●リプレイ本文
●第九艦隊前進
「第六艦隊が一撃で消滅っ!?」
モニター越しに主砲の放たれる様子を見た白蓮(
gb8102)は絶叫した。
美海(
ga7630)も合わせて、
「潜水艦隊を一撃で沈めるとはやるのであります」
と評価する。
「トンデモナイ物を出してきますねっ」
奥歯を噛む白蓮はすぐさま愛機ガウティヘクセの向きを変える。
自分の追従していた第九艦隊に動きがあったからだ。
『各機へ。本艦隊は、これより敵城主砲破壊の任に就く。前進!』
「一刻も早く潰して後顧の憂いを無くしてしまおうじゃないか」
不敵な笑みを浮かべてスクリューの回転を上げた威龍(
ga3859)の玄龍に艦隊所属機が続々と続く。
そうはさせじと追撃を試みるキメラやワームもあったが、同じく第九艦隊に搭乗していた傭兵が割って入り、引き受けた。
入り込んだ通信から任務へ赴く彼らを心配する声が届けられる。
「システムオールグリーン。篠崎 公司(
ga2413)、海冥皇。出撃します」
一度に戦力を全て展開するなど下策。戦局を見て後詰に出ようと待機していた篠崎が、旗艦よりアルバトロス小隊を率いて出撃した。先に僅かに聞こえた通信に、ほんの少し笑みを浮かべて。
その姿を、潜水艦故にレーダーに表示される点情報からしか確認出来なかったことに臍を噛んだ者がいる。
怪我を負っていたカーディナル(
gc1569)だ。
「‥‥チッ、こんな時にお留守番たぁ、ツイてねぇな」
困難な仕事になるだろう。だが、だからこそ歯ごたえがあったろうにと内心嘆いたカーディナルだが、すぐに今出来る事をやろうと切り替えてインカムを装着した。
対して、オルカ・スパイホップ(
gc1882)は同様に怪我を負いながらもその態度は明るい。
「よーっし! アルバの6人よろしくね〜♪ 今日の耳の恋人は〜DJオルルだよ〜♪」
アルバトロス部隊の一部を指揮するのが彼の役割だ。カーディナルも同じ仕事を受け持ち、現場の指揮は篠崎が取る。
主砲までの最短距離を突き進むのは刃金 仁(
ga3052)。
「いまいちタイミングが不明じゃのう、ま、やるしかないて」
そう呟いた通り、主砲が発射されるまでの時間が分からない以上、急いで破壊に向かう必要があった。
●急襲
「主砲の防衛がたったのこんだけだ? んなワケあるか! 絶対どっかに潜んでる筈だ」
前方に敵の反応が多くは見られない。
カーディナルは通信で警戒を呼び掛けた。
「敵が少ない? そいつぁいいや」
返ってくるのはアルバトロスパイロットの、呑気な言葉。
篠崎の指示により下方を警戒する配置に就いていた彼らアルバ部隊だが、目視出来る敵数故かどうも緊張感に欠ける。
これは進軍に合わせ第九艦隊の潜水艦から魚雷による弾幕展開作戦が決行されたことによる結果ではあるが、それにしても少ない。
いや、目立つ敵がいない、と言うべきか。
「敵が少ないからといって、甘く見ないほうがいい」
篠崎の注意が飛ぶ。彼らを指揮する役目の有無に関わらず、こういった軽さが死を招くことを知る経験豊かな傭兵の忠告だった。
「どうしたんです、臆病風にでも吹かれましたか?」
しかし軽口。
これが余裕の表れだとしたら、まだ良かった。
「そうそう」
呑気な男の声。
「もしかすると、女でも連れてきたからかな? いっししし――うわぁぁあああ!!」
「秋崎ぃ!」
巨大な影に、1機のアルバトロスが飲み込まれた。
「う、上から来たぞ、気をつけろ!」
その余波に周囲のKVが錐揉みして弾き飛ばされた。
機体の制御がおぼつかない中、篠崎がトリガーを引く。
その弾が当たったのか当たらなかったのか。影は大きく身を捩じらせ、その先端をもたげさせた。
「ウツボ‥‥。なんてでかいんだ」
威龍が汗を握る。
影の正体は100mはあろうかというあまりにも巨大なウツボだ。
『オッホホホ。編隊を見れば、上はおろそかだというのは見抜けましてよ? こんな大きなウツボちゃんまで見逃すなんてね』
通信を通して、癪に障る女の笑い声が聞こえる。
有人機だ。
その口に咥えたアルバトロスの残骸をバキリと噛み砕くと、それは驚くべき速度で体を突き出した。
「出来る限りリロードが効く武器で攻撃してね!」
オルカの指示にアルバ隊が水中用マシンガンを乱射する。
が、ウツボの攻撃に体勢を崩され、上手く狙いが定まらない。
「魚雷を使え! でかいんだからどこかには当たるはずだ」
カーディナルの指示に頷いたのはアルバ隊だけでない。
「玄龍の力、見せてやるぜ」
威龍の発射した魚雷が見事に当たる。
効いているのか、ウツボが一瞬怯んだ。
今がチャンスとばかりに篠崎も魚雷を発射、アルバ隊と連携してウツボの動きを制限していった。
●シールドカーテン
「野郎ども、潜水艦隊の仇だ。目に物見せてやんな、なのですよ」
艦隊より先へ出、主砲の破壊を最優先とした者達もいた。
背後では有人機が出現したとの報告も入っている。
美海の檄に「おう」と応えた傭兵の面々は、一刻も早く目標を達成しようと前進する。
「時間が惜しい、最短距離を一気に突っ切るぞ」
進路はクリア。行ける、と踏んだ刃金が速度を増した直後だ。
「なっ、被弾っ!?」
突如衝撃が美海、刃金、白蓮の機体を襲った。
敵の姿は、見えない。
「どこからだ!?」
モニターを切り替え索敵するも、目につく敵はいなかった。
「刃金さんっ、機体に何かくっついてますよっ。フライパンみたいのがっ!」
え、と一瞬呆けた刃金。
だがそのフライパンみたいなものこそが敵だと知る。
「ぐおぉぉおお!?」
フライパン、爆発。
装甲がやや焦げる程度ではあるが、機体は相当揺れた。
「コバンザメであります。こっちにくっついて爆発するようなのでありますよ」
「もっと早く言ってくれ」
冷静に状況を見た美海へ、やや取り乱した刃金が唾を飛ばす。
「そんなこと言っても、美海も今分かったのであります」
「しっ! 前方に敵確認っ」
2人の悶着を制止した白蓮のモニターには、進行方向から恐るべき速度で迫ってくる4匹のサメの姿が映った。
いずれも背びれの脇から砲門を伸ばしている。
その背後からは、産卵期を迎えた鮭程度の大きさの魚がわらわらと従っていた。
「盾にしては、攻撃的ですねっ」
冷や汗を流しながらニタリと笑う白蓮。
その通り、とばかりにサメが砲撃。4匹一斉の攻撃に3人の機体が揺れた。
「ケモッタマーク2ならどうってことはないのであります」
お返しとばかりに美海が魚雷の発射管を開いた。
「発射管一から十、順次発射、一点集中じゃ」
目の前のサメが邪魔だ。続いて刃金も魚雷を発射する。
だがそれを見越したように魚達が前へ出、自らの体を盾にサメへの攻撃を防いだ。
「くっ、しかし、これで魚のカーテンはもういな‥‥いっ!?」
確かに今の攻撃で多くの魚は腹を天へ向けてぷかりと浮いていった。
だがそれと同時に現れたのは、ウツボ。背後で確認されたものよりはだいぶ小さいが、意地でも先へ進ませまいとする敵の意図がありありと感じ取れた。
●光龍
『やらせていただきますわ』
「ひ、ひぃぃ」
大型ウツボが、アルバトロスを見据えた。
数倍もの大きさを持つ敵を前に、アルバトロスのパイロットは思わず悲鳴を漏らす。
「ありがたいな、この深度でも自在に変形して、近接攻撃が行えるのだからな。どけ、やらせはしない!」
やらない手はない。と玄龍を人型へ変形させるや、その手からレーザークローを伸ばし、突撃した。
「食らえぇぇえええ!」
その光は確かにウツボの表面を裂き、狙われたアルバトロスは離脱出来た。
出来た、が。
『そちらから来てくださるなんて好都合ね』
大きく開いた口に捕らわれてしまった。
「威龍さん!」
「皆さん、魚雷を!!」
仲間の危機に篠崎とオルカがアルバ隊に救出を命じる。
だが、下手を打てば威龍に当たりかねない現状、なかなか有効な攻撃をすることが出来なかった。
不運は、それだけでない。
「‥‥なっ」
カーディナルがレーダーを見て目を見開いた。
「前方の敵が、散っただと?」
慌てて先へ進んだ傭兵達に確認を取る。
「今出てきたばかりのウツボがすぐにいなくなったであります」
返答に、カーディナルはすぐ理解した。
そして通信用のインカムを強く握り、周囲にも聞こえるよう叫ぶ。
「主砲が来るぞ!」
『あら、あれに巻き込まれたくはないわね。それでは、さようなら』
カーディナルの推測を裏付けるように、大型のウツボが咥えた玄龍を吐き捨てて撤退した。
もう時間がない。早く退避せねば、あの光に飲まれてお陀仏だ。
「すみません、自力で離脱してください!」
今から自分で手をのばしては間に合わない可能性もある。
篠崎は祈るようにその場を離れた。
そして、光の龍が駆け抜ける。
「滝崎、遅れるな滝崎!」
光の生み出す熱から全力で離れようとするアルバトロスの中で、1機だけ退避の遅れていた者がいた。
「だ、駄目です、間に合いません――うぉぁぁああああ!」
「滝崎ぃぃいいい!」
そのアルバトロスは、光に飲まれて消えた。
だが、まだ終わらない。
「2番艦が、直撃‥‥」
旗艦の司令室でオルカが、唇を震わせた。
決して、回避行動が遅れたわけではない。ただ、敵の照準に合わせられていたのだろう。
第九艦隊の潜水艦が、1つ沈んだ。
「‥‥! 間に合ったか、誰か、威龍の回収を頼む!」
カーディナルが気付いたのは、玄龍の脱出ポッド。幸いにもポッド射出の勢いで主砲を逃れたのだろう。
アルバトロスがネットを用いて旗艦へポッドを回収すると同時に、威龍はすぐ治療室へと運ばれた。
●第九艦隊突撃
「今じゃ、この機を逃しては成らん」
「孤立するな、足並みを合わせろ!」
主砲の発射に合わせて敵が一度散ったことを好機と見た刃金が一気に進もうとする。
が、カーディナルが叫んだように、それが危険だったと知る。
早めに離脱した分、次への行動が早かったウツボが、下方から登ってきたのだ。
「させませんよっ!」
とっさに白蓮が魚雷を放つ。
ウツボが怯んだおかげで何とか回避した刃金が回線を開いた。
「次の発射までは?」
「恐らく5分後だ。やるならそれまでに何とかしろ! これ以上はやらせんな!」
了解、と頷き、刃金がニタリと笑う。
旗艦から情報を伝達するカーディナルにしてみればハラハラものだ。
刃金の行く手は、しかしサメによって塞がれていた。
その砲門から、広範囲に渡っての攻撃が放たれる。
「どうあっても、先へ行かせない気でありますかっ!」
なかなか前進出来ず、美海の苛立ちが募る。
「アルバ隊、自分に続いてください!」
そこへ突撃してきたのは篠崎だ。
大型のウツボが撤退したことにより追いついてきたのだ。
続くアルバ隊が先に刃金らにとりついたコバンザメなどへ銃撃をくらわせ、篠崎自身はサメへ向かってガウスガンを発射する。
「魚雷発射!!」
その後方から、2隻の潜水艦による魚雷の援護も届いてきた。
見事一匹のサメに命中し浮かび上がらせたことに、オルカがパチリと指を鳴らす。
「派手に暴れても文句なんて誰も言わないよ〜!」
オルカの言葉に勢いづいたアルバ隊の攻撃も一層激しさを増していった。
好機が返ってきた。刃金が速度を上げ、ついにサメを抜いた。
もう主砲が見えている。
「あと少しだというのに‥‥!」
サメの盾となっていたものと同種の魚が、一斉に集まってきたのだ。
そして、一気に刃金へ向かって突撃する。
「アルバ隊!」
「この距離じゃ無理だ!」
カーディナルが叫ぶが、援護に入るには距離が空き過ぎていた。
魚群の体当たりに刃金のリヴァイアサンが凹む。
「くっ、止むをえまい」
流石にこれ以上の戦闘は困難だ。大怪我しないうちに撤退するが吉。
判断は間違っていなかった。だが。
影が、伸びる。
白蓮が叫ぶ。
ミサイルをリロードする時間がやけにもどかしく感じた。
「ぐ、ふぁ‥‥っ」
刃金の機体が、白蓮の足止めを振り切ったウツボの口に収まった。
脱出が間に合ったおかげで、刃金は即座に旗艦へ回収される。
「各機、もう時間がないぞ。急げ!」
敵の戦力はまだまだ残っている。これを抜けないことには主砲の破壊はままならない。
「アルバ隊、ありったけの魚雷を使うぞ。あの面倒な魚どもをなんとか出来れば、勝機はある!」
アルバトロスに乗る誰かが呼びかけた。
先は一斉攻撃により魚の大半を倒したのだ。もう一度それを試そうというのである。
「すみません、頼みます」
篠崎が突撃の用意をして頷いた。
「全機魚雷発射!」
「僕らも撃っちゃいましょ〜♪」
アルバトロスだけではない。2隻の潜水艦からも大量の魚雷が発射された。
まさに壮観。大量の魚雷が雨のようにサメやウツボ、魚に降り注いだ。
その中を篠崎、美海、白蓮が突撃する。
「抜けたであります! このまま主砲を‥‥」
「熱源っ? もうチャージが終わったって言うのですかっ!」
だが、見えた砲身の内部に光が収束していく。
間もなく発射しようというのだ。
「これは、一度離脱しましょう」
「了解であります」
篠崎と美海が回避運動に入る。が、白蓮だけはそのままの進路を保ち続けた。
「何をやってる! 離脱するんだ!!」
通信でカーディナルが怒鳴るが、白蓮はキッと前方を睨んで速度を増す。
「ここまで来たっ。だからやるっ!」
照準を砲身内部へ合わせる。
ミサイルの発射管が開かれた。
「後ろ、白蓮、後ろだ!」
篠崎の悲鳴。彼女の背後には、ウツボが迫っていた。
「ガウティヘクセに抉り貫けない物は無いっ」
放たれるミサイル。それは見事砲身に収まり、そして――。
●第九艦隊帰還
「急げ、こっちだ!」
「怪我人が通るぞ!!」
白蓮は第九艦隊旗艦の治療室へ担ぎ込まれた。
あの一撃で主砲は暴発。白蓮、ウツボを巻き込んでの大爆発を起こした。
近くに残っていた敵もろとも吹きとばし、主砲は沈黙。
美海や篠崎らによって、駄目押しの破壊攻撃により任務は完全に達成された。
「怪我人だらけだな」
治療室で目を覚ました威龍は、そう言って微かに笑った。
払った犠牲が大きいことは、何となくわかる。
しかし生きている。任務も達成した。
今目前を通った白髪の少女も、命に別状はないとのことだ。
そして威龍は、体を休めるために再び眠る。
「皆して無茶しすぎだ」
カーディナルが愚痴る。
「まぁまぁ、結果オーライってことで」
オルカに言われて、少し目を逸らした。
「すまないな艦長。うるさくしちまって」
作戦中、叫びっぱなしだったことを思い出し、詫びた。
しかし艦長は首を振った。
「無茶をしたのは私だ。よくついてきてくれたよ。むしろ感謝せねば」
「そうか」
ふっ、と艦長が笑んだ。
「さ、帰還しよう」
戦場は海の底。
主砲破壊の知らせに、人類はにわかに沸き立っていた。