タイトル:【AP】ズゴッドマスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/17 13:32

●オープニング本文


 大きな鍾乳洞というものは、往々にして何かの秘密基地的存在である、ということがフィクション世界での定番とも言えるだろう。大海賊の財宝が隠されている、といったものがポピュラーな例だろうか。
 だが、この絶壁に出来た鍾乳洞にあるのは、財宝ではなかった。また、その鍾乳洞自体に何かがあるというわけでもない。
 鍾乳洞に複数の部下を引き連れて進入したスコット・クラリーは、そこがどんな意味を持っているのかを知っていた。
「ふむ、やはり不用心であるな」
 まぁ、そうあるべきでは、ある。だからこそ付け入る隙があるというもの。
「時間との勝負である。各機、送れぬように」
 彼の操る機体が動作音を鳴らし、暗がりの鍾乳洞を駆けだした。

「し、侵入者です!」
 その鍾乳洞の上部。そこにはUPCの重要拠点とも言うべき基地があり、その司令室でオペレーターが声を上げた。迎撃システムなどはそもそも備え付けていない。よって、彼は監視カメラに映る影でそう判断した。まぁ、システムでの迎撃などほとんど意味を成さない時代である。侵入者を追い返すにはやはり直接出向いて戦うことが、単純かつ最も確実性の高い方法だった。
 叫びを聞いた司令官は即座に兵達に迎撃を命じた。
「敵機との接触まで、約2分! 敵機数推定4機‥‥過去に該当例のない機体です!」
「新型のワームだというのか! くっ、待機している傭兵も出撃させろ。くれぐれも、鍾乳洞を破壊させぬように」
 指令を復唱しつつ、オペレーターは通信を用いて基地内に待機していた傭兵に出撃要請を出す。
 敵が侵入してきた鍾乳洞は、この基地の緊急脱出口だ。上空や陸上が包囲されようと、そこから脱出を図るために密かに設計されていた。この事実は、ある一定の階級以上の者、あるいはこの基地に所属する者にしか知らされていない。
 何故敵はそれを知り、攻めてこれたのか。いや、どうやって知ったのかが問題なのではない。知っていた相手が攻めてきたのだと考えればつじつまが合う。司令官の頭には1人の人物の顔が浮かんでいた。
 元UPC欧州軍大佐、スコット・クラリー(gz0403)。数ヶ月前にバグアに投降した男だ。何度かこの基地を訪れたことのある彼は、有事の際に応援として駆けつける約束があったためにその避難口も知っていたはずだ。
 今攻めてこれる者がいるとすれば、彼以外に考えられない。

「見せてもらおうか、UPCのKVの性能とやらを」
 鍾乳洞を進むクラリーは、迎撃に出た軍のKVを補足しようとしていた。
 彼の搭乗する水陸両用ワーム、ズゴッドのモノアイがギラリと光る。

※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。

●参加者一覧

威龍(ga3859
24歳・♂・PN
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
旭(ga6764
26歳・♂・AA
レミィ・バートン(gb2575
18歳・♀・HD
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA
フォルテ・レーン(gb7364
28歳・♂・FT
犬坂 刀牙(gc5243
14歳・♂・GP
宇加美 煉(gc6845
28歳・♀・HD

●リプレイ本文

 薄暗い鍾乳洞を進む7つの機影を、設置されたカメラはしっかりと捉えていた。その映像が伝達された先にあるモニターにはそれぞれ番号が振られ、また鍾乳洞のマップにもところどころ番号の振られた小さなマークがついている。この番号が、カメラの位置を示しているわけだ。
 迷路のように入り組んでいるのは、もちろん自然が作りだしたものではあるのだが、侵入者を迷わせたり、追手を撒いたりするのには最適だ。この鍾乳洞の真上にある基地の非常用脱出路として活用されるのも、ごく自然のことであった。
 だが、だからこそ、鍾乳洞の中に関しては外部に漏れてはならない。今回攻め込んできた相手は、不運にもその地形をよく知っているようだった。
「右‥‥いえ、左です」
 基地の用心棒という依頼を受けていた金城 エンタ(ga4154)は、この非常時に前線で戦うのではなく、オペレーターとして基地に残ることを選択した。
 地図とモニターとを何度も見比べながら、今鍾乳洞を進んでいる仲間達の進むべき道を指示している。
 彼らには、作戦があった。その作戦の成否が、この防衛戦の決め手となるだろう。
 上手くいって。仲間から預かった壺を視界の隅に捉えながら、金城は心ひそかに祈った。

「あのウソツキめ‥‥」
 基地の用心棒というのが今回の任務、とは先述した通りであるが、フォルテ・レーン(gb7364)が考えていたのはこんな仕事ではなかった。何か起こった時のために待機していればいい。基地にいるだけで給料のもらえる簡単なお仕事だ、と考えていたのだろう。仕事を斡旋した人間が、そう吹きこんだのかもしれない。
 実際は違った。現に「何か」が起こってしまったのだから。
「後で危険手当請求してやる‥‥!!」
「傭兵ですからねぇ」
 肯定なのか、否定なのか。どちらとも取れる意味で、あるいは両方の意味で、宇加美 煉(gc6845)は言った。
 危険手当‥‥果たしてもらえるのだろうか。
 金城によると、もう少し進んだ先に広場があるらしい。動き回るには十分のスペースがあるらしく、敵を待ち構えるには絶好の場所と言えた。
 これに関しては、犬坂 刀牙(gc5243)が事前に頭に叩き込んだ地図とも一致する。もちろん、記憶を頼りにするのでそれも少々怪しげであるが。
「時間はあるのかなー?」
『今から1分程度で敵も広場に到達するようです』
 通信で金城に確認を取った犬坂。どうやら悠長にしてはいられないようだ。
「だが、全く時間がないわけでもない。急ぐぞ」
 先頭を進む威龍(ga3859)が機体の歩みを速めた。
 相手は元々人類側の軍人。それも大佐だったという。そんな人物が何故、という感覚よりも、威龍が強く抱いたのは許せない、という気持ち。
「‥‥裏切り者の末路がどのようのものか、そのクラリーとやらにきっちり判らせてやる必要があるな」
 コクピット内で拳を突き合わせ、威龍のやる気は十分だ。
 そのすぐ脇には天原大地(gb5927)。最後尾にいるのはレミィ・バートン(gb2575)だ。この2人、何故か先ほどから口を開かない。だからなのか、犬坂の明るい声も、威龍の気合も、この2人が生み出すどことなく険悪な雰囲気に飲み込まれてしまった。
「あの、何かあったんですか?」
 旭(ga6764)は無線で尋ねた。天原からも、レミィからも、回答はない。もちろん、他の人間が事情を知っているわけもなかった。
 空回り。
 傍受した通信を吐き出すはずのスピーカーが、急に冷房に切り替わったような感覚さえ抱かせる。広場に到着したことで旭がほっとしたのは言うまでもない。
『着きましたね? 正面に3つの通路が見えるはずです。その左右は封鎖が可能、また、進入して右手に見える通路も封鎖出来るはず‥‥です』
「はず?」
『あ、いえ、大丈夫です』
 ちょっと自信のなさそうなナビゲートに不安を抱いた旭が尋ね返す。金城はすぐに訂正した。
 というのも、彼が指示する破壊可能な部分というのは、彼の予測でしかないのだ。本来なら基地の設計図などから判断したかったのだが、そのような重要資料をやすやすと見せてもらえるわけもない。ひょっとしたら、と拠り所にした称号もかえって逆効果だった。そもそも誰が与えたのかを思い返せば、冷やかな対応は当然だろう。結局は鍾乳洞の各所、基地との位置、柱の様子から彼の目で見て判断するしかなかったのである。
 当然、専門家でもない彼がそれをやるのは危険なことである。だが「この作戦でやろう」と傭兵達は合意した。まともに代案を話し合う間もなく出撃となったため、今さら作戦を変更することも出来なかったのだ。いや、作戦そのものを取りやめ、真正面からぶつかるという選択肢もあっただろうが、それで勝つ見込みは非常に低い。
 このことを金城が出撃後の傭兵達に伝えることはなかった。破壊を最小限に止めていれば大丈夫だろう、と。あえて余計な心配を与えることもない。
「広場の中はー?」
『右手なら大丈夫でしょう』
「敵は?」
『正面、左側から来ます』
 犬坂、威龍の質問に金城が答える。
 接触までもう間もなく。敵が迫ってきているということは、先遣隊は既にやられてしまったのだろう。誰もそれを口にはしないが。
 そしてそれはつまり、これから接触する相手は、正規軍を破るだけの力を保持している、ということになる。強敵なのは間違いない。
「迎撃準備!」
 威龍の号令で、立ち並ぶKV達が一斉に銃器を構える。
 通路に影が映った。
「撃て!」
 銀光輝く砲身から勢いよく弾が飛び出す。単発のものだけでなく、連発式のものも多々。
 ある程度撃ったところで各々リロード。警戒しつつ様子を見た。
 ぬらと無機質な何かが姿を見せる。仕留めきれなかった、と誰もが思った。
 いや、実際に、敵を仕留めることは出来なかった。だが、代わりに仕留めたものがある。
『ほう、自分達でトドメを刺したか。中々えげつないことをする連中のようだな』
 通信に男の声が飛び込む。この場にいる味方の、誰の声とも似つかない。
 これが、スコット・クラリーの声。全員が理解した。
 現れたのが彼の乗るワーム、ズゴッドだろう。逆に、そんな予測は見事に打ち砕かれた。
「‥‥KV?」
 既に原型をとどめてはいないが、それはバグアのものとは異質な、むしろ人類側の何か。
 通路から倒れ込むようにして現れたのは、ソレだった。誰かの呟いたように、恐らくKVだろう。
「金城!」
『すみません、見落としていました』
 天原が無線に叫び、金城が答えた。
 つまり敵は、あのKVを盾にしていたのだ。きっと先遣隊のものだろう。
『どうだ、仲間に銃を向けた感覚は。パイロットはまだ生きていたかもしれんぞ?』
「ほざけっ!」
 赤ズゴッドに乗るクラリーの挑発を受け、天原のビーストソウル紅蓮天が飛び出した。
 その行く手を遮るように、量産型ズゴッドが進み出る。
 邪魔だ、と言わんばかりにそれを押しのける紅蓮天。
「早い、早すぎるよ大地っ! 1人で突っ走るな!!」
「連絡もよこさずいきなり居なくなった誰かさんに言われたくねェな!」
 慌てて追いすがったレミィが言葉で天原を止めようとするも、相手の方はそう言って止まるつもりはない様子。
 2人が無言だった理由が、明らかとなった。
 レミィのビーストソウルステュクスがツイストドリルを突き出す。が、クラリーはそれを回避。代わりに、その先にいた量産型の肩を貫いた。
 これで体勢が崩れた。ここぞとばかりに紅蓮天が赤ズゴッドを狙い拳を振るう。倒れそうになる機体を踏ん張って支えたズゴッドがレーザーで反撃。紅蓮天の姿勢も崩れ、打撃の筋がブレる。その拳と爪とが組みあった。
「野暮だけど、もらっちゃうんだよね!」
 今度こそ。旭がホールディングミサイルを打ち出した。今ならズゴッドの動きも止まっている。
 チャンスだ。
「ぐ――っ」
 だが、ズゴッドは紅蓮天を強引に引き込み、それを盾代わりとした。背にミサイルが着弾する。
 量産型のズゴッド達は、この隙にまずは1機仕留めようと一歩踏み出した。
「ほらほら、こっちなんだよーっ?」
 ガトリングで天井を狙い、落ちる瓦礫で量産型の注意を引いたのは犬坂だ。それが功を奏したようで、ズゴッド3体が一斉に犬坂へ向き直った。
「スモークだ。気をつけろよ」
 だが、狙わせない。フォルテがスモークを炊き、相手の視界を奪う。位置を特定されないようスキルをフル活用し、グリフォンの脚をドリルに変形させて襲いかかった。
「なっ、いない!?」
 相手をしっかり狙って動いたはず。だが、攻撃したそこに、敵の姿はなかった。相手も一カ所に留まってはいなかったのである。
「これならぁ」
 宇加美が対戦車砲を煙に向かって撃ち込む。
 ほとんど当てずっぽうだが、確かに命中の手ごたえがあった。
「そこか。どちらの爪がより相手を切り裂くのか、俺と勝負をしてみるか?」
 徐々に晴れてきた煙へ、威龍のリヴァイアサン玄龍が飛び込んだ。
 ズゴッドの青い影が見える。それへ向かい、ソニックネイルを振るった。
 威龍の挑発した通り、ズゴッドがそれをクローで受ける。
 金属同士ががちりとかち合い、キィィと不快音を発した。
 ここぞとばかりに、宇加美のワイバーンフォックストロットがレッグドリルを突き刺すようにして壁を駆けのぼった。
 そして天井から跳ぶ。
「絶・天狼抜刀んぎゃっ」
 風車のように機体を回転させてレッグドリルでの突撃。
 ビシリと決めるはずだったが、生憎KVはそんなことが出来るようには設計されていない。姿勢を崩して落下するのがオチで、必殺技を叫ぼうとした宇加美は思わず舌を噛んだ。
 いかに無人機といえど、それを見逃すほど敵は甘くない。
 身動きの取れないフォックストロットめがけ、ズゴッドの1機がプロトンミサイルをありったけ発射した。
「‥‥金城さん、あの壺を本部に届けてくださいよ。あれは、いい――」
 全てを諦めたように呟いた宇加美。着弾と同時に起きた爆発でフォックストロットが大きく吹き飛ばされた。
「宇加美さんっ!」
 何とか助けに入ろうと動いた犬坂だが、そこにズゴッドが迫る。
 慌てて槍を構えるが、防御も回避も、まして反撃も間に合わない。
「そんなバ――」
 加速に乗せたクローの刺突は、ディアブロの腹部を貫いた。機体の制御能力を失ったソレは、クローが引き抜かれると同時にゆっくりと倒れ、動かなくなった。
 だが、犬坂の敗北はただの無駄ではなかった。
「おまえ等がやったこと、まんまやり返す!」
 間に合いこそはしなかったものの、フォルテのグリフォンがディアブロの横に立つズゴッドに肉薄。レッグドリルでその胴を貫き通した。
「このままじゃ不利だ、分断するぞ」
 銃器での応戦に切り替えたフォルテが量産型ズゴッドを狙い、通路へ引きこんでゆく。
 威龍の方もガトリングで同じようにズゴッドを誘導した。

『む、何をする気だ』
 その様子をちらりと見たクラリーは、一瞬疑問の呟きを漏らしたものの、それ以上の言葉はなかった。
 考える必要がないと判断したのか、傭兵の意図を感じ取ったのか。それは分からない。
 だが、クラリーも他所に気を取られてばかりいられない状況にあったことは事実だろう。
「アンタが去年くれたアクセサリー‥‥あれ売ったからね!」
「おっ前‥‥!アレ探すのどんだけ苦労したと!!」
 相変わらず痴話喧嘩を続けながらも絶妙のコンビネーションで攻撃を繰り出す天原とレミィ。赤ズゴッドに避けられ、受け止められはしているものの、着実にダメージを積み重ねていっている。
 合間合間に旭が銃器で援護に入るが、どうやら口を挟む余裕はないようだ。というよりは、割り込む余地がないと言った方が正しいか。
 とはいえ、無気力に射撃していたわけではない。棒立ちしていては狙われるのは必至。旭は常に動きまわりながらの攻撃を意識していた。だからこそ、不運だったのかもしれない。
「おい旭、そこは――ッ!」
 一瞬、威龍の声が響いた。
 へ、と間抜けな声が漏れる。旭が周囲の様子を確認すると、丁度天井が崩れようとしていた。
 気づいていなかったのだ。フォルテと玄龍が通路を瓦礫で塞ぎ、量産型と赤のズゴッドを分断しようとしていたことに。そして、丁度崩落の真下に位置取っていたことに。自分の発砲音で、気づくのが遅れたか。
「わぁぁああああッ」
 旭のフェイルノートヘリオスは、瓦礫の下に埋もれた。
『面白い。手伝ってやろう』
 反応したのは、他ならぬクラリーだ。天原とレミィの挟撃をしゃがんで避けるや、丁度崩落の起きた天井へ向かってプロトンミサイルを発射した。

「何ということだ」
 金城がオペレーティングするすぐ脇を通りかかった基地の司令は、モニターを覗き見て目を見開いた。
「あ、あの、確かにスムーズに戦えてる、というわけではないですけども‥‥」
 冷や汗交じりに、金城は事態を説明しようとする。が、司令は頭を振った。
「話を聞いていなかったのか? それとも、指示が行き届いていなかったのか? ‥‥くれぐれも鍾乳洞は破壊せぬように。そう言い添えたはずだ」
「しかし、戦闘である程度の――」
「意図的に破壊してどうする、と言っているのだ」
 完全に失念していた。鍾乳洞は破壊するな。どこかで聞いたような気はする。どこかで‥‥。
 誰も気づかなかった。気に掛けなかった。
 でも何故破壊してはならないのか。今崩落を起こした場所なら、そう全体が崩れるということはないように見える。連鎖反応、という言葉が誰かの頭によぎった。
「退避の準備でもしながら見ているといい。綻びが裂け、破けてゆく様を」

 地響きが低く鳴る。
 クラリーの放ったプロトンミサイルは、フォルテらの起こした崩落の天井を突き破り、地下を揺るがす大振動を起こしていた。
 崩れる。誰もが予感した。
『感謝しよう。わざわざつけいる場所を作ってくれたのだからな。では、さらばだ』
 目的を果たしたのだろう。赤ズゴッドは元来た道を引き返し始めた。
「逃がさない! せめて仕留めるッ!!」
「いくぞ!合わせろ!」
 失敗は目に見えた。ならば、せめて結果を残す。
 レミィと天原は拳を構えた。
「俺のこの手に烈火が宿る!!」
「絶望砕けと昂り吼えるっ!!」
 赤ズゴッドへ肉薄した対のビーストソウルの腕に光が迸る。
「サァンライズフィンガァアアア!!!」
「デアボリングッ!コレダァァー!」

 目が覚めたのは、そんなタイミングだった。
 夢の中での失敗。これを夢で良かったと取るのか、それとも‥‥。