タイトル:密林でのハンティングマスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/29 16:57

●オープニング本文


 西暦二千七年十月、アマゾンの密林の中で一人の男が木の影から様子を伺っていた。ジャック=スナイプ、元米軍の兵士でありながらも人類側不利と見るや否や戦線を離脱、アマゾンの密林に姿を隠したという脱走兵だ。
 しかしただの脱走兵ではない。狙撃の名手であり、同時に女子供を戦渦に巻き込むのも厭わない狂人でもある。脱走理由も個人的に戦争を楽しみたいためにというものだった。

 
「‥‥っていうことだ」
「となると、この辺りもやばいな」
 ジャックの視線の先にはUPCの制服をまとった二人の男、片方は通信機でどこかと交信をしているようだった。二人も周囲に警戒しているのか小声で会話しているため、仕方なくジャックは読唇術で男達の様子を伺っていた。
「一旦交替し、味方と合流するようにだそうだ」
「了解だ。偵察でこれ以上損害を出すわけにはいかないからな」
 アサルトライフルの入ったホルスターを肩に掛け、移動を開始する二人。ジャックが動いたのはその時だった。

「‥‥おい、どうした。ブラボー3、返事をしろ」
 数分後、通信機から二人を呼ぶ声が聞こえる。ジャックは通信機を拾うと、まだ呼びかけを続けている相手に伝えた。
「あんたが隊長さん?」
「‥‥貴様、何者だ?」
 通信相手は声のトーンを落として話しかけてきた。脅しのつもりなのだろう。しかしジャックは淡々と自分の用件を伝えた。
「狩りしない? ちょうどいい具合に弾丸の入った銃が二丁手に入ったんだ」
「ふざけるな」
 怒鳴る通信相手。しかしジャックは無視して話を進めた。
「とりあえず残弾数を確認したら合計で十発入っているんだ。そこで、こいつであんたを仕留められれば俺の勝ち。仕留められなければあんたの勝ち。わかりやすいでしょ?」
「そんな勝負に乗る必要は俺には無い」
「無いね。でも俺は勝手に始めさせてもらうよ」
 しばらく考えた後、隊長はULTに連絡することにした。

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
雪ノ下正和(ga0219
16歳・♂・AA
パワーマン(ga0391
25歳・♂・FT
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
葉山龍壱(ga1402
22歳・♂・FT
角田 彩弥子(ga1774
27歳・♀・FT
崎森 玲於奈(ga2010
20歳・♀・FT
早河 恭司(ga2932
23歳・♂・FT

●リプレイ本文

 目前に迫る熱帯雨林を前にして伊佐美 希明(ga0214)は単独行動に出ることを他の能力者達の前で宣言した。
「事前に調べさせてもらったんだけど、今回の敵であるジャック=スナイプっていうのは一年ほど前に敵前逃亡した元米軍の脱走兵みたいね。どうやら腕には自信があるようだけど、この一年での戦闘技術の向上を身をもって知らしめてやるわ」
 そう言葉を残して通信機も受け取らずに伊佐美は一人暗く生い茂る熱帯雨林の闇の中へと入っていった。

「大丈夫か?」
 雪ノ下正和(ga0219)は一瞬伊佐美を追いかけようかとも考えた。今回の任務は囮任務、最悪の場合命を落とす可能性もある。常に情報の共有する必要があると考えたからだ。
 躊躇する雪ノ下をパワーマン(ga0391)が呼び止めた。
「あいつだって馬鹿じゃないんだ。何か作戦があるんだろ」
 最後に「難しいことは分からないがな」と言葉を添えてパワーマンは力瘤を作った。
 あらゆる文化や宗教を超越し、心の交流を可能にする言語、「肉体言語」というものが世の中には存在するといわれている。
 どうやらパワーマンはその肉体言語の使い手らしい。しかし肉体言語を使えない雪ノ下は自分の正義の味方としての力の無さを痛感したのだった。
 
「作戦はどうする?」
 伊佐美が抜けたことを気にしていないのか、御山・アキラ(ga0532)は無表情のまま用件だけを述べた。
 だが今回の依頼に多少苛立ちを感じているのか、表情には出さないものの視線をあげたまま指は先ほど受け取った無線をしきりにいじっていた。
「まずは護衛対象の捜索からだな。護衛対象まで探す必要があるとは不思議なものだが、仕方ないと割り切るしかないってことだな」
 いつもくわえている禁煙パイプを一旦口から離し、角田 彩弥子(ga1774)は自分の案を語った。
「今回の依頼はいわばタマの取り合い。あっちの弾(タマ)が無くなるか、こっちの命(タマ)が無くなるかの勝負ってことだ」
 かなり危険な発言であるが、それでも角田は口元を歪めて笑っている。どうやらジャック=スナイプの性格に何か感じるところがあるらしい。
 同じくジャックに共感する者がもう一人いた。崎森 玲於奈(ga2010)である。今回敵がブービートラップを使う可能性も考慮してジャングルブーツを用意した強者でもある。
「相手は狙撃に秀でた才覚を持ち、地の利は向こうにあったとしても突撃銃ではそう遠くから狙った所で命中の程はたかが知れている」
「突撃銃ですか‥‥」
 早河 恭司(ga2932)が小さく呟いた。敵に渡った武器は最大射程60mのアサルトライフルが二丁、射程60mの武器を突撃銃とは早河は思えなかった。
「銃に関してはともかく、まずは合流だろう‥‥」
 葉山龍壱(ga1402)が話を進展を促すと、能力者達はそれぞれ案を出すのだった。

 伊佐美と雪ノ下の下調べでは、今回の敵ジャック=スナイプはスナイパー技術に秀でているだけではなく、殺人術に秀でているらしい。
「問題はこの一年のジャックの動向ですね」
 伊佐美も言っていたが、ジャックが姿を消したのは約一年前。メトロポリタンXが落ちた後だということだった。その後、さらに戦争が長引くようにとアマゾンに身を投じた。
 当然かもしれないが能力者ということだ。
 問題はそのアマゾンに入って以来の情報は二人とも見つけられなかったことにある。
「一人で技を磨いたっていう可能性はどうだ?」
 パワーマンが問う。
「もともと戦うためにアマゾンに入ったんだ。その可能性が高いだろ?」
 しかしそれには誰も答えられなかった。
「とりあえず依頼人である隊長に話を聞いてみるか」
 葉山が隊長と連絡を取る。そして唯一銃を携帯していた角田は実弾をペイント弾に入れ替えて、能力者達は熱帯雨林へと入って行くのだった。

 三時間後、能力者達は隊長と合流を果たした。隊長はジャックの動きをさぐりつつ、隠れていたらしい。
 能力者達と合流を果たした今でも、周囲を警戒している。
「こちらを見ているものが二人に増えた、どういうことだ?」
 隊長が問うと、早河が答えた。
「囮役が一人すでに放たれています。ジャックを警戒して通信にも応じないということです」
 通信機をもっていないということは敢えて伏せた。
 そして隊長護衛役を買って出た角田と早河だけを残し、他の者達は散開。そこにジャックからと思われる銃撃が二発放たれた。
 銃声に驚いたのか鳥が飛び立った。
 雪ノ下が周囲を確認するが誰も撃たれた様子はない。もちろん単独行動をとっている宇佐美だけは保障ができないが。
「無駄弾を使った?」
 葉山が問うと、隊長は答えた。
「常に見ているっていう意思表明だろう。いつでも狙えるという自信なのかもしれん」
 水を差される形となったが、再び囮役は隊長のもとをはなれて各自行動をとることにしたのだった。
「‥‥あと八発ね」
 銃弾の飛んできた方向と角度を考えて伊佐美はジャックの居場所を探っていた。
 ジャックが何を考えて、誰に発砲したのかは伊佐美にはわからなかったが、単独行動をしているからこそジャックの撃ってきた方向が分かった。
 だが伊佐美にもジャックの姿を確認することはできなかった。
「隠密だけは得意ということかしらね」
 しかし単独行動をする伊佐美が狙われることは無かった。
 
 葉山はまず始めにUPCの服に着替えた。隊長に変装しての囮役である。罠にかからないように足元に注意しながらの行動している時だった。 
 弾丸が飛んでくる。急いで刀で防御にしようとしたが発見が遅すぎた。弾丸は葉山の左胸に二射される。
 弾丸の勢いは葉山のフライトジャケットで緩和しつつも、確実にダメージを与える。
 急いで撃たれた方向を確認し、ジャックの姿を確認する葉山。しかしジャックを姿を確認することはできなかった。
「遊ばれている‥‥」
 狙われたのは葉山が下を向いているときだった。狙おうと思えば頭を狙うこともできたはず。
 葉山には敵の掌の上でもてあそばれている感じが拭えなかった。
 残り弾数八。

 次に狙われたのは御山だった。銃声が聞こえたため変装した雪ノ下を庇うようにして覚醒。そして葉山の視線の先に対して仁王立ちしたのだが、弾丸は御山の頬を掠めるように背後から撃たれた。しかも二発ともだ。
「どういうことだ?」
「木を飛び移っている、ということだな」
 葉山が撃たれてから御山が庇うまでそれほど時間はたっていない。飛び移るにしては常人離れした運動神経が要求される。
「‥‥あるいは兆弾か?」
 確かめるためにも御山がジャックを挑発してみた。
「貴様がチキンではなくハンターだと言うなら私を仕留めて見せるがいい。まぁバグアが怖くて逃げるチキンには無理だろうがな」
 しかし反応は無かった。
 残り弾数六。
 
 次に響く銃声は崎森の足元を襲った。ブービートラップを予想していたが、それらしいものが一切見つけられず不満を感じているところへの銃弾だった。
「‥‥クスクスクス、必死だな」
 しかしそれ以上の弾丸は飛んでこない。
「ああ、これ程残念だとは思わなかったよ‥‥渇望を潤せなくて」
 口元を歪ませて悲しんでいるのか、喜んでいるのか分からない表情だった。
 残り弾数四。
 
 残弾数がかなり減ったこともあって、護衛に回っていた角田と早河にも緊張が走る。通信によるとジャックはこちらを弄んでいるということだった。
「そろそろ本気で来るってことか?」
 角田が呟いた時だった。視線の先に光るものを見つけたのだ。
「危ない」
 角田が隊長と早河に覆いかぶさるように伏せさせる。弾は隊長の立っていたはずの場所に二発打ち込まれていた。
「本気出してきたのか?」
「‥‥」
 それでも角田には違和感があった。「何故自分には銃が見えたのか?」それが納得できなかった。
「どうした?」
 早河が問うと、角田は頭を掻いて答える。
「敵がわざとあたしに銃口をみせた気がしてね、何か釈然としないんだよ」
 そして最後の銃声が響く。次に響いたのはパワーマンの叫びだった。
「いてぇなぁクソヤロウがっ」
 
 計算上ジャックの弾数が切れたところで多少気を緩めていた雪ノ下。そこに通信が入った。
「ごめんよ。あんたの分の弾、残ってなかったわ。今度来るときは人数教えておいてくれるとありがたい。こっちも仲間に声をかけておくからさ」
「仲間だと?」
 雪ノ下の調査ではジャックが逃亡するときに誰かが同行したという話は聞いていない。
 ということはアマゾンで出会った似たような考え方の者達なのだろうと雪ノ下は考えた。
「お前達のような迷惑な連中、まとめて退治してやる」
 啖呵を切って通信を切るのだった。