●リプレイ本文
●傭兵ヒーロー団
「た、助けてくれェーッ!」
そんな市民の叫びは、胸を貫く矢によって途絶えた。
バグブルーの放った矢だ。
突き抜けた矢は、なおもまっすぐに飛び、その先の建物に突き立つ。
それだけではない。
「ひぃぃぃっ」
「イーッ! だって? 戦闘員の鏡だなぁ。よし、なら俺が直々に」
バグレッドの振るった鞭により、尻もちをついていた男の首が吹っ飛んだ。
そして、彼が振り向いた先では。
「み、見逃してくれ。彼女の腹の中には、赤ん坊が――」
「Oh! Babyがいるなら仕方ないNe!」
腹の膨れた女性を背中に庇う男性の、必死の命乞い。
それを聞いたバグイエローは両手を広げて驚いて見せ、まるで男の言葉を聞き入れたかのように頷く。
「Heavenで仲良く子育てYo!」
「そっ、そんな‥‥っ!」
腕をぐるぐると回すイエローが迫る。男性は、目の端に涙を溜め、逃げ出すことすら忘れてしまったのか、愕然と立ち尽くした。
終わりだ。自分も、彼女も、我が子も――。
「待ちなさい!」
その時、女性の声が街全体に響き渡った。
「What!?」
「だ、誰だ!」
三人の強化人間が一斉に振り返る。
そこに立っていたのは、三人の傭兵。
「ULT所属能力者、クラス:へヴィガンナー! 人詠んで【白雪の銃精】ネージュ(
gb9408)♪」
拳銃「スピエガンド」を顔の横に立て、小銃「S−01」を前に突き出していたポーズを、言葉とともに切り替え、最後には腰の前で銃を交差させてウィンク。
「同じく、破暁戦士ゴッドサンライト!」
そう名乗ったのは陽山 神樹(
gb8858)。山吹色の特注スーツを身に纏い、覚醒効果の翼が噴き出す。
メット、手の甲、踝、そして腰部中央の装飾がきらりと光った。
そして、もう一人。
「炭酸戦隊コーラレッド!」
守剣 京助(
gc0920)だ。全身に着込んだマッスルスーツでぐぐっと筋肉を目立たせる。その手には、コーラの缶が握られていた。
共鳴するかのように、イエローが思わずマッスルポーズ。
筋肉と筋肉。盛り上がる二人の二の腕が、皮膚など邪魔だと言わんばかりに主張している。
浮き出た血管は太く、互いに火花を散らす肉体と肉体。
あぁ、ここに汗が。激しく動いた後の迸る汗があれば、なお良かったと言うのに!
「我ら傭兵ヒーロー団!」
誰かが高らかに宣言すると同時に、背後で閃光手榴弾が破裂、強烈な光が三人を照らした。
「さ、今のうちに」
その光に紛れ、ソウマ(
gc0505)が市民を手早く避難させていった。
さらに別の場所では。
「なんだか、感慨深いですね」
「この間のことながら、懐かしい、ですね」
沖田 護(
gc0208)と秦本 新(
gc3832)が囁き合っていた。過去にヒーロー役をやっていたことを思い出したようである。
ふっと、沖田が顔を上げる。
そびえるのは、巨大なビル。
奴らは、ここから飛び降りた‥‥。
「皆さん、見た目に惑わされてはいけないようです」
全員に聞こえるよう、叫んだ。
●青と虎と盾――黒
閃光に紛れて、ブルーへ急接近した者がある。
西島 百白(
ga2123)だ。
振るったグラファイトソードは、だがブルーがとっさに構えた弓に抑えられた。
しかしそれでいい。そうでなくては面白くない。
「おい‥‥名乗る必要って‥‥あるのか?」
ついでだから、尋ねてみた。
傍目には地味な鍔迫り合いのようだが、しかしその間で発生している力は、人間などたやすく押しつぶしてしまうほどのものだ。
これも、相手に負けるまいと絞り出した、西島なりの冗談だった。
「それは、あのバカレッドに訊いてくれ」
「ブルー! この、やらせるか!」
駆け出したレッドの足元を、光線が襲う。
「そちらに行く事は、許さん」
UNKNOWN(
ga4276)の放ったエネルギーキャノンだ。
今までこっそり市民に避難を促していた彼は、振り向き様に一発、打ち込んだのだ。
「ちっ、邪魔すんな!」
憤慨したレッドが、光線の先へ駆けだす。しかしもうそこには誰もいない。いつの間にか、いなくなっていた。
「西島さん!」
竜の翼で飛んできた沖田の援護により、ブルーと西島が離れる。
素早く矢を番えたブルーだが、放たれた矢は沖田のシールドに弾かれた。
「‥‥すまない」
西島が立ち上がり、体勢を立て直す。
いえ、と敵を見据えたままの沖田。そしてビシリと指を突き付け、言い放った。
「バグア戦隊バグレンジャー、正義の力を悪用するお前たちを許さない!」
ギリ、と奥歯を噛むように宣言。しかしブルーはというと、
「はぁ?」
それが返事だった。
「バグレンジャーはまぁ、いいけどよ。誰が正義だって? 何が悪用だって? 勝手に決めてんじゃねぇよ」
構えた弓の弦が張り詰める。
そして弦が躍った直後、ひょうと放たれた矢は沖田の盾のど真ん中に突き立っていた。
「俺にとっちゃ、てめぇらが悪なんだよ。覚えとけ」
その言葉が理解出来たか、出来なかったか。沖田は肩を震わせてブルーを睨みつける瞳に力を込めた。
黙していた西島が、沖田の背中を軽く叩く。惑わされるな、という、無言のメッセージだった。
こく、と頷いた沖田は、盾を構えなおす。
「西島さん、間合に入るまで僕の後ろに」
「了解だ」
そして、疾走。AU−KVから噴き出る緑のマントが、彼をまるで騎士のように見せる。
次々と放たれる矢。しかし、その全てが沖田の盾に吸い込まれた。
「ガアァァァァ!」
距離が詰まる。咆哮を上げ、西島が飛び出した。
白く染まる巨体。
金色の瞳。
白虎の如きその姿。
だが、その顔面をブルーの矢が狙っている。
しまった――!
西島の目が大きく見開かれる。
「いただいた!」
「――とりあえず、黙りたまえ」
小さな声。決して相手に聞かせる気などない声。
それと共に、光線が飛ぶ。
ブルーの足が、焦げ付いた。
矢が西島の頬を掠めて明後日の方向へ飛ぶ。
振り下ろされるグラファイトソード。
放たれる沖田の電磁波。
それらが集中し、ブルーは――。
●黄と剣と槍と――黒
ブルーやレッドが戦っている間、イエローの方ではまた違った戦いが繰り広げられていた。
いや、イエローが一方的に戦いを押しつけていた、というべきか。
「YouのMuscleモリモリうっほりNe! Meも負けないYo」
イエローがぐぐっと力を込め、さらに大胸筋を膨れさせる。
対抗して、守剣が背中に浮き出た三本の大剣を回転させ、肩と腕をパンプアップさせた。
そして、しばらく睨みあった後。
「あ、I lose‥‥」
イエローはがっくりと膝を突いた。
「か、勝った!?」
「そんなわけないでしょう。さあ、本番、いきますよ」
「おっと、それもそうだ」
勝負がついたところでやれやれと秦本が間に入る。
思い出したように、守剣が聖剣「ワルキューレ」を構え、突撃した。
「うらぁ!」
振り上げられた剣が、イエローを高く打ち上げる。
「残念ですが、そちらの土俵で戦うつもりは毛頭無い」
そこを狙い、ニヤと笑みを浮かべた秦本が銃を乱射した。
「Ouch! Ouch!」
叫び、どすりと落下したイエロー。だが、まだ立ち上がる。
「ふー、今のはちょっと、効いたNe」
ゴキゴキと首を鳴らし、拳を叩き合わせる。恐ろしくタフだ。
その一撃は、どう考えても強力だ。もらったら、骨の一本くらいは覚悟せねばならないだろう。
イエローの接近を阻止しようと、二人はじりじり後退し、秦本はその間に銃を放つ。
しかしそれらは肉と赤のカーテンに弾かれてしまった。
このままでは、あの拳が振るわれる。
意を決し、守剣が突撃しようと地を蹴った。その時。
「‥‥魔猫を瞳に映す事は出来ない」
イエローの背後で言葉が囁かれる。
同時に、言葉の主がイエローの背中にぽんと手を添えた。
「決して誰にもね。‥‥次」
黒猫は、音も立てぬ歩みで静かに去った。
刹那。
「ABABABABABABABA!?」
イエローの全身を電磁波が襲う。
「チャンスです!」
「人一人やってんだ。ここで終わらせてやるよ」
守剣のワルキューレが、秦本の和槍「鬼火」が、イエローに向かって襲いかかった。
●赤と銃と拳と猫
「ちっ、奴はどこだ」
先ほど攻撃してきたUNKNOWNを探し、レッドは街を駆け回ろうとした。
だが、そうはさせじと立ちふさがったのが、ネージュと陽山だった。
「悪レッド! 正義の鉄拳受けて見ろ!!」
一気に距離を詰めた陽山の拳が降りかかる。しかし、ひょいとレッドはかわし、邪魔だとばかりに鞭を振り上げた。
「卑怯だぞ! 関係無いのを巻き込むだなんて」
ネージュの言葉が、レッドを止めた。
「正義の風上にも置けないよ。そんなことでヒーローやってていいのか!」
罵倒の数々。その間、レッドは微動だにしなかった。
陽山がとっくに距離をとっているが、それでも動かなかった。
「ドサンピンのリーダーだけあるわね。やーいばーかばーか。この××ヒーロー!」
試しに陽山が頬を殴ってみたが、やはり反応しなかった。
「相手は市民だぞ、武装してないんだぞ! 卑怯卑怯卑怯、超卑怯者!」
「貴様ァァァァアアアアア!」
ついにレッドの怒りが頂点に達した。
ビシッと鞭を地に叩きつけ、息も荒く怒鳴る。
「卑怯とは何だ卑怯とは! 貴様らは悪だ、悪は滅びて当然なんだッ!」
「何よ3バカトリオのくせに!」
もはや言葉もないとばかりに、鞭を振るう。
が、振り下ろせない。何度腕を下ろそうとしても、下りなかった。
それもそのはず。
「お前をヒーローだなんて認めないぞ!」
バイザーの奥でニヤリと笑う陽山が、鞭を掴んでいたのだ。
「はっ、離せ!」
「嫌だ!」
それどころか。
陽山は掴んだ鞭をぐいと引っ張った。
そして。
「ゴッドサンライトの力を侮るなよ〜!」
盛大に、殴り飛ばした。
吹き飛ぶ背中に、ネージュの銃弾が叩きこまれる。
「おや、いきなりクライマックス?」
ちょうどすぐ傍まで来ていたソウマが、ついでとばかりにその超機械でビリリとやった。
「ぐ、がふ‥‥っ」
さしもの強化人間も、一気にこれほど食らえば堪らない。
グラ、と揺れたレッドが膝をついた。
「私たちを」
「甘く見たな?」
「ま、当然ですね」
なんとかフラフラと立ち上がるレッドに対し、三人は勝ち誇っていた。
●緑と桃
「いつまでやってんだ! 引き上げるぞ」
それぞれの決着が今にもつきそうというところで、突如男の声が響いた。
まるでそれが合図であったかのように、とどめの一撃を前に距離を取ったバグレンジャーは、一気に建物の上へ飛び上がった。守剣が慌ててソニックブームを放つが、間に合わない。
しかし見れば、彼ら三人が飛び降りてきたというビルの上に、二つの影があるではないか。
「グリーン、ピンク! 来てくれたか」
「まったく、戦闘員退治もろくに出来ないなんて、大したリーダーね」
喜びで二人を迎えたレッドだが、それは影の一つ、ピンクに一蹴された。
「彼らは民間人‥‥つまり非戦闘員です。貴方達がヒーローを名乗るなら、手を出すのは流儀に反するのでは?」
秦本の問いかけ。
それは、今度は緑の影に一蹴されることになった。
「ふん、分かっていないようだな。別に相手が戦闘員だろうと、そうでなかろうと、関係ない。相手が人間かどうか、それだけだ」
「――それだけ、かね?」
すっと出てきた黒衣の男、UNKNOWNが問いかける。
「それだけに決まってますよ。あんぽんたんの考えることですし」
同じく建物の間から出てきた、魔猫ことソウマが腕を組んで決めつける。
あんぽんたん、の言葉に一瞬身を乗り出したレッドだったが、すぐにうなだれてしまった。
「悔しいが、その通りだ」
「‥‥正真正銘、馬鹿ですね」
秦本が呆れて頭を抱えた。
「そうか、ならば」
ため息も吐かず、UNKNOWNはエネルギーキャノンを構えた。
「ただ、己の不運を嘆くがいい。――私が居合わせた事を」
「悪いが、お前らの相手も面倒だ。じゃあな」
照準を合わせられたブルーは、捨て台詞と共にさっさと姿を消した。
それにレッド、イエローと続き、ビルの上にいた二人もいつの間にかいなくなっていた。
「ウガァァアアアアアア!」
逃げられた。絶対優勢だった。
だから西島は吠えた。もうちょっとだったのに。悔しくて吠えた。
「悔しい‥‥」
素直に気持ちを漏らしたのは陽山だ。その背中を、共に戦ったネージュがポンと叩く。
釈然としない終わり方。敵の目的は見えない。
それでも、街は守れた。最低限の被害に抑えられた。
成功、といえる。しかし。
「ここで潰しておきたかったな」
誰かの言葉が、胸に重くのしかかった。