●リプレイ本文
●開会式
「では、本大会の主催者、スコット・クラリー大佐より、ご挨拶を賜ります」
下士官の司会を受け、基地のことは部下に任せてきたクラリー大佐が壇上に上がる。
軽く咳払い。被っていた帽子を外し、ぐるりと会場を見まわす。なかなかの客入りだ。表情には出さぬよう留意しつつ内心ほくそ笑んだ大佐は、すっと息を吸い込んだ。
「諸君、MOMONOSEKKUである! 会場の諸君も、テレビの前のお友達も、出場者の面々も、この宴を存分に楽しんで欲しい。以上である!」
実に簡素な挨拶であった。
開会式を長々とやっても仕方ない。だいたいのプログラムや所用時間、ルールの説明などが紹介されると、出場者は最初の試合まで控室へと戻っていった。
この時、秋姫・フローズン(
gc5849)がロッカーに頭をぶつけていたことは、女性陣しか知らない。しかしそれが意味するところを知る者は、いなかったことだろう。
何せ、セラ(
gc2672)も似たようなものであるのだから。ただ覚醒して、気合を入れたのだろうと、その程度にしか受け取らなかった。
●一回戦
「さぁ始まりましたODAIRISAMA争奪トーナメント! まずは一回戦対戦枠A! 孤高の荒鷲、沙玖(
gc4538)とセラの対戦となった。大佐、この勝負、どのように見ますか?」
「男女の違いはあるが、能力者ともなればそんな差など簡単にひっくり返る。私の睨んだとこ――」
「おぉっと、睨み合いの状態から沙玖がついに動き出したぁッ!」
実況も兼ねた下士官の質問に答える解説役、大佐。しかし悲しいかな、一番重要なことを語る前に戦況が動いたようだ。
互いに相手の攻撃を引き込み、受けから攻めへ転じる戦法を取っていただけに、しばらく睨み合いが続いていたのだ。
だが、どちらも動かねば戦況もまた動かない。
ついに痺れを切らした沙玖が先に仕掛けた。
「左手が疼くぜ、ハハハッ!」
対するセラは、まだ幼い少女。しかしそれでも沙玖は容赦しない。全ては勝利のためだ。
ハンマーの要領で振り下ろされた左手を、セラは弾き落とすようにいなす。そのまま体全体を捻り、右手のアッパーを繰り出した。
「ふ」
不敵に笑んだセラ――否、もう1つの人格、アイリス。すっと片足を引いて鼻先すれすれでかわす。
振り上げられた腕をぱしりと叩きながら、足払いをかける。すると沙玖の体が宙でぐるりと回り、マットに叩きつけられた。
「普段の好もある。こうして戦ってみるのも面白いと思っていたが‥‥」
着物に狐の耳、尻尾。OHINASAMAならぬOINARISAMA気分のアイリスは、完全に勝ち誇っていた。
「さぁ、どうする。まだやるか? それならレディの体をべたべた触りたがる少女愛好家のレッテルを貼ってあげよう」
「‥‥遠慮します」
「あーっとォ、沙玖、降参だー!」
「ふん、私の予想――」
「まさに一瞬! たった一撃! あっという間にセラが次に駒を進めたぞ!」
続いては対戦枠B、漸 王零(
ga2930)と旭(
ga6764)の、熟練傭兵同士による勝負となった。
「いい機会だね。本気でやらせてもらうよ!」
烏帽子に豪華な着物。先のセラもそうだったが、旭よ、そんな格好で大丈夫か。
「男が相手なら、遠慮はしない」
対する漸はやる気十分の様子。
先に仕掛けたのは旭の方だ。
「ハァ――ッ!」
加速からの飛び蹴り。
いきなりの大技だが、漸はこれを華麗に回避。
「なかなかいい攻撃、だが!」
振り向きの勢いから回し蹴り。
肩口に受けた旭が転げる。
追撃をかける漸。しかし旭もやられっぱなしでなく、掴みかかってきた漸の手首を握り、マットに叩きつけ、それを支えに横になった体勢からサマーソルトの要領で膝で相手の顎を捉える。
「ぐ――ッ」
抑えつけられた手を中心に体が半回転。今度は漸が伏せられる番となった。
この派手なファイトに、観客も熱狂。
下士官の実況すら、客の耳に入らないほどの盛り上がりだ。
よろりと立ちあがる漸だが、この好機を旭は逃さない。
「飛べぇっ!!」
手で相手の足を払う。ただ払ったのではない。そこからの打ち上げを狙った一撃だ。
「ぬぉ!?」
漸が宙を舞う。
ズンと腰を落とし、旭が構えを取る。
「これは、これはもしや!」
実況にも緊張が走る。
「シャァイニングゥ!ナントカァァァァッ!!」
実際に何をしたのか。それは本報告書の読者の想像に任せるとしよう。
旭、一回戦突破である。
C枠。金城 エンタ(
ga4154)と秋姫という組み合わせ。大佐と縁の深い2人であるが、籤で決まってしまったのだから仕方ない。金城は、知っている人なら知っている、その格好は、女物。どんな格好をしているか、それは読者の想像にお任せしたい。ちなみに筆者が思い浮かべるものは、ボンt(破れている)
彼女らは、どういうわけか彼女ら自身が「一日デート権」という形で賞品になっているらしい。俄然勝利に向けて気合いが入る。
どちらかが優勝すればいい。そうすれば、少なくともデート権が行使されることはない。
と、金城は考えていたのだが‥‥。
「本気で‥‥行くぞ‥‥」
秋姫は頭を打った衝撃で性格が入れ替わってしまったようだ。
「え、えぇ!?」
一気に掴みかかった秋姫。そのまま豪快に投げようとする。
だが、金城も歴戦の傭兵。体が勝手に反応したようで、伸ばされた手を捌き、気が付いたらガラ空きな鳩尾に重い一撃を繰り出していた。
「あ、え、あ、ご、ごめんなさい‥‥」
崩れ落ちる秋姫。
あまりに一瞬のことで、観客がどよめく暇すら、なかったほどである。
D枠では一風変わった戦いが繰り広げられた。
「デッドリードライブ!」
怪盗黒いチューリップとして参戦したラサ・ジェネシス(
gc2273)が、対戦相手のルリム・シャイコース(
gc4543)に投げを狙って掴みかかる。
が、ルリムはこれを回避。彼女の手が、どことなく寂しげに宙を泳いでいる。
しかしチューリップ、これにめげてなどいられない。
「正中線四連突ゥ!」
今度は体の中心を狙った拳を突き出す。
それより早く、ルリムはラサの被るシルクハットに生えたチューリップを引っ掴んでいた。
「ひぃぃ」
拳は一気に力を失い、へなへなとルリムの腹部に触れるだけだった。ルリムは適当に手の届くところを掴んだだけなのだが、どうやら黒いチューリップ、そこが弱点であったらしい。
「スポーツマンシップに則り正々堂々ジャンケンにて勝負を行う、そして最初はグー、ジャンケンホイである」
ジャンケンがスポーツかどうかはともかくとして、どういうわけか黒いチューリップも弱々しく応じ、その結果としてルリムが勝利した。
「ふっ」
誇らしげにルリムが笑む。ついでに掴んでいたチューリップを引っこ抜いた。
「あ、あぁん‥‥」
黒いチューリップ、ダウン。戦闘不能とレフェリーが判断するや、彼女は係員の手によって控室へ運ばれていった。
一回戦のラストを飾るE枠。
『何か色々間違ってる気もしなくは無い』
この催し自体をそう評していたのはエルト・エレン(
gc6496)だ。C枠で勝利を果たした金城とのデートをご所望の様子で、俄然気合いが入る。
「さぁエルト・エレン対ビリィ・ザ・キャットことビリティス・カニンガム(
gc6900)の、女性同士の勝負となりました!」
『男なんですけど‥‥』
そう、エルトはこんな容姿だが、立派な男の娘である。誤字ではない。決して誤字などではない。
対するビリィは、10歳そこそこの少女だ。
「かかってこいよ!」
ビリィ、やる気はエルト以上だ。
リングに上がるまでは闘志を燃やしていたエルトだが、相手が女の子では本気で当たるわけにはいかないという、紳士的精神が働いてしまったようだ。どう戦うべきか、頭の中が真っ白になっている。
だが勝負を望むビリィは手加減などしない。
すっとエルトの側面に回り込むや、脇腹を思い切り殴りつけるビリィ。
「――!?」
派手に転がったところへ、ビリィはさらに飛びかかる。
腕を締め、それを足で挟むようにし、ぐいと引っ張る。
「極まった、アームロックだァ!」
レフェリーがマットを叩き、カウントを取る。
しかし一度極まった関節技に、エルト、なかなか脱出が出来ない。
『ギブアップ』
覚醒効果で空に燐光が走らせ、そんな文字を浮かばせるエルト。
あっさり決まった試合の多い一回戦となった。
●二回戦ダイジェスト
一回戦E枠で勝ち残ったビリィは、人数調整のためそのまま三回戦へと駒を進めるラッキー枠となった。
二回戦の初戦は、A枠B枠の勝者となったセラと旭の対戦。漸を相手に熱く激しいバトルを展開した旭だったが、相手が女の子となると本気でぶつかることが出来ず、セラの「□リコンレッテル作戦」(伏せ字なので問題ない)に旭撃沈。セラが決勝へと進んだ。
次の対戦枠は金城とルリムの対戦。だがこちらは、宗教上の理由で、優勝しようとも金城とのデート権は破棄するとルリムが持ちかけていた。金城もそれならば、と、また女性に全力で当たるのも気が引けるし、ルリムに勝利を譲った。
決勝となる三回戦は、セラ、ルリム、そしてビリィという三つ巴の対戦となったのである。
●三回戦
「さぁついにここまで来ました、ODAIRISAMA争奪戦ファイナルバトル! 壮烈なトーナメントを勝ち抜いてきた猛者達を紹介しよう。まずは表裏一体のマドンナ、その愛くるしい姿と、脅迫じみた台詞、まさにギャップにものを言わせたスーパーアイドル、セラ!」
「アイリスだがな」
下士官の紹介にもぼそりと呟くアイリスだが、まぁ、それはそれだ。
「続いてはなんとジャンケンでここまで勝ちあがってきた婦人、ルリム・シャイコース!」
その戦法とは裏腹に、血沸き肉躍る荘厳かつインパクトのある音楽と共にルリムが登場。会場に向かって小さく手を挙げながらリングイン。
「最後はキャットスーツのザ・キャプテン! ビリィ・ザ・キャットだ!」
二回戦をパスしてここまで昇りつめたビリィが華麗にリングに上がる。
「では、決勝戦のルールと、大佐にご説明いただきたいと思います」
マイクを握り、大佐が立ち上がる。
どうも決勝戦に限り、何かルールが違うようであるが‥‥。
「難しいことはない。今まで1対1での勝負を行ってきたが、これを1対1対1の、バトルロイヤル形式での勝負となる。戦闘不能、またギブアップしたものを敗者とする。つまり、最初に敗者となったものはSANNINKANJOの枠に入り、最後まで残った者がODAIRISAMAとなる。その中間がOHINASAMAというわけだ。願い事が聞き入れられるのはODAIRISAMAとOHINASAMAであるので、是非とも尽力していただきたい。以上である!」
「ちなみに解説は我輩、黒いチューリップが務めさせていただきます」
「貴様‥‥」
いつの間にやら復帰したラサ――否、黒いチューリップが解説席に座っていた。立ち上がってしまったがためにチューリップによって席が奪われてしまったが、それはそれ、である。
大佐が座る席などないまま決勝戦のゴングが鳴らされた。
「やはりここもスポーツマンシップにぐふっ」
ダークホースとでも言うべきか。ほとんどジャンケンのみでここまで勝ちあがってきたルリムが、またもジャンケンを持ちだそうとしていたが、相手は10歳そこそこの少女、それも2人。自分よりも大きな相手と戦わねばならなかったため、遠慮も容赦もない。
それに大きな彼女を先に何とかしてしまえば、後は体格の近い者同士、イーブンの勝負に持ち込めるため、勝機もあるというもの。
目配せすら不要。互いの考え方が一致したことによる、アイリスとビリィの同時攻撃。
弾き飛ばされるルリム。ロープに腕を預けるようにもたれ、そこから体勢を立て直そうとするが、その時にはアイリスとビリィが彼女の眼前に迫っていた。
少女2人による滅多打ち攻撃は、それはそれは筆舌に尽くし難いほど壮絶であった。反撃をする隙を与えぬ攻撃の応酬。子供って、凄い。
「ぐ、スポーツ、マ――」
ルリム、戦闘続行不能。この時点でGONINBAYASHIとSANNINKANJOに収まる面々が確定した。
ここからどちらがODAIRISAMAに昇りつめるのか。どちらが勝とうと得られるものは勝敗のみで与えられるものは大して変わらないのだが、この先は互いの意地とプライドの戦いである。
「遠慮はいらない」
にやと口角を持ちあげたアイリスがビリィを挑発するように手招き。
それにビリィが乗っかる形で、両者が組みあう。互いに足を薙ぐようにしながら、反撃の機会を伺った。
「もらった!」
足に気を取られたビリィの腕をぐいと捻り、引き倒すアイリス。
さらに追い打ちをかけんと襲いかかってきたアイリスを、だがビリィは反撃に出た。
倒れる勢いをそのままに両腕をマットにつき、ぐるんと体を逆立ちの要領で持ち上げる。先に旭が見せたサマーソルトに近いが、違う。前のめりになるアイリスの首を足で捉え、相手の体を撒きこんで放り投げた。
「アーッと! ビリィ・ザ・シザーズ炸裂だッ!」
チューリップの解説に熱が入る。もはや実況なのか何なのか分からない。ちなみに席を求める大佐の視線にも熱が入るのだが、きっと報告書の上では不要のことであろう。
この一撃で、アイリスがダウン。勝者はビリィと決まったのである。
●お願い事
ODAIRISAMAとなったビリィの願いは、なんと大佐との対戦であった。
ノリと勢いか、すぐさまその場でエキシビションマッチが執り行われた。
「ふん、子ども相手は不本意ではあるが」
リングに上がった大佐はそう呟いたが、
「舐めるなって。かかってきな、『おっさん』よぉ!」
ビリィの放ったこの言葉に乗らないのも大人気ないかとも思ったようだ。
しかし身長差があるため、拳での攻撃は少々やりにくい。
「むぉッ!?」
ローキックで攻めた大佐だが、それはビリィの予測するところであった。
放たれた蹴りに自ら飛び込み、組み倒してのマウントを奪う。
「へへっ、参ったか、おっさん!」
「‥‥なかなかやるようだ。流石ODAIRISAMAといったところだな」
ビリィの作戦勝ちのようである。それでいいのか、大佐。
その後はOHINASAMAたるセラのお願いということで、大佐を含む全員で和服を着、簡易な雛段を作っての記念写真撮影となった。
女性陣がよく似合っていたことは言わずもがな、男性陣もまた、様々な意味でONIAIであったようである。
後日。
大佐が年端もいかない少女に敗北したことが、基地でちょっとした話題になっていた。
「大佐って、マジで負けたんか?」
「ばーか、華を持たせたんだよ」
真相は不明。だが、勇気と共にそのことを直接尋ねてきた者に対して、大佐は必ずこう答えていた。
「もっと身近にUPCである」