●リプレイ本文
●OPデモ
「へぇ、こいつがあたいの船かい。ちょいと無骨だね」
「文句を言うな。派手さなどいらぬだろう」
「まぁそうだけどね。で、出発は?」
「一週間後だ。既に各種手続きも終了し、後は時期を待つのみであるな。もう主要な乗組員との顔合わせは済んだのだろう?」
「一応ね。それにしたって、随分とギリギリまで船を見せてくれなかったね。秘密主義もたいがいにしなよ」
「建造で少々てこずったところがあってな。だが、一週間もあれば慣れるだろう」
「そうだといいけどねぇ」
「賑やかなもんだね。本当に量産機かと疑いたくなるくらいに」
エラーブル・フジミヤ・シレーヌ。ULTの新造艦ジャッジメントの艦長だ。実際に任務に就くのはもうしばらく先だが、出航自体はいつでも出来るよう、既に準備は整っている。
中世の海賊を思わせる、扇状の帽子を被った彼女は、格納庫にいた。立ち並ぶのは、対バグア用に開発された人型兵器、ABAFだ。正式には、ABAFはその骨格を指す名称で、これに次々開発される装甲を取りつけることにより様々な性能を発揮する。この骨格、装甲ともども一社によって開発されている(開発室は複数存在する)ため、整備が容易かつ様々な環境に適応出来ることが強みだ。
だから、乗り手の癖や特徴に合わせて装甲も異なる。こうして並べてみると、背の高さがほぼ一緒な点を除けば、全く別の兵器のように見えた。
「おや、お姫様じゃないか」
「艦長とお呼びよ。えーっと」
「リチャード・ガーランド(
ga1631)。高軌道突撃仕様ABAFのパイロットだよ」
「この足の太いやつか」
そう言って、エラーブルは下方へ向かって足の広がった機体を見上げた。
隣にいるリチャードの機体だ。機動性に優れ、水上での行動も可能としている点が特徴。この、小さな戦士の相棒となるABAFだ。
「訓練はいいのかい?」
「丁度休憩時間さ」
そうかい、とエラーブルは呟いた。まだ主要な搭乗員の顔と名前も一致しない。近いうちに何かしらのレクリエーションでも開かねば、と彼女は密かに思った。
『艦長、参謀本部より通信です。至急ブリッジへ』
「あぁ、今行くよ」
艦内スピーカーから声が流れる。女性の声だ。確か、自由に艦内放送の使える女性は、ブリッジのオペレーターしかいなかったな、と思い出し、エラーブルは、リチャードに手短に別れを告げ、駆け出した。
「今すぐ?」
『そうだ。即戦力が必要なのだ』
「無茶を」
『無茶でも何でもだ。良いか、目標地点のデータを送信する。一時間以内に出航せよ。以上だ』
通信はそうして途切れた。参謀の石頭め、とエラーブルはコンソールを殴りつけたい衝動に駆られたが、歯を噛み締めて抑え、マイクを手に取った。
●出撃、エラーブル機甲戦団!
「全く、どうなってるんだ。あまりに急すぎる‥‥」
「予定が繰り上がるなんて、よくあることですよ。傭兵になっても相変わらず、か」
「以前は?」
「米軍にね」
「なるほど。迅速な展開を求められたわけだ」
出航後のジャッジメント。その格納庫でぼやいた高見沢 祐一(
gc7291)の声を聞いたクラーク・エアハルト(
ga4961)が、その脇に腰を下ろした。機体の整備はある程度済んでいる。今は訓練する時間でもない。ちょっとした、休憩時間だ。
とはいえ、間もなく出撃命令が出るのだろう。目的のイタリアは、もう目と鼻の先なのだ。
さて、と下ろしたばかりの腰を上げて、クラークを大きく息を吸った。いつ警報が鳴っても良いように、と。
走る光に、ビルが崩れた。既に人の姿はなく、代わりに、巨人が闊歩する。
青い鎧のその姿。名を、ゴーレムという。
その中で、一体だけ、他のゴーレムとは少々違った雰囲気のものがあった。いや、色が違うわけではない。エンブレムだ。右肩に、割れたナインボールのエンブレムが施されているのだ。
「ふん、他愛ないな。地球人などこんなものか」
恐らく、指揮官機。そのパイロットの男は呟いた。
「もうここに用はないな。引き揚げ‥‥ん?」
そのカメラが、近寄ってくる影を捉えた。空飛ぶ船‥‥。空中戦艦というやつだ。それが二隻‥‥いや、違う。二隻の空母を横並びにくっつけたような、そんな外観だ。
「嗅ぎつけてきたか。歓迎したいところだが戦力がゴーレム十機だけでは奴等の相手には役者が足りん。とはいえ、退くのも無粋だし、仕方ない。相手をしてやるか」
彼の指揮官機を含め、ゴーレムの数は十。ただ街を潰すのには十分。だが、戦闘するとなれば少々戦力としては少ないと言わざるを得ない。
だが、だからといって退散するのも、彼の主義に反するらしい。機体の腕をさっと揚げ、ゴーレム達に展開を促した。
「艦長、目標を確認しました!」
「よし、ABAF乗り達は前方のゴーレムを殲滅しておいで。第624エラーブル機甲戦団、出撃!」
オペレーターの報告を聞き、エラーブルが指示を飛ばす。それに伴い、七機のABAFがカタパルトを通じて飛び出した。
『エラーブル機甲戦団‥‥。なるほど、面白くなりそうだ。俺は天野 天魔(
gc4365)。さぁ、開幕といこう』
「‥‥あれが‥‥指揮官機‥‥か」
西島 百白(
ga2123)の呟きに、そうだろう、とクラークが答える。
「わざわざ自己紹介とは、律儀ですね‥‥」
「このままお別れしたいですけどね〜」
BEATRICE(
gc6758)の言葉に続いた八尾師 命(
gb9785)の声は、間延びしていてちょっと力が抜ける。しかしガチガチに緊張するよりは遥かに良いだろう。
「一撃‥‥いくよ!」
先手を取ったのは過月 夕菜(
gc1671)だ。レーザーライフルから放たれた光が、ゴーレムの肩を撃ち抜く。
それをきっかけに、天野が指令を下してゴーレム達を前進させる。
飛び出したのはリチャードだ。機動力には自信がある。重機関銃を撃ち、懐へ潜り込んでヒートカタナで切り上げた。
「旗艦には近づけないぜ。お姫様がいるんだしね!」
腕を振り上げた反動でその場でぐるりと一回転。勢いをそのままにさらに胴を切りつけた。
その背後を、別のゴーレムが取る。振り下ろされたブレードが、リチャードのABAFを捉えた。
ぐぅと息を漏らした彼のフォローに入ったのは西島だ。
「‥‥どけ」
二本のソニック・ブレードがゴーレムの背に突き立つ。刀身が超振動し、装甲を分子レベルで崩壊させてゆく。
ブレードを引き抜くと同時に、そのゴーレムは沈黙した。
そこにクラークが距離を詰める。武器を引き抜こうとする。が、そこを狙われた。
ゴーレムがプロトン砲を放つ。とっさにシールドでガード。しかし、ただやられたわけではない。
「ただの盾じゃないんだ、これがね」
シールドに組み込まれた砲身。そこから飛び出した砲撃は、一撃でゴーレムを粉砕してしまった。
「なんて威力だ‥‥。よし、こちらからも支援に入る。カメラ放出!」
高見沢のABAFからサッカーボール大の球形カメラが飛び出す。移動速度が低く、大きさの関係でカメラの精度も良いとは言えないが、ラジコンの要領で操作が可能な、空飛ぶカメラだ。本体の外部にプロペラがついており、これで以て飛行する。高見沢のABAFは、このカメラを扱うことに特化していた。
欠点として‥‥。
「何ッ」
カメラ操作中は、満足に動けないということ。カメラと機体を同時に操作することを他に喩えれば、両手で別々のパソコンを同時に操作するようなものだ。
だから、狙われたら、弱い。
フェザー砲の光が、高見沢の機体を強く揺さぶった。
「狙われたくない人が狙われてしまいましたね〜。仕返しですよ〜」
物陰からリニアレールガンを覗かせた八尾師が、トリガーを引き絞る。若干のラグの後、勢いよく弾き出された弾丸が、高見沢を襲ったゴーレムを突き抜ける。
怯んだその隙を、BEATRICEは逃さない。
「離脱を‥‥」
バックパックの上部を展開させる。そこから飛び出したのは、垂直発射式のミサイルだ。
慌てて機体を起こした高見沢がその場を離れる。
残ったゴーレムには、雨のようにミサイルが降り注ぎ、爆散させた。
「うちの小僧どもはなかなかやるもんだね。よし、あたいらも攻撃を――」
「じ、上空から未確認の熱源接近!」
勢いづいたエラーブルがジャッジメントを前進させようとしたその時だ。
オペレーターが、不明物の接近を告げた。それは、ほどなくしてこの地に姿を現す。
ずぅ、ん‥‥。
地響きを立てるように、その物体が降り立った。背はさほど高くない。各部が丸みを帯びたフォルム。だが、辛うじて人型を維持している。全身黒塗りのそれは、まさに正体不明だった。
『そこのアンノウン、所属と目的を答えろ』
『‥‥そうだね、ではアンノウンと答えておこう。目的は、見ていれば分かる、よ』
アンノウンの黒い機体は、唐突にぬらりと動きだす。
「‥‥!」
狙われた西島は、咄嗟にスモークディスチャージャーを放つ。だが、離脱が間に合わない。黒煙を飛び抜けたアンノウンが銃を構えたことを知覚することすらままならず、弾丸をバチバチと足に受けた。
『‥‥いいだろう。もとより即興劇だ。飛び入りは歓迎しよう』
天野も、動きだす。アンノウンの乱入は、どうやら彼にとってもハプニングだったらしい。
だが、エラーブルはここにきて判断を誤らなかった。
「各機、アンノウンも撃墜目標に設定! これより、本艦も攻撃態勢に移る!」
彼女の指示により、ジャッジメントの機銃が一斉に火を吹いた。それに突きたてられ、ゴーレム達の動きが鈍る。
「じゃんじゃんばりばり〜♪」
過月が合わせ広範囲への射撃を開始した。高見沢や八尾師らもそれに続く。
しかし、そう簡単に済むことではなかった。
『接近してしまえば何も出来まい!』
ぐんとBEATRICEに距離を詰めた天野が、大型のブレードを振りかざす。
こんなこともあろうかと、装備しておいたシールドが役に立った。強烈な一撃だったが、しかし、何とか攻撃をしのぐ。
「ええい!」
ロケットランチャーで、高見沢が天野を狙う。際どい角度だったが、それが見事に命中。
天野のゴーレムが僅かに揺らいだ。
「これはチャンスですね〜」
八尾師が呟き、動き始める。
BEATRICEはガトリングを撃ちつつ後退。距離を取った。
しかし天野は、執拗にBEATRICEを狙う。
救援せんと、高見沢、過月が可能な限り火力を天野へと集中させた。
『猫にしては物騒な。落ちろ!』
プロトン砲。
すんでのところで、過月はかわした。
そして天野の背後を、八尾師が取る。
「もらいますよ〜!」
彼女のロングソードは、ABAFの武器として最も標準的と言えるものの一つ。だが、それも有効に使えば、馬鹿に出来るものでもない。
その一撃は、ゴーレムの背に深い傷を刻んだ。
「なんて機動力だ!」
冷や汗を垂らし、リチャードが吐き捨てる。いくらか、被弾した。そのせいか、口の中に淡く鉄の味が広がっていた。
アンノウンの動きを、捉えきれない。がむしゃらに放った弾丸が、時折、黒い影を掠める程度。有効打はなかった。
「単体では無理だ。隙を作ります」
進み出たのはクラーク。リチャードや西島より積極的にアンノウンに距離を詰め、攻撃を仕掛けてゆく。
誘いに乗ったかのように、アンノウンはクラークを標的に定めたようだ。両者の距離が一気に縮まる。
突撃。体当たりと言ってもいい。アンノウンの攻撃。それを、クラークはシールドで防いだ。そしてカウンターにシールドアームガンを放つ。
回避。
それを読んだリチャードが、重機関銃を放つ。
着弾! 確かに黒の機体を揺らした。
そこへ燐光を閃かせ、西島が飛びかかる。
「‥‥決める」
ソニック・ブレードが、黒い装甲の表面を削り取った。
『なるほど、面白い。良いものを見せてもらったよ。‥‥では、失礼しよう』
トドメを刺すには至らない。ここからが本番だ、と意気込んだ機甲戦団だが、しかし、次の行動には移れなかった。
アンノウンは、そのまま飛び去ってしまったのだ。驚異的な速度。それも、空中を。空を飛べないABAFでは、追跡もままならない。
「逃げられたかー」
「仕方ないですね。これから追いかけたんじゃ、追いつけないでしょう」
ほぼ同時に、決着はついた。アンノウンが飛び去った時に、天野もロングソードによる攻撃を受けたのだ。
『ここまでか。また会おうエラーブル機甲戦団。次はこんな玩具ではなく愛機NBでお相手しよう。さらばだ!』
そうして、天野を含むゴーレム達は撤退したのだ。
「敵戦力の撤退を確認。新たな反応もありません」
「よし、皆よくやったよ。帰還しな」
傷ついた機体も、そうでない機体も、ある。だが、勝負はついた。勝利という形を以て。
戦士達は、家とも言える戦艦、ジャッジメントへと帰還した。
●EDデモ
「で、あたいらエラーブル機甲戦団は、これからローマに寄るよ。そこで補給なんかを済ませて、そのままローマの警備に当たることになる。分かったら出発だよ」
「何故ローマなんだ?」
「そもそも、急な出撃の理由も聞かされてないんだよね」
エラーブルの言葉に、高見沢と過月が待ったをかけた。
話が、急だ。これは出撃前からも思っていたことなのだ。
ふ、とエラーブルは息を吐く。
「あたいも、今さっき上からの通信で聞かされたことだけどね。何でも、新兵器の開発をローマで行っているらしいんだ。で、敵が近くまで攻めてきたんで、少しでも防衛戦力が欲しい、ってさ。あぁ、後半はあたいの推測」
操舵士に出発の合図を送ると、エラーブルはブリッジに備え付けられた彼女戦用の椅子に腰かけた。
「あたいが言うのも何だけどね。もう少し、予定外の行動に付き合ってもらうことになりそうだよ。今のうちに体を休めておきな」