タイトル:ぽよぽよマスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/29 20:22

●オープニング本文


「よもや、こんなことになろうとは‥‥」
「校長、このままでは!」
「分かっておる!」
 マドゥー学校。それはこの地球のどこかにある、日本の感覚で言えば中学校に当たる教育機関だ。
 そこは今や、当校始まって以来の窮地に立たされていた。
「現在、我が校のアルール、アミテイ以下一部の生徒が、全校生徒をなんとか取りまとめて体育館へ避難させておりますが、しかし避難しただけでは‥‥」
「それも分かっておる!」
 校長は職員室の机を叩いた。
 まさかこんなところになるとは、彼自身考えてもいなかったのだ。
「電話回線は?」
「切れたままです」
 深いため息。
 このままでは外に出ることもままならない。助けを呼ぼうにも、出来ない。
 ひたすら待つことしか出来ないというのも、辛いものだ。

 学校の校庭にはキメラが湧いていた。
 それはあちこちに溢れだし、正門や昇降口などにも達している。恐ろしい数だ。だが、小さい。どれもがサッカーボール大の球形。よく見ると赤、青、黄、緑の4色が存在しているのが分かる。さらによく見ると、同じ色のキメラが4つくっつくと1つの塊になっているようだ。それからやや時間を置いて、小規模の爆発を起こしている。が、周囲のキメラは無事。いったいこのキメラは何なのか、よく分からない。
 また校庭に設置された朝礼台の上では、人間の手足が生えた鱈が躍っている。もちろん、キメラだ。
 マドゥー学園の危機とは、これのことだった。

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
小鳥遊 ミスミ(gb9419
17歳・♀・SF
鹿島 行幹(gc4977
16歳・♂・GP
ルディ・ローラン(gc6655
10歳・♂・HA
エルニー・トライリーフ(gc6660
16歳・♀・HA
アルフェル(gc6791
16歳・♀・HA
ティム=シルフィリア(gc6971
10歳・♀・GP

●リプレイ本文

「依頼の内容は覚えてるっすね?武器は原則禁止‥‥今回は、こいつを使って倒すっす」
 マドゥー学園敷地内にこれでもかと湧いているぽよキメラを摘み上げ、鹿島 行幹(gc4977)は言った。サッカーボール大のぽよは、触ると若干の弾力を持ちながらも非常に柔らかい。ちょっと指先に力を込めれば、摘むことも可能だ。
 体が重力に従ってびよ〜んと引き延ばされたぽよの眼(?)から、痛いのか何なのか、玉のような涙が零れる。筆者的感覚に委ねて言えば、それがまた和やかで可愛い。いわゆる癒し系だ。
「こ、これを‥‥投げ付ければ良いんですね‥‥?分かり、ました‥‥」
 説明を受けたアルフェル(gc6791)がこくこくと頷く。
 武器を使用出来るほど広くはないこの空間での、武器の使用は厳しい。銃器を使用しようものならぽよに邪魔されるか、学校施設を破壊してしまうかのいずれかだろう。だから、今回はこのぽよを用いて戦うこととなる。
 目撃証言によれば、赤、青、黄、緑のうち、同じ色のぽよが4つ集まると少々の間を置いて爆発するらしい。これをぶつけて退治する、というわけだ。

 アレを――。

 視線を向けた先の朝礼台。その上では、手足の生えた鱈が軽やかにステップを踏んでいる。時折「ヘーイ♪」「ダンシーング♪」などと奇声を上げているようだ。実に、
「キモイんじゃなくて、気持ち悪いんすよねー、アレ」
 である。これは、そんな鱈キメラを見た小鳥遊 ミスミ(gb9419)の言だ。そう、素直に可愛くない。可愛いの裏返しとかじゃなくて、可愛くない。
 小鳥遊によれば、金にもならないとのことであるが、いったい何を考えていたのか‥‥。
「これも‥‥バグアの実験なのか、それとも趣味なのか‥‥」
「バグアって、頭が良いのか悪いのか分からなくなる時って、無いっすか‥‥?」
 いったい何がしたいのか。頭痛を覚えた辰巳 空(ga4698)に、鹿島が遠い目で投げかけた。
 ラルス・フェルセン(ga5133)は、同意を禁じえなかった。
「自分にダメージ与えるキメラを増殖させて、何やってるんですかね、あの鱈」
 仰る通りで。
「とはいえ、ぽよを持ち帰りたいの。クッションに最適じゃて」
 そう言って、ぽよの上にどっかりと腰を下ろしたのはティム=シルフィリア(gc6971)だ。ぐにんと青のぽよが半分ほど潰れ、やはり玉涙を垂らす。ちょっとぽよが羨ましくなった瞬間だ。
「ぽよ!お主が!!お前が欲しいんじゃー!!」
 座り心地は抜群だったようだ。ぽよを全力で抱きしめながらの、実にストレートな叫び。どこかの変態とは違う。
 え、どこの変態かって? それは色々とげふんな事情が絡むので控えよう。
 そんな流れの中、一際やる気を見せた女性がいた。
「まどー学園の平和を護る為っ」
 マドゥー学校です、シスター。
「鍋の具材を奪うためっ」
 鱈、美味しいですよね、シスター。
「悪のキメラよ‥‥神の鉄槌を受けるのです」
 真ん中の台詞さえなければびしっと決まりましたね、エルニー・トライリーフ(gc6660)シスター。
「まあ、真面目と言えば真面目なのかなぁ‥‥」
 彼女と共に依頼に参加したルディ・ローラン(gc6655)は、エルニーのやる気をどう捉えれば良いかちょっと悩んでいるようだった。
 とりあえず、やる気はやる気だからいいのだろう。多分。


 ぽよは同色のものが4つくっつくと爆発し、消える。爆発までは若干のラグがあり、そのラグを利用して投げることも出来そうだ。もちろん、投げた先でくっつける、というのもアリだ。
 しかし全員がぽいぽい投げていたのでは、妙なところで色が被ってしまったり、色の取り合いになりかねない。そこで彼らは役割を分担し、退治に当たることにした。具体的には、2つほど同色のぽよをくっつけてストックする人、それと同じ色のぽよをくっつけて投げる人、といった具合だ。
 ルディと組んだエルニーは、目についた赤いぽよを1個手に取り、背後のちょっとだけ空いたスペースに置いた。そして振り返ってキョロキョロと見回し、次の赤ぽよを探す。お、あったあったとぽよを掴み上げ、振り返ってさっきの赤ぽよにくっつけようとした。
 しかし――。
「あ、悪魔の罠! 一筋縄では行かないようでっす」
 押し寄せるぽよにより、先ほど置いたはずの赤ぽよがどこかへ流され、いなくなっていた。残念でしたね、シスター。
 その脇では、いいから早くしてよ、と言いたげにルディが口を尖らせていた。
 しかしエルニーには、このすぐ流されてしまうぽよをどのようにして集めれば良いか、パッと思い付くことは出来なかった。
 1つ拾っては置き、拾っては置き。拾う間に流される。そんなことが繰り返されていた。
「ぽよじゃない‥‥硬貨をイメージ‥‥あ、やべ‥‥テンション上がってきたー」
 赤ぽよは、色からして10円玉。黄ぽよは5円玉。青は100円玉で、緑は500円玉。そう置き変えてみると、何だかやる気の出てくる小鳥遊だった。
 緑、とにかく緑だ。こう、緑のぽよをくっつけて、パートナーの辰巳へ‥‥。
「他人様に、お金を渡せるわけが‥‥」
 ないと申すか。
「何を言ってるんですか。仕事が終わればお給料も出るんですから」
 辰巳、ナイスフォローである。
「あいらぶおきゅうりょう、はんぎょじんごーほーむっすー」
 小鳥遊の眼の色が変わった。見える、私には見える。彼女の瞳が、銭の形をしているのが‥‥。
 溜め息と共にぽよを受け取った辰巳は足元から同色のぽよを摘み、抱えたぽよと一緒に放り投げた。
 他の班からもぽよの塊がぽいぽい投げられる。
 朝礼台のすぐ脇に落ちたそれらは次々と爆発。その爆風が鱈キメラを襲った。
「ギョギョギョッ!?」
 鱈の表面にちょっと焦げ目がついた。
 そのどさくさで。
「しっかし、こいつ‥‥グミっぽいっすね」
 鹿島はぽよをかじっていた。その弾力はさながらグミ。彼の手にある青ぽよの味は、ソーダだ。
「アルフェルも食うっすか?」
 そのまま背後のアルフェルへぽよを渡す鹿島。
 受け取り、歯型のついたところをうっかりかじってしまうアルフェル。ソレに気付いたのは、頬張ったぽよを飲み下した後だった。
 そう、これって、関節キスなんじゃ‥‥。
 思い当たった彼女は、頬から耳まで真っ赤にしてうつむいた。
 どうしたんすか、と声をかけようと鹿島。だがアルフェルは、彼の口を押さえるようにぽよを突き出した。
「な、何でもないです‥‥」
「はい‥‥」
 顔面がぽよにめり込み、それはそれで何だかシュールだ。

 また、ちょっと離れたところで歓声が上がった。
 声の主はエルニー。
「こうすれば良かったんです。ね、ね、凄い案ですよね」
 彼女の胸に抱えられたのは、2匹の赤いぽよ。畜生何故青ぽよじゃなかったんだ! という筆者心の叫びは置いておくとして。
 そう、ようやく彼女は気づいたのだ。
 ぽよを1匹ずつ重ねるのではない。2匹を抱えてルディに渡せば良いのだと。やったね、シスター。
「うん、凄い凄い。最初からこうしようって話だった筈だけど」
 ルディのそっけない反応。だがシスターは何だか自慢げだ。エルニーの胸に抱えられたぽよを受け取るルディ。胸に抱えられたぽよを受け取るルディ。胸のぽよを受け取るル――畜生、□□□□(修正テープ)!
 しかし相手はシスター。禁欲の制約に縛られ、守られた、踏み入ることの許されぬ聖なる身分。いやだからこそ、挑む価値が(省略)。
 と、こんな筆者の脳内をぐるぐる回るものなど知る由もなく、ルディは調子良く胸――じゃない、ぽよを投げてゆく。まぁ、10歳の少年に筆者の汚れた精神が理解したら、それはそれで問題だろう。

 一方で、やる気を滾らせジャンジャンバリバリと働くペアもいた。
「ほれほれ、どんどこ投げるんじゃっ」
 ぽよの2個玉をじゃんじゃかとラルスへ投げるように渡すティム。よほどテンションが上がっているようだ。
 ラルスの方も楽しんでいるようで、「ゲーセンをー、思い出しますねー」などと言っている。何故ゲーセンを思い出したのか、筆者には分からない(ふりをさせていただく)が。
 ちなみに、ティムは戦闘(?)が始まる直前に戦略を何か思い付いたようであるが、ペアを組むラルスに説明する間もなくぽよが押し寄せてきたために断念となった。彼女が恐るべき速度でぽよを集めまくっているのには、そうした鬱憤にも似たものを発散させていたのかもしれない。

 足元で自然に4つくっついてしまったぽよを蹴飛ばし、鹿島が次のぽよ玉を受け取ろうと背後に手を伸ばした。
「よし、次のを頼むっす!」
 むぎゅっ。
 その感触は、今までのぽよとあまり変わらない。だが、手触りがどことなく違った。どうせ砂でもくっついたのだろう。
 そう思った鹿島は、ぐいとそれを引っ張る。が、ぽよにしては重い。
 これはおかしい。
 いったい何なのかと、鹿島は振り向いてみた。
「あ、あの、あの‥‥」
 口をぱくぱくさせているアルフェルが、涙目で赤面していた。
 何故か。
 ぽよを掴んだはずの自分の手を見やる。それが握っていたものは‥‥直接記述してしまうと、筆者の社会的信用と名誉が著しく棄損されることとなるのでソフトに表現することにしよう。まず、アルフェルの服装について述べねばなるまい。彼女は青の強い戦闘用メイド服を着用していた。本来禁欲的であるべきそれは、女性の女性らしさを視覚的に強くアピールする部分を隠さねばならない。だが、アルフェルの零れるようなそれは、服装本来の機能の限界を超え、打ち勝っている。そう、それこそまさに、アルフェルの青ぽよと言えた。一皮剥けば、そこには肉色のぽよがあるに違いない。シスターをつれてきてくっつければ爆発するのだろうか、というのは筆者のどうでもよい疑問だ。
「ゃ、ごめん!ワザとじゃないんだ!?」
 必死に謝る鹿島。こんなところにもいやらし系がいたか、と一瞬仲間意識が芽生えた、というのもまた筆者の個人的感傷である。
「だ、大丈夫‥‥です‥‥。今は投げる事‥‥に集中、して下さい」
「あ、あぁ」
 どこか上の空な返事をしながら、鹿島はぽよをぽんと投げた。

「なかなかやりごたえが有りますが」
 いかんせんぽよの量が多い。集めて投げるだけならさほど難しい作業ではないが、時折ぐぐっと押し寄せてくるぽよに息が詰まりそうだ。辰巳はSES装置を起動させない状態で天剣をぽよに当ててやった。黄色のぽよが、獣突の効果で吹き飛ぶ。周囲もそれに巻き込まれ、辰巳の前方が広く空いた。
 それを見た小鳥遊がムッとする。
「ちょっと、今ので施設壊れてたらどうすんの? お給料が‥‥」
「壊してないですから。大丈夫ですよ」
 まぁ、結果論ではあるが。
「辰巳君、赤合わせます」
 5歩分ほど隣で、ラルスが赤ぽよ3個玉を抱え呼びかけた。
「了解です」
 呼応した辰巳が小鳥遊の肩を叩く。はいはい、と5円‥‥もとい、黄ぽよの2個玉を渡してやる小鳥遊。
 ぽよんと投げられたぽよが、朝礼台の上で花火となった。

 鱈が悲鳴を上げる。
 そう何度も何度も爆発を受けていればダメージも蓄積するというもの。
 奴の踊りも、フラフラダンスとなっていた。
「最後は皆でー」
 エルニーがぽよを抱えて大連鎖を促す。
 こくり、と頷いた面々も、それぞれにぽよを拾った。
「どうせですからー、負けずに踊りながらいきましょー」
 ラルス、謎の提案。それに乗っかったのはエルニーとルディくらいなものであったが、それで良い。
 ヘーイ! ダンシーング!! シュートォ!!!
 コンマの差で爆発を繰り返したぽよの大連鎖に、彼女らの魂の叫びが上がる。

 ばよ■■■(塗りつぶし)!


「いやぁ、助かったよ。ありがとう」
 鱈キメラが倒されたことで、ぽよも自然と消滅した。
 上手くすれば良い売り物になるやも、と睨んでいた小鳥遊。持ち帰ってクッションにしようと考えていたティム。そしてもっとぽよで遊びたかったというエルニーらがちょっと残念そうにうなだれる。マドゥー学校長からの礼などどこ吹く風。何やらドタバタだったが、依頼は達成。しかし、達成したらもうぽよは出てこない。ちょっと残念だ。
「‥‥まぁ、お腹も空いたことでしょうし、食事にでも招待いたしましょう」
「マジ?」
 即食い付いたのは小鳥遊だ。タダ飯。これは彼女を引きつけてやまないワードだろう。
「いいですね。ごちそうになります」
「いーねー。ちなみに、メニューはもう決まってるんですかねー?」
 辰巳とラルスが笑顔を見せる。
 ニヤ、と口角を上げて校長は言った。
「鱈鍋で、いかがでしょう?」