タイトル:怪女の笑マスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/08 05:09

●オープニング本文


 深夜。
 光の世界に道を見失った若者の、路頭に迷う街。縛りと自由。自らを縛る自由。
 実感? そんなもの、意味を成さない。
 今。全てが、今。今が、全て。今を生きて、今に沈む。
 過去など、ない。
 未来など、ない。
 そんな若者の自意識は、夜の闇に飽和していた。
「よぅ、ネーチャン」
 下卑た笑い。夜の路地裏の味を舌先に見た、まだ未成熟な、男。それが三人。
 路地裏にいた一人の女性を、あっという間に取り囲む。
 女は、やはり若い。とはいえその男たちよりは若干大人びており、肩口でまとめられた髪が美しい。ビシッとスーツを着こなし、フレームの目立たないメガネが、彼女をよりインテリジェンスに仕立て上げていた。
「俺達と遊ぼうぜェ?」
 ゲッゲ、と笑いながら徐々に距離を詰めていく男たち。
 真夜中。日付すら変わっている。
 この治安の悪い街に、この時間。そしてこのじめっとした路地裏。
 そこに、女性が一人。
「運がいいなァオイ。こんな上玉なネーチャンが、たった一人でウロウロしてッたァ」
 にんまりと口の端を持ち上げ、女性に手を伸ばす。
 それが、何かに貫かれた。
「ギャァァアアアッ!」
 それは掌から手首へ、前腕骨の二本を押し抜けて進み、肘を粉砕し、肩から突き抜ける。
 赤黒い血液に濡れた肉片が、付近の壁にべたりと付着する。
 男は片腕を失った。いや、脇に近い部分の皮が親指まで残っている。あ、今、肘の辺りでちぎれて落ちた。
「ヒヒ、ィヒァァハァ」
 女は、笑った。左右のバランスの取れない、不釣合いな表情で。
 バッと飛び出したかと思うと、壁に手をつき、付着していた肉片を口に含む。
 するとなお笑い声をあげ、じろと男たちに目を送った。まるでカエルのように頬や下あごを膨らませ、くちゃくちゃと音を鳴らして肉片を咀嚼しながら。
「ひ――っ」
 悲鳴も上げず、無傷な男が二人、背を向けて駆け出す。
 その頭を、やはり何かが貫いた。いや、押し出した。
 首からぶちりとちぎれとんだ頭が、壁に叩きつけられて潰れる。
「た、たすけ‥‥」
 痛みも忘れ、残った隻腕の男が尻もちをつく。
 女は、耳まで口を裂き、男の脚にかじりついた。
 そして、ゆっくり、ゆっくり飲みこんでいく。蛇が獲物を食らうかのように、ゆっくりと、しかし確実に。
「い、嫌だ嫌だ嫌だ! 脚、俺の‥‥アァァアアアアッ!」
 絞り出した悲鳴は、女の体内に響いた。それが途絶えるまでに、一分の時間がかかったかすら、危うい。
「ゥアッヒィヒヒッ」
 大きなげっぷをし、女は笑う。一つ舌舐めずりすると、頭を失った二つの死体に目を落とした。

●参加者一覧

刻環 久遠(gb4307
14歳・♀・FC
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
ラグナ=カルネージ(gb6706
18歳・♂・DG
夏子(gc3500
23歳・♂・FC
空言 凛(gc4106
20歳・♀・AA
不破 炬烏介(gc4206
18歳・♂・AA
カズキ・S・玖珂(gc5095
23歳・♂・EL
エリク・バルフォア(gc6648
18歳・♂・ER

●リプレイ本文

●朔の捜索
 月の出ない晩だった。
 といっても、それは本来地球の衛星として存在する月のことであって、およそ20年前に現れた新たな月は、今も赤々と燃えている。魔星。そう呼ぶに相応しい。そんな月に照らされたこの街も、やはり、赤。
 そして、彼も――。
「死ぬ、が‥‥嫌。なら‥‥失せ、ろ‥‥」
 日付が変わってもぶらぶらと出歩き、自販機の前に座り込んでビニール袋から何かを吸いこんでいる青年の前にずんと立ち、瞳だけでギと睨むように見下ろすのは不破 炬烏介(gc4206)。着ているものは黒だというのに、赤く濡れて見えるのはやはり月のせいなのか。
 近くにキメラがいる可能性がある。それが故の忠告だった。彼らも今は捜索中。どこにキメラが潜んでいるのか分かったものではない。
「あぁ? んだ、やんのかぁ?」
 妙にテンションの上がった青年が、ぶへへと笑いながら不破に突っかかる。シュッシュッ、と、息を鳴らしてシャドウボクシングの真似ごとをして見せる青年だが、突き出した拳は一瞬で不破に掴まれた。
「ブチ殺すぞ‥‥!」
「ひっ」
 有無を言わさぬような威圧感。メキメキと悲鳴を上げる青年の腕。ビビらせるには十分であるが、それも過ぎたのか、青年は情けない悲鳴を上げたかと思うと、同時に失禁してしまった。
 いや、これくらいが丁度良かったのかもしれない。
「僕は別に君がこのままいたいと言うなら止めはしないが‥‥明日には生きていられるのかどうか」
 不破の背後でエリク・バルフォア(gc6648)が明後日の方を見ながら呟く。ひとり言のように。しかし、青年に聞こえるよう、確かに。
「‥‥死にたくなければさっさと帰れ。ほら、離してやりなよ」
「ひ、ひぃぃ」
 地べたに崩れ落ちた青年は、まるで這うようにわたわたとその場を立ち去った。人を一人立ち退かせるのも、なかなか手間である。
 街の西側の捜索に当たっていた二人。まだ、どこかを人が出歩いている可能性は十分にあるが、それ以上にキメラを探さねば始まらない。
「さて、もうすこしこっちの方を‥‥おや?」
 ザ――。
 捜索を再開しようとしたところで、不破のトランシーバーに反応があった。

 南方を担当していた宵藍(gb4961)もまた、夜の街にたむろする若者たちに帰るよう促すのに手を焼いていた。
「俺達ULTの傭兵なんだけど、傭兵が動いてる意味分かる?」
「つまり、なんか面白いことがあんだろ?」
 ニタァと笑みを浮かべるのは、青年と呼ぶにも若い。少年だ。どう見積もっても、16、7歳がせいぜいだろう。
 聞きわけのない‥‥。ため息を吐いた宵藍は、仕方なく覚醒してみせる。金色の瞳は、紺碧に。そしてぐっとその手を掴むと、捻って持ち上げた。
 ぐぐっと少年の体が浮く。
「な、あだだだ、いで、いでぇっ!」
「率直に言うぞ、ブラザ−。あまりウロチョロされると仕事の邪魔なんだ」
 スタイリッシュグラスの奥から貫くような視線で、静かに、冷たくカズキ・S・玖珂(gc5095)が告げる。
 こいつはおもちゃじゃないぞ、とSMGをちらつかせながら。
「な、なんなんだよ、アンタら‥‥」
「だから、今言ったように――」
 そこで、二人の無線機が砂嵐と共に音声を発した。
「流れ弾食らいたくなけりゃ、サッサと失せろ」
 カズキがそれだけ言い捨て、二人はその場を去った。少年はぽかんとして宵藍とカズキを見送り、そこでようやく事の危険さに気付いたのか、大人しく退散した。

 ワケありな様子なのは、北を捜索する二人。
 ラグナ=カルネージ(gb6706)はAU−KVをバイク形体にし、そこら中を走り回ってキメラの姿を探していた。その後ろに乗るのが、刻環 久遠(gb4307)だ。
 先に口を開いたのは、彼女。
「私ね、兄さんがいるの」
 周囲に、特に出歩いている人は見えない。
「昔、ちょっとケンカと言うか、色々あって。離れ離れになっちゃったんだけどね」
「いつだったか忘れたけど、俺に家族云々とか聞いてたよな? そのことか?」
 覚えてないんだ。刻環がそう呟いたことに、はたしてラグナは気づけたのだろうか。
 無言のまま、乾き濡れた街にエンジン音がこだまする。
 この辺には、誰もいない。不良の一人や二人、いるものと思っていたのだが。
「無線機、何か受信してるよ」
 掻き消えそうな無線機の音声。何を考えていたのだろうか、それを手に取るラグナは、ほんの少し、上の空な雰囲気だった。

 そして、東側。
「っとに治安がわりぃな」
 こちらには何人か、佇む青年らが見える。注意を呼び掛けるために空言 凛(gc4106)が近寄れば、下卑た笑みを浮かべて触れようとしてくるのだから性質が悪い。
 男性を次々失踪に追い込んだ女性型キメラ。ということは、そのキメラはよほど美人の姿をしているに違いない。と、空言は思っていた。しかしこの様子を見ると、別にキメラが美人である必要はないように思えてくる。
 しかし、そう思っているのは恐らく空言本人のみだ。
 尤も、触れようとした男共はことごとくその関節を極められてあえなく退散、となってしまったわけだが。
「お、あいつ怪しくねぇか?」
 空言の指差した先。そこにはスーツをビシッと着こなした美女が、路地裏でじっと突っ立っていた。
「確かに、怪しいでゲスなぁ」
 サングラスをちょっとずらして女性の姿をちらりと見た夏子(gc3500)は、こくりと頷いた。服装からして周囲に比すると異色であるし、何より、女性が一人であんなところにいる。ほぼ、決まったようなものだ。
「ほら、ナンパ行って来い!」
 バシリ、と空言が夏子の背中を叩いた。まぁ、行かないことには仕方あるまいと夏子が路地裏に入っていく。
「こんばんは〜♪ 最近、この辺を夜中出歩くのは危険でゲスよ〜。分かったら素直に――」
 硬直。
 女はにたぁりと口を裂くと、細く、長い舌を地面すれすれまでだらりと出してみせたのだ。
「ひぎゃぁぁぁあああああっ!」
 絶叫と共に夏子の体が弾け飛んだ。それは痛みに対してなのか、怖がってのことなのか。
 その様子を、空言は見ていた。
「舌か‥‥っし、決めた!」
 正体を見極めた空言が怪女の前に躍り出る。正面に立たぬよう左へ右へと軽いステップを踏みつつ、じりじりと距離を詰めていった。
「え、エンシェント! あ、間違えた。エンカウント! 東だ!」
 覚醒し、体勢を立て直した夏子は、慌ててトランシーバーを取り出し応援を呼んだ。

●蛙女の怪
「待たせた!」
 先に到着したのは西側担当のラグナと刻環。AU−KVを用いていただけあって、早い。
「――Atziluth」
 静かに覚醒した刻環が武器を抜く。ラグナもそれに合わせてAU−KVを装着した。
 ぐ、と空言がキメラに迫り、スタミナを奪おうとジャブを繰り出す。バチリ、とキメラの服に電光が走り、その部分が焦げてぼろりと崩れた。
 反撃にとキメラが舌を伸ばしてくるが、空言は既に半歩横へスライドすることで回避していた。
「もらった!」
 そこへさっきの仕返しとばかりに夏子が小銃のトリガーを引く。肩口を弾丸が襲う。が、キメラはとっさにしゃがんでやり過ごした。
 突撃したのはラグナだ。
「んにゃろぉ!」
 足元を薙ぐように振るわれた炎剣は、空を切る。
 見上げれば、女は高く跳躍していた。建物の屋根に着地したかと思うと、キメラはそのまま逃走を開始する。
「おいこら、逃げん――へぶぅ」
 拳を握って叫ぶラグナの肩を、何かが踏みつけた。そして黒衣が宙を舞う。
「ごめんなさいね、おにーさん♪」
 刻環が彼を踏み台に跳んだのだ。
「おま、俺を何だと――げふぅ」
「おっと、逃がすかよっ!」
 ついでに、空言もラグナを踏み台に。建物の上に飛び乗ると、そのままキメラの追跡に移る。
「いやぁ、なかなか大変な役回りでゲスなぁ」
 覚醒を解いてゲスゲスと笑いながら、夏子がラグナに手を貸す。能力者なら、その気になればこの建物の上へ登ることもさほど難しくはないだろう。
「あー、あー、キメラが逃走。これより追跡するでゲス」
「ったく。よし、さっさと追いかけようぜ」
 頭を振り振り、エアコンの室外機を踏み台にして二人は建物の上へと登った。

「合流前に敵が逃走とはな」
 舌打ちと共に走る方向をぐいと変えるカズキ。こまめにトランシーバーから情報を得、向かうべき場所を割り出しつつ駆ける。
「俺は上から探してみるよ。その方が、見通しがいいだろ」
 道の脇にあったゴミ箱を踏み、そのまま建物の上に宵藍が飛び乗る。
「二人も出遅れてしまったか」
 角を曲がる。丁度そこに、不破とエリクが合流した。
「あぁ、ミスタ・エリク。どうやらすぐ近くにターゲットはいるらしい」
 それを聞くや、不破がぐんと加速する。敵が近い、ならば、さっさと片付けるまでだ。
「いた、あっちだ!」
 屋根を渡る宵藍が指で方向を示す。と同時に、スキルを使ってそちらへ急行した。
「‥‥急、ぐ。ぞ」
 道を進むことに焦れた不破も、ひょいと建物の屋根に登る。
 そちらの方が早いかもしれない。カズキ、エリクも、続いて屋根に飛び乗り、先を急いだ。

 怪女は路地裏に降り立つと、目の前で談笑する二人の青年に迫った。
「あ、何だぁ?」
 空から(と青年たちには思えた)突然現れた女に、青年らが、呆ける。それこそがまさに命取り。いや、すぐに逃げようなどという選択肢は、そもそもなかったのかもしれない。
「ぐぇ――」
 抑えることなどできない、押しつぶされた苦悶の声と共に青年の身が貫かれる。
 ぱっと散った紅の花弁が、もう一人の青年に振りかかる。‥‥花は萎れ、果てた。
「はは、は?」
 この状況を理解出来たのなら、この青年は大したものである。
「逃げなさいな、足から丸呑みにされても知らないわよ?」
 そこへ刻環が到着。キメラを挟んだ向こう側にいる青年へ逃げるよう促した。
「ヘヒィヤヒャファ」
 能力者などお構いなし。四つん這いになってカサカサと青年の死体に近づいたキメラは、奇妙な笑い声を上げながら死体を丸飲みにし始めた。生き残った青年は、硬直。逃げるより何より、何が起こっているのかを把握しようとでも思ったのか、ガチガチと震えながら、その様子を見ていた。
「おーい! さっさと逃げろー!」
 空言、続いてラグナや夏子も到着。その時には、刻環が剣を手にキメラへ迫っていた。
「大人しくなさい」
 気配を感じ取ったキメラが振り向きながら飛び退く。振り下ろされた切っ先は、キメラの口に収まりきっていなかった青年の足首を切り落とした。
 ごろりと転がる遊び仲間の足を見て、青年はようやく事態を把握したのだろう。
「わぁぁぁぁっ!」
 上ずった悲鳴を上げ、慌ただしく退散していった。
 ぶにゅん、くちゃ、と音を鳴らしながら、キメラは傭兵たちから距離を取る。
「テメー、今度は逃がさねぇぞ!」
 ラグナが一気に距離を詰める。
 咀嚼していたものをごくりと飲み込み、だぷんと腹を膨らませたキメラは距離を取ろうとしたが、しかし体が重くなってはそう機敏に動くことが出来ない。
「ヘヒィッ!?」
 ザッ、と袈裟斬り。肩口から腰まで斜めに刃の通った部分から、激しく血が吹き出る。しかしそれでも、女は笑っていた。
「お待たせしました!」
 そこに宵藍の到着。と同時にエネルギーガンを放った。
「ィヤッハ!?」
 足にエネルギー弾を受け、肉の焦げた匂いを振りまいてキメラがよろめく。
「今度こそ」
 好機と見た夏子が小銃を着実に当ててゆく。
 弾幕の中を駆け抜けるように、空言が飛び出した。ぐぐ、と身を沈めてから、体を乗せてのブローを放つ。
「グゥッヒャァ!」
 浮いた。血の噴き出る肉が焼き固められ、しかし圧されたことによるさらなる出血と共に、キメラが吹き飛ぶ。
「轢蛙の‥‥如く‥‥潰れて‥‥死ね。『虐鬼王拳』‥‥」
 不破の到着。そしてスキルを乗せた強烈な拳が吹き飛ぶキメラを背中から強く、ダメージが突き抜けるほど強く叩きつけられた。
 べちゃり、と水気を含んだ音と共に濃桃の塊を吐きだすキメラ。先ほど捕食した青年の一部だろう。
「どきな、ブラザー!」
 建物の縁に足をかけたカズキがSMGの照準をキメラに合わせて射す。鉛の雨に打たれ、キメラが苦悶の叫びを上げた。
 このままでは確実に死ぬ。
 そう感じ取ったのか、キメラは地べたを転がって体勢を整え、逃走の気配を見せた。
 ‥‥が、その足が動かない。
 ブルブルと震えるように視線を移した先。そこでは、エリクが歌っていた。赤い月の夜に響く、呪いの歌を。
 それが、原因に違いない。自分が動けないのは、あの歌のせいに違いない。
 キメラは憎悪を込めてエリクを睨みつける。
 その視線を、刻環が塞いだ。
「ヒ、ギ‥‥ギァッ!」
 くわと目を見開き、一気に舌を突き出す。が、それは刻環の剣によりばっさりと切り落とされてしまった。
「意地汚い舌だこと」
 冷たい目で、見降ろしながら。
「カラミティ――」
 まさにトドメを刺す好機。メットの中で口端を持ち上げ、ラグナが急接近する。つま先でキメラを蹴りあげ、そこへ剣を突き刺した。
「シザァー!!」
 そこからの袈裟斬り。
「終わらせる!」
 間を取らせず宵藍もその刀をキメラに突き刺した。
「へ、ヒヘヘァ‥‥?」
「ソラノコエ、言う‥‥『裁キヲ与エヨ‥‥獄苦ノ如キ死罰ヲ』」
 動きの止まったキメラの髪を引っ掴んだ不破がその体を壁に叩きつけ、骨が軋みひしゃげるような音が鳴るほどガスガスと殴りつけた。
「ヒ、ヘァァゥヒ」
 バランスが崩れ、醜くなった女の顔に、なおも拳は叩きつけられた。
「そぉいやっ!」
 不破が離れたタイミングを見計らい、空言がジャブでその頬を焼き、ぐるりと体を回転させて鼻先に裏拳を叩きこむ。
 もはや血のドロドロと流れ出る舌がだらしなく垂れたその顔は、元の形などとっくに失っていた。
「気になっていたの」
 剣をぬらりと光らせ、ツカツカと刻環が歩み寄る。
「その大食らいで食べた物は何処へ行くのかしら。ねぇ、教えて?」
 ジュ。
 キメラの鳩尾に、剣が突き立った。
「フヤ、ハ、ヘ‥‥」
「ほら、どうしたの? 教えてくれないの?」
 ほんの少し、切っ先を下ろす。
 先に空言が焼き固めた部分が、ザクリと切れた。
「うぅ、これは、見てられないでゲスなぁ」
 夏子が思わず目を逸らした。
「ほらぁ、ホラァッ!!」
 一気に剣先を振り下ろすと、裂けた腹からはでろりと、パンパンに膨れた胃が漏れる。さらに胃にも切れ込みがあり、消化されかけたドロドロの何かが姿を見せていた。
「‥‥片付いたか」
 カズキがグラスを押さえる。
「ちょっと、ショッキングだったけどね」
 苦笑しながら、空言が頬を掻いた。
「とりあえず、帰りましょうか。高速艇へ」
 エリクが先を歩く。
 もうすぐ夜明けだ。赤に照らされた黒い空も、間もなく青い景色を取り戻すのだろう。そして、再び夜の幕は降りる。