タイトル:【SK】黒い箱マスター:八神太陽

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/08 00:37

●オープニング本文


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「何故カミラを殺した?」
 フォークランド諸島某所の洞窟内で二人の男女が対峙していた。
 一人は女。厚手の服で身を包み、剣を腰に差した東洋系の女性だ。
 一人は男。黒い服に身をやつし、銃の手入れをする白人の男性だ。
 男は女に背を向け、解体したライフルの部品を丹念に磨いている。女はそんな男の態度に苛立っていた。
「もう一度問う、何故カミラを殺害した?」
 女は同じ質問を繰り返す。しかし二回目ということか、一回目に比べ怒気が含まれている。それに対し男は女を一瞥する。
「それが仕事だからだ」
 そう答えると、男はライフルの組み立てに入る。そして「次も手を抜くつもりは無い」と宣言すると、それ以上口を開くことは無かった。

 西暦二千八年四月、セシリーはその日朝から教会にいた。母カミラの葬儀のためである。普段は肌を出すことを好む彼女であったが、今日だけは質素にまとめている。
 そして全てを終え教会を後にしようとすると、外には二名の男性が待っていた。一人は小太り、薄汚れたコートをまとっている。もう一人は頭頂部の寂しい鼻髭の男性、髪が薄いことを気にしているのかハンチング帽をかぶっている。二人はセシリーに対し警察だと説明した。
「お悔やみ申し上げます」
「‥‥済んだ事は仕方ありません。それでご用件は?」
 二人の差し出す名刺を受け取り、セシリーが話を切り出す。この状況で警察の聞きたいことといえばどうしても限られてくる、セシリーも察しがついていた。
「私にはアリバイがある、その日は事務所にいた。何人か私を見ている人物がいると思うから確認してもらってかまわない」
 事務作業のようにセシリーが冷たく言い放つ。唯一の肉親との別れを悲しむと同時に、フォークランドの支えなければならないという責任の重さを彼女は今更ながら感じ始めていた。
「それで母を殺害した犯人に目星はついたのか?」
 普段以上に口調が厳しくなっている事を自覚しつつ、問いただすセシリー。それに対し二人の警官は無言で頭を掻いた。
「とりあえずコレを聞いてください」
 差し出されたのはテープレコーダーだった。

「‥‥エルドラド? そんな場所は知らん」
「知らなくていいです。俺も知りませんから」
 セシリーは警官二人と教会に戻り、差し出されたテープを聴いていた。それは先日ハイジャックされたFL十三号機のブラックボックスから回収されたものだった。
「あまりふざけないでくれるか? 私の身に何かあれば、君達の身もただでは済むまい」
「ふざけてなんかいない。どうせ俺達はもうすぐ死ぬ身、死ぬ事に戸惑いはない」
 テープから二人の男の声が聞こえる。セシリーが尋ねると、怒ったように話すのがパイロット、もう一人は白い翼の関係者らしいということだった。
「俺達白い翼はここで本物の翼を得るんだ」
 そこで小太りの男がテープを止める。これ以上は聞かせる必要が無いと言うことなのだろう。
「白い翼という団体、組織名に聞き覚えは?」
「ない‥‥ないな」
 小太りの言葉に多少考えてセシリーは返答する。ハンチング帽がセシリーの目を覗き込み真意を読み取ろうとするが、セシリーにはやはり聞き覚えがなかった。
「どうせルルイエの類じゃないの?」
「そうかもしれませんが、無視するわけにもいきません。カミラさんの死と関係があるかもしれませんから」
 ハイジャックとカミラの死、それら二つは関係があるのではないかというのが警察の見解だった。だが現在カミラ狙撃に使われた銃が見つかりはしたものの、二つを結ぶ線は見つかっていない。
「まぁ何か思い出したら連絡ください。あと島だけで解決できない可能性もありますので能力者に支援を求めるつもりです」
 去り際に警官二人はそう言葉を残して去っていった。

●参加者一覧

クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
麓みゆり(ga2049
22歳・♀・FT
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
赤村菜桜(ga5494
23歳・♀・SN
みづほ(ga6115
27歳・♀・EL
美海(ga7630
13歳・♀・HD
水流 薫(ga8626
15歳・♂・SN

●リプレイ本文

 白き翼を持つもの 黒き箱を求めんとする時
 黒き翼持つもの 金と鉛の弾を有し 白き翼を持つものを守る
 黒き箱とは世界の最果てにあるという秘法
 所有者の夢と希望を喰らうという

「狙撃犯? そりゃルルイエの類だろうな」
「ルルイエ?」
「存在しないもの‥‥そうだな、例えば天使とか悪魔のような想像上のもののことだ。このあたりの民話にも白き翼っていうのもあるが、そういうのもルルイエだな」
 カミラ殺害場所となった崖の上でクラーク・エアハルト(ga4961)、みづほ(ga6115)、美海(ga7630)は地元の警察に話を聞いていた。初めは話を聞くどころか現場にさえ入れてもらえなかった三人だったが、麓みゆり(ga2049)とUNKNOWN(ga4276)の口利きで信じてもらえたらしい。
「大体おかしいんだ。死体は海に落ちた、だが弾丸は崖の上で見つかっている。確かにやることは不可能じゃないが、意図的に狙うのは至難の業のはずなんだ」
 強い潮風に飛びそうになる帽子を手で押さえつつ、現場の指揮官らしき人物が答える。同じ疑問を感じていた美海も思わず頷いた。
「ですよね、私もそう思ってたんです。でも不可能じゃないんですか?」
「んー不可能じゃないだろうな、サンダルは残ってたし」
 警察の見解によると、銃で撃たれたカミラは即死ではなかっただろうという事だった。カミラは何とか体勢を整えようとしたが、足を踏み外したと考えているらしい。
「おっしゃることはわかりましたけど、それでもなんか難しい気がしますよ?」
「だからルルイエなんだ」
 美海の問いに指揮官は、海の方を見やって答える。だが今は高く波が立っているだけだった。
「ならカミラさんが疲れていた可能性はどうでしょう?」
 警察の車両しかない駐車場から視線を戻し、クラークが尋ねる。だが指揮官は理解が追いつかないのか、目の焦点が合っていない。しばし考えた上で、クラークは質問を変えることにした。
「‥‥犯人がカミラさんが疲れているところを狙ったんじゃないかと思いましてね」
 クラークは当初カミラが自殺、あるいはそれに準ずる方法で他界したのではないかと尋ねるつもりでいた。だが警官の顔がはっきりしない、おそらく警察は自殺説を否定しているのだろうと考えて質問を変えることにしていた。
 しばらく考えた様子を見せて警官は答える。
「カミラ女史には良くも悪くも敵が多かったからですからね。あーでも勘違いしないでください、確かに敵は多かったわけですがライバル? そんな感じのもんですよ。互いに刺激し合い高め合う存在だと考えてください」
「ライバルですか?」
 鸚鵡返しでみづほが問うと、指揮官は頷いてみせる。
「たとえばフォークランドの西島にはシャーマンが住んでいました。彼等、あー女性もいたような気がします、まぁその人達は戦争肯定派でしてね。悪しき膿は全て叩き出すべきなんだ、戦争は運命であり捻じ曲げるべきではない、そう言ってましたね」
 そこに部下らしき人物が姿を現す。自由に調査してくれて構わない、そう言葉を残して指揮官は部下とともにその場を後にした。
「ルルイエにシャーマンなんて、妙な言葉のオンパレードだったわね」
 指揮官のいなくなった崖の上で、みづほが天を仰ぐ。すると分厚い雲が近づいてくるのがはっきりと見えていた。

「雨ですね」
 窓の外を眺めながら水理 和奏(ga1500)が呟いた。
「最近結構多いですよ、異常気象というのでしょうか。近年は地球温暖化のためにマゼランペンギンの数も減ってきていますからね」
 水理、UNKNOWN、赤村菜桜(ga5494)は今、ハイジャック被害者の一人、ヘニング・アイリーンの家に来ていた。あの事件でハイジャック犯に声をかけられた女性である。本来なら簡単に見つかるわけでは無いのだが、そのあたりはメディアを味方につけたUNKNOWNのおかげだった。
 とはいえここは厳密にはアイリーンの家というわけではない、彼女は今地球温暖化、そしてそれを伴う生物種の現象を調査しているらしい。フォークランドに来ることも初めてではないが、ハイジャックに遭遇したのは初めての事。犯人達との面識も無いということだった。
「雨がいいのかどうかは正直私にも判断できかねるのですが、突然の変化は望ましくは無いですね」
 水理につられるようにして、窓の外を眺めるアイリーン。来客の三人にお茶をいれつつも、視線を外へと向けている。だがなんとなく納得できなかったのか、赤村が尋ねる。
「何故です? 突然じゃなくても良い方に変わることもあると思うんですけど」
 伊達眼鏡をかけながら小首を傾げる赤村、今はジャーナリストの鈴木華子と名乗ってある。アイリーンは赤村の偽名に気づいている様子は見せないが、彼女のまとうメイド服に違和感を感じつつ、小さく微笑を浮かべて「それもそうですけどね」と答える。
「天気だけじゃないですけど、突然の変化には身体や思考が対応できない事が多いのです。例のハイジャック事件の時も、私は大した事が出来ませんでしたからね。あんな状況でも動けた貴方達が正直羨ましいですよ」
「そんな事無いよ。僕達は自分の出来る事をやっただけだし」
 頬を赤く染めながら、俯いて照れる水理。一方横ではUNKNOWNは窓の外に煙草の煙を逃がしながら、つぶさにアイリーンの行動を終始観察している。
「でも何かできるだけでも私は良いと思いますよ。身体動かしたり、考え事しているだけでも気は紛れますし」
 一呼吸おいてアイリーンが続ける。
「本当に怖いのは、変化にさえ気づけずに死んでいくことだと思いますから」
「確かにそうかもしれませんね」
 軽く居住まいを整えて、UNLNOWNが短くなった煙草を携帯灰皿に押し付ける。そして新しい煙草に火をつけるながら、アイリーンに一つの質問をぶつけた。
「ハイジャック犯も、世の中の変化に気づけなかったのかもしれないな」
 アイリーンは何も答えない。次第に強くなっていく雨音だけが周囲を支配していた。

「死神? ああ前回の話か」
 オークションのホテルにて、クレイフェル(ga0435)と水流 薫(ga8626)は前回話を聞いた警備員を見つけていた。本来は各国のVIP等についても聞きたいところだったが、ついでとして何か知っていることを聞くことにしていた。
「東島の奴等は死神をルルイエだとか言っているが、何がルルイエなもんかい。大体ルルイエは実在するもんじゃぞ」
 老人曰く、ルルイエとは南極、フォークランド、ニュージーランドの中間にある島の事を指すらしい。しかしそのような島は存在しない、そこで有りそうで無いものの事をフォークランドではルルイエと呼ぶようになったらしい。
「よく考えてみろ、お前さん達。このフォークランドに遠い異国の食べ物、せんべいなんてものが来たのもおかしな話なんじゃ。更にはフォークせんべいなんてものも作り出そうとしている。人間はな、無いものを作れる存在なんじゃ。今存在しなくとも、将来的に存在していないと言い切れるか?」
「小難しい話やな。誰かが作ろうとすれば存在してるんちゃうか?」
 眉を潜めながらクレイフェルが答える。すると老人は少ない歯を見せて満足そうに笑った。
「人間はな、業の深い生き物なんじゃよ。自分達が楽に生きるために、様々なものを作り出す。触れるものだけじゃないぞ? 実物するもの以外にも、思考や絆さえも作り出すんじゃ」
 老人の話を聞きながら、新聞を握る水流の手には力が入り始めていた。持っていても不信に思われず、職業質問されても誤魔化せるという便利なものではあるが、目の前の老人に言わせればこれも、人間の業の成したものなのだろうと思い至ったからである。
「だったら、カミラさんの死亡も業と言うのかい?」
「当然じゃな」
 水流の質問に、老人は間髪いれず答える。
「カミラはフォークランドが平和になるという幻想を作り出した。そして今も多くの人間がその幻想にだまされておる。ワシもその一人ではあるがな」 
 多少熱を帯びてきたのか、老人の声が大きくなり始める。それに気づいた別の警備員が慌てて取り押さえる。
「あーこのじいさん、妄想癖ありますから。何言われたか分かりませんけど、気にしないほうがいいですよ?」
 警備員はお詫びとして、いくつかオークションの話を聞かせてくれた。それによるとVIPと呼ばれる存在はこの島には来ていないということだ。ただししきりに連絡を取るバイヤーの姿は何人か見かけたということだった。

「‥‥落とすつもりなのか」
「そうとも。死んでこそ私達は自由になれる。真に生きる意味を手に入れるのだ」
 ハイジャックされたフォークランド航空FL−十三号機のブラックボックスは、既に八割解析が終了していた。しかし会席が澄んでいるだけで会話の中身が判明しているわけではない。特にハイジャック犯と思われる「白い翼」は抽象的とも哲学的ともいえる曖昧なものが多く、何が狙いなのか警察内でも意見が分かれるところとなった。だがそこに麓がそこに参加、ここから少しづつ解決へと向かっていく。
「彼等は始めから死ぬつもりだった?」
「そうだと思います。座標も変更されていましたので、放っておけば海に落下したと思います」
 よどみなく答える麓、続いて地図にその座標の位置を書こうとしたところで固まってしまった。
「どうしたのです?」
 心配したのか警官の一人が声をかける。
「ここなんです」
 地図の一点を指差す麓、そこには彼女が書いていないにもかかわらず印が刻まれていた。警官も疑うような表情を浮かべつつ麓に問い返す。
「カミラさん殺害地点が、飛行機落下予定地点なんです」
 硬い表情を浮かべつつ、麓は静かに唾を飲み込んだ。

「‥‥という事だそうです、セシリーさん」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は偽名のシモン・モラレスという名前で、セシリーの家を訪問していた。名詞には料理関係のルポライターと書いてあるが、料理だけが目的ではないこともセシリーは既に気づいている。
「石油の埋蔵場所にカミラ女史は居を構え、飛行機は本来そこに落ちる予定だった。犯人達の目的はやはり石油だったのでしょう。すぐには行動に起こせないでしょうが、ほとぼりが冷めるのを待って掘れば済むだけのもの。カミラ女史が与えてくれたものとでも称せば、上に訴える事ができますからね。加えて島ではオークションが開催予定、話題がすりかえられるのは、それほど遠い未来のことではないでしょう」
 セシリーは既にその事実に気づいていたのだろうか、表情は崩さないが顔色だけは青ざめていった。
「私達には過ぎたものだったのでしょう」
 セシリーが静かに話し始める。


 白き翼を持つもの 黒き箱を求めんとする時
 黒き翼を持つもの 金と鉛の矢を以って白き翼を撃ち落す 
 翼無き者が求めんとする時 まじないの翼を以って翼を作り出すも
 黒き箱に手が届く事能ず
 全ては儚き夢の如し


「この島に長く伝わる伝承です。迷信や伝説の類だと考えていたのですが、私も感染していたのですね」
 カミラがしきりに繰り返していた言葉「感染」。それを今セシリーはしみじみと考えていた。