●リプレイ本文
LHに存在する、噴水とベンチだけがぽつんと置かれた静かな公園。普段はここで子供達がサッカーしていたり、恋人達が(筆者的に)爆発してほしいようなことをしていたり、あるいはお喋りの場として、あるいは読書の場として、LHに住まう人々の憩いの場となっていた。
かといって、人が常にいるわけではない。他人に見られたくない何かをするには打ってつけな場所であった。
例えば。
春夏冬 晶(
gc3526)はバットを片手にその公園を訪れようとしていた。そこで何をどうするかといえば、素振りで訓練を行うつもりの様子。曰くそれは傭兵としての訓練。何故素振りなのかは‥‥謎だ。
しかし悲しいかな。公園の入り口が見えた頃、彼の目に飛び込んできてしまったのだ。
公園を走り回る青毛の少年と、ちょっと見えにくいが合羽を着て追いかけるおっさん達の姿を。
まぁ追われている方はいい。追っている方は‥‥見えて、しまった。合羽からちらりと覗いた、縮れた体毛の多い素足を。その肌を。きっと合羽の下には何も着ていない。何も、何も。だからきっと、奴らは‥‥、
「奴らは変態じゃねえか!!」
ご明答。
「仕方ねぇ、ここは歴戦の傭兵である俺が止めてやんなきゃいけねぇな!」
使命感に燃える男、春夏冬 晶! 燃える闘魂、溢れ出る熱意で瞳に炎を宿し、その権化たる闘志のバットを握りしめ、救いを求める哀れな少年の希望とならんがため、今、大地を蹴って走り出す!
「おい、お前ら‥‥そこまでだ。公衆の面前でナニ粗末な物を見せつけていやがる!」
ザッと地を踏み、バットを突きつけるようにして晶は叫んだ。
合羽の男達(以下かっぱ隊)が一斉に振り向く。
ちょっと透けた白の合羽。その下部からちらりと顔を覗かした亀の頭‥‥。
「大人しくしねぇと、その股間のハンドガンに攻‥‥げ‥‥き‥‥」
そこに目を落とした晶の語気が勢いを失ってゆく。
何と言うことだろうか。自分の方がサイズも強度も威力も耐久度もあると勝手に自信を持っていたが、しかし、こうして目にすると、実に‥‥アレだ。
「うおぉぉぉぉぉ、ハンドガンなんてもんじゃねぇ! 荷電粒子砲「九頭竜」搭載しちゃってるよ!!」
ちらりと自分の足元に目を落とす。デニム質のパンツの内側にあるそれは、わざわざ取り出して比較するまでもない。
晶はがっくりと崩れ落ち、地に手をついた。
「ま、負けた‥‥。すまない、少年。俺は、ここまでのようだ‥‥」
春夏冬 晶、敗北。彼のアレの方こそが、ハンドガンだったようだ。
「いや、そんな‥‥」
アンリが困惑するしたのも当然だ。
何だか、場の様子が早速分からなくなってきた。
そうこうしているうちに。かっぱ隊はまた妙なステップでYOSSYAを叫びながら公園を回りだす。逃げ出したいアンリだが、しかし相手が回り込んでくるおかげで公園を出られない。
「なるほどわかった!前衛芸術って奴だぜ!」
そんな言葉と共に公園へ飛び込んだのはビリティス・カニンガム(
gc6900)だ。公園の様子を見て、ピンときたのだ。彼らは芸術家。アーティストなのだと。‥‥うん。多分違う。
これからプールにでも行こうとしていた彼女。現れるやその上着をバッと脱ぎ棄てた。
「おぉ!?」
晶が歓声を上げる。きっと、想像したに違いない。小さなリボンでもついたショーツ以外は一糸纏わぬとすら言える、幼きその姿を。
だがそうではなかった。太陽の照り返しに美しく輝き、その色白な肌と同化しそうな清き色が、胴と言える部分を包み隠す。さながらそれは神秘とも言える美しさ。白。そう、白のスクール水着。紺じゃないのがまた難い。筆者的には超OKと言わざるを得ない。
そう、これぞアート。だが、彼女はそれでは満足しない。
さっと荷物からシャンプーハットと天狗のお面を取り出し、噴水の縁に駆け登った。
「見よ!河童と天狗のコラボ!ジャパン妖怪リスペクツだぜ!」
シャンプーハットを被れば、なるほど、確かに河童に見える。いや、かっぱ隊のかっぱは、合羽なのだが‥‥まぁそれはともかく。天狗のお面は顔につけるかと思いきや、そうではなかった。
「馬鹿な、電磁加速砲「ファントムペイン」だと!?」
それは、ビリティスの腰(もっと言えば股)に装着された。伸びる真っ赤な長い鼻が、何と言うか‥‥アレだ。晶の自己評価がさらに下がる。
「この斜め下からのアングルは迫力満点ですねー」
いつの間にか、山田 虎太郎(
gc6679)が噴水の縁に腰かけていた。その手には、ビデオカメラ。録画中を示す赤いランプが点灯し、ビリィ・ザ・パフォーマーことビリティスを見上げるようにカメラを向けている。太陽光が陰を作り、天に向かってそそり立つ天狗の鼻は、非常に雄々しく凛々しい。そう、まさに前衛芸術!
そんなことをしながら、山田がおやつにと食すのはバナナ。それはそれで、色々思わせるものがあった。
もちろん、本人に悪意はない。多分。少なくとも、何だか面白そうだから見物してる、以外の意味は特になさそうではある。多分。きっと。
「よし、あたしもやるぜ! YOSSYA! YOSSYA!」
「YOSSYA! YOSSYA!」
飛び降りたビリィは、あろうことかかっぱ隊に混じってステップを踏み出す。気を良くしたかっぱ隊の面々はさらに気合いを入れ、アンリを追いかけだした。
逃げるアンリ。追うかっぱ隊&ビリィ。カメラを回す山田に、膝を抱え出した晶。うむ、中々にカオス。
しかし、そこにさらなるカオスを持ち込む者がいた!
「まだまだ甘いにゃ!男ならそんな衣服つけてないで全裸になるにゃ!」
スカートを翻し、金色のポニーテールを揺らし、噴水の縁の上から逆光を浴びて現れたのは姫川桜乃(
gc1374)だ。放った言葉からは、嫌な(と体裁上表現させていただく)予感しかしない。
サッとセーラー服の胸元に手をかけたかと思えば、それを思い切り宙へ放った。太陽へ飛ぶセーラー服。風にたなびき、揉まれ、それは屋根より高くまで‥‥。
さぁ健全なる男性諸君。お待たせしました。視点を姫川さんに戻しましょう。
‥‥おや? あれ、え?
「下着じゃないから恥ずかしくないもん!」
服を着ている‥‥ように見える。
白のブラウスに、デニムのショートパンツ‥‥。しかし、それがどうもピッチリしすぎているように見える。何だろう、この違和感は。いや、今はそんなことなどどうでも良い。脱衣の瞬間。それこそが至高なのだ。きっと。何故服の下に服を着ていたかは、謎だ。
しゅたっと飛び降りた彼女は一目散にかっぱ隊へ駆け寄る。そして手近な男の合羽を掴むと、一気に剥ぎ取った。
白く透けた合羽が太陽光に貫かれ、まるで虹のような輝きを放つ。その下では‥‥キノコが生えていた。
流石のビリィも、これには困る――かに思えた。
「なるほど、これが究極の芸術って奴か! あたしもまだまだのようだぜ」
何か感動していた。
「変態だーーーー!!!!」
ド直球に見たまま感じたままを叫ぶ声がこだました。視点をそちらへ移そう。
公園を指差し、叫んだ口を開いたままガクガク震えている春夏秋冬 里桜(
gc4919)。そして声がよほどうるさかったのだろう。隣ではその妹、春夏秋冬 立花(
gc3009)が耳を塞いでしかめっ面をしていた。
「あ、りっちゃんだにゃー。やっほー!」
手をぶんぶん振って挨拶する姫川。立花の方とはどうやらかなり親しいらしい。
挨拶には、挨拶で返さねばなるまい。それが、春夏秋冬の者として最低限の礼儀なのだ。多分。
「やっほー‥‥ってぇ!」
のんきに挨拶している場合ではない。瞬天速で一気に姫川へ迫った立花は、駆け抜け様にラリアットをかました。
「ぶへらばッ!?」
「なんで全裸なんだよ!」
彼女は、立花は見抜いていた。姫川の、パッと見れば服を着ているように見えるそれが、実はボディペイントだということに。何故そんな用意をしていたのかは、謎だ。
勢いに乗せられたラリアットは小さな姫川を軽々と吹き飛ばし、宙を舞ったその体は見事噴水へ落っこちた。
慌てて里桜が駆け寄るが、最早遅い。
水に濡れた姫川。施したボディペイントは見る見る溶け、やや赤みの差した素肌が露わとなる。その姿は、扇情的というほど熟れたものではない。しかし里桜にとってはどうやら刺激が強すぎたらしく‥‥。
「ぶふっ!」
鼻血を吹き出して一時的に退場せざるを得ませんでしたとさ。
「ベタですねー」
その様子も、山田がばっちり撮影していたのは言うまでもない。
彼女の言うように、ベタな反応。しかしだからこそ、直球な面白さがそこにある。良い画が撮れたと彼女も満足気だ。
「あぁもう。よくわからないけど、とりあえず白衣着てて」
噴水から姫川を引きずりだした立花は、上着として羽織っていた白衣を手渡す。
それに袖を通した姫川。体がびしょ濡れなせいか、白衣がなんだか透けて見える。
「全裸に白衣とか、りっちゃんマニアックだね」
「性癖が捏造されようとしている!」
この二人、かなり賑やかである。
「何だか、妙なことになってしまいましたね‥‥」
騒ぎに紛れて何とかかっぱ隊から脱したアンリは、こっそりと木陰に身を隠していた。運がなかったとしか言えない。そうでなければ、誰があんな変態達に捕まるものか。
ともあれ、これで一息つける。こうなった以上放置は出来ないが、落ち着いて状況を整理するだけの時間が欲しかった。
まず、公園を通りかかった。そしたら合羽の男達が現れて、追いかけてきた。人が集まってきた。皆おおよそ変態だった。
「‥‥駄目だ。普通に、通報しよう」
公衆電話なら、公園の脇にあったはずだ。まずはそこからお巡りさんを呼んで、事情を話して、あの人達を捕まえてもらおう。それで全てが終わる‥‥はずだ。
よし。
覚悟を決めて木陰を飛び出した。
「YOSSYA! YOSSYA!」
「PANTU! PANTU!」
目の前に、奴らがいた。合羽を着た男が二人。何故だか全裸の男が一人。へその下から天狗の鼻を生やしたビリィに、裸に白衣を羽織った姫川‥‥。どうしてこうなった。
「止まれぁ!」
そんな姫川へ飛び出す、立花のドロップキック。綺麗に吹き飛んだ姫川。
何故だか、通報するのも億劫になる。が、そうも言っていられない。この状況を収めるには、それしか道は残されていないのだ。
「ぬぁッ!?」
一刻も早く通報せねば、と駆け出したアンリは、しかし何かに足をつかまれ盛大にずっこけた。
見れば、這い寄るようにして姫川が足にしがみついている。そして、何だかとってもいやぁな笑み。
「アンリさんも一緒に脱がない?」
「いやぁぁああああッ!」
春。吹き抜ける風は強く温かく。小鳥の囀りに胸が躍り、眠たくなるような平和の調べが、静かに、確かに、世界に満ちていた。
どこを見回しても、目を細めたくなる。嗚呼、春。素晴らしき、春。
ここで一句。
吹く風に
花弁の散り舞う
陽の下に
見し聞こえしは
夏の足音
夏子(
gc3500)
ふっと笑んだ彼の表情は、しかし、即座に吹き飛ぶこととなる。
「あははははは!!ばっかじゃないの、HENTAIがいるわぁ」
ちょうど公園に差し掛かった頃、ほんの一足先にやってきていたヴィヴィアン(
gc4610)が大爆笑していた。
何事かと中を覗いてみると‥‥。
「温かい風、桜の花、そして春の妖精‥‥。ある意味、凄く、春らしいのかもしれんでゲスが‥‥」
彼が目にした光景は、かっぱ隊の様子は言わずもがな。いつの間にか全裸にさせられていた晶もさることながら、アンリもハーフパンツを脱がされかかっていた。
正直、直視はしたくない。
そんな中、ヴィヴィアンはというと、嬉々としてその中へと踏み込んでいった。これほどのカオスかつ変態ワールドは彼女(?)の何かを駆り立ててやまない。
「ちょっと、よくその程度の粗末なものを衆目に晒す気になったわねぇ」
かっぱ隊に対して彼女の放った言葉は、男性に対しては貶し言葉と言えた。しかし、変態にとってそれはただの貶し言葉ではない。どういう言葉であったのかはお察しいただきたい。
「いや、待てよ。そいつらのが九頭竜だって言っちまった俺のこれは、どうなるんだ?」
シールドで前を隠しながら、晶が疑問を呟いた。九頭竜が粗末なものだとしたら、彼のアレは‥‥?
「どうせ水鉄砲でしょ。威力もない。耐久力もない。やたら拡散するだけで、しかもすぐ漏れる」
「そんなに言わなくたっていいじゃん!?」
ドSなヴィヴィアンに、容赦はなかった。
「さて、と。ま、そろそろお片づけしないと、ね」
何故そんなものを持っていたのか。ヴィヴィアンは荒縄を取り出すと、不意をついて裸あるいはそれに限りなく近い格好のものを縛り上げていった。
「これで警察が来れば、この騒動も終わりですね」
「ゲスなぁ。いやいや、ヴィヴィアンさんが縛ってくれなかったら、本気で怒るところだったでゲス」
通報を終えた里桜と夏子が、警察が来るのを待ちながら遠い目をしていた。
本当に、どうしてこうなった‥‥。
「にゃー! どうして私までー!」
「俺は被害者だー!」
「ちょっと、アレは芸術だったんじゃないのかよ!」
ヴィヴィアンによって木の枝に吊るされた姫川、晶、ビリィが喚く。カオスの申し子達に、懲りた様子はない。
「これこそ犯罪にゃー! 絶対犯罪にゃー! 訴えてやるにゃー!」
「黙りなよ。お宅ら、何らかの処罰があるよ。多分」
しかしそんな騒ぎも、トーンを低くした夏子の声でピタリと止んだ。
その時の彼の目つきは‥‥思わず命の危険を感じさせるようなものだった。
「坊や、大丈夫?」
「えぇ、災難でしたが‥‥」
他方では、ヴィヴィアンや立花がアンリを気遣っていた。
事情を聞けば、彼は完全に巻き込まれただらしい。危うく、彼まで変態の仲間入りをするところだった。
「ごめん。私の友達が露出狂で。後できつく言っておくから」
えぇ、お願いします‥‥。
これで今度こそ騒動は終わり。警察が到着すれば、今吊るされている面々には何かしらの処罰があるだろう。
恐らく、罰金だろうが。
「そうそう、アンリさん」
彼らの背後を静かに歩きながら、足を止めもせず山田がビデオカメラを振った。
「トランクスに象さんのプリントは、山田的にナシだと思うのですよー」
「な――ッ、えぇぇええええっ!?」
全てが収められたビデオカメラを巡り、また騒動が起こったのは言うまでもない。