タイトル:ダービーマスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/14 21:23

●オープニング本文


 各場ゲートインから一斉にスタート。それぞれ一団となって最初のトップ争いは激しいものとなった。
 さぁコーナーに差し掛かりここで差が出てきたか。現在トップはブラートオー、さらにズシゴモク、レーオフェカと続く。
 先頭はこの3頭に決まったか――あーッとぉ! 最後尾からの立ち上がりとなった黒の帽子、ヒモノサイフが不気味に迫ってくる、400mの標識を越えその差なおも詰まってゆく! 本命ブラートオーが逃げ切らんと懸命の失踪、続いていた2頭ずるずると後退してゆく、その中ヒモノサイフがぐんぐんと速度を増してゆく!
 さぁ大穴ヒモノサイフトップに出るか踊るか躍り出るか! 逃げるブラートオー、追いかけるヒモノサイフ!
 差はもう2馬身にまで詰まっているぞ、ここで200mの標識を越えた!
 騎手も懸命に鞭を振るう! 届くか! 届くか! 届くか!? 届いた、届いたァ!
 最後の最後どんでん返しィ! 頭1つ抜きんでてヒモノサイフ最後の意地を見せ――あぁッと! まさかの乱入、ゲートから一回り大きな黒い馬が走ってくるぞ!?
 速い、速すぎる! まさに鬼足外国産ずんだ! なんと、なんとォ、ウィニングランに入ったヒモノサイフを抜きあっという間に去った!
 あの馬はいったい何なんだァ!?

 既に実況も一部意味不明ではあるが――。

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
守剣 京助(gc0920
22歳・♂・AA
御剣 薙(gc2904
17歳・♀・HD
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER
三日科 優子(gc4996
17歳・♀・HG
リズィー・ヴェクサー(gc6599
14歳・♀・ER
エルニー・トライリーフ(gc6660
16歳・♀・HA
祈宮 沙紅良(gc6714
18歳・♀・HA

●リプレイ本文

●ゲートインの前に
 急ぎ避難したとはいえ、レースに出場していた馬は未だ施設内にいた。
 ダービー発祥の地、英国の出であるリズィー・ヴェクサー(gc6599)は、そんな馬達の横を通りながら目を輝かせていた。発祥だから英国人は皆馬が好き、というにはあまりにも偏見が過ぎるところではあるが、少なくともリズィーは馬が好きだった。だからこそ、今回現れたキメラを放っておくことも出来なかったようである。
「連中は馬のキメラでレースなんてしているのでしょうかね」
 冗談めかして辰巳 空(ga4698)が言う。キメラの背に騎手がいるとの情報はない上に、キメラは1体であるから、「流石にそれはないと思うわっ」とリズィーが笑って否定した。
「ジーザリオの整備が出来たそうですよ」
 整備士の報告を受けた祈宮 沙紅良(gc6714)が中継ぎで報告する。彼女の持ち込んだジーザリオには辰巳も同乗する予定である。場所が場所ということもあり、タイヤをレース場に傷をつけにくく、また走りやすいものに交換するだけではない。戦闘では邪魔となる帳も取り外してもらっていた。
「あぁ、じゃあ行こうか」
「いってらっしゃいませぇ〜」
 連れだってジーザリオの元へ向かう2人にリズィーがひらりと手を振る。
「とはいえ、相手も速いらしいね。走って追いつけるかな」
「そんなら、ウチにいい考えがある!」
 AUKVでキメラを追走しようという御剣 薙(gc2904)に対し、したり顔で三日科 優子(gc4996)が釣竿と人参を取りだした。竿の先に人参を仕掛け、それを御剣の着込むAUKVに差し込む。
 御剣の眼前に、人参がぷらーんと垂れさがった。
「これで早く走れるはずや!」
 三日科、どやぁ。
「そんな訳あるかーっ!」
 御剣、ぺしっ。
「はっはー! 馬はともかく人間に人参は駄目だぜ」
 ここで守剣 京助(gc0920)、にこやかに三日科を諌めた。流石守剣、仕事前ということを弁えている。筆者としては少々見直した‥‥と記載するつもりであったが、撤回せねばなるまい。彼は、人参をさっと取り外し、代わりに常備しているコーラをくくりつけたのだ。
 そして「これで超OK!」とでも言いたげな笑顔。どやぁ。
「いらないっ!」
 御剣、コーラをぺちっ。
 コーラ、守剣の顔面にクリーンヒット。
 缶が破れ、中身が吹き出す。あぁ、可哀そうに、コーラは三日科にも飛び散った。
「わっ、ちょっ! うぅ、べたべたするぅ、気持ち悪いわぁ‥‥」
 筆者的に「超OK!」な状況に(虫食いになっている)
 一方で。
「ギャンブルは恋愛だけにしたいものだね‥‥」
「恋愛が、ギャンブルですか?」
 イスネグ・サエレ(gc4810)がエルニー・トライリーフ(gc6660)を口説き落とそうとしていた。相手は聖職者だが、いいのか、イスネグ。それはかなり、難易度高いぞ。相手を選べ、選ぶんだ。本気なら、本気で恋愛したいなら!
 しかしそんな筆者必死のアドバイスもイスネグには届かない。あぁ、歯がゆい。
「そうさ。まず、良い人と出会えるかでギャンブルだよ」
 さっとエルニーの手を握るイスネグ。
「そして、私はそのギャンブルに勝った。信じられないくらいさ。こ、これは運命の出会いなのかー」
 言っていることが一々臭いが、本人は割とマジの様子。
 対するエルニー、適当に相槌を打ちながら笑っている。こ、これは脈なしなのかー。
 しかしこのままではいつまで経っても話が終わらないと見たエルニー。思い切って話を中断させようと試みる。
「あ、あのあの‥‥御仕事中のお喋りはダメって主様に言──」
「美しい紫の髪の君よ‥‥一緒に極北でオーロラを見ないk」
 おぉーッと、様子を眺めていた1頭の馬が、イスネグを思い切り蹴り飛ばしたァッ!
 恋路に関することとなると、やはり馬に見られているのだろう。
「ふむ、やはり馬に蹴られたか‥‥まだまだ修行が足りないようだ」
 もはや慣れっこなのか。吹き飛びながらも、イスネグはそんなことを呟いていた。

●出走
 実況は私、赤嶋アナウンサーがお送りいたします。現在馬キメラは出走口より400mほど進んだ位置。イスネグ、ゴーグルの青年が最初に飛びだし、体勢を立て直し駆け出した。
 続いてジーザリオ、祈宮がドライバーとなり、荷台には辰巳の姿。大きな車体でぐんぐん出てゆきます。
 さらにはバイク、ナーゲルに搭乗した守剣、後ろには三日科を乗せている。バイクから突き出ているのは守剣の武器、スティンガーブレイドだ。あぁッと、三日科、それをどうするつもりか、人参のぶら下がった釣竿をかついでいるぞ!
 後方からAUKVの装輪走行で賭けてくるのは御剣だ。先を行くナーゲルにも負けない速度、身軽な分ずいずい追い上げてゆく。その後ろ、最後尾からの出走となったエルニーはバイクに跨っている。バイク持ち込みの報告はなかったがいったいこれはどういうことだ!?
「私のです‥‥」
 どうやらイスネグのバイクをそのまま使用した模様。
 そしてそのイスネグに駆け寄るリズィー。この2人は追いかけず、1周する馬を待ち受ける作戦のようだ。
 さぁカメラを先頭に戻しまして、馬キメラは依然猛スピードでの疾走。追いかけるジーザリオを抜きまして、ナーゲルがぐんぐんと飛んでゆく、距離が詰まる、位置はゴール手前200mの標識、放送席からも姿が見える、届くか、届くか、一歩足りないか、ゴールライン切った! キメラ逃げ切り勝ちィ!
 しかしこれはレースではない、なおもナーゲルがぐんと距離を詰める、後方からはジーザリオ、御剣が追い上げているぞ。
「は、早い、早いです」
 あーッと、エルニーがカーブに手間取っているか、初めてバイクを運転するとの情報、コーナーを大きく回り距離をロスしてしまっている、追いつくか、追いつけるのか!?
「追いついたぜ! さて、そんじゃ適当にいきますか」
「ちょっ! 何言っとるん!?」
「ああすまん、口に出すのは駄目だな。反省反省」
 ここで守剣のナーゲルが馬に並んだ! 馬体と車体を徐々に近づける。
 三日科が釣竿を振り上げた。それを投げるように下ろす。
 馬の鼻先に人参がぶら下がったァ!
「馬さんこっちやでー。こっちの人参はあーまいでー」
 まさか、まさかの馬釣り作戦!
 これに食い付くか、食いつくのか、そもそも三日科、何を考えているのか!
 しかしキメラ、なんとなんとこれに食い付いた! 人参を咥え、釣り糸がピンと張る。
 あぁっ、三日科、馬キメラによって振り落とされた! 転倒するかと思いきや、なんと見事に着地、竿を握りしめたまま必死の疾走を見せる!
「都合よく目覚めろ! ウチの潜在能力!」
 凄い脚だ、引っ張られるように三日科が時速100kmに追いついている!
 しかしその額には汗が浮かんでいる、非常に苦しそうだ!
「馬鹿、手放せ! こっちに掴まるんだ!」
 守剣、三日科を回収。この間にずるずると後退、その横からぬらりと飛び出してくるのは祈宮のジーザリオ、荷台では辰巳が仁王立ち、キッとキメラを睨んでいるぞ。これに祈宮、ハンドルを切ってキメラに寄せる。
「ぐあらぁッ! とっまっれー♪」
 唸り声のような歌声! 辰巳の呪歌が馬に向けられる!
 これが効いたか、馬の脚が徐々に徐々に鈍くなっている。
 そこへ御剣飛んできた! 手甲からは光線が伸びている、これが彼女の武器か、ぐんぐん追いすがり通り抜け様、キメラの脚を薙いだ! 血が出る間もなくキメラの脚が焼ける。
 迎撃組との距離が詰まってきたか、リズィー、イスネグ両名が体勢を整える。
「いすいす、よろしくっ☆」
「い、いす‥‥?」
 リズィー、イスネグに愛称をつけた様子。戸惑いながらもイスネグがリズィーに練成強化をかける。リズィーはメリッサと名付けた機械人形を操り、雷撃を吐きだした!
 これがキメラに直撃、馬キメラが激しくよがる。
 チャンスと見たイスネグ、ホーリーナックルを構えたがここで思わぬ来客! 猛スピードでエルニーが突っ込んできた!
「当たらないと主様の罰‥‥」
 追い抜き様に超機械での一撃! キメラに掠め、そのままの速度で一気に駆け抜けていった!
 危うく轢かれかけたイスネグが大きく仰け反りバランスを崩す。動きを鈍くしたものの、キメラもそのまま駆け抜けていった。
 ここでさらに祈宮が加速、一気に追いすがってゆく。
 運転をしながら呪歌を歌っている様子。
「♪桜肉〜桜肉〜 食べて美味しい桜肉〜♪」
 お腹でも空いているのか、しかし効いた! 馬キメラ、さらに速度を落とす。
 その顔面を、御剣のエネルギーガンが捉えた! 馬体がぐらりと大きく揺れる。
 後方から飛んできたナーゲル! 先端の刃がギラリと光る。御剣も再び光る爪を煌かせた。
「俺とナーゲルには勝てないぜ! 三日科、ハンドル任せたぜ」
「よしきた、ほら、やりぃ」
 運転を三日科に預け、守剣、愛用のワルキューレを構える。
 カウルを蹴り、守剣が飛んだ!
 ナーゲル突っ込む!
 すれ違うよう御剣が迫る!
 キメラ動けるか、いや動けない、決まる、これは決まったか!!
「最高の走りだったぜ。お礼に最高の一撃をくれてやらぁっ!」
「フルスロットルや!」
「引き裂きます、沈みなさい!」
「「「はっはー!!」」」
 決まったァッ!
 押切勝ち凄い技だ!
 前後、さらに空中からの強烈な攻撃!
 これには流石にキメラも立っていられない、恐るべき必殺技だ!
 御剣の爪が胴を擦りぬけ、三日科の突撃で完全に余力を失ったキメラへ、守剣の一刀両断。
 もちろん呪歌を始めとするサポートによりキメラが弱ってこそのトドメとなった。
 傭兵団圧勝!
 以上、実況は私、赤嶋アナウンサーでした。

●戦い終わって
 ブレーキの仕方が分からず暴走していたエルニーだったが、バイクで並走した守剣らが必死にレクチャーすることでなんとか停止させることに成功。彼女自身も無事だった。
「はぁー、流石にちょっと怖かったでっす」
「怖かったのは私の方です‥‥」
 轢かれかけたイスネグが玉のような涙を垂らす。それでも朗らかに笑うエルニーは、まるで天使のようで、かつ、イスネグの心を抉っていた。
 あぁ、彼に春は訪れないのか。
「まぁまぁ、無事だったのですから、良いではないですか」
 そんなイスネグを慰めるように、リズィーがポンと肩を叩いた。
 立ち直りの早い男、イスネグ。すぐに気を良くしたようで、その手を握り返し、キラリと目を輝かせ、ぐっと顔を寄せた。
「あぁ、ありがとう。元気が出たよ。ふふ、こうしてお相手していただいたのも何かの縁。これって運命――」
「何を仰っておられるのか把握出来ませんわね」
 イスネグ、撃沈。彼の春は遠い。

 辰巳らは戦場となったレース場を見て回っていた。実弾は使用しなかったために弾丸を這いつくばって探すような必要はないのだが、やはり荒れてしまっている。専用のタイヤに換装したとはいえ、これもいた仕方ないだろう。
「ここで、またレースがあるんですよね」
 ぼそりと呟く。
 だからこそ、実弾の使用は控えるよう触れられていたのだ。
「やはり、少し整備が必要そうですね。専門の方に任せるべきでしょうけど」
 頬に手を当てながら祈宮がぐるりと周囲を見回る。空いたもう片方の手は腹部に当てられている。
 ‥‥お腹空いたんですね、祈宮さん。
「一通り見回ったら馬刺しでも食って帰ろうぜ!」
「お、えーなぁ」
 ゲラゲラと笑う守剣に賛同したのは三日科だ。馬を倒したのだから馬刺し。その連想は分からなくもない。
 言葉にはしなかったものの、祈宮も表情で賛同している。この後の食事は決定か。
「あ、ちょっと来てください!」
 そんなやりとりをしている間に、御剣が何かを発見した模様。
 わらわらとそこへ集まってみると、千切れた人参が落ちていた。恐らく戦闘中、三日科が使用したものだろう。
 だが御剣が問題としたのはそれではなく、そのすぐ近くでキラリと光るものだった。
「おわっ、釣り針や!」
 あの人参をひっかけるのに使用していたものだ。辰巳がレース場の様子を見に出なければ発見出来なかった可能性もあったことだろう。
「危ないところだったな。その辺に破片とかはないか?」
 釣り針を拾い、針の様子を確認。特に欠けている様子はない。
「こっちにはなさそうだな」
「大丈夫そうですね」
 とはいえ、全く何もないとも限らない。ひとまず針の落ちていた位置をメモし、後ほど係員に渡すこととした。
「大丈夫そうかなー?」
 リズィーを先頭に、イスネグ、エルニーが合流した。
 特にリズィーはご満悦の様子。大好きな、馬の写真を撮ってきたのだ。
「あぁ、ちょっとだけ報告して、終わりだな」
「じゃ、そろそろ帰りましょうか」
 辰巳の言葉にエルニーがくるりと背を向ける。
 仕事が終わったのだから、これ以上留まっている理由もないだろう。
「はっはー、馬刺し食い行くぞー! 全員強制参加な!」
 守剣が叫ぶと、リズィーが悲鳴を上げたのも、無理はなかったのかもしれない。