戦団、これより敵の掃討に当たります! ‥‥ふっ、異論はないだろう?」
「そのために呼んだのだ。さっさと出撃せんか!」
「あいよ。じゃ、失礼」

●ローマ基地地下
「おい、隔壁を降ろすぞ。こいつを奪われるわけにはいかん!」
「シミュレーターなんてやってたらこれだ。すぐ行く」
 軍服の青年が、地下の巨人から顔を出す。駆け出した時には、このエリアを封鎖する隔壁が降り始めていた。
 走れば間に合う。青年は地を蹴った。その時、カラリと音を立てて何かが落ちる。
 余裕などない。だが、青年は振り向いた。
「キーが!」
 鍵が、落ちていた。先ほどまで握っていたのだが、急いでポケットへ突っ込もうとして、取り落としたのだ。
 これをなくしては、大変なことになる。
 急いで拾い上げようと、手を伸ばした。
 しかし彼はドジを踏んでしまう。
「‥‥!」
 踏み込んだつま先で、キーを蹴飛ばしてしまったのだ。それは地を這うケーブルの間に吸い込まれ、埋もれてしまった。
 何とかキーを回収する。だが、丁度その時、背後ではピシャリと隔壁が降り切ってしまった。

●参加者一覧

リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER
過月 夕菜(gc1671
16歳・♀・SN
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER
高見沢 祐一(gc7291
27歳・♂・ST

●リプレイ本文

●天使は女神を呼ぶ
「やれやれ、修理と補給と武装変更しただけで、いきなり敵襲かよー。勘弁してくれよー」
「ボヤくな。装備を整える時間があっただけマシだ」
 格納庫へ向かって駆け、リチャード・ガーランド(ga1631)が汗を垂らす。
 彼らがここへ到着してからは、まだ三日ほどしか経過していない。ABAFの整備が、ぎりぎり追いつくだけの期間で、敵は仕掛けてきたのだ。
 気持ちは、分からないでもない。だが高見沢 祐一(gc7291)は、自らの気も引き締めるために、敢えて現実を直視することを示した。こうなっては、戦うしかない。
「どんな状況でも、戦うだけですよ。戦わずにはいられないんですから」
 対して、クラーク・エアハルト(ga4961)は落ち着いたものだ。これが大人の余裕か、プロとしての意識か。
 各員がABAFに乗り込む。この時点で、最初の動きはある程度決まっていた。
「まずは索敵する。護衛よろしく」
「了解ですよ〜」
「うにゃん〜。お任せ〜」
 何だか力の抜ける声で応じたのは八尾師 命(gb9785)と過月 夕菜(gc1671)。
 高見沢は、自機に搭載した無人偵察カメラを用いてまずは敵の位置を確認するつもりだ。相手がジャミングをかけてくるとしたら、頼れるのは有線で繋がったカメラの映像。位置を割り出さねば、まず話にならないというわけだ。
 かといって、彼らが先に飛び出すわけではない。カメラを操作している間の高見沢機は無防備だ。護衛がいるからと最初に飛び出しては、むしろ標的になるだけ。まずは戦力を展開する必要があった。
「『取り扱い注意ゼヨ!』って‥‥書いてあるぞ‥‥コレ」
「何しろ‥‥急な改装でしたから‥‥。何とかなるでしょう‥‥。やるしかありません‥‥」
「‥‥だな」
 このローマ基地へ入ったことにより取りつけられたパーツ。機体との相性テストを行う前に実戦に用いるため、整備兵がそんな注釈を入れたのだろう。西島 百白(ga2123)のABAFに搭載されたのは補助ブースター。BEATRICE(gc6758)のには、元々あった盾にファランクスを搭載したもの。どちらも試作段階のものとはいえ、一応の完成は見たものだ。が、先に述べたように、各パーツとの相性は十分検証されたとはいいにくいのである。
 それでも、西島とBEATRICEは飛び出した。
「各機は展開! ジャッジメント及び基地を防衛しつつ、敵を食い止めてください」
「OKOK! リチャード・ガーランドでるよー!」
 クラークの指示を聞き、他の面々も出撃を開始した。高見沢達が飛び出したのは、最後。過月、八尾師の護衛の元、無人カメラを放出した。
 映像は、高見沢機だけでなく、出撃したエラーブル機甲戦団全機へと転送される。敵がどこにいるか、周辺の様子はどうか、目で見て分かる情報が全て共有のものとなるのだ。
 空の状況は、分かる。HWが飛んでいることは目視出来た。手が出しにくいだけで、その姿を捉えること自体は大して難しいことではないのだ。
 そうとなれば、高見沢の捉えるべき相手は、地上にいることになる。建物の影にいる敵などは、特に厄介だ。上空から映像を得られるこのカメラなら、ある程度の範囲までなら捉えることが可能だろう。
「こちら高見沢、付近に陸上の敵は確認出来ない」
「空の‥‥奴‥‥から‥‥仕掛けるぞ‥‥」
 応じたのは西島。追加された補助ブースターを吹かし、至近の敵へと駆ける。
 レッドアラート。
 ブースターに負荷がかかりすぎたのだ。西島の舌打ち。次いで止む無くブースターのパージ。相性が悪かったか、調整不足か。だが、今そんなことは気にしていられない。
 敵との距離は詰まった。正面の空に、敵はいる。
 だが、そこを狙われた。側面にはHW。その砲門が、西島を向いている。当の西島は、気づいていない。
「目の前に気を取られると‥‥、碌なことにはならないですよ‥‥」
 そのHWもまた、狙われていた。BEATRICEの構えたガトリングの砲門は、既に回転を始めている。
 吐き出された弾がHWを捉えるのと同時に、西島がミサイルを打ち出す。
 HWの光線とミサイルの交差。光に、ミサイルは消えた。
「‥‥っ」
 西島の機体が揺すぶられる。
「少しでも注意をひきつけないと‥‥。西島機は後退して、体勢を立て直してください」
 入れ替わりに前へ出たのはクラークだ。西島の落としそびれたHWを狙い、ライフルを放つ。
 もっとマシな対空兵器があれば。彼は密かに奥歯を噛み締めた。
「新武装だ。喰らえ!」
 BEATRICEが攻撃を仕掛けたHWに対しては、リチャードがミサイルを放つ。接近戦用のヒートカタナを下ろし、代わりに積んだものだ。切り込んで殲滅するのでなく、防衛を目的として隊が配備されたことを汲み取っての武装だ。
 ミサイルは、外れた。いや、かわされたのだ。
 しかしBEATRICEがその隙を狙っていた。
 彼女の放ったミサイルが、HWを捉える。派手な爆音が響いた。
『流石にやる。だが基地ががら空きだぞ!』
「やはり頭がいたか!」
 声。戦団の、誰のものでもない声。だが、聞き覚えのある声。
 高見沢は叫んだ。カメラの届く範囲には、敵は不自然に少ない。空を飛ぶHWにしろ、基地まで攻め入ってきたにしてはあまりにも‥‥。
 だから予想はしていた。離れたところに、敵のリーダーがいると。
「天野 天魔(gc4365)‥‥!」
 その正体に気付いたのは、クラークだった。
『前回はパイロットとしての俺を見せたな。なら今度は指揮官としての俺を見せよう。行けHW!』
 天野の号令と共に、ビル影からHWが飛び上がった。
「回り込まれていたってのかい!? 急速回頭!」
「にゃっ! あれじゃ間に合わないにゃりっ!」」
 基地を挟んだ反対側。そこにHWは潜んでいた。数は、二機。
 急ぎエラーブルが迎撃に回ろうとするが、しかし、この距離では間に合わない。
『やれ!』
 号令。それに合わせ、HWが基地へ砲撃した。

●ローマ基地地下
 ゴゥゥン‥‥。
 地響き。激しい震動に、閉じ込められた青年は尻もちを着いた。
 手にした鍵を放さぬよう、ぐっと握る。大丈夫だ、きっと戦闘要員が敵を撃退して、すぐにここから出られる。
 だが‥‥。
「なぁ――ッ!? う、ゲホッ」
 天井が落ちた。
 瓦礫が床に突き刺さり、土埃を舞いあげた。
 青年は思わず目を閉じ、咳き込んだ。
「何なんだって‥‥って、わぁぁっ!」
 突き抜けた天井から見えるものは、空。そこに浮かぶ、平たい物体。HWだ。明らかに、狙われている。
「こ、殺される! 誰か、誰か助けてくれ!」
 だが、誰もいない。逃げ場もない。そして隠れる場所もない。
 あるとすれば‥‥。

●戦場
「いかん、あの下には防衛対象が!」
 エラーブルが叫ぶ。
 守らねばならない、天使とか言われる新兵器。
 だが地表が抉れた今では、それは曝け出され、一方的に破壊されるのみ。
 誰もが奥歯を噛み締めた。もう一度あのHWからプロトンの光が走り、基地もろとも吹き飛ばすだろうと。
 光は走った。
 轟く爆音。
 終わった。
 任務は失敗したのだ。
 そんな、錯覚。
 だが攻撃を受けたのは、HWの方だった。
「何が‥‥。‥‥天‥‥使?」
 まさに、天使。西島も思わず片眉を動かした。
 落ちる二機のHWと入れ替わりに空へ舞い上がったのは、三対九翼の優雅な巨人。名も知らぬそれを言い表すには、他にどんな言葉も出てこなかった。
「誰かが乗っているんでしょうか〜」
「こちら第624エラーブル機甲戦団代表、エラーブル・フジミヤ・シレーヌだ。そこの天使、誰が載っている!」
 八尾師の言葉でハッとした艦長は、通信を投げた。
 動いているなら、パイロットがいるはず。防衛せねばならない以上、接触しないわけにはいかない。
「お、俺はヤヅキ・リオン。この桜輝のモニターだ」
「テストパイロットってことかい?」
「いや、デバッカーというかなんというか、パイロットじゃなくて、こいつがちゃんと動くかとか――」
「そんなことはいい。さっさと移動しろ! 立ち止まっていれば唯の的だぞ!」
 ヤヅキと名乗った青年。あれこれと何かを言おうとしたところを、クラークが怒鳴った。
 今しがた、あの天使――桜輝が、一瞬でHWを二機も撃墜したのは間違いない。だが、あれは飽く迄防衛対象。この場はひとまず逃がしておくのが得策だと考えたのだ。
『逃がすと思うか? こちらの戦力を侮る‥‥な‥‥』
 少々面食らったようではあるが、天野は強気。HWをさらに展開し、一気に桜輝を狙おうとした。
 が、浮上したHW六機のうち、四機が一斉に落とされたのだ。思わず天野の語気が弱まる。
「今度は何だ! ‥‥ええい、何だってんだ、あれは!」
 次から次へ起きる、突然すぎる出来事に、高見沢は苛立ちも抑えず怒鳴った。
 宙には針のようなものが無数に浮いている。あれが、HWを狙い、落とした。そんな風に見える。
 針は宙を泳ぎ、その持ち主の元へと戻った。
 いつの間にか空に佇んでいた、桜輝とはまた違う、大きなシルエットが。
「ぱっと見た感じ女神って所かな?」
 その姿を、過月はそう形容した。
「そこのアンノウン、こちらは第――」
「艦長、回避!」
 呼びかけようとしたエラーブル。その女神の様子の変化に気付いたリチャードが慌てて叫ぶ。
 だが遅い。
 女神は先ほどの針を肩から無数に飛ばし、ジャッジメントを囲んだ。そしてその先端から、光線を発する。
「遠隔操作のビーム兵器!? 被害状況は!?」
「問答無用ですか‥‥」
 突然の攻撃に、エラーブルは目を白黒させながらも状況確認を急ぐ。
 BEATRICEは苦々しげな声色で呟いた。
 だが、不愉快なのは彼女らだけではない。
『くそ! 二機とはどういう事だ!』
 天野もまた、この事態を想定していなかったのであろう。
 基地から出てきた桜輝は、いい。だがあの女神に関する情報は、なかった。
『ええい! 仕方ない。やれ!』
 残った二機のHWが女神へ襲いかかる。だが、その二機も、何も出来ないまま針の光線に貫かれて沈黙した。
「化け物だ!」
 思わずリチャードが叫ぶ。
 あっという間に、六機のHWが落ちた。ケタが、違う。
 しかし驚いてばかりもいられない。戦わなければならない相手は‥‥。
「まずはバグアへ仕掛けましょう。この混乱を利用しない手はない!」
 先にクラークが動く。
 移動した高見沢は再び無人カメラを放った。敵の正確な位置を探るために。
「見つけた!」
「あのマークは前回突っ込んできたゴーレムのマークですよ〜」
 相手の場所さえ分かればこちらのもの。最早偵察カメラも、その護衛も不要。
 八尾師は、飛びだした。過月も。そして高見沢も。
 頭上のHWは全て落ちた。残るは地上のゴーレムのみ。
 この乱立するビルの先には、あの天野がいる。それさえ倒せば‥‥。
「ですがこの間のようにゴーレムではない‥‥。前回は小手調べだったというのか!」
 カメラから回ってきた映像に映し出されたマークは、八尾師の言ったように先日対峙した天野のもの。だが、機体が違う。敵も本気を出したということか、とクラークはこめかみから冷や汗を垂らした。
『ええい、こうなれば貴様らだけでも! 前回はパイロットとしての俺を見せた。今度は指揮官としての俺を見せよう!』
 天野がビル影から飛び出した。彼だけではない。護衛についていたらしい、三機のゴーレムも一緒だ。
『教えてやろう。この機体はタロス。ゴーレムなどと、同じだと思うなよ!』
 ゴーレムが前進する。その背後から天野のタロスがボトル状の何かを放った。
 それは空中で散る。爆発、ではない。
「‥‥小癪な」
 計測器が一気に振りきれる。
 天野の放ったものは、ECMに類するもの‥‥要するに、レーダーなどを一時的に狂わせるものだ。
 西島が舌打ち。先に補助ブースターを切り離していなければ、オーバーヒートにすら気付けなかったことだろう。
「狙いが‥‥」
 射撃を試みたBEATRICEだが、計器がイカれて使い物にならない。ただがむしゃらに弾幕を張るわけにもいかず、操作を完全マニュアルに切り替えた。
「くそっ、こうなりゃ自棄だ。俺だって!」
 桜輝を駆るヤヅキ。その勇壮な翼から、二丁の拳銃を取り出して構えた。空を裂くように、突撃。その拳銃が、緑の光弾を吐き出す。
 天野の護衛についていたゴーレムが飛び退いた。
 そこを、過月が狙っている。
「にゃーんと! じゃんじゃんばりばり〜♪」
 レーザーライフルが、一機の足を捉えた。
 好機。逃すわけにはいかない。
「鴨撃ちですよ〜」
 八尾師がレールガンを放つ。
 雨のように弾を浴びたゴーレムは、動かなくなった。
 少しずつ計器が機能を取り戻した。今、決着をつけるしかない。
「やぁーったるよー!」
 狙うはタロス。リチャードがミサイルを吐いた。
『くっ!』
 天野はレーザーライフルで撃ち落とし。
 そこに隙は生まれる。
「カメラだけが装備じゃない!」
 肩に装備された、射角変化自在なキャノン砲を、高見沢は放った。
 それは吸い込まれるようにタロスへ。
 しかしそこへ割って入ったものがあった。
 ゴーレムだ。
「ちっ。だが!」
 ゴーレムが一機落ちた。今度こそ逃がさない。
 もう一撃‥‥。
『ここまでだ。不利と分かってまで戦うほど、俺は愚かではない!』
 砲撃による黒煙が消えた先に、あのタロスはいなかった。すでに退却を開始していたのだ。
「逃がすな!」
 クラークが叫ぶが、しかし、相手の方が早い。
『いい気になるなよ。予定外の役者の飛び入りさえなければ勝っていたのは俺だったのだ! さら――』
 戦闘エリア外まで、もう一歩。
 敗北したとはいえ、高笑いと共に去ろうとした天野。だが、その機体を激しい衝撃が襲った。
 女神だ。女神の針が、タロスを攻撃したのだ。
『小賢しい! 遊んでいる暇など、ない!』
 レーザーライフルに、天野はカートリッジを挿し込んだ。
 その出力が、瞬く間に上昇してゆく。
『最大出力! アナイアレイター!』

 聴力を失ったかと錯覚するほどの、うるさい静寂。キーンと、耳の奥で何かが響いている感覚。
 視界は、白。
 肉体がバラバラになりそうなほどの衝撃。
 気がつけば、巨大な蛇が通ったかのような傷跡を街に残し、バグアと、あの女神はいなくなっていた。