タイトル:三色の名前募集中マスター:矢神 千倖

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/10 04:21

●オープニング本文


「おい、指令が来たぜ。いまどき珍しい、紙媒体でな」
 薄暗い部屋の中、緑の装束を纏った男が手に持った一枚の紙をテーブルに投げだす。
 それを手に取ったのは、桃色の装束の女だった。
「敵の居座る都市を攻撃せよ。場所は下記参照、ね」
 情報を確認すると、女は先ほどの男がしたように、紙を放った。
 それを覗き込んだ他の面々が、膝を叩いて立ちあがる。
「よし、今すぐ出撃だ!」

 12月某日、某時刻――。
 バグアの恐怖に怯えながらも、それなりに栄えた都市。
 休日の昼下がりということもあり、人々は買い物などに出歩いていた。
 その様子を高層ビルの屋上から見下ろす5つの影がある。どうやってそこに登ったかを問うのは、野暮というものだ。
「あぁ、面倒臭ぇ‥‥」
 青い影がしゃがみ込む。
「HAHAHA! Hey blue boy! YOUもこのTeamのMemberネ! Stand upなう!」
「あんたたぁ違ぇんだよ‥‥。それにその言い方だと、お前が今立ちあがったみたいだぞ」
「Why!?」
 やたらハイテンションで声をかけた黄色い影に応え、頭を掻く青。黄色は何を言われたのか分からず、両腕を大きく広げた。
 その二人に割って入ったのは、赤の影だ。
「言い合っている場合ではないぞ。立て、行くぞ。とうっ!」
 溜息を吐きながら、青が立ちあがる。
 逆光に霞む3つの影が、ビルを飛び降りた。

 突如空から降ってきた3人に、人々が困惑する。
 それも当然だ。このビルは30階建てなのだから。生身の人間が飛び降りたら、間違いなくぺちゃんこである。
 だが、彼らはスタと着地し、赤い光を纏いながら何事もなかったかのように立ちあがった。
「バグレッド!」
 赤い男が右拳を突き出す。
「バグブルー」
 青の男が腰に手を当てて首を振った。
「Bug yellow!」
 筋肉質な黄色い男が胸の下で両拳を握ってマッスルポーズ。
「五色、じゃない三色並んで! ‥‥」
 レッドが威勢良く締めようとしたが、しかし、言葉が続かない。
 その場にいた誰もが、嫌な予感を抱いた。
「名前募集中!」
「それでいいのかよ!?」
 誰かが叫んだ。至極尤もである。
「いや、そんなこと言ってもなぁ。この間組織されたばっかだし、初出撃だし」
 何か言い訳しているが、市民がそんなことを知っているはずがない。
 ゴホン、とブルーが大きく咳払いをし、場の空気を取りなおした。
 ハッとしたレッドが、市民に向かってビシッと指差した。
「現れたな、悪の地球人め! 戦闘員ばかりうじゃうじゃと小癪な真似を! 我々‥‥名前募集中が、退治てくれる!」
 それを合図に、3人が一気に散った。
 あっけにとられた市民達。だがそのうちの1人が、イエローに殴られて遥か後方の建物に叩きつけられた。
 血だけでなく、体内に収まっているべきものまでが飛び散り、あっという間に事切れる。
 市民は、ようやく気付いた。
「ば、バグアだーっ!」

●参加者一覧

西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
陽山 神樹(gb8858
22歳・♂・PN
ネージュ(gb9408
12歳・♀・HG
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
守剣 京助(gc0920
22歳・♂・AA
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD

●リプレイ本文

●傭兵ヒーロー団
「た、助けてくれェーッ!」
 そんな市民の叫びは、胸を貫く矢によって途絶えた。
 バグブルーの放った矢だ。
 突き抜けた矢は、なおもまっすぐに飛び、その先の建物に突き立つ。
 それだけではない。
「ひぃぃぃっ」
「イーッ! だって? 戦闘員の鏡だなぁ。よし、なら俺が直々に」
 バグレッドの振るった鞭により、尻もちをついていた男の首が吹っ飛んだ。
 そして、彼が振り向いた先では。
「み、見逃してくれ。彼女の腹の中には、赤ん坊が――」
「Oh! Babyがいるなら仕方ないNe!」
 腹の膨れた女性を背中に庇う男性の、必死の命乞い。
 それを聞いたバグイエローは両手を広げて驚いて見せ、まるで男の言葉を聞き入れたかのように頷く。
「Heavenで仲良く子育てYo!」
「そっ、そんな‥‥っ!」
 腕をぐるぐると回すイエローが迫る。男性は、目の端に涙を溜め、逃げ出すことすら忘れてしまったのか、愕然と立ち尽くした。
 終わりだ。自分も、彼女も、我が子も――。
「待ちなさい!」
 その時、女性の声が街全体に響き渡った。
「What!?」
「だ、誰だ!」
 三人の強化人間が一斉に振り返る。
 そこに立っていたのは、三人の傭兵。
「ULT所属能力者、クラス:へヴィガンナー! 人詠んで【白雪の銃精】ネージュ(gb9408)♪」
 拳銃「スピエガンド」を顔の横に立て、小銃「S−01」を前に突き出していたポーズを、言葉とともに切り替え、最後には腰の前で銃を交差させてウィンク。
「同じく、破暁戦士ゴッドサンライト!」
 そう名乗ったのは陽山 神樹(gb8858)。山吹色の特注スーツを身に纏い、覚醒効果の翼が噴き出す。
 メット、手の甲、踝、そして腰部中央の装飾がきらりと光った。
 そして、もう一人。
「炭酸戦隊コーラレッド!」
 守剣 京助(gc0920)だ。全身に着込んだマッスルスーツでぐぐっと筋肉を目立たせる。その手には、コーラの缶が握られていた。
 共鳴するかのように、イエローが思わずマッスルポーズ。
 筋肉と筋肉。盛り上がる二人の二の腕が、皮膚など邪魔だと言わんばかりに主張している。
 浮き出た血管は太く、互いに火花を散らす肉体と肉体。
 あぁ、ここに汗が。激しく動いた後の迸る汗があれば、なお良かったと言うのに!
「我ら傭兵ヒーロー団!」
 誰かが高らかに宣言すると同時に、背後で閃光手榴弾が破裂、強烈な光が三人を照らした。
「さ、今のうちに」
 その光に紛れ、ソウマ(gc0505)が市民を手早く避難させていった。
 さらに別の場所では。
「なんだか、感慨深いですね」
「この間のことながら、懐かしい、ですね」
 沖田 護(gc0208)と秦本 新(gc3832)が囁き合っていた。過去にヒーロー役をやっていたことを思い出したようである。
 ふっと、沖田が顔を上げる。
 そびえるのは、巨大なビル。
 奴らは、ここから飛び降りた‥‥。
「皆さん、見た目に惑わされてはいけないようです」
 全員に聞こえるよう、叫んだ。

●青と虎と盾――黒
 閃光に紛れて、ブルーへ急接近した者がある。
 西島 百白(ga2123)だ。
 振るったグラファイトソードは、だがブルーがとっさに構えた弓に抑えられた。
 しかしそれでいい。そうでなくては面白くない。
「おい‥‥名乗る必要って‥‥あるのか?」
 ついでだから、尋ねてみた。
 傍目には地味な鍔迫り合いのようだが、しかしその間で発生している力は、人間などたやすく押しつぶしてしまうほどのものだ。
 これも、相手に負けるまいと絞り出した、西島なりの冗談だった。
「それは、あのバカレッドに訊いてくれ」
「ブルー! この、やらせるか!」
 駆け出したレッドの足元を、光線が襲う。
「そちらに行く事は、許さん」
 UNKNOWN(ga4276)の放ったエネルギーキャノンだ。
 今までこっそり市民に避難を促していた彼は、振り向き様に一発、打ち込んだのだ。
「ちっ、邪魔すんな!」
 憤慨したレッドが、光線の先へ駆けだす。しかしもうそこには誰もいない。いつの間にか、いなくなっていた。
「西島さん!」
 竜の翼で飛んできた沖田の援護により、ブルーと西島が離れる。
 素早く矢を番えたブルーだが、放たれた矢は沖田のシールドに弾かれた。
「‥‥すまない」
 西島が立ち上がり、体勢を立て直す。
 いえ、と敵を見据えたままの沖田。そしてビシリと指を突き付け、言い放った。
「バグア戦隊バグレンジャー、正義の力を悪用するお前たちを許さない!」
 ギリ、と奥歯を噛むように宣言。しかしブルーはというと、
「はぁ?」
 それが返事だった。
「バグレンジャーはまぁ、いいけどよ。誰が正義だって? 何が悪用だって? 勝手に決めてんじゃねぇよ」
 構えた弓の弦が張り詰める。
 そして弦が躍った直後、ひょうと放たれた矢は沖田の盾のど真ん中に突き立っていた。
「俺にとっちゃ、てめぇらが悪なんだよ。覚えとけ」
 その言葉が理解出来たか、出来なかったか。沖田は肩を震わせてブルーを睨みつける瞳に力を込めた。
 黙していた西島が、沖田の背中を軽く叩く。惑わされるな、という、無言のメッセージだった。
 こく、と頷いた沖田は、盾を構えなおす。
「西島さん、間合に入るまで僕の後ろに」
「了解だ」
 そして、疾走。AU−KVから噴き出る緑のマントが、彼をまるで騎士のように見せる。
 次々と放たれる矢。しかし、その全てが沖田の盾に吸い込まれた。
「ガアァァァァ!」
 距離が詰まる。咆哮を上げ、西島が飛び出した。
 白く染まる巨体。
 金色の瞳。
 白虎の如きその姿。
 だが、その顔面をブルーの矢が狙っている。
 しまった――!
 西島の目が大きく見開かれる。
「いただいた!」
「――とりあえず、黙りたまえ」
 小さな声。決して相手に聞かせる気などない声。
 それと共に、光線が飛ぶ。
 ブルーの足が、焦げ付いた。
 矢が西島の頬を掠めて明後日の方向へ飛ぶ。
 振り下ろされるグラファイトソード。
 放たれる沖田の電磁波。
 それらが集中し、ブルーは――。

●黄と剣と槍と――黒
 ブルーやレッドが戦っている間、イエローの方ではまた違った戦いが繰り広げられていた。
 いや、イエローが一方的に戦いを押しつけていた、というべきか。
「YouのMuscleモリモリうっほりNe! Meも負けないYo」
 イエローがぐぐっと力を込め、さらに大胸筋を膨れさせる。
 対抗して、守剣が背中に浮き出た三本の大剣を回転させ、肩と腕をパンプアップさせた。
 そして、しばらく睨みあった後。
「あ、I lose‥‥」
 イエローはがっくりと膝を突いた。
「か、勝った!?」
「そんなわけないでしょう。さあ、本番、いきますよ」
「おっと、それもそうだ」
 勝負がついたところでやれやれと秦本が間に入る。
 思い出したように、守剣が聖剣「ワルキューレ」を構え、突撃した。
「うらぁ!」
 振り上げられた剣が、イエローを高く打ち上げる。
「残念ですが、そちらの土俵で戦うつもりは毛頭無い」
 そこを狙い、ニヤと笑みを浮かべた秦本が銃を乱射した。
「Ouch! Ouch!」
 叫び、どすりと落下したイエロー。だが、まだ立ち上がる。
「ふー、今のはちょっと、効いたNe」
 ゴキゴキと首を鳴らし、拳を叩き合わせる。恐ろしくタフだ。
 その一撃は、どう考えても強力だ。もらったら、骨の一本くらいは覚悟せねばならないだろう。
 イエローの接近を阻止しようと、二人はじりじり後退し、秦本はその間に銃を放つ。
 しかしそれらは肉と赤のカーテンに弾かれてしまった。
 このままでは、あの拳が振るわれる。
 意を決し、守剣が突撃しようと地を蹴った。その時。
「‥‥魔猫を瞳に映す事は出来ない」
 イエローの背後で言葉が囁かれる。
 同時に、言葉の主がイエローの背中にぽんと手を添えた。
「決して誰にもね。‥‥次」
 黒猫は、音も立てぬ歩みで静かに去った。
 刹那。
「ABABABABABABABA!?」
 イエローの全身を電磁波が襲う。
「チャンスです!」
「人一人やってんだ。ここで終わらせてやるよ」
 守剣のワルキューレが、秦本の和槍「鬼火」が、イエローに向かって襲いかかった。

●赤と銃と拳と猫
「ちっ、奴はどこだ」
 先ほど攻撃してきたUNKNOWNを探し、レッドは街を駆け回ろうとした。
 だが、そうはさせじと立ちふさがったのが、ネージュと陽山だった。
「悪レッド! 正義の鉄拳受けて見ろ!!」
 一気に距離を詰めた陽山の拳が降りかかる。しかし、ひょいとレッドはかわし、邪魔だとばかりに鞭を振り上げた。
「卑怯だぞ! 関係無いのを巻き込むだなんて」
 ネージュの言葉が、レッドを止めた。
「正義の風上にも置けないよ。そんなことでヒーローやってていいのか!」
 罵倒の数々。その間、レッドは微動だにしなかった。
 陽山がとっくに距離をとっているが、それでも動かなかった。
「ドサンピンのリーダーだけあるわね。やーいばーかばーか。この××ヒーロー!」
 試しに陽山が頬を殴ってみたが、やはり反応しなかった。
「相手は市民だぞ、武装してないんだぞ! 卑怯卑怯卑怯、超卑怯者!」
「貴様ァァァァアアアアア!」
 ついにレッドの怒りが頂点に達した。
 ビシッと鞭を地に叩きつけ、息も荒く怒鳴る。
「卑怯とは何だ卑怯とは! 貴様らは悪だ、悪は滅びて当然なんだッ!」
「何よ3バカトリオのくせに!」
 もはや言葉もないとばかりに、鞭を振るう。
 が、振り下ろせない。何度腕を下ろそうとしても、下りなかった。
 それもそのはず。
「お前をヒーローだなんて認めないぞ!」
 バイザーの奥でニヤリと笑う陽山が、鞭を掴んでいたのだ。
「はっ、離せ!」
「嫌だ!」
 それどころか。
 陽山は掴んだ鞭をぐいと引っ張った。
 そして。
「ゴッドサンライトの力を侮るなよ〜!」
 盛大に、殴り飛ばした。
 吹き飛ぶ背中に、ネージュの銃弾が叩きこまれる。
「おや、いきなりクライマックス?」
 ちょうどすぐ傍まで来ていたソウマが、ついでとばかりにその超機械でビリリとやった。
「ぐ、がふ‥‥っ」
 さしもの強化人間も、一気にこれほど食らえば堪らない。
 グラ、と揺れたレッドが膝をついた。
「私たちを」
「甘く見たな?」
「ま、当然ですね」
 なんとかフラフラと立ち上がるレッドに対し、三人は勝ち誇っていた。

●緑と桃
「いつまでやってんだ! 引き上げるぞ」
 それぞれの決着が今にもつきそうというところで、突如男の声が響いた。
 まるでそれが合図であったかのように、とどめの一撃を前に距離を取ったバグレンジャーは、一気に建物の上へ飛び上がった。守剣が慌ててソニックブームを放つが、間に合わない。
 しかし見れば、彼ら三人が飛び降りてきたというビルの上に、二つの影があるではないか。
「グリーン、ピンク! 来てくれたか」
「まったく、戦闘員退治もろくに出来ないなんて、大したリーダーね」
 喜びで二人を迎えたレッドだが、それは影の一つ、ピンクに一蹴された。
「彼らは民間人‥‥つまり非戦闘員です。貴方達がヒーローを名乗るなら、手を出すのは流儀に反するのでは?」
 秦本の問いかけ。
 それは、今度は緑の影に一蹴されることになった。
「ふん、分かっていないようだな。別に相手が戦闘員だろうと、そうでなかろうと、関係ない。相手が人間かどうか、それだけだ」
「――それだけ、かね?」
 すっと出てきた黒衣の男、UNKNOWNが問いかける。
「それだけに決まってますよ。あんぽんたんの考えることですし」
 同じく建物の間から出てきた、魔猫ことソウマが腕を組んで決めつける。
 あんぽんたん、の言葉に一瞬身を乗り出したレッドだったが、すぐにうなだれてしまった。
「悔しいが、その通りだ」
「‥‥正真正銘、馬鹿ですね」
 秦本が呆れて頭を抱えた。
「そうか、ならば」
 ため息も吐かず、UNKNOWNはエネルギーキャノンを構えた。
「ただ、己の不運を嘆くがいい。――私が居合わせた事を」
「悪いが、お前らの相手も面倒だ。じゃあな」
 照準を合わせられたブルーは、捨て台詞と共にさっさと姿を消した。
 それにレッド、イエローと続き、ビルの上にいた二人もいつの間にかいなくなっていた。
「ウガァァアアアアアア!」
 逃げられた。絶対優勢だった。
 だから西島は吠えた。もうちょっとだったのに。悔しくて吠えた。
「悔しい‥‥」
 素直に気持ちを漏らしたのは陽山だ。その背中を、共に戦ったネージュがポンと叩く。
 釈然としない終わり方。敵の目的は見えない。
 それでも、街は守れた。最低限の被害に抑えられた。
 成功、といえる。しかし。
「ここで潰しておきたかったな」
 誰かの言葉が、胸に重くのしかかった。