●リプレイ本文
響月 鈴華(
ga0507)の提案もあって、能力者達は一日目、ブラジル南部にも足を伸ばした。
「ニコールさんは南部の方が危ないって言ってたけど、できれば確かめたいところですからね」
今回の依頼人であるニコール=カーターはブラジルの南部の方が危険地帯だと言っていた。理由は海岸線沿いの大半はバグアとの競合地域になっているからである。
「輸出の手段が無いわけでは無いだろうが、その分割高になる。コーヒー豆に命張れる奴はそれほど多くは無いってことだ」
ブラジル在住の能力者、オルランド・イブラヒム(
ga2438)はブラジルの現状をそう語った。
喫茶店の娘である響月としては、それは聞き捨てなら無い言葉だった。
「私は命張ります。そのために来たんですから」
喧嘩を売られたと感じた響月だったが、オルランドは気にした様子はない。
そこに鷹代 朋(
ga1602)が割って入った。
「彼は『多くは無い』って言葉を使いました。それはいないという意味ではありませんよ」
オルランドは居住まいを正すためにサングラスをかけなおした。
「危険になればなるほど燃えるっていう酔狂な奴らも世の中にはいるってことだ」
「だな」
ヴィート・ラ・ロテッラ(
ga2421)は軽く同意した。
戦況よりコーヒーを大事にする彼にとって今回の依頼は重要極まりないものだが、今大きく出れば自分も酔狂者だとアピールするようなもの。あまり大きく出るわけには行かなかった。「話はまとまりましたか?」
キース・ローレン(
ga2205)が声を掛ける。
「ええ。北部へ向かいましょ」
響月は自分の中の気持ちを整理する意味も込めて、ブラジル南部を後にした。
南部から北部へ移動するに当たり、能力者達は敢えて海岸線を飛んだ。オルランドの言うことを信じていないわけではなかったが、確認したかったからだ。
「微妙ですね」
「ですね」
荒守 アリサ(
ga0518)と瀬戸内海(
ga1398)は二人揃ってため息をついていた。
見かける船の数が少ないのだ。
「とはいえゼロではないのが救いでしょうか」
荒守がフォローを入れるが、瀬戸は答えない。しばらく考え込んだ後にオルランドに尋ねた。
「どのくらい割高なんでしょう?」
「‥‥個人によると思うぞ」
オルランドは答える。
「ということは豆が良くても足がでる可能性があるということか‥‥」
角田 彩弥子(
ga1774)が数学教師らしく頭の中でそろばんを弾く。
「ここからアメリカの北東部まで運ぶんだろう? まとまった数を運ばなければ元はとれんぞ」
「‥‥空は?」
鷹代が言葉を挟んだ。角田はオルランドの方を見る。しかしオルランドは何も答えなかった。
代わりにキースが答える。
「普通に考えれば空の方が高くつくだろうな。それに大量に運ぶのなら輸出業者を狙ってみるのがいいだろう」
「状況によっては南部を勧めたほうが良いかもしれません」
響月も自分の意見を述べた。
色々な考えのもとで能力者達はブラジル北部へと向かうのだった。
そしてブラジル北部、能力者達は二手に分かれて行動を開始した。響月、荒守、瀬戸内、オルランドがA班となって農場関係を回り、鷹代、角田、キース、ヴィートがB班として流通業界を回ることになった。
「極力戦闘は避けましょう」
「そうですね。私達は戦いに来たわけじゃないですし」
戦闘を避ける方向で行くということを全員で確認し、能力者達はそれぞれの目的地に移動した。
調査から三日目、A班はコーヒー鑑定人を見つけていた。年齢は五十くらいだろうか、皺の数が年季を感じさせている女性だった。名前はルシアーナというらしい。
「コーヒーを鑑定してもらいたいのですが‥‥」
「それは分かってます」
響月の挨拶を鑑定人は途中で打ち切った。
「私は鑑定人、それ以外に貴方達に会う理由は思い当たりませんから」
ただ単に短気なのか、それとも忙しいのか鑑定人の機嫌はあまり良くないらしい。
それでも荒守は臆せず、鑑定人に尋ねた。
「なんでそんなに機嫌悪いんです?」
思わず荒守の顔を見るオルランドだったが、時既に遅し。荒守の発言はルシアーナの耳に届いている。証拠として彼女の目が段々細くなっていった。
「何で悪いと思う? お嬢さん」
ルシアーナが問いかけると、荒守は当然のように言い放った。
「そんなの分かんないですよ。私、まだ少女ですから」
「いい根性してるわ」
口元をゆがませるルシアーナ、そして知っていることを話してくれた。
「私が知る限り、コーヒーを買いに来たのは貴方達で三組目よ」
その頃B班も、一つの輸出会社に当たりを付けていた。どうやら在庫はあるらしいが、値段を釣り上げようとしている魂胆が見え隠れしていた。
「在庫はあるのはあるんだが、ここから離れたところにあるんでね。取りに行くにも金がかかるんだよ」
「また?」
角田は既に呆れ始めていた。鷹代も相手のあからさまな手口に頭を抱え始めている。
しかし今回の事をきっかけに新規開拓を考えているキースとヴィータは粘り腰の交渉を続けていた。
「ならば倉庫までは私達自身が取りに行こう。それで問題無いな」
「ただしこちらも品質を確認したい。それまでは一銭も出さないからな」
一向に話を進めない業者にキースとヴィータの二人も一歩も譲らない構えを取った。ヴィータにいたっては携帯してきたスブロフを使って火炎瓶を作って脅そうかとも考えていた。
しかしそんな思いが通じたのか、業者の方が先に折れた。
「‥‥案内しよう」
ルシアーナの話によると、今回の戦いの背景に一つの疑惑があるという。
「バグアが赤道付近にいるからいけないんだよ」
これがいくつか弊害を巻き起こしている、というのがルシアーナの意見だった。
「まず始めに南半球から北半球への輸送が難しくなっている。どうしても赤道は通らなきゃいけないしね」
特に船を使う場合、重要拠点となっているパナマ運河が競合地域になっており、現在はUPCの管理下にあるものの安全に輸送できない、とルシアーナさんはいう。
「長期的に見るのなら、パナマ運河はいつまでも使えるとは考えるべきじゃないだろうね」
他にも熱帯地方特産の作物の輸送、南米の地下資源の輸送には手をこまねいている状況らしい。
「とりあえず今回は紹介するよ。一度栽培を止めると再び始めるのは結構骨の折れる仕事だからって、今でも作り続けている頑固者はいるからね」
そこで一つの疑問を瀬戸がぶつけた。
「だったらルシアーナさんが考える一番確実なルートっていうのは何かしら?」
しばらく考えてルシアーナは答えた。
「ブラジル南部、サンパウロ辺りで入荷してパラグアイ、アルゼンチン経由でチリに運んでから船だろうね」
響月は後学のためにもメモを取り始めていた。
「香りは確かなようですね」
ヴィータがコーヒー豆を一掴みして確認した。本人曰く鼻には自信があるという。
「んじゃ値段交渉といこうか、そちらさんの言い値は?」
角田が話を進めに入る。すると業者の方が法外な値段を言い出してきた。当然予算を超えている。
どうして吹っかけるのか、鷹代は次第に疑問に感じ始めていた。
値段を釣り上げるということは、こちらがお金をもっていると業者が考えているからだろう。確かにヴィートにいたっては「ジャパニーズビジネスマンを見習った」と本人が公言するようにスーツでここまで来ている。
そこで鷹代は一つカマをかけてみることにした。
「前の人にはいくらで売りましたか?」
帰りの高速飛行艇の中、コーヒーの香りに包まれながら能力者達は依頼人のニコールが住むアメリカ北東部を目指していた。
今回得た情報の提供と、土産程度のコーヒー豆を運ぶためだった。
「嗜好品は人間らしい生活の一つの希望だと考えていたのだがな」
オルランドは呟く。
ルシアーナの話によると、今回の争いの背景にはもう一つの問題があるという。それはそれなりに裕福な生活を行えている地域が被害にあわずに済んでいる、ということだ。
ごく一部なのだろうが、今回の戦争を他人事のように考え、金儲けを狙っている奴がいるということだった。
「品薄になっているところを利用して、コーヒーで一儲けという考えは許せませんね」
「全くです」
ヴィータの考えに響月も同意する。
「俺様は最後は物々交換になると考えていたんだが、随分と様相が違っていたな」
角田が呟いたのだった。