タイトル:水中仕様武器開発プランマスター:八神太陽

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/02 01:25

●オープニング本文


 西暦二千八年三月、ドローム社の組織の一つナタリー研究所は何時に無く荒れていた。
「さすがカプロイア様々だ。俺達より先に水陸両用KV作った上に、レインボーローズなんてものを用意しているんだからな」
 受け取った薔薇の花を弄びつつ、マイクは呟いた。
「何もお返ししない貴方よりはマトモだと思うけど?」
 マイクの正面の机に座るジェーンが、作業の手を休めずに尋ねる。
「ブラックジャックでオケラになったって説明しただろうが」
 レインボーローズを机に投げ出して答えるマイク、一方ジェーンは淡々と作業を続けている。
「十三歳の少女にムキになったなんて‥‥大人として恥ずかしいわ」
「静かにしてよ、電話中でしょ?」
 言い合いを続けるジェーンとマイク。所長であるナタリーが止めに入るが、一向に静まる気配が無い。そして残り一人の所員ポールは「故人曰く、沈黙は金」と静観を決め込んでいる。
 いつに無く邪険な空気の流れる所内。事の発端は先日遊技場の景品で世界初となる水陸両用KV、KF−14が遊技場の景品として登場したことにある。

 ナタリー研究所では以前から、水陸両用機W−01テンタクルスの開発に取り組んでいた。能力者達からも意見を聞き、普段力を合わせることの無い三人が協力して作り上げた試作機。それもこれも全ては、世界初の水陸両用KVを目指したからである。
 しかしW−01が世間にお目見えする前に、イタリアのカプロイアから水陸両用KVであるKF−14が発表された。そのため三人の士気も低下、ヤケになったマイクは視察と称してBJに挑戦するもののロッタ・シルフスに返り討ちに遭っている。

「だいたいね、貴方が水陸両用機なんて考えるからいけないのよ」
 ジェーンがマイクを事を非難する。これにはマイクも黙って聞いている訳にはいかず、反論に転じた。
「お前だって世界初って乗り気だったじゃないか」
 一向に収まる事の無い二人の言い争い。ナタリーはポールに仲裁を求めるものの、とりつく島もない。
「だーかーら、電話中って言ってるでしょう? なんで静かにしてくれないの。ポールも何か言ってよ」
「故人曰く、君子危うきに近寄らず」
「またそんな事を言う‥‥KF−14はKF−14、W−01はW−01でしょう?」
 半分ヒステリーになりつつ叫ぶナタリー、本人さえも電話中であることを忘れているかのような大音声がしばらくの間、室内に木霊することとなった。
 
「今日は何時に無く元気ですね」
 やっとナタリーが落ち着きを取り戻した頃、本社連絡役ジョン・マクスウェルがナタリー研究所に姿を現した。
「どこをどう見たら元気に見えるの?」
 思わず厳しい口調のまま答えるジェーン、だがジョンは気にする様子もなく話を進めた。
「そんな大きな声を出せるのなら十分元気でしょう。それより皆さんに報告があります」
「仕事か、確かに働いている方が気が紛れるな」
 椅子と戯れるのを止めマイクが姿勢を正す。
「どうせ負け分取り戻したいだけでしょう?」
 ジェーンはすかさずマイクを口撃。さすがにマイクも飽きたのか、終わりとばかりに自分の否を認めた。そしてポールは相変わらずの沈黙を守り続けている。
「はいはい、そうですよ」
「‥‥」
 まだやる気を見せない三人だったが、ジョンの報告を受けて目の色を変えた。
「KF−14は水中戦武器を用意してない?」
「嘘だろう? それではただ死ににいくようなものに過ぎない」
 今まで沈黙を守っていたポールも流石に口を開いた。全員の視線が集まるのを感じつつ、ジョンは答える。
「信頼できる筋からの情報です」
 自信を見せるジョン。本当はゴーストと言うスパイからの報告であって、実際は裏を取っているわけではない。加えてアマゾンで面白い人に会ったという意味不明の言葉も残していったが、ジョンとしてはそれはどうでもよかった。
「というわけで水中武器開発よろしく頼みますよ。いつも通り能力者の方達との意見交流会の準備も整えていますから」
 久しぶりに三人の顔に活気が戻っていた。

●参加者一覧

/ リチャード・ガーランド(ga1631) / 緋霧 絢(ga3668) / 佐伯 (ga5657) / カルマ・シュタット(ga6302) / 周防 誠(ga7131) / アキト=柿崎(ga7330

●リプレイ本文

 ウィィィーン
 もう夕暮れに程近いナタリー研究所での事だ。能力者達が所員達と意見交流会を行っている最中にも関わらず、所内にサイレンの音が鳴り響いた。
「‥‥」
 冷静を装い、周囲を見渡す緋霧 絢(ga3668)。しかし彼女が見渡す限りでは、侵入者等危険な存在の気配は無い。何かサイレン前後で違いがあるとすれば、途中で話の腰を折られた佐伯 (ga5657)が苦笑を浮かべているくらいだった。他の能力者達、そして所員達も特に慌てた様子は見せていない。それもそのはずで、警報機が鳴ったのは、今日だけでこれで四回目だからである。

「警報機っていうのは、とても大事なものだと俺は思うんです。それこそ研究資料にも匹敵するくらいに重要なものだと思うんですけど、故障したままでいいんですか?」
 リチャード・ガーランド(ga1631)が「そんな事もできないの?」という皮肉を交じえつつ所員達に尋ねる。しかしそんな言外の事を気付いた様子も無く、所長のナタリーが申し訳なさそうに笑顔を浮かべて答えた。
「もちろんですよ。すでに手配しています、ですよね?」
 最後は本社との連絡役であるジョンに向けての言葉である。その問いに対し、ジョンは小さく頷いてみせた。
「もちろんですよ、ナタリー」
 しかしナタリーとは異なり、ジョンは更に言葉を付け加えた。彼はリチャードの言外にある思惑に気付いていたからである。
「わざわざ能力者のかたがたに指摘されなければ気付けないほど、世界に名立たるメガ軍事コーポレーションであるドローム社は落ちぶれていませんから」
「では何故このように度々警報機が鳴ってしまっているのか、その理由も説明してもらえますよね?」
 売り言葉に買い言葉で、リチャードはジョンの棘のある物言いに噛み付いてみせる。するとジョンも慣れた様子で答えて見せた。
「今度新しい補給機作成に向けまして、特殊な機械を入れたのです。ですがこれが大変気難しい機械でして、誤って警報機を作動させているようなのですよ。そうですね、例を挙げて説明しますと、コンテナの規格統一を妨げようとする某メガ軍事コーポレーションと同じくらいの気難しさなのです」
「言い訳にしか、いや言い訳にも聞こえませんが?」
 ジョンは表面上だけを捉えれば嘘にしか聞こえないような言葉を並べる。それはのらりくらりと要点を外しつつ、話を逸らそうとする思惑さえ感じられた。だがそんな説明で納得できるはずも無く、リチャードは再びジョンに噛み付いてみせる。
 
 しばらくは誰もが放置していたのだが、流石にこれ以上は意見交流会の妨げになると判断したアキト=柿崎(ga7330)が二人の間に割って入った。
「今は水中仕様の武器をどうするかという意見交流会の最中だったはずです。関係のない話はやめていただきたい」
 多少突き放した言い方ではあるが、アキトの言う事は至極当然の正論だった。そして正論であるが故にリチャードもジョンも口を噤む。
 しかしこうした言い争いは一回だけではない、今回の交流会はいつも以上に波乱含みの展開であった。理由はジョンがいつになく、ジェーンの提案したエネルギーパック案を強調したからである。

「悪くないんじゃないのか?」
「わしもそう思います」
 始めから波乱の展開で交流会が始まったわけではない。序盤は何事も無く進んでいた。今回交流会に参加してくれた五名の能力者の内二名、周防 誠(ga7131)と佐伯がエネルギーパック案に賛同を示したからである。積極的に必要とまではいかないまでも、あった方がいいのではないかというのが二人の意見である。 
 しかし残る三名の能力者リチャード、緋霧、アキトはあまりいい顔をしなかった。理由は三つ、一つは既にいくつかショップに水中武器が置かれていること。次に開発期間が長いというデメリット。最後にエネルギーパックの有用性に疑問が残るという理由からである。三つの理由の内、一つの目の理由である「既に販売されている」という事は曲げようの無い事実であるため議論の余地は無い。残る二つの「開発期間の長さ」「有用性」を中心に話は進んでいった。
「開発期間の長さはそんなに気にせんでええんとちゃいます? 今敵さんはそれほど水中から攻めてきてはいないようやし、十分間に合うと思うんやけど」
「自分は佐伯さんほど楽観的にはなれませんけど、あれば今後楽になると思いますよ」
 それがエネルギーパック賛成派である佐伯と周防の意見だった。どちらかと言えば、あったほうがいいのではないか程度の弱い理由である。一方反対派であるリチャード、緋霧、アキトの三人はそれぞれ別の角度からエネルギーパック開発に対して疑問を持っていた。
「まずは時間稼ぎの方法が必要です」
 開発期間が長いのであれば、間に合わせとしてでも水中武器が必要。それがリチャードの意見だった。いくつかショップで販売はされているが、今でも十分な数とは言えないというのが彼の言い分だった。
 続いて緋霧は純粋に開発期間の長さを懸念していた。
「バグアが攻撃をしてこないという見方はあまり賛同できない。力を蓄えている可能性もある」
 緋霧はエネルギーパック案に対し、積極的反対をしているわけではない。ただもし開発するのであれば、帯電粒子加速砲など既存の練力消費武器に利用すべきというのが彼女の意見だった。しかし三人目、アキトはエネルギーパック案自体に疑問を抱えていた。
「近接武器はともかくとして、光学兵器の水中使用は威力、射程ともに大幅な低下が予想されている。仮にエネルギーパックが開発成功したとして、十分に使えるものだとは私は思えない」
 序盤はエネルギーパック案に賛同した佐伯と周防だったが、やがて反対するリチャード、緋霧、アキトの意見の前に反対派へと心変わりを見せ始める。そこで今まで沈黙していたジョンが介入したのだった。

「私達ドローム社が、今まで皆さんの役に立たないものを開発したでしょうか?」
 ジョンが熱弁を奮い始める。だが否定させないように問いかけるジョンの話し方に、周防はあまり共感できなかった。
「基本的に役に立ってますよ、今まではですけどね。でもだからと言って今後も信用しろっていうのは、ちょっとムシの良い話じゃないか?」
 KVのS−01、R−01を始め、ドローム社が販売している武器、防具、機体は多い。その事実を認めながらも、周防は婉曲的にジョンの言い分に反論する。
「自分達能力者は命を張って戦っている。それを殊更強調する気は無いけど、命を張ってるからこそ本当に安心できる武器、信頼できる防具が欲しい。ただそれだけだ」
「わしも周防さんと同感ですわ」
 周防に引き続き、ジョンに意見に疑問を感じていた。
「本職にしとる人を前にいうのもどうかと思うんやけど、わしは僭越ながら何人かの仲間とともにアイテムを開発する研究しつを構えさせてもらっとります。皆さんの研究室に比べれば月にスッポンの設備しかありゃしません。やけど自分でも開発しとるからこそ、ドロームさんの凄さは肌で感じとるつもりです」
 言葉を選びながら、佐伯が続ける。
「確かに凄さは感じとるつもりですけど、だからと言っていつまでもドロームさんの下に甘んじるつもりはないですよ?」
 挑戦状ともとられかねない言葉ではあったが、佐伯は本音をジョンにぶつけた。言葉を濁すより本音で物を語った方が、ジョンの心に届くと判断したからである。
 しかしジョンは頑なにエネルギーパック案を主張した。
「どれだけご存知かは私には判断できないことでありますが、現在私共ドローム社を含むメガ軍事コーポレーション各社は互いに協力する事がありません。偏見的なものの見方ではありますが、今こそが私達軍事に携わる人間にとって重要な時期だからです」
「随分とはっきりと言いますね、理解は出来ますけど」
 リチャードが半分呆れるような様子を見せつつ、ジョンの熱意に満ちた主張に相槌を入れる。しかし感情には流されないという強い意思が、言葉の端々に散りばめられている。
「要は稼ぎ時っていう事でしょう?」
 端的に結論のみを尋ねるリチャード。ジョンは苦笑混じりにリチャードの言葉を認めた。
「そういう側面があることは否定しません」
 ジョンが答える。だがそれはいつものジョンとは明らかに違うものだった。ナタリーを始め所員達は、ジョンの言動を訝り始める。だがジョンは構わず言葉を続けた。
「ですが今稼ぎ時であることが、かえってメガ軍事コーポレーション同士の繋がりを弱くしている。なぜならそれぞれの会社が競争相手であり、そしてどの会社もそれなりに収益を上げているからです」
「‥‥」
 妙な展開になっている事に能力者達も気付き始めていた。だがジョンの言いたいことがまだ見えてこない、誰も口に挟むことはなかった。
「先日私達は五大湖解放戦の反省を踏まえ新しい補給機、新しい補給用KVというものを考案。そして今と同じように、能力者の皆さんに意見を伺いました。そこで出た意見の中に、非常に興味深いものがあった事を今でもはっきり覚えています。コンテナの規格統一化というものです。今後の補給機開発のためにも積荷を入れるコンテナを、全メガ軍事コーポレーションで統一したらどうかという意見です」
「ちょっと、ジョン‥‥」
 雲行きが怪しくなってきたことを感じ、ジェーンがジョンを止めに入る。今ジョンが話しているコンテナ規格化はジェーンが否定したもの、以前は別のメガ軍事コーポレーションで研究していたジェーンが、自分の経験を下に難しいと判断したものだ。だがジョンはジェーンの言葉を無視し、言葉を続けた。
「その場では難しいという判断を下すしかありませんでしたが、私個人としては内心自分が増長していたのではないかと悟ったのです」
 ジェーンに代わり、自分が判断したかのようにジョンは更に言葉を続ける。
「五大湖解放戦において私達は完全な勝利を得られませんでした。それは私達の増長、私達の中にある驕り高ぶった心が原因だと前回の意見交流会で私は悟ったのです。ですから今回、今回のこのエネルギーパック案を通じて、全メガ軍事コーポレーションに協力を呼びかけたいのです」
 そこまでを語り終えると、ジョンは能力者達そして所員達の顔をゆっくりと見渡した。自分の意見がどれだけ理解してもらえたかを、それぞれの表情から確認するためである。
 今まで一人話し続けていたジョンが口を噤み、場は自然と沈黙と緊張に似た張り詰めた空気が支配し始める。だがジョンは何も語らない、沈黙を破ったのは緋霧だった。
「貴公は一体何にそれ程怯えている?」
 緋霧が正面からジョンの目を見据える。多くの戦場を経験した彼女には、今ジョンが焦っているように映っていた。自分の焦りを隠すために、必要以上に多弁になっている様に見えていた。

「それでは、水中専用武器を開発するということで話を進めていきます。本日はどうもありがとうございました」
 数分後、ナタリーが意見交流会をそう言ってまとめた。しかしその場にジョンの姿は無かった。
 ジョンは緊急の仕事が入ったという理由で研究所を後にしていた。唯一強硬に反対を訴えるジョンが退席したことで、「水中仕様武器をどうするか」という今回の議題は水中専用武器を作ると言うことで意見はまとまることになったわけだった。
「いつもこうなのか?」
 交流会後、周防が近くに居た所員の一人マイクに尋ねる。
「ある程度結論は見えてたからな。いいんじゃない?」
「いいのか?」
 予想外の答えに思わず周防が尋ね返す。するとマイクはしばらく考えて答えた。
「あの人、悪い人じゃないけどさ、なんていうんだろ? 先が見えてるみたいなところがあるでしょ」
「確かにあるな」
 今日の一日を振り返りつつ周防が答える。
「だからエネルギーパックになると予想でもしてたんじゃない? 本社にもそう連絡できるように報告書とか既にまとめてあったりしても、俺は不思議に思わないよ」
「出来る人は違いますなぁ」
 思わずそばで聞いていた佐伯が、感嘆の言葉を漏らす。
「でもそれやったら、緋霧さんの言ってた怯えているいうのも納得できますな。一から報告書書き直すのは確かに骨の折れる仕事やさかいな」
「俺、今からその報告書書かなきゃいけないんですけど?」
 うんざりした様子で言うマイクに、周防も佐伯も思わず笑ってしまう。
 そしてジョンの書いたエネルギーパックの報告書はどうなったのか、それはだれも知る由はなかった。