タイトル:【RAL】熱砂の騎士マスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/24 04:56

●オープニング本文


 UPCが今後を見据えて新たな拠点を築くことにしたアドラールという街は、かつては同じ名をもつ県の県都だった。
 アドラール県の南部はアルジェリア−マリ間の国境の大部分を占め、またモーリタニアとも一部接している。
 尤も、県都は県の中央部に位置している為国境までの距離という意味では周辺国のどれもが近すぎず、遠過ぎもしない。
 この街を拠点に選んだことは、廃墟状態にあって再利用出来る資源が多くあったこともあるが、そういった地理的な理由もあった。

 資材も粗方搬入し終わり、後はそれを基地に仕立てるだけとなる。
 ただ、UPCにより大分キメラ等のバグア勢力が駆逐されているとはいえ、御世辞にも以前チュニジアに要塞を作ったときほど状況に余裕があるとは言えない。
 故に――拠点設営と並行して、次なるステップにも手を入れる必要があった。

 アルジェリアと、周辺各国の国境線に防衛ラインを敷く――。

 無論、人材にも資材にも限りはある。
 一度に全ての国々に対してというわけにはいかず、準備が出来次第の段階的なものとなる。
 とはいえ防衛ラインが完成すればそこで向こう側からの戦力流入を防ぐことが出来、それはすなわち安全な拠点構築にも繋がる。
 防衛ラインを設立するにも、国の内外両方から敵の影が迫る恐れも当然あったが――。
 傭兵たちの助けを借りることで、その状況を切り抜けようということに決定したのだった。

「失態だな」
 報告を聞いたその男は、吐き捨てた。
「いかに彼奴らが勢いづいていたとはいえな。我らの威光も地に落ちたものよ」
「でもぉ、これがげんじょー? だしぃ」
 椅子から立ちあがった男の横で、若い女がクスクスと笑う。
 ふん、と鼻を鳴らし、男は銀色の鎧を身にまとった。ところどころに金の装飾。その兜は顔を隠しながらもビシリと伸びるツノが凛々しい。そして肩に下がる紅のマントが、一層彼(といっても鎧だが)をエレガントに仕立てていた。
 対して、女は軽装。赤いビスチェに黒のベスト。下はショートパンツに白と紫のストライプなニーソといういでたちだ。ボタンの外れたベストから覗く未発達ながら完成されたその体は、見る人によってはある感情をこみ上げさせるものがあった。背中には蝙蝠の羽を模した飾りがつき、頭にはジャック・オ・ランタンのバッチがついたミニハットを被っている。現代的、というにも、はっちゃけていた。
 この二人が並んでいると、どうにもハロウィンを彷彿とさせる。
「グロウを」
 コツ、と床をノックするように歩きながら、男が女に声をかけた。
「あー、またそうやってぇ! あたしとあの馬、どっちが大事なのよぉ!」
「どちらも大事だ。グロウは我が相棒として、お前は私を支えてくれる者として、等しく愛しているつもりだ」
「あたしって、馬と同列‥‥?」
 大いにショックを受けた女がぶすっと頬を膨らませる。
「ふーんだ。まぁいーけどさぁ。それで、出るんでしょ?」
「当然だ」
 鎧の男は短く告げる。
 あたしも連れてってよね。と、条件を突き付けた女はパタパタと先を行き、男が基地の外へ出る頃には黒き馬グロウを連れてきた。
 ひょいと男はグロウに跨る。そしてその後ろに女が飛び乗った。
「ハィヤッ!」
 手綱を握り、足でグロウの腹を叩く。前足を振り上げて嘶いたグロウは、モーリタニアの砂漠を駆けていった。

●参加者一覧

聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
ヴァイオン(ga4174
13歳・♂・PN
梶原 暁彦(ga5332
34歳・♂・AA
来栖 祐輝(ga8839
23歳・♂・GD
ジン・レイカー(gb5813
19歳・♂・AA
グロウランス(gb6145
34歳・♂・GP
緑(gc0562
22歳・♂・AA

●リプレイ本文

●銀の大地の向こうから
 北半球とはいえ、赤道に近いアルジェリア南部は、季節的に冬でも昼間はやはり熱かった。特にUPCが防衛ラインを敷こうというところは丁度サハラ砂漠の辺りになり、照りつける太陽を白砂が反射して眩しく、陽炎を立ち上らせる。
「何もこんなとこにライン敷くこたぁねぇのによう」
「ボヤくな。お偉いさんは俺達みたいな末端の兵の気持ちなんざ考えてねぇのさ」
 キメラの接近を感知したUPCは急遽歩兵を用意し、護衛として雇っていた傭兵と共に迎撃に向かわせた。後方では万が一に備えさらなる迎撃態勢が敷かれているが、ともあれ、送り出された彼らは愚痴としかとれないような言葉を交わしながら熱砂を進んでいた。
「広いなあ、サハラ砂漠」
「チッ‥‥やっぱ暑いなぁ」
 どこを見ても砂、砂、砂。まるで世界の果てに来たような気分になったヴァイオン(ga4174)と来栖 祐輝(ga8839)が呟く。
 いや、砂だけではない。確かに、いる。
 報告にあったキメラが。
「数だけはやたらと多いですね‥‥」
 地平線と重なっていたそれは、やがて徐々にその姿をはっきりとその眼に捉えられるようになり、緑(gc0562)は生唾と入れ替えに言葉を吐きだした。
 それもそうだ。砂煙が昇るほどの数なのだから。
「護衛というより、こりゃ乱獲だろう」
 苦笑を漏らすグロウランス(gb6145)。キメラの戦闘能力にもよるが、確かにそう強くないのなら狩りとも言えるだろう。
 やる事に変わりはないが。
「さてと、それじゃあ‥‥始めようぜ?」
 獅子牡丹を構え、目の色を深めたジン・レイカー(gb5813)がニヤリと笑む。さぁ、キメラ退治の始まりだ。

●砂を駆ける
「作戦を開始する」
「兵士の皆さんは25人1チームとして行動を」
 梶原 暁彦(ga5332)の合図に次いで、ヴァイオンが指示を飛ばす。
 随行した総勢100名の兵は予め決められた通りの班に分かれ、キメラに攻撃をしかける。
「アタシが撹乱する‥‥トドメは任せたよ! ‥‥さぁ、狩り捲ろう♪ ShowTimeだ☆」
 先陣を切って駆けだしたのは聖・真琴(ga1622)だ。
 敵は狐型のキメラ。とびかかってくるものを爪で裂き、群がるものを靴に取りつけた刃が抉る。そうしてまだ息のあるものを、兵達が次々に仕留めていった。
「一般兵、前に出すぎるなよ!」
 シエルクラインで弾幕を展開し、グロウランスが怒鳴る。彼ら能力者にとってみればあっという間に屍の山を築くことも不可能ではないほど脆いキメラのようだが、エミタのない一般兵にとってみればやはり脅威そのもの。指示通り25人で1匹を取り囲み、一斉に射撃することでようやく瀕死に追い込めるといった具合だ。
 しかしそうして1匹1匹相手にしたところで、気がつけば自分たちが囲まれているといった事態になりかねない。まず、個体が一般人に比して圧倒的に強いのだから包囲するのですら非常に困難を伴う。
 無理に押し上げては一網打尽されるのも想像に難くない。
「ここは通せませんねぇ」
 緑がガトリング砲から弾を撒き散らす。彼ら傭兵の背後に正規兵は陣取り、自ら攻めるよりは援護に近い形での戦闘に移行した。

●熱砂からの来訪者
 無限に湧き出てくるかとすら思えた狐キメラも、兵士が数名負傷して後退したのみで、曰く乱獲は概ね順調といえた。
 もうひとふんばりすれば、駆逐も可能。もしかしたらキメラの方から逃げ出すかもしれない。そんな希望すら見えてきていた。
 だが、ここは最前線。そう簡単に済む方が妙な話であった。
「増援か?」
 魔剣を振り狐を引き裂いた漸 王零(ga2930)が砂漠の彼方へ視線を投げる。
 狐とは違う、もっと大きな影が近づいてくるのがその眼に捉えられたのだ。キメラか? だとすれば、この狐達のヘッドだろうか。
 そんな予想は、当たってると言えば当たっていた。
「我が名はグリフィス! 愛馬グロウと共に馳せ参じた!」
 騎士だ。通常のサラブレッドに比べ一回りほど大きな黒馬に跨り、鎧に身を固めた男が名乗りを上げる。
 人間。いや、太陽の位置から方向を割り出し、この騎士がやってきた方向を考えると、そうではない。モーリタニア方面、つまり敵地から来た‥‥。ということは、
「バグアか!」
 梶原がギラと睨みつける。
「いかにも。そしてもう1人」
 グリフィスと名乗る騎士の背後から、戦場に来るにはあまりにも不似合いな姿の少女が顔を見せた。馬(恐らくキメラだろう)グロウからひょいと飛び降り、やや未発達な胸も思わず漏れてしまいそうなポージングを決めた少女は、片手に持った銃をこんこんと肩に当ててウィンク。
「あたしはアイリーン、だよぉ。よろしくねぇ♪」
 ちなみにどんなポーズだったのかは本報告書の読者の想像にお任せする。ちなみに筆者が想z(蛇足につきカット)
「‥‥ちっ、色気のイの字もない小娘か。二十年後に出直してくるんだな」
 自称熟女フェチ、グロウランス。もっと熟れた、そう結婚すらも諦め始めたアラフォー辺りから本番だと(きっと)豪語している(に違いない)彼は、シッ、シッとアイリーンを手で追い払う仕草。筆者には理解出来n(カット)
 その横では、言葉こそ発しないが、来栖が視線を逸らそうとしつつもちらちらとアイリーンに目がいってしまう様子。分かる、分かるぞ、真っ赤なビスチェが縁取r(カット)
「く‥‥見た目お子様にも負けるのか私は‥‥」
 だがそんな様子をしっかり見ていた聖は、そういえば自分にはそういう視線は向けられなかったなと思い、苦笑。いやいや聖さん、筆者は結構好m(カット)
「ふふん、いーのかなぁ? 後悔するよ、オ・ヂ・サ・ン」
 銃を構えたアイリーン。薬指で自らの下唇を撫でながら、銃のトリガーを引いた。
 放たれた閃光が、グロウランスの足元を抉る。
「なっ、ぐおぁッ!」
 天を貫かんばかりの高さまで土柱が立つ。わざと狙いを外したのだろう、だがその余波にグロウランスが綱のない強制逆バンジーを体験することとなった。
 どうやらその力は、本物のようだ。
「歩兵隊後退!」
「傭兵の方で強化人間を抑えます。こちらはキメラの駆逐に当たりましょう」
 ヴァイオン、緑が兵に指示を与え、共に後退する。
 音も立てず砂に埋まるよう墜落したグロウランスを見て分かるよう、非能力者では到底敵う相手ではない。
「強化人間? あーんなのと一緒にしないでよねぇ。グリフィス様、こんなの、さっさと殺っちゃおうよぉ」
「させんッ!」
「見とれてる場合じゃ――!」
 梶原、来栖が銃撃。
 銃弾は騎士と娘の間を通り抜け、二人を分断する。
 その間に、傭兵達はそれぞれ目星をつけた相手へと向かっていった。

●熱砂の小悪魔
 アイリーンの方へ向かったのはジンとグロウランスの2人だ。おい、お前たちだけで大丈夫かと筆者は思わず突っ込みを入れたいところだが、そうしたのだから仕方ない。
「あーぁ、ちょぉっとは面白いことしてくれるかなぁ? なんて一瞬思ったのが馬鹿みたい」
 数の少なさにがっかり、といったところだろうか。本気を引き出そうと銃撃による挨拶をしたのに、これでは意味がない。
「そう言うなよ。せっかくだ。お互い、楽しもうぜ?」
 余裕など本当はないはずだが、ニタリと笑みを浮かべるのはジン。戦うことを楽しんでいるのか、それはよく分からない。
 だが、少なくともアイリーンは若干やる気を起こした様子。
「ふーん‥‥。グリフィス様のぉ‥‥うーん、1%くらい? はかっこいいかなぁ」
 にこ、と笑い、彼女は銃を構える。
「お持ち帰り〜?」
 光線が放たれる。とっさに回避するが、間に合わない。掠めた光がジンの太腿を焦がし、背後に着弾。爆発のような衝撃がジンを吹き飛ばした。
 尤も、アイリーンはこれを狙っていた。
「はい、いらっしゃ〜い」
 その顔の上とも形容出来るほど近い位置にしゃがみこみ、ニコニコとしながらジンの頬を銃口で撫でるアイリーン。
「くっ、あんなに近くては‥‥」
 グロウランスは何とかジンを救出したかったが、銃撃による援護は困難だ。流れ弾がジンに当たりかねない。だが、このままでは、どうなるかは予想出来ないものの、良い方向へ転ばないのは目に見えていた。
 だが、覚醒したジンの闘争心が上回ったのだろう。
 手に持ったままだった獅子牡丹をぐっと振り上げる。
「あははっ♪ 倒れたまんまそーんなことしたって駄目駄目ぇ」
 その通り、横になっていては上手く武器を振るうことも出来ず、威力も期待出来ない。が、ジンにはこうするしかなかった。
 脱出のチャンスを窺う攻撃も、あっさり手首を掴まれ失敗に終わる。
「放せ!」
「そぉだ、放せ!」
 いつの間にか接近していたのか。キメラの対処へ回っていた聖が合流と同時にアイリーンに豪快な蹴りをかました。
「あだっ!? ちょ、何すんのよオバサン!」
「おば――おばぁぁあああ!?」
 アイリーンとっさの一言に激しくショックを受ける聖。だがこれで隙が出来た。少女の(文字通りの意味で)お膝元を脱したジンは一気に距離を取る。
「じゃ、バトンタッチ。後は任せた!」
 そのまま彼は騎士の対応へとシフトしていった。
「チャンス、いただこう」
 ようやく攻撃の機会が巡ってきた。グロウランスは小銃を構え銃撃を開始。
「キメラは緑さんと兵士の皆さんが抑えてくれてます。手伝いますよ」
 ガトリングを引っ提げ、ヴァイオンも合流。
 展開される弾幕。時折止む鉛の雨を潜り抜けた聖が迫っての一撃離脱。と記述すれば傭兵優勢に思えるだろう。
 だが実際はそうでない。
「うーん、退屈な攻撃ぃ」
 わざとらしく欠伸などしながら軽いステップで銃撃を避けるアイリーン。いくつか弾や聖の爪が掠るものの、決定的な攻撃が出来ないでいた。
 遂にアイリーンも踊り続けるのに飽きたのか。すっと銃口を人間に向けた。
「連携でもしてるつもりかなぁ? でも動きがバラバラぁ。ふふっ、残念でーしたっ」
 狙われたのは、グロウランス‥‥。

●熱砂の騎士
「味な真似を。だが汝らだけで、私の相手が務まるかな?」
 こちらはグリフィス。その対応に回ったのは漸、梶原、来栖。騎士の実力は未知数であるが、相手の余裕を見ると相当の使い手だろう。
「騎士殿。我らと戦い踊ってもらおうか?」
 対抗したわけではなかろうが、漸が武器を構え、まるで試合を申し込むかのような言葉を投げる。
「いいだろう。グリフィス、いざ!」
 グロウの腹を叩き、突撃。対応に回った3人も、メインは接近戦。正面からぶつかり合う様は、これがアニメなどなら『次回へ続く!』といったテロップが出てくるのだろう。それぐらい様になっていた。
 が、それはこの際問題ではない。
「砂塵と共に吹き飛べ!!」
 だがこれこそ来栖の狙っていたもの。その大剣を盾に、不動の盾でグロウを弾き飛ばした。
 体勢を崩し、グリフィスが落ちる。
「‥‥なかなか、面白いではないか」
 頭を振り、すっとグリフィスは立ち上がって剣を構えなおした。
 その横ではグロウも立ち上がり、さらなる攻撃の姿勢を見せている。
「だが、誤算だったようだな、私をグロウから下ろしたのは‥‥!」
 鎧姿に似合わぬ俊敏さで、グリフィスが梶原に迫る。
「失策だ!」
 マントが踊り、剣が閃く。
 とっさに流して側面に回り、拳を叩きつける。が、グリフィスは微動だにしない。
「いい反応だが、ふっ、蠅の止まるような攻撃だな」
「何ッ」
 姿勢を変えぬまま、グリフィスが腰に下げた銃を向ける。
「失せよ」
 吐きだされた弾が梶原の肩を貫通した。
 そしてそこから流れるように、バッと剣を振り抜く。
 鍛え上げられた腹筋を、異物が通り抜けた。
「――ぐ、がぁぁッ!?」
 盛大に血を吹き出し、梶原が呻く。
 その顔面を騎士が掴み、ぐぐと持ちあげた。
「まずはその首、もらいうけよう」
「やらせるかっ!」
「グロウよ!」
 救援に来栖が駆け寄るが、グリフィスに呼応したグロウが突撃をかけ、阻む。
 別の方向からは漸が駆け付けようとしていた。
「お待たせしました! ‥‥って、いけない!」
 アイリーンの方からジンが合流。だが早速の危機に、慌ててグロウの対応に回る。
「我が名は漸王零‥‥誓約の名の元‥‥推して参る!!」
 ようやく追いついた漸がスキルを重ねた魔剣、凶魔剣を振りかざし、グリフィスに迫る。
「ふんッ」
 腕甲で以て剣撃を逸らし、グリフィスは梶原を放して漸に向き直った。
 どさりと地に沈んだ梶原の意識は、ない。
「1人で挑むか。面白い、その挑戦受けて立とう」
 剣を構え、先に仕掛けたのはグリフィスだ。振り下ろした剣は漸が受け流し、そのままの勢いで回転による一撃。
 ぐっと身をかがめてかわし、グリフィスの足払い。ステップで避け、漸はさらに剣での攻撃を繰り出すも、剣でいなされる。
「いぃやッ!」
 突き出された剣は漸の頬を抉る。
「ただの剣撃だけが我の戦いだと思うなよ」
「ぬぅ!」
 その拳に込められたシャドウオーブが光る。
 バチ、と閃光が走り、身の内に走る衝撃にグリフィスが怯んだ。
 チャンス、とばかりに漸が剣を振り下ろす。
「なっ、魔剣が‥‥!」
 鎧を完璧に捉えた。申し分ない角度で入っている。肉を切る感触もあった。
 が、その刃は中途半端なところで止まり、刃が入りきっていない。
「いい攻撃だった。その力は褒めてやる、が――」
 そのマスクの下で、男が笑んだ気がした。
 グリフィスの剣がギラリと光る。
「‥‥ふん、その気概に免じて、生かしておくのも面白かろう。次はもう少し、マシな連携を考えてくることだ。グロウ、アイリーン!」
 剣を鞘に納め、漸から距離を取ったグリフィスは相棒と共に撤退した。

●本報告書に於けるまとめ
 決着はつかなかった。いや、預けられた、と言えるだろう。
 被害自体は大したことはなかったが、グロウランス、梶原の2人は即座に救急施設へ送られた。報告官がこの報告書を執筆している段階では両名の安否は確認出来ていないが、能力者の生命力はしぶといものだと思いたいものである。
 砂漠に現れたキメラを食い止めること自体は出来たものの、現れた大物に決定打を与えられなかったことは残念である。いずれまた彼らが現れることを鑑みると、全てを生かしたまま逃がしたのは少々不味かったのではないか、と報告官なりに考えるところである。