タイトル:ナイトフォーゲル突撃マスター:八神太陽

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/22 16:17

●オープニング本文


 西暦二千七年十月、オタワ上空で一機の傷ついたナイトフォーゲルが突撃をかけていた。
 一度戦闘を終えた後ということもあって、数少ない装甲板はすでに使い物にならなくなっている。加えて両翼は風を切り裂きつつも悲鳴にも似た音を上げていた。
 機内ではオペレーターと思われる女性からの通信が響いていた。
「‥メーデー、メーデー。デルタ1応答を。デルタ1応答を」
 しばらくの沈黙、やがてパイロットのトーマスは静かに応答する。
「こちらデルタ1、トーマスだ。本部、うるさいぞ」
「トム、大丈夫だったのね。あなたまで死んだのかと思ったわ」
「勝手に殺すな」
 オペレーターの安心した声がマイクを通してトーマスに届く。しかし彼の声には怒気が含まれていた。
「これから敵の追撃に入る。運が良ければ敵の基地が分かるかもしれん」
「なっ」
 オペレーターは思わず絶句した。モニターでトムの位置を確認すると、デルタ1は南東へと進んでいる。
「戻りなさい、デルタ1。あなたは二機落としたじゃない、バグアも後退したし十分よ」
「何が十分だ! こっちの方が被害は大きいだろうが」
 モニターでのデルタ1の点は移動速度を上げた。ブーストを使っただろう。
「ジェーンとアンダーソンを殺したオトシマエをつけてやる」
「デルタ1、帰還して‥」
「敵はこっちに逃げやがった。こっちにゃ俺達の施設があったはずだ、今はバグアの野郎共に占領されているだろうけどな。俺が基地ごとぶっ壊してきてやる」
「無茶よ、トム。弾薬ももうないでしょう? どうやって攻撃するつもり? あなたまでやられるわ」
「弾薬なら死んだ仲間の機体から回収した。それに哨戒と防衛ばっかりでウンザリなんだよ」
「仕方ないじゃない。バグアの規模も現在の基地の場所もまだ分からないのよ」
「チンタラやってる間に今日みたいに死人増やすつもりかよ。俺は嫌だぜ」
 その言葉を最後に通信が途切れた。 

 一方的に通信が途切れて数分後、通信室のモニターからデルタ1の光が消える。しかしUPCには捜索に出せるほど人手が無かった。 
 撃墜された可能性も含めてUPCは能力者たちに依頼を頼むことにした。

●参加者一覧

鳳 湊(ga0109
20歳・♀・SN
リズナ・エンフィールド(ga0122
21歳・♀・FT
佐嶋 真樹(ga0351
22歳・♀・AA
斑鳩・眩(ga1433
30歳・♀・PN
麓みゆり(ga2049
22歳・♀・FT
新宮寺 雪乃丞(ga2158
24歳・♂・FT
ゴンタ(ga2177
19歳・♀・FT
如月・彰人(ga2200
18歳・♂・FT

●リプレイ本文

「確かに人材は貴重だがな、自制できない軍人など害悪でしかない。‥‥現に貴重な機体をロストしている」
 高速艇の中で佐嶋 真樹(ga0351)がトーマスのこと酷評すると、便乗していたメカニックが彼を庇った。
「気持ちは分かるが、あんたらにそういう権利は無いぞ?」
 まだ三十半ばくらいだろうか、それほど皺のない眉間に眉をひそめてメカニックは言った。
「機体を優先するっていうのは上の判断って奴だ。俺にとってはどちらも同じくらい必要なんだよ」
「詳しく聞かせてもらえるかな?」 
 斑鳩・眩(ga1433)も依頼を受ける時、佐嶋と同じような感想を抱いていた。だが機体を壊されて一番頭が痛いと思われたメカニックが以外にも同情の気持ちが強いことに斑鳩も内心驚きを隠せなかった。
「要は士気の問題だ。敵を一人倒せば味方が一人死んでもいい、そんな計算は成り立たないだろう?」
 確かにナイトフォーゲルは貴重な機体である。数さえ揃えばバグアと均等に戦えるとまで言われている。しかしそれが本当の事かは誰も証明できない。
「ナイトフォーゲルの数が揃うまでまだ時間がかかるといわれてる。明確な返答は俺達メカニックさえ知らないんだ。それまでの間ひたすら耐えろっていうのは無理な話なんだよ」
「しかし職業軍人である以上、上の命令には従うべきじゃないですか?」
 麓みゆり(ga2049)が口を挟んだ。麓自身民間企業と契約していた経験がある、そのためでてきた発言だった。
 メカニックはしばらく考えて答えた。
「トーマスの命も大事にしたいというのはあくまで俺個人の意見だ。上から見れば機体の方が重要だろうし、パイロットは他にもいるわけだからな。それに職業軍人なら上の命令に従うのは当然のことなのだろう」
 メカニックは一呼吸おいて続けた。
「だが職業軍人である以上、結果を出すべきだとも俺は思う。家に帰って俺は、妻や子供にいつまで我慢しろと言うんだ?」
 いつまで戦い続ければ良いのか、それは誰も答えられない疑問である。しかし軍人でもない一般市民にいつまでも耐えろというわけにもいかない。
「‥‥お名前を聞かせていただけますか?」
 鳳 湊(ga0109)が握手を求める。
「ヤン=ジョンシュだ」
 ヤンは初めて白い歯を見せて握手に応じた。

 車の貸し出しは無理だったものの、付近の地図は能力者全員分用意されていた。かなり詳細な地図で今でも使えそうな通路などが記されている。
 不審に思った ゴンタ(ga2177)が尋ねると、地図作成者は今回の捜索対象であるトーマス=藤原の手によるものらしい。
「暇があれば突入作戦の立案していたよ、あいつは」
 ヤンが呟く。
「ということは、トーマスさんと彼の乗機は無事である可能性が高いともいえますね」
 リズナ・エンフィールド(ga0122)は地図を確認すると、幸か不幸か建物が無くなったためにナイトフォーゲルの着地できるスペースがいくつか存在する。
 そこで能力者達は隊を三つに分け行動することにした。

 手がかりが見つかったのは調査二日目の夜のことだった。
 日が落ちたので一度調査を打ち切り、情報交換のために戻ろうとするB班の前にちょっと違和感のある光景があった。
「ここに何かを引きずったような跡がありますね」
 如月・彰人(ga2200)が指を差す。そこにはアスファルトが剥げて剥き出しになった土がアスファルトの上にも乗っている。
「とりあえずこれを追ってみますか。バグア達の罠の可能性も否定できませんが」
 そう答える新宮寺 雪乃丞(ga2158)だったが、手には汗をかいていた。
 これから視界が悪くなる。まだキメラの視界というものがはっきりしていないが、人間にとって有利に働くとはいえない。しかし事は一刻を争っている。
「行くしかないでしょう。連絡手段はあることですし、何とかなりますよ」
 リズナが麓から預かった照明銃を握り締めながら、如月と新宮寺を励ました。
 そして自分自身も鼓舞していた。

 それから数分後、三人は目的のナイトフォーゲルを見つけていた。隠すようにマントやシーツが掛けられている。
 そして問題の本体の方はかなり傷ついてはいるものの、見た目は飛べないというほどでも傷ではない。
「ナイトフォーゲルの方は無事発見。後はトーマスさんですか‥‥」
 如月がそう呟き、リズナが照明弾を上空に打ち上げる。その時だった。
「動くな」
 背後から声が聞こえる。男性の声だ。
「両手を挙げ、頭の後ろで組め」
 迷い無く指示を出す。本来なら恐怖を感じるところなのだろうが、今の三人は違った。
「トーマス=藤原さんでしょうか?」
 リズナが呼びかけると、声の主は驚いたように答えた。
「どうして俺の名を知っている?」
 目的の人物発見と無事を確認し、三人は頭の後ろで手を組んだまま安堵の表情を浮かべていた。

 その後、三人とトーマスは周囲を警戒しながら他の能力者達の到着を待った。
 警戒している理由の一つは夜間であること。そして二つ目に照明弾を使ったことにある。
「見つけてくれたことには感謝しているが、手荒い歓迎になるかもしれんな」
 トーマスは日本刀を構えながら言う。
 キメラの視界がどのようなものなのか、いまだ判明はしていない。ゆえに夜間に照明弾を使う意味を理解できるかどうかも判断はできない。
 だが人間程度の知能があれば、何か異変があることぐらいは察知できるというものである。
「お前達、キメラと戦った経験は?」
 トーマスが呼びかけるが三人は首を振った。
 そして肝心のトーマスだが、彼自身も空腹らしい。何とか廃墟となった建物を物色し、食べ物を見つけて食いつなげていたようだ。今は新宮寺が物色してきた栄養食で何とか動けるようになっている。
「キメラが来るのが先か、仲間の迎えが先か賭けてみようじゃないか」
「きっと賭けになりませんよ」
 リズナは冷静に答え、覚醒した。青いオーラが彼女を覆っていく。
「気に入った」
 合わせて他の三人も覚醒したのだった。

 先にやってきたのは鳳、佐嶋、ヤンの三人だった。脱出用の高速艇とともに登場だ。
「はじめまして、トーマスさん。状況が状況だから、堅苦しい挨拶は抜きにさせてもらいます」
「ヤンを引っ張ってきてくれたか、助かる」
 そういうと同時にトーマスの身を包んでいたオーラが急速に光を失い、その場に倒れた。慌てて鳳が肩を貸す。
「練力切れね」
 佐嶋が冷静に言う。
「無茶するから」
 トーマスは何か言いたそうな表情をしていたが、今は何も言わなかった。

「どれくらいかかります?」
 如月がヤンに修理にかかる時間を尋ねる。
「十五分もあれば十分だ」
 どうやらバランサーが多少調子が悪いだけらしい。急速な旋回をしたのだとヤンは答えた。
「その間、頼むぞ」
 トーマスはすでにコックピットの中で休んでいる。帰りの運転の心配もあったが、ヤンが付き添うらしい。そして更なる問題は飛びたてるかどうかにあった。
「十五分、長いとも短いともいえない時間ですね」
 加えて、まだA班の斑鳩、麓、ゴンタの姿が見えないのも気にかかる。 
「無事を祈りましょう」
 今は目の前の事を全力でするしかなかった。

 その頃、A班の三人は疑心暗鬼に襲われながらトーマスの下へと向かっていた。
「本当にこっちでいいのかな?」
「‥‥多分」
 三人は夕方、付近で眩しい光を目撃していた。照明銃のものかと近寄ってみれば、そこには奇妙な女性のような姿をしたキメラが立っていた。三人は見間違いだと判断し、キメラに発見される前に無事退却したのだった。
 そして今、再び眩しい光を目撃したわけだが、それが本当に照明銃のものか判断できずにいたのだ。
「どう思います?」
 尋ねる麓だったが、斑鳩もゴンタも答えをしらない。
「今は前に進む、それだけです」
 警戒を怠らないものの、三人の足は次第に速くなっていった。

 斑鳩、ゴンタ、麓の三人が照明銃らしき光を目撃した場所につくと、そこでは既にナイトフォーゲルが離陸態勢に入っていた。
「任務は無事達成したみたいだな」
 呟く斑鳩だったが、視界の端に映る高速艇も離陸準備を始めていた。
 近くにはキメララットが高速艇に襲いかかろうとしている。
「飛び乗れってことでしょうね」
「あんまり歓迎できない状況だね」
 そうは言うものの、状況を打破するためには飛び乗るしかなかった。ゴンタは自分自身に願をかけている。
「笑え、笑うんだゴンタ‥‥! これを切り抜けられれば、私は更に強くなる!」
「そうだよ。私達は強くなるんだ」
 斑鳩は走りながら照明銃を取り出した。
 キメララットとの距離が近づく、キメラの方も三人の存在に気付いたようだ。
「こっち見るなよ!」
「了解」
 斑鳩は速度を緩め、照明銃を前方に放った。

 無事高速艇に乗り込んだ斑鳩、ゴンタ、麓は大きく深呼吸をしていた。
「冷や汗ものでしたね。最後まで気が抜けませんでした」
 鳳がいうと、麓が反論した。
「本当の最後はバグアを倒してからですよ。次の依頼に備えないといけませんよ」
 そう言って救急セットを取り出すのだった。